関係者は本気で全面賠償する気がなかったでしょうが、「事故による損害を全部賠償したのでは採算がとれないので賠償しきれません」と正面切って業界が主張すると原発の方が安く発電出来るとする推進派の基本的立場が崩れてしまいます。
そこで、原発賠償法には無制限に総損害を賠償すると書くしかなかったのでしょうが、政府も業界も本気ではなかったのでもしも事故があった場合の事故処理手順の研究もしないし、(電源喪失時の手動の手順さえなかったのです)事故が起きたときの避難訓練や避難方法・範囲、更には食品その他放射性物質の基準についても何の計画も準備していませんでした。
その場合に生じる損害の研究を全くせずに来たし、リスクの指摘にまじめに対応して来ずに採算性範囲内で「割り切り」でやって来たことからすれば、本音では全面賠償する気持がなかったことが分ります。
本来法で全面賠償すると決めている以上は、政府が業者に本気で賠償させる気持ちだったとするのが一貫するのですが、それならば供託金を1200億円限度ではなくその数十倍の引当金を要求したり一時金で用意出来ないならば、交通事故賠償保険のように無制限賠償保険制度を創設しその加入を奨励しておくべきだったことになります。
保険金額が天井知らずでは保険会社はリスクが大きすぎるので保険に応じないだろうということになりますが、無制限にすれば却って保険会社は損害リスクを大きめに査定して再保険を含めてペイする(高額な)保険料を設定していかないと、イザとなれば自分が倒産するリスクがあるのでシビアーに見積もることが期待されます。
その綱引きの結果・・・世界企業を含めた多数の保険会社間の競争・再保険もあるでしょう・・高額保険料でも加入するか・・逆から言えば東電の提示する低額保険料では入札に応じる保険会社がないということで仕方なしに保険料を高くても加入するしかない・・国債引き受け同様に市場原理で保険料が決まって行くべきものです。
利害の相反する参加者の均衡点で価格を決めて行く・・これが市場原理ですが、裏で政治資金をもらっている政治家となれ合いで均衡点を決めて行く政治決着とは違って合理的です。
逆から言えば、損害が天文学的なものになるリスクがあるので保険でカバーしきれない・・保険料が高くなり過ぎて商売にならないとする主張があるとすれば、その主張は原発事故の損害をマトモに払うのでは採算が取れないことを予定していた・・自己証明しているようなものです。
にもかかわらず充分な保険をかけるようにしなかったのは、(1200億円以内と法律で決めてしまったのは)ハナから、まともに損害賠償する気持ちがなかったから・・マトモな議論をしていると原発が成り立たないという前提があったと言えます。
原発関連学者・・関連経済学者・公認会計士も含めての共通項は、「分らないから危険だ」と言うのではなく、検討するとコストがかかり過ぎて原発そのものが成り立たないから、「分らないから考えるだけ無駄だ」「津波の危険性あるいはその他の原因による冷却装置の損壊・電源喪失・パイプ破損など考えない」ことにしましょうという共通項・・無責任体質で括れるでしょうか?