オバマ政権の移民政策(DACA制度論争)1

アメリカは、安い労働者を使いたい・移民あるいは出稼ぎは欲しいが、定着は困るという身勝手な制度の矛盾を解決するしかなくなっています。
その解消に乗り出したオバマ政権時の移民対策(表向きは人道解決)について見ておきます。
https://www.bbc.com/japanese/41170136
・・DACA制度に登録した若者は「ドリーマー」と呼ばれ、就労や通学が認められた。その大多数が、ラティーノ(中南米系)とされる。
不法移民と言っても主としてメキシコまたはメキシコ経由で入ってくる中米からの低賃金移民が政治問題になっていることが分かります。
カナダの方は米国より自分たちの方が良いと自負しているので、経済自由化に伴い人的移動自由化があってもそれほど一方的な移動が起きなかったのでしょう。
オバマ政権のいわゆるDACA制度については以下に詳細紹介があります。
項目だけ引用ですの詳細は下記に入ってご覧ください。
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8896325_po_02620101.pdf?contentNo=1

【アメリカ】 オバマ政権による新たな移民制度改革 海外立法情報課長 岩澤 聡
国立国会図書館調査及び立法考査局

*オバマ大統領は、2014 年 11 月 20 日に行った演説において、約 400 万人の不法移民の国外 退去処分の延期等を含む新たな移民制度改革を大統領権限により開始すると発表した。
1 背景と経緯
1 背景と経緯 アメリカ全土で 1100 万人を超える不法移民への対応はオバマ政権の最重要課題で あり・・・以下省略、
2 移民制度改革の概要
(1) 国境警備の強化
(2) 国外退去の優先順位の見直し
(3) DACA(Deferred Action for Childhood Arrival)プログラムの拡大
(4) アメリカ市民および合法的永住者の親に対する延期措置の適用
(5) 高度な技能を要する業種及び労働者の支援

上記は、下院議決できたが、上院多数を占める共和党の反対で法案は葬られたので、大統領令署名での運用緩和だったらしいのですが、賛否両論があったとしてもこのように事実上の合法化で不法移民(といっても違法レベルによる分類がありますが)平穏・普通の生活をしている限り多くの「不法」移民が陽の目を見るようになった変化が起きたのは事実だったでしょう。
移民反対のそれぞれの立場があるでしょうが、親に連れられて不法入国?オーバーステになった子供が一生涯日陰者で暮らす気の毒な境涯(日本の旧幕時代の穢多非人のような扱い?)から脱却できて普通に暮らせることほど人道的に心温まる政策ではないでしょうか。
文字どおりドリーマーだったのです。
とはいえこれまでビクビクしていた青少年や移民が自信ある様子になるのに不快感を持つ人が一定率いるのでしょうか?
彼らの主張は親に連れてこられただけで罪がないか否ではなく、異民族が近くにいるのが不愉快だから出て行って欲しい基本姿勢があるが合法移民には文句言わない、少なくともきちんと手続きしないで入った人に限定してちゃんと法を執行して追い出してくれというようですから、それなりに筋が通っていますので人道論一本槍の民主党と議論がかみ合っていないのです。
しかし経済面からいえば、便利に使いながら国から出て行ってくれという主張自体自己矛盾である点が日本では一般化されず、大手メデイアは人道的に・・というオバマ大統領の主張する土俵の議論ばかり紹介する傾向があります。
シンガポールでは、人件費の安いマレー人を雇用して利益を上げ、マレー人は夜マレーに帰る通勤外国人に頼っています。
東京都は周辺の比較的人件費の低い人材雇用で儲けています。
例外はありますが、都心から周辺へ距離が伸びるのに比例して、地価やマンション相場が低下しているしホテル等の料金もほぼ同傾向です。
日本で多くの市町村では、住民税や市町村固有税収だけでは足りず不足分は国から地方交付金で賄ってる状態です。
地方税収取得割合を高めた場合、貧乏県と富裕都府県との格差が広がりすぎるので、大方の地方自治体の税収を例えば平均2割不足する程に設定して2割分を国税収入にする代わりに、その2割を地方交付税として人口比?平均より税収の少ない自治体に手厚く交付し、黒字団体には交付しない(不交付団体)のでその分他の自治体に回る資金が増えるのかな?
上記例の場合2割の赤字は本来の制度設計ですから、2割を超える赤字団体と2割以下の赤字に努力成功した赤字団体・東京都のように本社機能のある大都会ではもともと超黒字団体もありますので、努力差に応じて成績に報いるシステムになっているのでしょう。
このようにして東京、大阪、名古屋、福岡等の大都市を抱える地域ばかりが税収を独占しないように、日本の場合地域格差是正に努力してきました。
固有の地方税収額と国税から配布される地方交付金の占める比率を明日見ておきます。

NAFTA→雇用喪失と移民増のダブルパンチ1

カナダとの往来は事実上一体化が進んでも気にならないでしょうが、メキシコへ我が物顔で進出するようになると、自国への入国だけ厳しくしたままでは無理が出てきます。
自分は自由に出入りするが、お前らの出入りは勝手にするなという強者の論理は時間経過で無理が出ます。
強いものは・・お殿様は屋敷内のどの部屋に入ろうと誰の許可も(法律上?)いりませんが、その代わり部下、目下の私的空間に入るのは遠慮するのが暗黙のルールです。
個人で言えば、親は子供部屋に無闇に踏み込まないのが親子間の暗黙のルールですが、子供の方は、成人しても親の家に自由に出入りするのが普通です。
将軍家は配下大名家の屋敷に自由に出入りできないが、配下大名は将軍家城内の隅々まで体で知ることが可能でありそれが普通です。
奥方と腰元の関係も同様であり、社長周囲の秘書や側近は社長一家のプライバシーに接する機会が多いのですが、社長の方は秘書や側近重役の私的関係に立ち入らないのも同様です。
形式ルールと実質ルールは違う・・実は逆になっているのが普通です。
子供頃に覚えた言葉ですが、
「稔るほど頭を下げる稲穂かな」
本当に偉い人は威張らないのが日本社会です。
この数十年で重視されるようになったプライバシー関係も同様で、高位者・・権力に基づくプライバシー侵害は厳しく規制されているのに対して私人間の場合には原則として当事者間での自律に委ねているのはこの違いです。
・・例えば親は子供が心配で学校の様子など知りたいことが多いのですが、一定年学年以上になってくると詮索し過ぎると嫌われる・親が子供部屋をしょっちゅうかき回していると親子関係がうまくいかないなどそんなことは家庭の自律に委ねて間に合うのです。
西洋近代法の考えで・・・日本の憲法では、令状がないと家宅捜索できないなど決めていますが、そんな憲法以前に昔から日本社会では、殿様が家来の家をむやみに訪問できない・結婚した子供らが親の家に入るのは自由ですが、親が子供の家庭をむやみに訪問するものではありません。
こんなことはフランス革命で初めて手に入れた西洋とは違い、日本社会では常識だったでしょうから、憲法制度導入の当初から当然のように条文になっています。
こんな当たり前のことまで憲法に書いておかないと分からないのかと驚いた人もいたでしょう。

大日本帝国憲法(1889年(明治22年)2月11日に公布、1890年(明治23年)11月29日に施行)
第25条日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外其ノ許諾ナクシテ住所ニ侵入セラレ及捜索セラルヽコトナシ
第26条日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外信書ノ秘密ヲ侵サルヽコトナシ

日本国憲法(1946年11月3日公布1947年5月3日施行)

第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

アメリカは形式的な法の理解で実質関係は逆になる点に気付かないのかな?
このコラム最初から折に触れて書いているように、社会のあり方に関する発展度合い・文化レベルが日本に比べて欧米は何周回遅れの社会というのが私の直感的意見です。
米国は戦後一強になると・・グローバル化〜自由化すれば金と武力のある強いものの行動の自由が広がるという形式面しか理解できず、グローバル化・自由化を戦後ずっと推し進めてきたことになります。
饅頭を押し込めばあんこがはみ出る関係で、水が低きに流れるのを防ぐのはダムで塞きとめるようなものでどんな大きなダムでも、いつか満杯になると、本来の流量と同量の水を水門から継続放流するしかない・・ダムは一時の気休めに過ぎません。
古代から都会人が紀行文など残すし、旅行ガイドも都会人向けのものが多いので、都会から田舎に行く人の方が多いように見えますが、実際には田舎から都会に出る人の方が多いのです。
田舎では人口が少ないので都会から観光客がいっぱい来ているように見えますが、自然の豊かな場所は日本全国〜世界にいくらもあるので都会人はいくらでも行き先がある(分散する)のに対し、有名演劇〜相撲などのイベント〜スポーツ大会は、東京や大阪のような大都会にしか来ない・・即位の式典などその他東京にしかないものが多く、全国の人が東京などに集中します。
例えば千葉房総半島の人で東京へ行ったことがない人は滅多にいないとしても、東京の人が房総に来たことのある人は数%あるかないかでしょう。
みなさん故郷の人に置き換えてもわかる筈です。
このように数の上では経済力に劣る方からの華やかな方へ流入する方が多いのが原則です。
都心と郊外の人の日々の移動関係も同様で千葉から毎日東京に行く数と東京から千葉に向かう数は往復では同じですが、居住地発で見れば大幅な差があります。
このように経済活動の自由化に比例して低賃金地域から高賃金地域へ人の移動が多くなるのは、水が高い方から低い方に流れるような関係で、これを変える方法はありません。
私は今日日弁連委員会出席のために東京に行きますが、逆がないのです。
経済交流が増えるとこれに比例して人の移動が激しくなり法規制を変えなくとも結果的に人移動の障壁が低くなるのが普通です。
米国とメキシコの場合、法規制緩和しなくとも、大統領令という便法で不法移民の子供に対する永住権付与や国外退去処分のランク分けなど画期的枠組みなど運用緩和が進んでいました。

NAFTA→メキシコ生産シフト1

日本の高度成長期には収益性が落ちた米国企業が低賃金の海外に逃げて、その穴埋めに日系工場が米国に入っている構図でした。
ところが、NAFTA成立後自動車メーカー(に限らずいろんな製造業)米国内企業が積極的にメキシコ立地を選びほぼ米国との経済一体化が進みました。
米国企業のようにゲンキンな動きをするのはリスクがあるので様子見をしていた日本もメキシコからの米国輸出でも良いのかなと安心して?リーマンショック後日本までも工場進出先をメキシコに切り替えるようになりました。
その結果ビッグスリー等の米国内製造工場国外進出による国内製造業縮小の穴埋め的現地生産が急激に減るようになりました。
例えば、代表的製造業の車の例を以下の表で見るとメキシコでの日系車(トララックバスを含む)の生産台数を見ると16年から18年ではほぼ倍増していますが、(表は大きいので引用省略・関心のある方は下記に入ってご覧ください)米国生産数はほぼ現状維持です。
http://www.jama.or.jp/world/foreign_prdct/index.html

海外生産 進展する世界各国での現地生産
表1:日本メーカーの四輪車海外生産台数の推移

北米自由貿易協定によってメキシコ産品がほぼ内国待遇で米国に流入するようになると人件費の高い米国内製造がたち行かなくなったように見えます。
日系企業も米国進出や米国内新工場増設よりメキシコ進出へ舵を切り替える動きが知られていました。
例えばホンダの場合以下の通りです。
https://jp.reuters.com/article/honda-production-shift-idJPKCN1N01AD

ホンダは米国向けフィットをメキシコだけでなく埼玉製作所寄居工場(埼玉県寄居町)でも生産していたが、17年2月に同工場での生産を中止。それ以降は全量をメキシコでの生産に切り替えている。

ただし、念のためウイキペデイア確認するとNAFTAについては米国で評価が真っ二つに分かれているらしく、私の持っていた上記印象は共和党支持者に多い見解で民主党支持層では70%くらいで逆の意見が支持されているようです。
ところでNAFTAは1992年署名、1994年発効ですが、日系メーカーの工場メキシコ進出が目立つようになったのは、まだ4〜5年前・・早くてもリーマンショック以降の記憶ですので、メキシコ進出増の原因は他にあるのかもしれません。
https://www.mx.emb-japan.go.jp/keizai/kigyo6.pdf

相次ぐ日系企業の進出 ✔ 2011年以降、日系自動車メーカー4社がメキシコへの生産投資を発表。
✔ 関連日系企業も相次いでメキシコへ投資し、日系企業のメキシコへの投資案件数※は 190件以上に及ぶ投資ラッシュ。(自動車及び部品124件、鉄鋼16件、物流12件、機械15件他)
マツダ ホンダ トヨタ 日産 2011年6月 2011年8月 14万台+4万台 20万台 17.5万台 5万台 製造初進出 本格進出 (組立工場から一貫生産工場へ) 能力増強(第3工場) 生産委託 (組立工場から一貫生産工場へ) 2012年1月 2012年11月 2011 2012 (マツダ2、マツダ3) (小型車、エンジン) (小型車) 発表時期 (小型車) ※ 2011年~2015年に公表/報道された投資案件。
出典: 各社公表資料 ✔ 約6割がメキシコへの製造拠点初進出。アジアに加えてメキシコに拠点を置く事例多数。

上記によれば私のおぼろげな記憶通りでした。
日系企業進出と関係なくメキシコの車生産台数の年次推移を見ると以下の通りです。
https://www.google.com/search?q=%E3%83%A1%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%82%B3%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A%E7%94%9F%E7%94%A3%E6%95%B0%E3%81%AE%E5%B9%B4%E6%AC%A1%E6%8E%A8%E7%A7%BB&sxsrf=ACYBGNSHxFHffk1tO-Q94s-caHuNK36rEA:1573295974101&tbm=isch&source=iu&ictx=1&fir=-FVQckFgxact4M%253A%252CtsCMa6SVlqsJlM%252C_&vet=1&usg=AI4_-kTsEpPcvmQHQYIs5WyMSPP4igzoPQ&sa=X&ved=2ahUKEwiPsKad-NzlAhUGE4gKHUxKCl0Q9QEwAHoECAgQBg#imgrc=-FVQckFgxact4M:

「メキシコ自動車生産数の年次推移」の画像検索結果"

上記を見ると日系企業進出前から米国企業の国内からメキシコへのシフトでメキシコは順調に生産台数を伸ばしてきた結果、車産業を基幹産業としていわゆる新興工業国の仲間入り(G20)をしてきた様子が見えます。

日系企業米国生産と格差緩和1

日本の場合赤字になるまで維持するどころか、赤字でも後何年頑張れるか・・「がんばれるだけ頑張ります」というのが決まり文句ですが・・地域経済への悪影響への心配がこういう精神論表明になるのでしょうか?
11月6日日経新聞朝刊1面トップに富士フィルムが合弁相手の米国ゼロックスから富士ゼロックスの持ち株(25%)全部を2500億円で買取り資本関係解消したと出ていましたが、米国ゼロックス本部はIT化進行により衰退事業分野となっている事務機部門を売り抜けて、富士フィルムから得た2500億円を新規有望部門の投資に回せる思惑が解説されていました。
11月7日夕刊には、米国のゼロックスはこの資金を含めて3兆円規模でコンピュータ企業のHPの買収提案をしたと報じられています。
富士フィルムの立場は合弁契約で富士ゼロックスには販路制約があったのですが、販路制限契約の縛りがなくなるので販路を世界に広げて行くための買い物と位置付けているようです。
この思惑の違いこそが、米国企業の真骨頂であり、落穂拾い的に衰退分野を修復しながらコツコツと維持して行く(法隆寺や、日本画、民俗行事など修復し続けて未来に繋ぐのが日本民族の基本姿勢です)日本企業との違いの象徴的取引というべきでしょう。
収益重視経営を一直線に突き進めると低賃金新興国の追い上げによる国内大量生産部門急速縮小→大量人員整理が急激に起きます。
不採算事業切り離しを一直線に進めると、収益的・株式相場的には高収益企業が増えて万々歳ですが、新興産業の金融やハイテク〜IT産業は雇用吸収力が弱いので製造業から押し出された大量労働者の行き先がない・大量失業→急激なサービス雇用への転換が必要になります。
この辺、明治維新によって武士が失業しても受け皿になる製造業界が多く立ち上がって労働者(士族の転職先でる管理部門事務系需要も急増)を吸収したのとの違いです。
戦後直ぐに日本の挑戦で繊維や家電等の軽工業縮小・米国での雇用喪失の場合には、女性労働者が多かったのでサービス業への転換(今では介護士など)が容易でしたが、重工業や自動車等機械製造系は男性労働者中心ですのでサービス業への転職は1世代程度の時間差がないと気質的に困難です。
我が国でも草食系男子という流行語が20年ほど前に流行った・今やそんな言葉すらないほど男性多数がソフトになってきて男性看護師・介護士等も普通になってきましたが、その間30年ほどの経過があって適応できるのです。
ソフト社会になるのは良いことと思いますが、サービス雇用化は製造業雇用に比べて不規則労働が多いことから非正規化→中間層が痩せて行く一方となります。
事務系でも資本自由化による資本金融取引拡大・IT・知財発展による中間管理職・ホワイトカラー層不要化進展による中間層縮小が加速する一方です。
国際金融取引のプロとして巨額を動かせるエリートはホンの一握りであって、中間管理職不要化の動きはとどまるところがありません。
大学院まで進み研究者の道はというとこれまた多くが同じ思いですから、オーバードクター状態になり、大多数が非正規の臨時講師の仕事しかない状態です。
製造業中心社会からサービス社会化の進行は、一方でグローバル化の波に乗って巨万の富を得る人がごく少数出る一方で中間層から脱落する低賃金層の拡大する社会でもあります。
米国の歴史的行動価値観・・収益率低下見込み〜不採算事業を早めに切り離し売り抜けて収益率の良さそうな企業買収するのが原則的価値観の社会です。
米国独立後北部工業地帯が成長を始めると奴隷による低賃金労働に頼る南部綿花事業切り捨て→南北戦争の主原因でした・・これをドライに割り切って行うのを視覚的に表現したのが、スクラップアンドビルドという表現だったのでしょう。
これの経営への応用が収益重視・・・ROE重視経営です。
戦後復興した日独等の米国追い上げが始まる追い上げられる分野ごとに収益率が下がって行くのがはっきりしているので、米国内生産を早期に切り上げて欧州等需要地での現地生産に切り替えて行ったのは上記経験による選択でした。
資源等ある国や地域にしかない物品は貿易による交換が合理的ですが、工業製品は本来どこでも作れるものですから労働者の能力差とコストしだいで生産適地が決まるものです。
圧倒的コスト差があれば輸送費や関税、人件費の差を負担しても長距離輸出が合理的ですが、技術などの競争力が拮抗してくるとちょっとした輸送費や関税手続きコスト負担も重荷です。
現地相場のコスト・・欧州の場合戦争で疲弊して生産設備が壊滅したのでその隙をついて米国が大量輸出できただだけのことで、労働者の能力としては米国と同様(以上?)でしたので現地生産に切り替える方が合理的でした。
戦争で破壊された欧州製造設備の復興が進むと米国から輸出するよりは、人件費の安い欧州に進出して生産すれば土地代、輸送費、時間、関税等すべて競争条件が同じになるので欧州などでの競争力を保てる→国内製造縮小して行くのが経営学的には正しい選択となります。
米欧の関係はもともと人種的に同根で基本的能力差がないに等しいのですから、相互に現地生産=競争条件が同一化すればどうなるか?
長距離輸送や関税負担するコスト差以上の競争力がないだけでなく、米企業の欧州拠点の場合、米国本社の遠隔指示と現地判断の差が出るので現地生産もうまくいかなるし、米欧相互に輸出コスト負担してまで輸出努力するメリットもなくなります。
これが欧州進出したGMや、フォード、クライスラーなど早くから欧州進出していた企業が軒並みうまくいかなくなっている理由でしょう。
イタリア、ドイツ等の特殊手作り的高級車や食品や衣装系・・仏伊のファッション系その他伝統に根ざしたもの各種製品に限って、米国へ食い込み成功しているのは、文化力格差によるものです。
同じ欧米系人種同士でもいわゆるアメリカの文化レベルはいわゆるヤンキーと表現される・・文化力の総合的表現である女性の理想像で言えば、最盛期のアメリカが初めて獲得した自前の民族理想像がマリリンモンローでした・彼女が米国文化の代表になったことが米国の文化レベルの国際意思表示・自白?と評価すべきでしょう。

GM破産2(遅れた不採算事業切り離し)

会社側の再建案は新会社設立案を基本にしたものでしたが労組優遇で、一般投資家(米国は個人投資家が多い・子供の入学資金用の株式投資など)に対して大きな負担を求めるものでしたので債権者の同意が得られず破産に突入しました。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/1176

切り捨てられた「普通の人々」
GM倒産劇の裏側 2009.6.9(火) 小浜 希

GMが発行した無担保社債など約270億ドル分の債券保有者には、新生GMの10%の株式と引き換えに100%の債権放棄を要求。その一方で、GMに約200億ドルの医療費関係債権を抱える労働組合の債権放棄比率は50%とし、新生GMの株式39%を与える内容だった。
米国では労働者個々人も銀行預金より小口投資する投資社会なので、投資家と言っても一般の労働者が多い社会ですから、GM労組優遇の提案で合意できるはずもない・・世論も応援しないので合意不成立で破産に突入します。
日本や韓国では、労組=弱者→優遇という図式化した運動・市民代表を僭称する運動が多いのですが・・アメリカの場合、労働者切り捨て投資家保護反対!という図式的スローガンが成り立たなかったようです。
ウイキペデイアのGM破産解説に戻ります。

2009年6月1日、GMは連邦倒産法第11章(日本の民事再生手続きに相当する制度)の適用を申請した。負債総額は1,728億ドル(約16兆4100億円)。この額は製造業としては史上最大である[9]。同時にアメリカ政府が60%、カナダ政府が12%の株式を保有する、事実上の国有企業として再建を目指す事になった。
・・・しかし、子どもの教育資金や、老後の生活の備えとして、なけ無しの金を注ぎ込んだ個人投資家が、労組偏重の再建計画を甘受できるはずもなかった。

従業員の新時代適応拒否症?が、部分的とは言え企業活性化を妨げる効果を上げ、現在米国の国際的地位低下が目立ってきた基礎構造でしょう。
アメリカの活力は、スクラップアンドビルド・あるいは用済みの都市を捨て去り(ゴーストタウン化して)別の街を作る・効率性重視社会と言われていましたが、一定の歴史を経ると古い産業構造を残しながら前に進めるしかなくなった分、非効率社会になったのでしょう。
破産により不採算部門を切り離し、新会社移行(国有化後国保有株の市場売却で民営に戻っています)により新生を目指すGMですが、破産後10年経過で先祖帰りしたらしく今年に入って以下通りのストらしいです。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49865800X10C19A9000000/

GM工場のスト続く、労使合意なお時間 株価は急落
2019/9/17 5:20
ただ、米国内に業界平均より3割多い77日分の完成車在庫があるため「すぐに販売面に影響が出る可能性は低い」という。

業績不振のおかげで在庫が77日分も溜まっているので企業はストが続いても余裕らしいですが、こう言うのってめでたいのかな?
アメリカの製造業は低賃金国への脱出盛んですが、今でも製造業大国らしいです。
製造業草創期から蓄積した技術があって世界に進出した各種工場のマザー工場機能を果たせる仕事があるからのようです。
ただしマザー工場的役割は従来の内需を満たし輸出までしていた工場群の数%(雇用も同率)で足りるものですから、国外脱出の穴埋めには力不足でしょう。
別の側面から見ると、日本の自動車産業が輸出の限界を悟り現地生産を増やして成功していることを見ると、この限度で日系企業が米国内製造業生き残りに貢献していることが分かります。
米国の外資による国内生産受け入れ政策は、後進国が輸入規制によって、自国産業育成のために高関税などの権利を留保できている役割の逆張りです。
米国の日系企業の米国内誘致政策は、先進国製造業が新興国の追い上げを受けて雇用が急速縮小する激痛緩和の役割を果たして来たようです。
後進国のこれから育つ産業育成を待つのは、少年期に成長期待して見守ってやるのに似ていて成長確率が高いですが、新興国に追い上げられる先進国社会保護のために時間猶予を与えるのは高齢者を大事にするようなものでいわゆる延命策です。
ここでいきなり話題がそれますが、いわゆるM&Aに関する関心を書いていきます。
日本企業の株価収益率の低さが長年問題視されて来ましたが、その裏側の米国企業の目線で考えると企業のあり方に関する基礎的考え方の違いがわかります。
時代遅れになる分野→ローエンド〜セコンドエンド生産にこだわり、同業他社との競り合いを続けてさらに20〜30年生き残れるとしても、これをやっているとその間収益率が徐々に低下していきます。
米国的価値観では、自国産業は利益率の高い高度化転身を目指して不採算見込み事業をどんどん切り離し(M&Aでこれを処分し)て行くべきというもののようです。
比喩的事例で言えば、現在15%の高収益事業が5年サイクルで13%〜11〜8〜7〜3%〜0〜マイナスと変化していくパターンの場合、その事業を今売れば1千億円で売れるが11%に下がってからだと5百億円で、3%に下がってからだと30億円でしか売れない見込みの時に、どの時点で処分するのが合理的かの判断が重視される社会です。
処分金で再投資すべき事業の存在との兼ね合いで合理性が決まるのですが、処分金を年利数%で預金する予定の場合と現在5%の収益率があり、3年後に8%、5年後に1%8年後には15%に成長可能な企業があった場合どの段階で自社事業を切り離して売却するかの複合判断です。
ちなみに雇用を守るために簡単にリストラクチャリングできないとも言われますが、倒産と違って企業を買う方は事業に慣れた従業員が継続してくれることこそ購入価値ですので、原則全従業員が引き続き雇用継続される前提・雇用確保の社会的責任への考慮はこの場合不要です。
マイナスになるまでリストラを先送りし、大混乱の倒産を引き起こす方が無責任経営の評価を受けるのではないでしょうか?

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