TPP15(開国と守るべき固有文化3)

アメリカ主導による交渉決着を恐れて初めっから交渉参加することすら反対しているのでは、お台場に砲台を築いてその実行を求めていた幕末の攘夷論者と同じで国の進路を誤ります。
幕府は一方で攘夷論に配慮してお台場を築きながらも、他方で兵庫等の部分開港を約束したり日米和親条約も結びました。
その当時のわが国の実力では如何に国防に力を注いでも、到底欧米列強に太刀打ち出来ない現実を踏まえる必要がありました。
今の日本も同じですが兵器を自前で作れない相手(今はアメリカ))から買っている状態でいくら右翼が息巻いても相手と戦うのは無理があります。
大分前に書きましたが、日本がいろんな軍需品を自己製造出来るように徐々に国産率を上げて行きましたが、自前で戦艦をまるまる作れるようになったのは第一次大戦後太平洋戦争前がやっとで、それでもまだまだ高級部品は欧米から調達するしかない状態で開戦になったのです。
幕末に本気で武力抵抗して欧米との戦争になると幼児と大人の喧嘩みたいでしたから、直ぐにも完敗してしまい、植民地にされかねない現実を無視出来なかったからです。
実際に薩摩や長州はそれぞれ攘夷を実行して完敗していますが、幸い国全体の戦争でなかったので部分敗北・賠償金支払でケリを付けることが出来ました。
薩英戦争や長州の四国連合艦隊との戦争を契機に薩摩/長州共に実力差に目覚めてそれから開国方針に変わって行きます。
当時は幕府に限らず誰がやっても我が国の実力相応に不平等条約でも結ぶしなかったのですが、この屈辱的条約を平等なものして行くには、右翼が息巻いてさえいればどうなるものでもなく国力増強を背景にして、徐々に不平等条約を修正努力して行くしかなかったのですから、当時の不平等条約締結が失敗だったとは言えません。
(部分開港の取り決めも現実的対応でした。)
攘夷論者による兵庫等の開港約束に対する憤激→安政の大獄→桜田門外の変があたかも英雄行為のように描かれていますが、・・実態は時代錯誤な主張・行動でした。
もしも彼らの言うとおり攘夷実行をやっていたら、日本は取り返しのつかない選択をしてしまったところでした。
右翼は視野の狭い短絡的・勇ましい発言や行動が多いのですが、彼らの言うとおりしていると国を滅ぼしてしまいます。
右翼の勇ましい発言・・青年将校による2・2・6事件その他の彼らの影響に従ってしまった結果が第二次世界大戦での無条件降伏でした。
幕末に欧米列強の連合艦隊を相手に戦った挙げ句に無条件降伏していたら、日本は欧米列強から分割支配されて植民地にされていた・・今の日本国は存在すらしなかった可能性があります。
TPPは個別条約交渉を越えて包括的解放交渉・・今の開国であるとしたら、今風の和魂洋才で乗り切って行くしたたかな智恵こそが必要です。
徹底抗戦論は勇ましいですが、最後は無条件降伏しかないとすればあまりにも無責任過ぎます。
「民族の醇風美俗を守れ」という右翼の主張は、外来文化を取り入れて進歩するべきチャンス・・個性の修正変化・成長?を怖がっているだけではないでしょうか?
北朝鮮のように変化を拒み、どこともつき合わずに孤立していれば、独自の正義感・・将軍様崇拝の民族意識(と言えるのかな?)は守れるでしょう。
条約を結んで、内政干渉されるのはイヤだと言う主張は・・・極論すれば、どこともいろんな国際条約を結ばず(マトモな交際をせず)孤立している北朝鮮の独善意識と同じような結果となります。

個性と成長3(開国の意義2)

我が国では明治開国以降焦眉の急であった民族防衛のために軍近代化を取り入れるしかなかったとしても、朱に交われば赤くなる面がありますので、武士道精神の元でこれを取り入れる和魂洋才が基本でした。
野蛮な気風を理解して行く・・こちらも武力向上・・そのためにはさしあたり支配地の拡大を図るしかないと欧米のやり方の真似したのが、明治以来の富国強兵政策で、行き着いたところが太平洋戦争での完敗でした。
これに懲りた我が国では憲法前文で諸外国が崇高な理念に従って信義を守ってくれることを信じて生きて行く・・旧来の平和志向に方向転換したことを December 9, 2012「信義を守る世界7(名誉の重要性1)」前後で紹介しました。

憲法前文抜粋

「・・・日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。・・」

これが憲法第9条の交戦権放棄や非武装条文に連なっているのですが、戦後70年近くも経過すると秩序維持能力のあったアメリカの軍事力にかげりが出て来ました。
他方でこれに挑戦する中国軍の台頭(まだ実態は大したことがないですが、勝手に自信を持ってしまっているのが厄介です)があって、そうも行かない状態になって来たのが昨今の軍事・治安情勢です。
中国は西洋列強の卒業した19〜20世紀型武力万能思想・・ほぼ山賊や海賊の論理でごり押しして来る上に、韓国、中国は公然と日本征服意欲を隠さないで常々表明していますし、仕返しと称して日本人を奴隷化したい欲望を隠さない状態です。
こう言う野蛮な隣国に囲まれている以上は、諸外国の信義だけに頼っていると日本人は中国軍の奴隷にされかねない恐怖が生じて来ました。
やはり、相手が相手・・獰猛過ぎるならば、ある程度自衛のための武力保持が必要になって来ました。
大正から昭和に掛けて我が国が西洋列強から孤立して行った轍を踏まないように、世界を味方に付ける智恵こそが発揮されるべきでしょう。
ショールーム等で来客がマナーを守れば、こちらからそろそろ帰って下さいとかマナーをうるさく言う必要がありませんが、相手がいくらでも居座るようなら一定時間でお帰り下さいというしかないし、次の訪問を断りする必要が出てきます。
企業がクレーマーなどで4〜5時間居座られることが繰り返されれば、警察に予め相談する・・警察が来るのが遅ければ警備会社と契約するどの自衛策が必要になります。
信義を信じると言っても治安状況次第です。
相手が人道上のルールを守らず武力万能思想を持っている上に、かれらに占領された場合、チベット民族やウイグル族に対するやり方を見れば分るように、相手民族の尊厳などはまるで頓着しない思想の国家です。
中国地域の歴史では征服したり勝った場合、相手の民族を何十万単位で皆殺しにしたり、敗者の將に対して、その親の肉を無理に食べさせたりするような人道以前のやり方をして来た歴史が連綿と続いています。
だからこそ前王朝の文物が殆ど残っていない・・先人に学ぶ意味の歴史が存在しない地域・・民族だと書いてきましたが、こう言う残忍・露骨な傾向だけはDNAとして受け継いでいます。
自分達が残忍なことから、日本軍も似たようなことをしただろうという虚偽宣伝に努めていることについては繰り替えし書いてきましたが、中国が仮にも日本に対する勝者になると恐るべき事態が待っています。
こう言う国が目前で実力行使を始めようとしてデモンストレーションを始めている状態で、自衛のためのガードマン不要論・平和を唱えていれば平和を維持出来るという意見は現実的ではなくなりました。
尖閣諸島の一件以来我が国では、国土を守るための準備をする必要があると言う意見・・憲法9条改正論が主流になりつつあるように見えます。
中韓両政府は日本右傾化を主張して批判していますが、中韓の実力行使やデモンストレーションがこれを後押ししているのですから、彼らこそが日本の軍備増強を後押していることになります。
中韓政府は膨大な資金を使って政府やマスコミに対し様々な形で思想浸透を図り、日本の軍備弱体化を狙って宣伝してきた結果、民主党政権が誕生してその効果が最高潮に達しました。
いよいよ日本が弱体化した見るや(韓国大統領公式発言では「日本が弱体化しているので・・(このチャンスに)・・」と言うほど)脅迫を繰り返すようになったので、彼らの推奨する非武装中立・日本右傾化反対論・・マスコミ論調の真意がどこにあったのかが誰の目にも明らかになってきました。
今では中韓政府に都合の良い意見ばかり流し続けるマスコミ・言論人の意見を信じる人が、殆どいなくなってしまったでしょう。
テレビ番組の不調・新聞の売れ行き減が言われていますが、インターネット関連発達によるばかりではなく、中韓好みに日本の歴史上の人物を卑しく汚らしく描いたり、如何にも日本が過去に悪いことばかりして来たかのように描くドラマが多くなって来たなど内容に大きな原因があるように思えます。

TPP11とアメリカ支配3(保険・金融2)

資源に頼ると不健全な社会になる仕組み・効果を昨日書きましたが、金融に頼る場合も同じ結果になります。
金融の場合、資源輸出に比べて知的労働者が多く必要になる・・先進国に限定される面が違いますが、少数者しか国際収支を黒字にする所得獲得に関与しない点では資源輸出国と同様です。
イタリア諸国(ベネツイアなど)も最後は金融に頼って滅びて行ったのです。
イタリア半島内の諸国は百年単位で金融に頼っているうちに、国民の多くは勤勉に働く習慣を失い遊び人的習慣が身に付いてしまったのではないでしょか?
金融業の場合も、トレーダーが10億稼ぐのも100億〜200億稼ぐにも人数が比例しませんから、国家全体での収支均衡を前提にすると金融で稼ぐ分だけ(黒字が溜まれば為替が上がるので)他の産業の競争力以上の為替相場になります。
その結果、他の産業の競争力が低下して規模縮小化によって失業者が増える面では、サウジのような資源輸出国と同じ結果になります。
アメリカの製造業従事者が今では約8%に減ってしまったのは、金融(海外進出/石油利権等への投資による配当収入も含め)で儲け過ぎている面があるからです。
金融収入(経常収支のうち所得収支)に国家経済を頼っていると所得格差が広がるだけではなく、(仮に再分配がうまく行っても・・)福祉に頼る人が多くなって人心が荒廃します。
我が国でも貿易収支赤字穴埋めを海外企業からの送金に頼るようになると、株式等の保有者と労働だけに頼る人との格差が広がります。
金融(利子配当収入)に頼るようになれば、資源に頼るのと同様に国家の将来が危ういと言うべきでしょう。
個人で言えば、働かなくて金融=退職金等の利息配当等に頼る生活は、老後・・将来のない人向きであると言えば分り良いでしょう。
TPP参加の結果、金融・保険分野で対アメリカで損する程度で済むならば、損を穴埋めするためにもっと真面目に製造業その他で働き続けることになるでしょうから、国民がいつまでも勤勉でいられて所得格差も広がらないですみます。
せっかく製造業その他で儲けても金融でアメリカ・ユダヤ資本に持って行かれるし、円がいくら下がっても資源輸出国にはなれないので、割高になった資源を輸入するしかないので、総体的に日本は割高品を買わされ続ける結果赤字が膨らみます。
これに比例して円が下がり続けることから、工業製品や知財等の近代的産業競争力がいよいよ強化されます。
金融で弱いことや資源のないことは、日本の工業製品・知財等近代産業製品でいくら勝ち進んでも円が上がり難いので、近代的産業従事者にとって有利であることを円安の持続性に関して2013/03/01「円安効果(持続性)1」前後で書いてきました。
資源に頼る経済構造が、アラブその他産油国の政情不安の根源であることを、January 20, 2013「中間層の重要性4(テロ・暴動の基盤1)」前後に書きました。
タマタマ3月13日、14日と、日経朝刊7ぺージには、私の意見を踏まえて?アフリカ諸国で資源が発見されるたびに、資源争奪の内乱に陥る国が増えていることを国別に図解して書いています。
何しろ資源があれば働かなくても、巨万の富が手に入るので、争奪したくなるのは当然です。
アフリカの(未開の)部族紛争に限らず、近代に入ってからの有名な先進国間の戦争は殆ど資源を巡る争いが原因でした。
独仏の長年の戦争(普仏戦争)は言うまでもなく、アルサス・ロレーヌ地方の石炭を巡るものでしたし、最近の尖閣諸島や南沙問題も周辺に資源が発見されたことに端を発したものです。
資源があるということは、逆説的ですが不幸なことです。
資源のない国はその分必死に働くので技術が発達しますし、(勿論一定の能力・準備のある国に限られますが・・・)多くの国民が職に就ける幸福な社会です。
私の意見は、着想しか書けませんが、上記新聞記事はこの着想に時間かけてデータを付して解説してくれています。

TPPと主権3

03/29/06「法の支配と被支配2(ローマ法支配の意味)」で法の支配について書いたことがありますが、ある国の法の精神枠組みが別の国で適用されると国民はその法を学び且つ行動規範をそこに求めるしかなくなります。
その国の法を学びその法で規制する・・行動様式を決めて行くようになればその国の思考方式を生活の基礎にする・・その国の思想や道徳律を受入れることです。
支配とは自分の意思を他人に強制することですが、腕力による強制はなく法で強制するのが現在国家ですから、アメリカの法の殆どがTPP参加国で共通法化するようになれば、アメリカ支配・・アメリカ議会の決議を自国の法として受入れるのと同じです。
属国の場合は間接支配ですが、TPPの場合かなりの分野で直接支配になります。
TPP参加表明するか否かはアメリカによる囲い込み・・現在版植民地支配に入るかどうかの踏み絵を迫られていることになります。
私がJanuary 7, 2013前後のコラムで、TPPに参加しない限りアメリカは尖閣諸島問題で良い顔をしないだろうと書いていたのは、この意味になります。
自分の版図に囲い込めるなら一緒に防衛もするし、参加しないでアメリカ支配領域外に出て行くのなら防衛する必要がなくなるのは当然です。
EU条約は英独仏3カ国の大国グループとベネルックス、北欧諸国などの中間の国々と南欧や中東欧の周辺諸国からなる同心円的関係ですが、それでもドイツの支配力が強まってることが最近問題になっています。
TPPの場合、ダントツのアメリカを牽制する対等者のいない組織ですから、アメリカ唯一支配を貫徹する道具立てになる可能性が高いでしょう。
EC→EU成立時にイギリスの参加が拒否された事例を想起するべきです。
当時ドゴール大統領はイギリスはアメリカの手先だから内部に入れるとトロイの馬の役割になると言って拒否していたのでした。
TPPはトロイの馬どころか、アメリカそのもが内部で直接支配するのですから、民主的運営をするには、アメリカ以外の諸国の団結・協議機関設置が必要です。
我々弁護士の世界で言えば、関東弁護士連合会というのがありますが、マトモに一対一で議論していると巨大組織である東京3会に叶わないので、東京3会を除く10県会という内部親睦組織が別に造られています。
弱小10県の単位会が集団で東京3会に対してもの申すことになっていますが、こうした運営方法も参考になるのではないでしょうか?
組織面の工夫がないまま、自国の主張を遠慮なくすべきだと言っても、絵に描いた餅になります。
(・・労働者は遠慮なく意見を主張すれば良いというよりは、団結権・団体交渉権保障の方が意味があります・・・)
主権問題に敏感な右翼系が概ねTPP反対論を展開している根源的理由は、主権が損なわれる恐怖にあるのでしょう。
ところで商品規格の画一化・・許可基準は(車等の規格・食品衛生・排ガス規制や公害基準その他)すべて法律で決まるのですから、欧州議会のようにアメリカが主催する会議でいろんな基準をドンドン決めて行くと、文字どおり日本の国会で独自に決める国内法・・はこれに整合するように手直しする仕事しかなくなって行く・・主権制限になるのは当然です。
ハーグ条約を3月8日に紹介しましたが、条約で決めても已むなく受入れるしかない以上は同じことになりますが、個別の問題ごとに条約を結ぶかどうかが国会で議論になって、分り良い点が違うと言えるでしょうか?
包括的なTPPの場合、参加後は個別品目別基準造りは政府の恒常的な交渉になって国民には見え難い点が難点です。
これまでの国内的分類で言えば、国会で作る法律よりは官僚の作成する政令、省令あるいはガイドラインみたいな細かいレベルの交渉になって来ます。
建築基準や防火基準、レストランの保健衛生基準などのガイドラインの作成等は優秀な官僚にお任せで、関心を持たない・・マスコミは詳しく報道しないし政治家も関与しないのがこれまでの国民の習慣でした。
この結果TPPは密室的交渉になっているので、これだけの大問題になっているのにマスコミは詳しく報道しないし、何が問題で何を揉めているのか国民には未だに訳が分らない印象になっています。

円安効果3(生活水準引き下げ)

円安持続性には問題がないので安心して設備投資出来るとした場合、円安にさえなれば全般的に競争力が復活するのか?こそが一番の問題です。
価格差が1〜2割前後で競合している場合、1〜2割の為替相場の浮き沈みが大きな影響を与えます。
仮に10倍以上の値段格差がある場合、2〜3割程度為替相場が下がっても競争力回復には関係がないので、3月2日に書いたとおり逆に円安によって値上がりした部品や原材料を買うしかないので、貿易赤字は増えるし企業は製品値上げ(電力で言えば電気代の値上げに直結します)しなければやって行けなくなります。
これがインフレ期待論者の期待するリフレ効果でしょう。
回り回って人件費が置き去りに(本質的に後追いですから)されて企業全体が、賃下げ効果を享受出来る・・国民生活を犠牲にして競争力を復活する政策となります。
実際我が国の苦境は新興国に比べて人件費が高過ぎることにあり、アメリカは連続するドル下落の結果、製造業の復活をアッピールするのに今では中国苦並みに人件費が下がっていると豪語していることからも競争力の基準は人件費にあることが明らかです。
現地進出すれば足りるのでどんな優秀な機械設備を作っても機械化が進めば進む人の能力差よりは、人件費や地代等の差の比重が大きくなって来るからです。
この辺のパラドックスは、全自動化した場合を例にして05/16/05
「究極の機械化と国際競争力(人材の重要性1)」前後で書きました。
まして過去の貯蓄で生活しているリタイアー層にとっては賃上げさえないので、単純に老後生活費が縮小する・・貧困化が待っています。
円高が実質賃上げ効果があり、円安には実質賃下げ効果があると繰り返し書いてきました。
借金している国(1000兆円を越えかけている国の債務等)や企業は、インフレになれば返すお金が少なくて済むので大もうけですし・・1500兆円に及ぶ個人金融資産・・年金等の受給者・過去の資金蓄積者にとっては1割インフレで1割の債権目減りですから巨額損失です。
1割物価が上がれば、1500兆円の個人資産が一瞬にして150兆円目減りですから借り手(個人金融資産と同額の借り手があります)にとっては150兆円寝転んでいて大もうけになります。
円高に関するコラムで何回も書いてきましたが、為替相場変動の究極的効果はこれによって技術革新・本来の競争力強化を計るというよりは、国内人件費をそっくり上げるか下げるかあるいは負債を労せずして減らせる安直な期待効果しかありません。
これを実際に徹底的に実験して来たのが、韓国李明朴政権による大幅なウオン安政策でした。
大幅ウオン安政策の結果、サムスン等の巨大企業が世界企業に成長する一方で、国民は低賃金化・塗炭の苦しみ・・個人金融資産はマイナスで、若い女性の多く(9人に一人の比率と言われています)が世界中に売春婦として出稼ぎに精出すような状態になっていることは世界中周知のとおりです。
(フィリッピンの伝統的メード輸出より哀れです)
自国通貨安政策は、人件費減を通じて企業を太らせるものの、人件費削減を通じた国民窮乏化政策とほぼ同義と言えます。
国民が働き以上に高収入を得て贅沢している・・その結果貿易赤字が累積して危機的状態・・デフォルトリスクがあって、どこの国からも商品を売ってもらえなくなる危険が目前に迫っている場合には、国民に倹約して貰うしかありません。
倹約効果を出すには貿易収支赤字をそのまま受入れていれば、自国通貨安になって輸入物価が上がるので国民は購買力が下がり自然に消費を抑える・・生活水準を落とすしかないので合理的・ソフトな政策と言えます。
南欧諸国の危機解決にはこれしかないのですが、自国通貨をもたないために為替相場切り下げによる全般的水準引き下げ解決が出来ないので、増税・緊縮財政政策という強制力行使しか選択肢がなくて困っています。
我が国では、野田政権が消費税増税で活路を(財政赤字縮小→国債等の借金縮小や生活水準引き下げ)見いだそうとしました。
こんなことは為替相場の市場原理に委ねれば上記のとおり自然に解決出来る問題ですが、これを増税と言う強制力で対応しようとする発想(強制力に頼るには徴収業務や例外対応システム等関連経費・・公務員も増えます)自体が時代に合っていませんでした。
※円安=輸入物価上昇→インフレになれば、増税・増収しなくとも債務負担がその分軽くなるし、国民は生活水準低下で自然に支出を抑えることになります。
生活保護費支給水準の引き下げや社会保障給付の引き下げ等も強制的にするのは抵抗が大きくて大変ですが、これをしなくとも、物価が上がれば自然に(実質的に)引き下がります。
右翼左翼双方に最近流行の「新自由主義反対・市場原理反対」という教条的発想が、(大きな政府志向)市場に委ねれば自然に変化する柔軟なシステムを利用しない方向に自公民(与野党一致)共同で向かってしまったのではないでしょうか?

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