円高対策2(生産回復力)

資源国(鉱物など)の場合は、貿易赤字になって為替相場が下がり採算がとれるようになれば再採掘を始めるのにはそれほど手間がかかりませんが、我が国では、有るものを採掘して売るような単純産業がなく、何十年以上の技術蓄積で売るものが殆どですから、一旦技術が途絶えると再興は不可能に近くなります。
敗戦時の廃墟から直ぐに立ち直れたのは、資産・資源に寄りかかる産業ではなく、技術による産業中心だったので、借金して設備投資さえすれば直ぐに復興出来たからです。
新幹線技術も戦闘機作りの技術が残っていたからであることはよく知られています。
(・・技術者が死に絶えるほども期間が空いていたら駄目だったでしょう)
自然を相手にしている農業でも、水田で言えば一旦ガラなど入れて埋め立てて宅地や工場用地などにしてから、食料不足でもう一度水田を復活しようとしても,簡単でないことでも分ることです。
日本の場合、農業でも何百年かけて営々と土を造って美田に仕上げて来たことによるものですから、一旦荒れ地(ガラを入れてなくとも)にしてしまうと回復は容易では有りません。
貿易赤字の規模が大きくなって来て海外投資した元金も食いつぶすようになって来ると海外からの配当収益も減って来るので、いつかは経常収支も赤字になって来ます。
この段階で漸く為替相場が反転するのでしょうが、そのときまで円高が進むのを放置して置いて良いかの問題です。
海外投資収益が毎年約10兆円有る場合、(リーマンショックまではこのペースでした)貿易赤字が約10兆円を超えるまで、経常収支が赤字にならず、その間円は貿易赤字にも拘らず上がり続けることになります。
そこまで行くには仮に50年もかかるとすれば、その段階で壊滅してしまった製造業の復活を図っても、技術者・熟練工・関連職種その他がなくなって、至難のわざとなります。
(所得収支・海外債権が少なければ少ないほど貿易赤字になると直ぐに円安に反転します・・連動性が高く、逆に対外債務国は貿易黒字になっていても、なお下がり続ける恩恵が有り、結果公平とも言えますし何が幸いになるか分らないのが世の常です)
働いている人は、公務員や医療・福祉・公共工事関連や配達員等の最末端労働者ばかりで、その他は生活保護や失業保険などで生活している人で、何の技術もない人ばかりになってしまうと大変です。
貿易赤字が大きくなる・・・何もかも海外製品を購入する時代が来れば、国内で造るものが減ってしまい、生産活動従事者が少なくなります。
福祉・医療・保育所等社会保障や、国内サービス業関連・公共工事も海外勢の受注が普通になって日本人はその下請けの下請け・・最末端労働者として働く時代が来ることになります。
飲み屋やラーメン屋のような零細事業主くらいは日本人がやれるだろうと思うのは時代遅れで、今後50年もすれば今の居酒屋どころかラーメン屋も焼き肉屋も美容院その他すべてチェーン店になって、海外資本が進出して、日本人のトップはせいぜい労務者兼店長になれるのがやっとの時代が来るでしょう。
余談ですが、・・公共工事の儲けに対する課税で公共工事費を賄えないのは当然ですし、社会保障関連経費も同じですから、(医師・病院や保育士に対する課税で医療費や保育所経費を賄えません)生産活動が縮小している時代には、上記の資本所得・・所得収支の黒字に対する課税中心で賄うしか政府資金が賄えない時代が続くことを予定しています。
生産に対する課税は容易ですが、海外所得に対する課税中心になると難しいので、財政赤字が続くことになります。
財政赤字も所得収支の黒字の範囲である限り、税を取れずに政府が財政赤字でも国民の貯蓄が残っているなら特に問題が有りません。
この辺は財政赤字・国債残高は、いくら大きくなっても国内金融資産がこれを上回っている限り論理的に何らの問題もないことをSeptember 1, 2011国債破綻5書きました。
国債残高がGDPに迫っているかどうかを議論する人がいますが、対外純債務国に当てはめる論理であって、対外債権権国の基準としては関係ないことも以前書きました。
たとえば預貯金が3000万円ある人が、別に負債が500万円あったとしても、その人の年収が300万円か500万は何の関係もないでしょう。

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