遺言の自由度が高まるとこれを悪用する人が出てきますので、従来(現行法)のように形式だけの規制では無理が出てきます。
そもそも今の遺言形式の法定主義は、現在のように学歴の上昇した時代にはあまり意味のない規定の羅列です。
形式さえ整っていたら有効と言うのでは、(遺言者に意思能力があることが前提ですが、以下に書いて行くようにこれでは十分ではないので)これを悪用する人が増えるリスクがあります。
死亡前一定期間以内の遺言や老人ホーム及び介護関係者など寄付したり遺贈したりするのを禁止・無効にしたりすることも必要でしょう。
そうでないとこれからは殆どの人にとっては人生の最後が老人ホームあるいは被介護者ですから、密室で好きなような遺言書を作成させられてしまう可能性があります。
法定相続人がいる場合、老人ホームが全部貰うような遺言があると驚いて社会問題に発展する・・悪い噂になるので老人ホーム側も現在は自制していますが、法定相続人制度がない場合、あるいは法定相続制度が残っていても身寄りのない高齢者が増えてくると痴呆状態で書いた遺言は無効ではないかと争う人や、あそこのホームはひどいとマスコミで騒ぐ人がいないので、どんな遺言でも誰も知らないうちに処理されてしまいます。
前回まで書いたように遺言書は形式さえ整っていれば先ずは有効なものとして取扱う仕組みです。
後で書くような遺言書作成を強要しなくとも、職員が適当に偽造文書を作ってそれを法務局に出せば、先ずは登記をして貰えます。
名義変更登記して不動産を売りに出して換金しても子供でもいない限り誰も争わないので、そのままになってしまいます。
子供がいれば、故郷の親の家が売りに出されていれば誰かの通報で気がつくこともありますが、相続人がいない場合仮に近所の人がおかしいと思ってもどこへ通報して良いか不明ですし、事情を知っている友人がいて、弁護士相談にきても、弁護士はその人から受任して証拠集めなどすることが出来ません。
近所の人とか友人と言うだけではその遺言に何の利害関係もなく、何の法的手続きも出来ないからです。
当事者資格(適格)として、11/03/02「裁判を申し立てる資格3」以下で紹介したことがありますが、裁判するにはその結果に法律上の利害がないと裁判する・・訴える資格がないのです。
ですから、近所の人や友人は銀行などに行って亡くなった人の預金の流れの調べる権利もありませんし、払い戻しに使った書類や遺言書を見せてくれとも言えません。
犯罪抑止には道徳心だけではなく直ぐにバレルリスクがあることが一番の抑止力ですが、身寄りのない人の場合老人ホームや介護者は何をしても後でバレることがないとなれば偽造でも何でも何の抑止力もない・・フリーパスと言うことです。
法務局は届け出があれば偽造かどうか調べないのか?と疑問を持つ人がいるでしょうが、調べろと言っても何の資料もない(本人の筆跡など事前登録していませんし)ので調べようがないのが現実です。
法務局ではこのため生前の移転登記には印鑑証明書添付を要求しているのですが、遺言の場合、死亡者には印鑑証明を添付する余地がないので、三文判でも良いことになっています。
自筆証書遺言は自筆であることだけが要件で印は三文判か否かを問わないし、これを仮に改正して実印を要求したとしてもあまり意味がありません。
身動き出来なくなって老人ホームに長期滞在している人や自宅で身動き出来ず介護を受けている人は、実印や預金通帳等も(身寄りのない人は預ける人もいないので、)みんな老人ホームが預かることになっていますのでホームの職員が自由に取りに行けます。
自宅介護の場合も同じで、自分で銀行に行けないので預貯金の出し入れは介護に来ている人に頼んでいるのが実情です。
本人が元気なうちは預金通帳のチェックも出来ますがそんな元気がなくなったらどうなるかの話です。
あるいはチェック能力があっても下の世話を受け食べさせてもらっていると気が弱くなってしまい、不正を見つけても口に出して詰問することが出来なくなります。
それでもひどくなれば身内が来た時にそれとなく言うことがありますが、身内がいないと誰にも言えません。
自宅介護の場合、実印や権利証を貸金庫に預けていても、何か必要があるときには、介護に着ている人に代わって貸金庫から取って来てもらうしかありません。
そのついでに中にある金の延べ棒や宝石など持ち出されても自分でチェックしに行けないのです。
勿論印鑑証明はカード利用で発行されますので、介護の人が自由に取って来られます。
今でも子供ではない遠い親戚しかいない場合、本人の意向?によって年金などはいると職員がおろしに行ってホームへの経費支払いに充てているのが普通ですが、これが悪用されるようになった場合の心配を書いています。
今は年金と収支がトントンの場合、身内がいても毎回預金をおろして支払う手間が大変なのでホームに委ねている関係ですから、ホーム側でも死亡後預金の流れが怪しいと問題になるので不正がしにくいのですが、年金以上のまとまった預金等があったり身寄りが全くない場合の話です。
今(5年ほど前に改正された登記法)では、本人確認を司法書士が義務づけられていますが、そこで言う本人とは登記申請している受遺者(遺言で財産を貰うことになった人)が本人かどうかだけであって、遺言が真正なものか否かに関しては何のチェックもなくスルリと登記してしまえるシステムになっています。
銀行の場合、一応預金作成時の本人筆跡と照合が可能ですが、何十年前に預金を始めた時の筆跡との死ぬ間際のグニャグニャの筆跡との照合では分りにくいのが現実です。
老人ホームに入った時にその近くの銀行で新たに預金を始めたときに、もう字が書けないからと職員が代筆することがあります。
さらに書けば、身寄りがいなくて自分で預貯金を管理出来なくなれば職員が好きなようにカードで払い戻していても誰もチェックが出来ないのが現状ですから、遺言を無理に偽造する必要がありません。
文書偽造や無理な遺言書作成強要が起きるのは、不動産を持っている高齢者だけかもしれません。
一定の資産がある高齢者が身を守るには、予め弁護士などに管理を委託しておいて、ホームにどのような資産があるのか知られないようにすることでしょう。
そうでもしないと高額の入居金を払って入居したらその後にみんな使い込まれてしまい、(それでも死ぬまでいられればどうせあの世にお金を持って行けないのでホームに食い物にされても結果はどうでもいいことでしょうが・・)あげくにホームが倒産でもしたら悲劇です。
こう考えて行くと老人ホーム入居時には、年金とホームの毎月の支払が収支トントン程度の資産しかないように、元気なうちにうまく使い切ってから入居するのが合理的です。
結局、「人は必要以上のお金(・・一生かかっても使い切れない資産)を稼いでも仕方がないし、これに執着して仕方ない」と達観するのが良いようです。
財産のある人は泥棒に取られないかと無駄な心配するのと同じで、自分で使える限度を超えた資産を保有するのは不幸の元です。