12月14日総選挙と民意2

今回の選挙では、集団自衛権行使閣議決定の変更や秘密保護法制定や増税の可否・・中国による尖閣諸島侵犯・小笠原諸島海域での漁船団による侵略的操業、慰安婦騒動で冷却化している韓国との関係処理の軸足をどうすべきかなどなど、戦後秩序を揺るがす大事件が連続的に発生していたので国家の基本方針を決めるべき大きな課題が目白押しでした。
(韓国の中国への軸足変化も含めて)根底にはアメリカ支配・戦後秩序が揺らいできたことにあると言うべきでしょう。
戦後秩序の基礎が揺らぎ始めた大変革の始まりにあたって、日本の立ち位置を決めるべき大争点が目白押しであったにもかかわらず、解散が決まるとマスコミは「争点のない・大義のない解散だ」と言う報道を繰り返していて、ネットでは、争点隠しに励んでいると言われるようになりました。
選挙は国民の意思・民意を知るために存在するものですから、政治家はぼやけている争点の輪郭を明らかにして国民意思をより正確に聞き取る努力をすべきです。
「争点がなくて自分は何を訴えて良いか分りませんが兎も角私に投票して下さい」と言う政治家は辞めた方が良いでしょう。
マスコミは、(本来マスコミと非民主政治は相容れない筈です)個々の政治家が明らかにできない争点の輪郭を組織力で明らかにして国民に提示するべき業界です。
解散が決まるといきなり「争点がない」と言い出すのでは、マスコミ業界の怠慢ですし、民主政治否定論に近いと批判されても仕方のない自殺行為ではないでしょうか?
時間軸で見ると、安部政権誕生後約2年間のアベノミクスに対する評価と中韓両国による戦後秩序に対する挑戦・・重要事態連続発に対処して来た安倍政権の各種の施策(秘密保護法制定や集団自衛権解釈変更や武器禁輸幅の変更など)に対する採点・・信任投票が必要な時期が来ていたように思います。
(今時4年間も白紙委任では長過ぎるので、アメリカでは2年ごとに中間選挙があるのはこの点で合理的です)
まして大事件があったときにはすぐに民意を問うべきでしょう。
沖縄普天間基地対応の拙劣さ〜原発事故対応の拙劣さが問題にされた民主党鳩山〜菅政権に対する国民評価が必要であったのに、すぐに選挙して民意を問わなかったのは民主制の根本に反していましたから、先送りした選挙でその分の不満が大きくなって大敗してしまったのです。
先送りすれば民意の不満がそれだけ溜まって行く点では、小泉総理引退後福田〜安倍、麻生政権が選挙先送りしていて大敗したことに共通します。
このように、政権獲得後想定外の大事件があると、これに対する民意を問うていないのですから事後に対応の是非について直ぐに信を問うのが本来的な民主制の基礎です。
緊急処理すれば事後に直ぐ上司や議会等の事後承認を得るのが一般社会でも常識です。
選挙のテーマとしては、増税を決めた民主党だけではなく、自民党内にも根強かった増税実行路線を、安倍政権が解散決断と同時に変更したことを国民が支持するのか、支持しないのかこそが目先の最大争点になるべきでした。
小泉元総理の郵政選挙では、郵政民営化に飽くまで反対していた勢力が大打撃を受けた経験から、今回は安倍政権が増税延期を決めると同時に解散・総選挙を決めると、増税要求派の政治家はあっさり延期賛成に転じた結果如何にも争点がなくなったかのような外見を呈していました。
しかしこれは増税派が正面から戦うことを避けた・不戦敗を選んだ選挙戦術によるものであって、増税実行圧力を跳ね返すために安倍政権が解散に打って出たことは明らかでしたから、国民に問うべき直接の最大争点は増税の可否であったことはまぎれもなかったでしょう。
「争点がないから国民はしらけている」と言う大宣伝をマスコミが繰り返して、選挙に行っても意味がないかのようないわゆるネガティヴキャンペインを大々的にやっていることがネット批判されていました。
この批判の結果か?途中から争点がないと言う宣伝が少なくなり、選挙後の報道でも投票率が低かったことの主張も(あることはあるものの)控えめですし、争点がなかったと言うマスコミ批判はいまのところほぼ封印されています。
マスコミがネット批判に負けて報道姿勢を変更せざるを得なくなった記念すべき事件ではないでしょうか?

国際運動の功罪2

アメリカ人としては内情がよく分らないので、アジア事情は日本の代表的新聞である朝日の派遣した人材に委ねていただけでしょうが、トンだところで知らぬ間に日本の怒りを買っていることになっています。
中国その他の国で自国派遣者が国際機関で要職を占めれば、陰に陽に自国有利に計らうのが普通ですから、国際機関での要職獲得競争が行なわれています。
日本のNHKや朝日その他マスコミ界に中国韓国系の人材が深く食い込んでいると言われるのはこの目的によるものです。
本来ならば世界のオピニオンリーダー的なニューヨークタイムズのアジア問題主幹・主筆の地位を日本人が獲得すれば出身国にとって有利なことですが、日本の場合コレが逆に作用している感じです。
国際組織が特定の国に関して批判的意見を書くには、余程の裏付け資料を用意する外に政治的配慮・勇気がいりますが、対象国の利益代表の派遣官僚・派遣社員が自国や自社に不利なことに承諾してくれれば同意のもとに書くので気が楽ですし、まして自分で「自国批判ならおスキなようにどうぞ」とフリーパスなるのが普通です。
国連やニューヨークタイムズに限らず、どんな組織でも、自国や出身会社・派閥に不利な意見を言わない前提ですから、(官僚機構も出向制度があるのは出身省の省益を守るためにあると言えますし、企業が買収先に役員派遣するのは自社の意向反映のためです)日本関係は日本からの出向者の意見で書いておけば問題が起きないと思ってフリーパスになっているのが普通です。
これを良いことにして国内世論誘導のために、国際機関でこう言う批判がある・国際孤立すると派遣している企業や機関・組織が、自作自演をして来たのが、ここ数十年の官庁やマスコミ界でした。
日本の国力を背景に折角国際進出できるようになった各種人材が、(日本に善かれと思ってやっているのでしょうが、外見上)反日言動?精出しているように見えます。
彼らの行動は、・・我田引水しない公平な人材として日本人に対する長期的評価に繋がる良い面もありますが・・結果的に自国批判に精出す不思議な国の印象を与えているでしょう。
とは言え、彼らが長期的評価信頼を得ることを目的にして日本批判に精出していると言うよりは、自説補強のためならば、日本に対する信用毀損など一切気にしないでように見えます。
日弁連の委員会ニュース(12月1日号)を見ていると、国連人権委員会に出張して在特会の朝鮮人学校に対する街宣活動のビデオを持参して上映するなど生々しい報告をしてヘイトスピーチ問題を精力的に訴えた結果、国連人権委員の強い関心を呼び大成功?したかのような報告が掲載されています。
その他いろんな面で自国のマイナス点を強調して国際機関から勧告や厳しい質問を受けるように努力したことが手柄?として報告されるようです。
このように我が国の弱点・マイナス点を海外発信して日本批判の運動に精出す事例は枚挙に遑がないほどですが、ここ数十年来どころか戦後ずっと、特定立場の主張を国内で有利にするために国際機関を利用する方法がはやっていました。
我々素人は、国際機関でこう言う批判を受けていると言われると「そうか・・国際的にも批判されているのか・・。」と素朴に思ってしまうところがあります。
しかし、自説の正当性をきちんと国内で主張せずに、国際機関の威を借りる・・・トラの威を借るような意見は、それ自体が眉唾・おかしいと思うべきです。
正しいことは諄々と説けば黙って聞いてもらえる社会ですし、大声で泣き叫ぶ人は、自分に理がないこと知っている場合が殆どです。
財務省で言えば、増税路線の自説の正しくないことを自覚しているからこそ、箔付けが必要になって内外の経済学者に自説にあう意見をマスコミ寄稿させたり、IMFに派遣した官僚にIMFの名で対日意見を言わせて世論操作し、増税延期が決まると格付け会社に格下げさせたりしたくなるのでしょう。
しかしマスコミに登場する識者の意見は、権力のある裸の王様に従っているだけであることが、財務省の威力の及ばない市場が増税延期→格下げに対して全く反応しないどころか、逆反応していることからその虚構性が明らかになっています。
社会的意見は経済のようにはっきりした市場競争がないので、増税の可否のように直ぐに結果が出ないので、国際ブランドを利用すると大きな効き目があります。
国連その他外国で積極的に自説を展開した自作自演の結果を持って、国際機関でこのような厳しい意見があると言ってこれを錦の御旗にして主張する論者は、自分の意見が正しくない・・日本で受入れられていない意見だと自覚していることになるのでしょうか?
日本のマスコミは自国批判を海外で積極的に行なう希有な存在ですから、このマスコミさえ抱き込めば日本が悪逆非道の国と言う国際世論造りが簡単になります。
中韓にとっては自国が直接日本批判を発信しても信用され難いでしょうが、日本のマスコミや日本の人権団体に如何に日本が酷い国かを発信してもらった方が簡単に信用される利点があるので、対日非難を展開するには、日本マスコミ界や言論界への浸透にお金を使うのが効率的です。
実際に我が国政治家が外国で慰安婦問題等に反論しても「でも、お国の新聞やマスコミも認めているのではないですか?」と反論されてしまう例が多いと言います。

社会変化反対運動と功罪2

以前紹介したことがありますが、成田空港反対・公害反対や高速道路が千葉に来るのに反対と言ういろんな運動が盛んなときに私は修習生〜弁護士になりましたが、この頃革新系政党に公然と所属している弁護士から参加を誘われたことがあります。
アメリカの原水爆実験に反対しているのに、中国やソ連の原水爆実験には反対しない・・日本より酷い中ソのモクモクたる黒煙の煙突群・・公害の状態には何も言わないで中ソの発展が素晴らしいと賞讃していたりするのに、何故日本の空港や高速道路普及だけに反対するのか、国際競争に遅れるじゃないかと言う心配をしたので疑問をぶっつけたことがあります。
今でもマスコミの報道を見ると、日本の津波による原発事故・放射能汚染が発生すると鬼のクビでもとったように大騒ぎで世界発信しますが、中国で繰り返されている核実験によるもっと酷い恒常的放射能汚染には全く触れません。
日本に比べて技術力の全く違う韓国や中国の原子力発電自体の大小の事故がしょっ中あってかなり悲惨な状態らしいですが、(新幹線事故は公衆に触れることから隠せませんが、それでもすぐに埋めようとしていたことがバレて世界の笑い物にされましたが、中国とはこういう国です。・・原発事故は極秘情報隔離された敷地内の不具合ですので、一般に出て来ません)秘匿されたままで全く報道されていません。
ただし、日本の原発津波被害後、マスコミが騒いだ結果全国の放射能データがネットで公表されるようになっていますが、この結果、マスコミが中韓の不都合を報道しなくとも、福島原発に関係のない中韓に近い日本海側の九州や山陰地方の方が放射能濃度が濃いことが一般に知られるようになっています。
以下、12月13日現在の東京都のデータと山陰地方のデータ比較を紹介しておきましょう。
(ご覧になりたい方は毎日10分ごとにネット公開していますので見て下さい)

新・全国の放射能情報一覧
各都道府県の4179地点の放射線量グラフを公開しています。
2014/12/13 12:50 時点の最新放射線量データです。(10分毎更新)

東京都の計5地点の放射線量グラフを公開しています。
2014/12/13 12:50 時点の最新放射線量データです。(10分毎更新)
現時点の圏内最大地点は <0.05 0.043μSv/h 東京都足立区 舎人公園 です。

鳥取県の計7地点の放射線量グラフを公開しています。
2014/12/13 12:40 時点の最新放射線量データです。(10分毎更新)
現時点の圏内最大地点は <0.1 0.077μSv/h 鳥取県琴浦町 赤碕ふれあい交流会館 です。
2014/12/13 12:40 時点の最新放射線量データです。(10分毎更新)
現時点の圏内最大地点は <0.1 0.06μSv/h 福岡県北九州市八幡西区 八幡総合庁舎 です。

こによると東京の0、5台に比べて山陰地方は軒並み1、0台ですから、山陰地方の方が、約2倍の濃度です。
この因果関係をマスコミは全く報じないで、柏市など東京に比べて濃度の濃いスポットがあることばかり大々的に報道しています。
北京での米国大使館敷地内での大気測定が有名ですが、国民の健康を守るためならば、日本の方が米国の核実験場よりも近くてしかも偏西風の影響を直に受けるのですから、日本も大使館内でこの程度のことをやるべきですが、こういうことを一切やっていません。
アメリカやフランスの原水爆実験には、昔から猛烈に反対して教科書にまで福竜丸の写真を乗せる熱心ぶりですが、中国の核実験の場合、日本に近くてしかも日本が風下にあって影響が大きいのに報道すらありません。
昔から、ビキニ環礁の核実験を大騒ぎしているし、教科書に写真などで強調されるので誰もが知っていると思いますが、場所的に見ると日本の数千km彼方の東南方海上・・太平洋のど真ん中)の実験ですから、・・日本に放射能が被害があると言う点で強調するならば、日本にもっと近くしかも西風(地球の自転によるジェット気流は西風です)に乗ってすぐに飛来する中国やソ連・シベリアの核実験の方が日本にとって被害が直接的ですから、こちらの方こそその都度外出注意などの警戒を呼びかけて騒ぐべきです。
(核実験そのものに意味があるのではなく、日本漁船が被害を受けたと言う意味で騒ぐならば意味が分かりますが・・・。)
中国では大変な健康被害が生じていて、ガン村と言われる地域が発生しているとのネット報道もありますが、これらは全てマイナー系や独立系のジャーナリストが自分で取材して来たものばかりであって、大手マスコミとマスコミに出たい文化人は一切触れません。
以下はネット情報の一例です。

中国ガン村の惨状 あるボランティア女性の報告 – (大紀元)
www.epochtimes.jp/jp/2011/08/html/d63430.html
【大紀元日本8月6日】マレーシア在住の中国系女性・唐米豌さんは2002年からの7 年間、中国のガン村で患者を支援するボランティア活動を続けてきた。2009年、彼女がガン村の惨状をまとめた文章を発表して以来、中国政府のブラックリストに載せられて、 …

ただし、ガン村は水質汚濁によるものと言う発表です・・核実験関連は当然のことながら軍事機密ですから、フリーのジャーナリストも放射能測定したり報道出来ません。
もしも強行すればすぐに拘束されてヤミに葬られる仕組みでしょう。
チベット民族やウイグル族の苦しみは、弱小民族居住地域に核実験場が集中にいる被害の面が大きいのですが、こうした具体的被害の点には一切触れないのがマスコミです。
40年以上前の話題に戻しますと、当時なぜ空港や高速道路に反対するかについても「飛行機や高速道路を使うのは金持ちだけで、貧乏人は騒音被害を受けるだけだ」と言う説明を聞いたことがあります。
勿論大工場反対も(中ソの場合には、資本家の搾取がないが)日本では資本家が儲けるだけ・・と言う説明でした。

えん罪と証拠開示1

大阪地検の証拠改ざん事件は、検事のシナリオが客観証拠にあわないことが分ったこと・・その証拠を実は被告人側が握っていたことが重要です。
大阪地検の証拠改ざん事件の歴史的意義は、供述・自白よりも客観証拠で勝負が決まる・・しかもその証拠共有の重要性が明らかになったことではないでしょうか?
えん罪事件の多くが被告人に有利な証拠が再審事件開始まで提出されないで倉庫に眠っていた事例が多いのですが、その視点で見ればその悪弊が露骨に出て来たに過ぎません。
大阪地検の場合、被告人に有利な証拠を隠匿していたのではなく無罪になる証拠を有罪にするために積極的改ざんまでしたことが、国民にショックを与えたに過ぎません。
元々被告人保有証拠であり、しかも本人が頭脳明晰だったことから、これがタマタマ証明されてしまったのですが、被告人を有罪にするには矛盾する証拠があるのに被告人が知らないことを良いことにしてこれを開示しないで、頰っ被りしたまま裁判を続けて有罪判決を獲得して来たことも犯罪的である点では本質的には同じです。
長年の証拠隠匿行為(証明されていませんがこの体質)の弊害が積もり積もって、検察の正義感を蝕んでしまった結果証拠改ざんまでやってしまったと評価すべきでしょう。
だから大ニュースになったのですが、上記のとおり被告人に有利な証拠があるのを知りながらこれを倉庫に眠らせておくのも根っこは同じではないでしょうか?
この種不正を正すことがこの事件の教訓であるべきですから、取り調べを可視化しても客観証拠になるべき帳簿やデータの改ざんを防げません。
この事件の事後処理として、取り調べの録音録画が中心テーマ(マスコミ報道だけかも知れませんが・・)になっているのが不思議です。
証拠改ざん行為の再発防止に必要な議論は、証拠管理等の厳密化・改ざんを防ぐためには押収と同時にコピーを被疑者関係者や弁護人に交付するなどの早期の証拠開示ではないでしょうか?
現在押収品目録が交付されますが、その中身はいろいろですから(例えば日記帳10冊と書いてあってもその内容が不明ですし書いた本人でもきっちり4〜5年分記憶していることは稀です)目録だけでは内容の改ざんを防げません。
この事件で直視し議論すべきは、有罪にするには矛盾する証拠があるのにこれを改ざんしてまで事件を押し進めようとした・・無罪と分っている被疑者を無理に勾留し続けて人権侵害を続けていて無理に犯罪者に仕立てようとしていた検察庁全体の不正義・犯罪的体質です。
従来のえん罪の議論は捜査機関も無実を有罪と誤解して起訴していたことを前提にしていますが、大阪地検の改ざん事件は無罪になる証拠をねつ造して有罪にしてしまおうとした事件です。
(改ざんしなくとも)少なくとも不利な証拠があることが分った時点から、逮捕監禁継続自体が違法であったことになり、重大な事件です。
違法な監禁を続けることが許されるならば暴力団の監禁事件と本質が変わりません・・。
権力犯罪の巣窟が体質改善しないままで、巨悪を追及している組織と言うのでは、ギャグみたいになりませんか?
最も重要な検察の体質改善がどうなったのかについて、マスコミが報じないで(少しは報じているかも知れませんが、連続しての掘り下げ記事がないしオザナリです)どこまで録画するかなどの可視化議論ばかりにマスコミ報道が矮小化されているのが不思議です。
ただし、私はもう歳(トシ)なので、公判前整理手続に関与していませんので詳しくは分りませんが、マスコミが報じないだけで、実際には、裁判員裁判手続の開始に関連して公判前整理手続が充実して、従来に比べて証拠開示がかなり進展して来ていることは確かです。
刑事裁判の公正化は、証拠開示次第にかかっているといえます。
ローラー作戦と言う言葉がありますが、大事件があると捜査機関は網羅的にダンボール箱でごっそり持って行ってしまう状態のニュースを見聞きした人が多いでしょう。
誘拐その他の一般事件でも事件発生後の周辺聞き込み、その他の捜査情報は人海戦術で大量に集められます。
この中から、検事に都合の良い証拠だけで裁判するのでは、被告人に有利なデータが提出された証拠に偶然紛れ込んでいたときに、その矛盾を追及するような例外的場合しか戦えません。
仮に周辺聞き込み情報や押収した資料全部弁護側に開示されるようになっても、そもそも倉庫一杯の資料を「勝手に見てくれ」と言われても、弁護側には人手も時間もなくシラミつぶしに見る時間がないのが普通です。
録画・録音全部・たとえば合計500〜600時間分開示されると却って困ってしまうのと同じです。
情報過多はないに等しい・・昔から「過ぎたるはお及ばざるがごとし」と言います。
捜査機関は最初に資料を根こそぎ捜査機関が持って行き、大量の人員を投入して綿密にチェック出来るのに対して、弁護人は、多くて2〜3人で共同弁護するくらいが関の山ですから、有利な証拠を見いだすのは至難の業です。
この格差をどうするかが重要ですが、私自身今のところ、こうすれば良いと言う「解」を持ち合わせていません。
さしあたり考えられるのは、科学捜査を進めて本当の意味での立証責任の転換が必要ではないかと言うことです。
痴漢事件で言えば、被告人が被害者周辺で手の届くところにいた5〜6人の一人だと言うことと、被害者がこの人に違いないと言う程度ではなく、夢かも知れませんが、触ったらどう言う痕跡が手指に残るなどの科学の発達を期待したいものです。
無実の推定があるとは言うものの、実務では検事によるある程度の立証で事実上立証責任が転換されてしまって、被告人が弁解しなければならない状態に追い込まれているのが普通です。
その一つ1つには相応に理由があるのですが、その基準線をホンのちょっとずらすだけでも大分変わって来るでしょう。

証拠法則と科学技術3(自白重視3)

客観証拠が充実して来れば、事件当時の半年〜1年以上前のおぼろげな記憶による当事者の思いつき的供述の真偽究明よりは、(記憶違いではないかなどと前後供述の矛盾追及などよりも)提出されたビデオやパソコンの記録やデータの読み取り方その他のデータ相互の矛盾追及などの信用性を争うのが、弁護士の中心的仕事になってきます。
大阪地検の証拠改ざん事件は、このチェック過程で生じたものです。
いろんな民事事件で現場写真や録音テープ・メール等が証拠提出されることがありますが、写真やテープは証拠にならないと言って争うのではなく、「この写真が現場写真としてはこの家が写っていないはおかしい」「この表情・動作からこのように読み取るべきだ」など、内容で争うべきことです。
たまに法律相談で「メールや録音などは証拠にならないですよね!」と(ネットに書いてあったと言って自分の意見が正しいと言う前提で強制的に?)同意を求めて来る人がいますが、「一般論ではなく前後の事情その他具体的内容による」と答えています。
ただし、刑事事件では証明力以前に証拠能力と言う関門がありますので、刑事件の相談ならば一応検討する意味がありますが、一般的にこう言う相談は浮気のやり取りがメールに残っていて、これが配偶者に抑えられた場合、証拠にされるかの相談が圧倒的です・・民事では証拠能力と言う関門がありません。
防犯カメラの設置に反対する動き・・論文を11月8日に紹介したことがありますが、この運動主体が「自白に頼るな」と主張するグループである弁護士会と重なるのが不思議です。
プライバシー保護を理由にいろんな客観証拠のデータ化に反対・または反対論を学ぶための集会をしている・・「証拠収集反対論2(防犯カメラ1)」 November 8, 2014で紹介した論文は、「■九州弁護士会連合会主催「監視カメラとプライバシー」シンポジウム 2004年10月http://www.meinohamalaw.com/activity01/5.htmから見た論文を読んだ印象を書いたものですので、関心のある方は上記にアクセスして原典に当たって下さい。
・・その大会で防犯カメラ設置反対決議したものではないとしても、こう言う講演依頼をして集会を開催していること自体が主催者の意図・体質を表しています。
このような研修集会をするならば、防犯カメラの有用性を主張する学者ああるいは捜査関係者にも講演してもらい、双方の意見を戦わせて会員が公平に判断出来るような集会にすべきです。
一方の立場に有利な講演をしてそれに基づいて防犯カメラが社会に害があることばかり強調する集会運営して行くのでは、防犯カメラと言う客観証拠の発達を阻止したい・・反対するためにあら探しの研修集会をしているように国民が思う・・誤解?するのではないでしょうか?
憲法9条を考える会と言うような趣旨の集会案内を良く見かけますが、双方または複数の意見を聞いてみるのではなく、一方的な意見ばかり聞かされるのが普通です。
弁護士団体が偏った意見の集団ではなく、法制度をよりよくして行くためにいろんな研修をして行くのは良いことだと思っていますが、反対意見の講演ばかりしていて「何でも反対集団」と言う評価が定着していた元社会党のようになってしまうと、マイナス・・本当に良い意見も通り難くなる心配をしています。
11月30日日経新聞朝刊17Pには、脳指紋の研究が進んでいて「未来の科学捜査」と言う見出しで、将来は、無意識でも脳に痕跡が残る・・過去に脳が見たり経験した事柄が科学的に判別出来るようになりそうだと言うサイエンス記事が大きく出ています。
これらも、将来現実化して来ると技術の不確実性・・信頼性が100%でないことを理由に(「専門家による)採用反対論が大きな声になるように思えます。
スピード違反自動検出機器(オービス)も、たまには間違いがありますが、それでもその誤差を自覚して運用すれば良いのであって、その有用性は明らかで、今は定着しています。
技術には当然欠陥や誤作動があり得るので裁判では、万分の1の欠陥でも当該事件になかったか厳密に検証して行くべきですが、それとは別に各種機器や科学検査の否定運動・・防犯カメラのように設置自体反対になって来ると、刑事弁護の立場からの主張としては意味不明です。
ただし、公益と人権(プライバシー)侵害の兼ね合いと言う批判は勿論ありますが、新技術が出ると先ずは反対する材料がないかと言う視点が先にあるような印象を受ける人が多いのではないかが心配です。

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