アメリカの通商政策は,クリントン政権〜ブッシュ〜オバマ政権と連続した保護主義強化の流れ(アメリカ経済の実際的落ち込みを背景にする)を受けているものであって、トランプ氏はこれを(手順を践まずに)乱暴・品なく言い表しているだけの違いです。
欧米の人権思想・自由平等主義と言っても、生産方式の近代化と関係していることを1月21日に書きましたが,欧米の自由平等の人権尊重のかけ声は,産業革命で先行した優位性を最大限発揮するための主張に過ぎなかったコトがアメリカの身勝手な保護主義の歴史を見ても明らかです。
欧米がアジア・アフリカ諸国より競争力があるときには自由競争・能力主義が正しいと言って,ドンドン侵略し、植民地支配する名分に人権を使っていただけのことであり、自分が競争に負け始めると相手国を不公正障壁のある国となじって高関税をかけるコトの繰り返しをしてきました。
自分が弱くなると,品質競争で負けているかどうかではなく結果として国際収支黒字国を許さない・・結果的に自国の既成国力の相対的低下防止目的ですから,現状固定の主張に外なりません。
自由競争とは実力に応じて地位も上下する前提です。
スポーツ選手で言えば実力の上下に応じてランキングも上下する、企業も株式市場で日々評価が上下する仕組みですが,結果重視のアメリカ基準によれば企業価値の上がっている企業は不公正なことをしていると認定し課徴金をとることになりますし、練習努力の結果前年より世界ランキングの上がったスポーツ選手は陰で不公正なことしていると認定し処罰してランクアップを認めない社会になります。
アメリカの言い分は自分の地位が下がるのは許せない・相手に輸出自主規制(あるいは相手国のいらないものをもっと多くの輸入)を要求する=相手選手に「負けろ」と要求する八百長試合の強制です。
昨日紹介した論文によると国力低下防止のために競争力向上を目指す・練習に励むのではなく、腕力で阻止する・強権発動主義を既に1970年頃から始めていたのです。
国際競争力維持強化には、このシリーズで書いている民度を上げるのが正攻法ですが、アメリカは戦前大恐慌時から国際競争を切り抜けるために民度を上げる方法については考えもしないで腕力で解決しようとする傾向が今も変わっていません。
逆に新興国台頭に対して、低レベル移民を多く入れて,低賃金競争をして来たから余計苦しくなって来たのです。
民度を上げることに努力しても「アメリカの民度では無理」と観念しているからでしょうか?
今では,アメリカの突出した強みは軍事力と巨大消費市場のみ,・・まさに中国のよって立つ足場と同じです。
この力を利用して市場に参入したいならば,かなり無茶な要求でも聞くしかないだろうと言う立場を前提に何かとイチャモンをつけては金を巻き上げる・・中国同様の恫喝外交がアメリカの基本でした。
これまでは、一応紳士のフリをして「衣の下に鎧を隠していた」(大統領は議会の突き上げを口実に自主規制を要求し,ピープルを煽って日本車をハンマーでぶちこわすテレビ報道をする・・口実をつけて巨額課徴金を凸など)のですが,トランプ氏になると格好つけていると間に合わないほど追いつめられて来た・・アメリカ経済に余裕がなくなったので,トランプ氏は,モロにダンビラを振り回し始めた印象です。
メキシコ国境に高い塀を作るのはアメリカの勝手ですが,その費用を持てと言うのは行き過ぎ・理不尽な強者の横暴です。
1月22日にアメリカは世界の警察官どころか,中国やロシア、トルコなどの地域大国の横暴をアメリカもやりたくなって来た・・仲間入りしたい本音がトランプ旋風の基礎だと書いて来たとおりの展開になって来ました。
アラブの石油でもスエズ運河でも,そこで騒げば世界は放置出来ない・・一時的には大きな効果がありますが,そう言うことをすれば長期の目で見た信用がなくなる点が大きなマイナスです。
だからアラブ石油連盟も石油禁輸の劇薬をその後1回も行使できていません。
中国がレアアースの禁輸をしたり反日暴動を仕組んだことは,そのトキには,溜飲が下がった気がしたでしょうが、その分大きなトラウマになって残って行く筈です。
日ソ不可侵条約違反の侵攻→シベリア連行も日本人は決して口に出しませんが,こういうことやる国と言う日本人のトラウマは数百年単位で消し去ることは不可能です。
ソ連がこれによって得た利益・・樺太・千島占領+奴隷労働強制の利益と数百年単位以上に及ぶ日本人のトラウマとどちらが得かの計算がたたなかったのです。
このマイナスイメージを日本人の心から消し去るには,得た利益の何百倍の努力が必要になる筈です。
ヤクザも1回大声を出して威張れば、その後普通の付き合いをして貰えなくなります。
アメリカは競争力低下に合わせて徐々に地位低下して行くのを素直に受入れるべきですが,地位低下を阻止するために強引なエゴの主張を続けていても、(すぐにはどこのクニもアメリカ打倒とは言えませんが,)その分着実にアメリカの威厳が損なわれて行くのに気が付かないのです。
先進国労働者が職を失って行く現状は,日本の歴史で振り返ると社会安定を重視する徳川政権による永代売買禁止令によって,明治までは農地売買が厳しく禁止されていた(無産者輩出を厳しく制限していたことになります)ことを紹介して来ましたが、明治政府による農地流動化政策によって,独立自営農民・中間層の多くが小作人や都市労働者に没落して行ったときと現在の状況が似ています。
この辺の流れについては,04/10/04「イギリスの囲い込みと我が国の自作農崩壊との相違・農村の窮乏化政策」08/26/09「土地売買の自由化1(永代売買禁止令廃止)」その他のシリーズで紹介して来ました。
明治維新の頃には、都市で新たな産業が勃興していて農地を失って都会に出た人も適応能力のある人は生活に困らなかったので,秩父困民党事件など地元に残った農民だけの散発的騒動で終わり、没落士族中心に各地の不平士族の乱になりましたが,それも線香花火で終わりました。
西欧のラッダイト運動がすぐに落ち着いたのと同じです。
今の先進国は新興国による低賃金競争に曝されて,従来どおり多くの中間労働者を抱え込む余力がなくなりつつあります。
知財等の発達があっても大規模工場縮小後の労働者の受け皿になれない・・力不足ですから、単純低賃金競争に入って行くと失業者が増える一方・・新しい受け皿産業が充分に育っていません。
根本的解決には日本のように個々人が工夫して,良い物を少量生産して行く社会+マルチ技能工を養成して行くしかないでしょう。
この努力を怠って廻りを強圧で押しきろうとするのですから、赤ちゃんが駄々をこねて一時的に自分の意志を通そうとているようなことでは文字どおり一時的線香花火に終わり将来性がありません。
中台関係を例にすれば,トランプ氏が中国を激しくパッシングしてくれてもそれは飽くまでも見返りを求める取引外交である以上、これに喜んで舞い上がるのは危険となります。
パッシングが強ければ強いほどパッシングされる国は交渉に応じるしかなくなると言うより,トランプが何を求めてパッシングして来たのかがすぐに分るので、正面抵抗するよりはトランプ氏の気に入る内容で妥結する方向に動くのが普通です。
過去数十年間ス−パー301条の脅しで世界中のクニが WTO違反だと言いながらも戦うことが出来ず事実上屈服して来た結果(1月26日にウイキペデイアの記事で紹介しました)を見れば明らかです。