新興国の将来3(格差拡大1)

中国国内一人当たりの生活水準が今のままであれば、ベトナムやインド等の挑戦に対抗出来るでしょうが、国内格差が大きくなっているのでこれを是正しないままでは不満が募り国内政情不安が顕在化してしまいます。
日本の格差是正の実情を24年5月末まで書いて来ましたが、格差是正は低い方の生活水準の引き上げに向かうしかない・・高い方を引き下げて平準化するのは痛みを伴うので政治上実現が困難です。
我が国や先進国では中間層を没落させて貧しい方に合わせる平準化が進んでいるので国内不満・・個人的にはストレスが高まっています。
生活水準の低い方へ分配するべき資金をどこから得るか・・先進沿海部の生産性を引き上げて得た資金を先進地域の給与引き上げに使わないで内陸部に配るしかありません。
先進地域の労働者自身自分の稼ぎを内陸部に配るどころか、周知のように自分の賃上げ要求に熱心・先鋭化する一方ですから、後進地域への分配資金にはなりません。
上海・広州等先進地域と内陸部の格差は、中国とミャンマーやラオス等との格差以上のものがある上(6月1日の日経朝刊では平均3倍と言われています)に、ラオス・カンボジア等よりも中国内陸部の人口の方が多いので、いつまでも超低賃金労働者の流入が可能だと言われていました。
その結果、いつまでも低賃金による国際競争力があるとも言われていましたが、それでは何時までも都市住民の賃金が上がらないので今度は都市住民の賃上げ要求に遭遇し・賃上げを阻止している農民工の流入に対する都市住民の反発も高まります。
この後に書きますが中国では民族一体感がない・・自分(せいぜい広がっても一族)の利益ばかりの社会ですから、流入人口への反感が強まっている様子です。
中国人の海外移住が盛んですが、同じ華僑でも福建系と広州系とでは一緒に中華街を作れないほど排他・対立感情が強いことが知られていますが、同じ市内住民でもあるいは香港でも、後から来た人との差別が激しいことが報道されています。
日本で言えば外国人労働力の流入・ひいては労働移民先進国のドイツで起きている移民に対する反感・差別問題が国内で起きていることになります。
話が変わりますが、韓国や中国等では、国内で儲ける人・階層と搾取される人が併存している・・国内に19世紀型の植民地を抱えるような二重構造が始まっているように見えます。
サムスンの躍進の陰に国内労働者の多くが非正規雇用となり、正規就職してもいつまでも大手企業正社員に留まれない・・多くが短期間で非正規雇用に転落する・・労働者が疲弊し尽くしていて海外脱出熱が盛んな韓国を理解するには、国内に19世紀型植民地を作り出していると理解すれば大方納得のいく状況ですが、中国でも同じような状況になっています。
6月3日の日経朝刊第一面では、現在の中国は一人当たり国内総生産が4500ドルに達していて日本の70年代半ばの状況らしいですが、現在中国では何千万というイタリア製の高級車が年間342台も売れて世界1の市場になったたり1300万円もする高級時計その他が飛ぶように売れている状況らしいですが、70年代半ばの日本ではそのようなことは起きませんでした。
一部の共産党高級幹部やぼろ儲けした人に富みが集中しているからこういう結果が生じていることになります。
ちなみにこの富みの集中している幹部連中自身が祖国を見限って・・あるいは薄煕来同様の失脚リスクを予見しているのか、香港紙5月28日発売号「動向」によれば、共産党中央幹部127名の内113名の家族が既に外国移住して外国籍を取得していると報じているそうです。
当然蓄積した巨額資金を海外に移転していることでしょう。
昨年夏くらい前から頻発している広州周辺での賃上げストライキの頻発は、農民工流入に頼って低賃金政策を続ける無理が出て来たことの現れでしょう。
そこで農民工の都市流入を禁止する施策によって、都市の労働者不足とその他地域の大量失業発生の矛盾を作り出しています。
日本のように同胞意識がない国では所得再分配が出来ないので、内陸部の水準引き上げに手っ取り早い政策として始めたのが、不動産バブル政策だったと言えます。
こうした意見は私の知る限り誰も書いていませんので独自の思いつきになりますが、中国の不動産バブルは格差是正策の1つとして始まったものではないかと私は思っています。

円高差益還元3

政府は自分の赤字を抑えるために企業の保険等の企業負担率を上げる(実質増税)一方ですから、企業は人件費負担率アップと増税のダブルパンチを受ける状態で約20年やってきました。
これでは、国内に残った企業の利益率低下が必然ですので、(配当期待の)日本の株式市場が低迷するのは仕方のないことです。
ちなみに平成5〜6年ころには1ドル160円前後していたのが、今では80円を割っている(18日のニューヨーク外為市場では79円01円でした)・・ドル表示での実質給与は2倍になっています。
グローバル化に合わせて実質賃金を引き下げなければ国際競争に適応して行けないのですが、これでは逆張りも良いところです。
同じことは政府収支にも言えますので、デフレになると名目政府歳入も縮小し、バランスが悪くなるので保険その他法人負担率の引き上げに躍起です。
しかし、給付削減努力をせずに企業負担ばかり上げて行くと、企業経営者に愛国心があっても限度を超えれば中国人並みに「対策」するしかないでしょう。
政府に強権に基づく「上に政策あれば下に対策あり」というのが中国の処世術ですが、我が国もこうした不公正・アンバランスな政策累積の結果、輸入差益を受ける企業・消費者と輸出差損を受ける企業に分かれると、損をすると思う企業が海外に逃げるしかなくなっていることになります。
(冗談ですが・・)政府も企業並みに租税回避地・・タックスヘイブンに移転できれば、財政赤字問題がなくなります。
政府の財政赤字問題・累積1000兆円に及ぶ国債発行残高は、デフレ下での従来基準での支出維持の累積によるものですが、産業界にもこのくらいの負担を押し付けて来た結果・・企業も実は1000兆円の負担増加分を必死に企業努力で消化して来たと言えるかも知れません。
企業は政府のように無責任に赤字を累積し、転嫁出来ませんので、海外展開してその儲けを国内還流することによって何とか損失(為替差損)の穴埋めで凌いで来たことになります。
トヨタで言えば、日産や本田のように海外生産比率を上げて行けばもっと利益率が上がる筈ですが、これをじっと我慢して国内工場を維持して高賃金を負担して来たことによる累積損失額は膨大です。
ホンダ、日産だって(その他各種業界も)トヨタほどではないにしても国内に踏みとどまるための努力をしているので、これら国内総企業の負担(利益の食いつぶし)を足せば、政府赤字以上の負担をして来たことになるように思われます。
我が国・先進国の場合、為替相場に賃金水準その他支給を連動させたとしても、それで終わりではなく、さらにグローバル化以降の世界賃金平準化に合わせる努力をしなければ国際競争に遅れを取ってしまいます。
グローバル化・低賃金国との競争がとどめようのない経済の流れであることについて、日本一国が反対しても阻止することは不可能ですから、ある程度適応するしかないのも現実です。
これに対する解決策が非正規雇用の拡大(・・下方硬直性のある賃金相場が市場連動性になるメリット)ですが、これがあまりにも急激すぎると国民意識がついて行けず、国民が不幸になります。
我が国の場合、世界最大の蓄積があるので焦ることなく時間をかけてやってるうちに、他方で一定の技術高度化対応・適応が進むメリットもあります。
ちなみに昨日の日経夕刊によれば昨年我が国の対外純資産が更に増えて過去最高になっているとのことです。
余りドラスチックにグローバル化=国内賃下げ・あるいは解雇・失業と言う早い進行ですと国内で国民が高度化適応努力するヒマさえありません。
ついて行けないで失業してしまった労働者はやる気をなくしてしまい、民族の消長にもかかわりかねません。

海外収益の還流持続性3(中国の場合)

中国政府は今のところ外資導入が必要なので黙っていますが、国内産業・人材が成長して外資と競合するようになれば、この主張が大きくなって・・政府がその気になれば直ぐに大規模デモになって・・現実化するでしょう。
当面最低賃金の引き上げや法人税率・社会保障その他の企業負担(事業所税や固定資産負担など)を引き上げて行けば良いので簡単です。
昨年から問題になっている短期滞在者に対する年金支払義務化もその一環です。
数年〜5〜6年しか駐在しない日本人は年金を払わされるだけで将来もらえないことが明らかですから、(どこの国でも年金受給資格としては一定期間以上の掛け金が必要です)社員は給与から天引きされる・この間の日本国内での年金受給期間が空白になると困るので2重に掛け金を支払わなければならないし、企業は半分負担させられるし・・「中国人を雇わないと損するぞ」という脅しです。
昨年来のギリシャ・欧州危機の結果、欧州からの投資が減って中国は今では資本不足に陥って、上海株式市場も人民元相場も大幅下落しています・・まだまだ自前の資金・技術が足りない国ですから、今のところまだ海外からの投資が欲しいので、年金加入強制実施が先延ばし(地方政府に一任する形式で)になっています。
技術は資本とともに入って来るので、技術を身につけるには企業進出=長期資本投資を求めざるを得ないのが今の中国であり新興国です。
サービス業を例にとれば、国民が接客態度その他を身につければ、将来的に外資が邪魔になってくるので、こうした形で、次々と日本企業を邪魔にし始めるのは目に見えています。
5月3日の日経朝刊では、中国の人件費が2割前後も上がって来て、生産基地としての魅力が薄れ、今後は消費地=市場対象国としての評価になって来ているという大きな見出しが出ています。
現に最近の中国アジア等への日本からの進出企業を見るとコンビニ系を中心に販売業種の進出が盛んです。
こうなると中国にとっては、輸出減・国内生産業が過剰になって来るので、製造系外資は邪魔になって来るのは目に見えています。
中国にとって外国資本は中国国内に投資してくれて輸出で稼いでくれる限り意味があります。
外国から進出した企業から技術を学んだ従業員が独立した国内民族資本で輸出出来るようになったり、外国資本の生産品の輸出が鈍化すれば製造系外資は邪魔なだけです。
デパート・コンビニなど内需型で稼ぐ産業の場合、日本的サービスが身に付きさえすれば何かと嫌がらせをして追い出しても、同レベルに達した国内企業・人材が入れ替わるだけで損がありません。
実際このような状態になって来ると競争激化で、収益率が低下するのが普通ですので海外からの投資収益の回収率自体が低下して行きます。
従業員のレベルが外資でも民族資本でも同じようになれば、外資は民族資本に太刀打ち出来ません。
外資がよその国に進出してやって行けるのは、技術レベルに格段の差がある場合に限られます。

労働収入の減少3(若者が苦しい原因)

ところで、次世代の労働収入が少なくなっている・甲斐性がないのは、次世代だけの責任でしょうか?
労働需要が一定のときに、定年延長をすればその分若者の職場が奪われる関係にあることを、0/01/03「ゆとり生活2」や01/07/10「終身雇用制2→若者就職難2」その他で連載したことがあります。
ただし、定年延長により不当に職場を奪われているのは、従来の定年時期の55歳から65歳前後までの人が働くようになった約10年分だけになります。
ちなみに、日本全体で労働力不足ならば、外国人を入れたり高齢者や女性をもっと働かせれば、国力増進ですが、労働需要減退の結果、失業率の上昇に困っている現状で、労働力の増加・・高齢者の隠退を1年送らせれば、その分だけ若者の職場を奪うことになるだけです。
同じ率の失業者ならば若者を失業させるよりは高齢者を遊ばせておく方が日本のためになるという意見を01/07/10「終身雇用制2→若者就職難2」のコラムで書きました。
・・アルバイト等の非正規雇用世代を養っている60代後半から70代前後の多くの親世代の収入は、過去の蓄積(年金を含めた)で生活しているのであって、(最早働いていないので)次世代の仕事を奪って生活しているのではありません。
次世代の苦境は、日本から労働需要自体が大幅に縮小し始めたことによるところが大きいでしょう。
労働需要縮小は、日本が先に発展したことによる高賃金化の結果、労働市場での国際競争力を失った結果であり、親世代の責任でもなければ次世代だけの責任でもないことです。
これは世界の発展段階のなせるワザであって、次世代にも適応能力として労働需要縮小を緩和するために努力・寄与すべき分がいくらかあるとしても、現在の苦境は次世代の適応能力不足が100%とは言い切れないでしょう。
このシリーズでテーマにしている労働収益から資本収益への変化を見ると、次世代の責任というよりは世界の構造変化によるところが大です。
労働需要縮小がどちらの世代責任かはさておいても結果としてみれば、今の若者は親世代に比べて親世代の恩・扶養を歴史上最大に受けている関係で子世代が損をしている関係ではありません。
世代間対立を煽っても前向きの解決にはなりません。
親世代が高度成長期に儲けた利益を海外投資していることによって、その収益で現在日本の次世代生活費の多くを賄っている・補助しているのであって若者の職を奪う関係にはなっていません。
非正規雇用等で月額15万円前後の収入で40万円前後の水準で生活が出来ているのは、親世代から現金の援助がなくとも親の家に同居して家賃が不要になっている・・親の資産収入によるものです。
もっと言えば、本来中国の労働者と同じような単純作業でありながら中国人労働者の約10倍の賃金を得ているのは、その差額・・9割分は海外からの資本収益=先人の蓄積による援助・・食いつぶしによるものです。
エルピーダメモリがついに倒産しましたが、ここに至るまでにはそれぞれの親企業の過去の儲け・蓄積を投入し続けこれも限界になって・・09年には公的資金が300億円つぎ込まれたものの、ついに支え切れなくなったものです。
この間の従業員は結果から見れば長い間に先人の蓄積した企業利益や国費としてつぎ込まれた資金と同額だけ、自分の働き以上の収入を得て来たことになります。

税と国債の違い3(擬制的民主主義)

今の政権党は民主党・・大きな政府志向の党ですから、政権を民主党に委ねた以上は資金運用者も民から官への動きになるのは仕方がないと言うべきでしょうか?
2〜3日前には、ついに郵政民営化に逆行する法案が成立しました。
原発事故・東電に対する怒りを利用して東電の経営を事実上政府管理に移行するようですし、いろんな分野で大きな政府志向が激しい政権です。
そこで民意と民主主義の関係ですが、税や法律が如何に民主「的」に決められても、少数意見の人は強制される不都合あります。
国債による民間資金吸収の場合、反対している国民が仮に100分の1に過ぎなくともその国民は政府に運用を任せたくないと思えば、一人でも海外投資に逃げたりタンス預金しておくことも可能ですから、その時々の国民個々人の意識次第であって税(多数意見で)で強制するよりは合理的です。
まして政治の世界は、特定争点で政権を取るのではなくいろんな争点の結果政権を取って、いろんな分野の妥協の結果法の成立が決まるので、支持者多数が仮に増税反対でも他分野の妥協との絡みで増税法案が成立してしまうことがあってとても不透明です。
前回総選挙で民主党に投票した人の何割が消費税増税に賛成していたかすら分らない状態ですが、それでも国会の多数党と野党の妥協で自由に決めてしまえるところが、擬制(フィクション)的民主主義の怖いところです。
現在の民主制度は、個別テーマごとの民意を聞かないで政権を運営出来るのでフィクション的民主主義と私が言うのですが、そこが怖いところです。
郵政民営化の場合そのテーマでズバリ選挙したのですから、民意そのものですが、これに逆行する政策転換するときには少なくとも、そのテーマで民意を聞くべきです。
野田総理が消費税率アップに政治生命をかけると言うならば、消費税だけをテーマに民意を問う総選挙をすべきでしょう。
総選挙を避けるのが野田政権の第一目標でありながら、野田総理が消費税率アップに政治生命をかけると言うのは冗談または背理でしょう。
民意はレベルが低いので民意を聞いていたらいつまでたっても増税出来ない・・そこで自分は犠牲になって、増税だけして身を引きたいと言うのであれば、民意をバカにしているもので民主主義制度を根底から否定してい
ることになります。
ただし、ここでのブログのテーマは、増税の可否を直接テーマにして選挙して民意を聞いたとしても増税の場合、国債と違って反対者に強制できる点を問題にしています。
消費税増税について仮に国民多数(6〜7割)の支持を得ていたとしても、反対している残り3〜4割の人まで強制されるところが税の怖いところですが、国債の場合は買いたくない人は買わなければいいので国債で政府資金を賄うのは個人の意思を最も尊重する制度になります。
政府の運営資金を寄付による場合には、個々人の意思がそのまま貫徹出来るメリットがあることについては、10/26/03「教育改革22・・・・・寄付と所得税法2(税制の直接民主主義6)」前後で連載しました。
ですから、政府資金や会費等の資金源としては、寄付→国債→税の順に民意重視制度になります。

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