紙幣大量発行(成熟国)

金融資産膨張原因の第二は、発行紙幣量だけではなく、株式相場を例にすると、お互いにつり上げを繰り返せば、会社の実物価値の何倍でもつり上がって行くことから、実物価値以上に金融資本が膨らんでいます。
たとえば、時価総額100億円の株式の場合、その株式全部が毎日取引されている訳ではなく、たとえば仮に僅か1%=1億円の株式しか売買取引されていない場合を考えてみましょう。
この取引価格が5倍に跳ね上がって5億円で買う人がいた場合、(5億円の紙幣を払う人と受け取る人がいて)市場に出回る紙幣額は同じですが、取引に参加しなかった株式全体の相場を5倍に引き上げるので、僅かに4億円の投入で金融資産は400億円増える勘定です。
こうした仕組みから発行済紙幣量に関係なく取引が活況を呈すると株式時価総額が膨張する傾向があり、ひいては金融資産が実物価値を大幅に越えて来る傾向があります。
貸金の場合も、高利の場合、当初の借金1000万円が瞬く間に何倍もの名目上の借金になって行くのもよく知られている通りです。
このように紙幣発行量の膨張だけが原因ではなく、金融資産の性質からも膨らみ続けて来た金融資産は、いつかは経済実力・実態に合わせた調整をするしかありません。
紙幣発行量を倍増しても国内の富みが2倍になる訳ではなく、従来の経済理論では単に物価が2倍のインフレになるので、(その分対外的評価は為替相場の下落によって調整されるし)結果的に総紙幣の価値と国内総資産評価量は一致していました。
ところが、日本のような金融資産が1400兆円もある成熟社会での不景気は、紙幣不足で物が買えないのではありません。
大量に輸入品が入って来たことによる供給過剰の不景気ですから、紙幣を大量供給しても購買力にはあまり影響がないので物価が上がることはありません。
供給過剰による需要不足が問題ですから、紙幣を大量印刷したうえで金利を下げても消費がちょっと上向くだけ・・・比喩的に言えば政府が道路補修頻度を引き上げるなど無駄遣いすることによって100の需要不足の内3〜40の需要を補充する・・経済の底割れを防ぐ程度でしかなく、インフレになるどころではありません。
いくら紙幣を大量発行してもゼロ金利にしても、インフレどころかデフレ圧力が続いているのが、我が国のバブル崩壊以降約20年の経済です。
我が国のような成熟国では紙幣需要(財貨の購入意欲)があって発行するのではないので、紙幣を大量発行しても金利を下げても、それがインフレに繋がることはありません。
前回・11月27日に書いたように仮に2倍量の紙幣を発行して物価も2倍になれば発行された紙幣での購買力は結果として同じですが、2倍量の紙幣を発行しても物価が上がるどころかデフレで下がっていると、紙幣の価値が下がらずにその国民は名目上2倍の購買力を持つことになります。
でも国内の富みがかりに同じままとすれば、(高度成長でこの間に国富が2倍になっていれば均衡しますが、日本のように低成長で殆ど増えなかった場合)2倍に増えた購買力をみんなが行使すれば、物が足りなくて結果的に物価が2倍に上がります。
今の日本は、みんなが金融資産にして持っていて、紙幣による購買権を行使していない状態ですが、もしも使えば直ぐに2分の1になってしまう架空の権利と言えます。
上昇した株価も同じでみんなが権利行使・・売却して換金を図れば、直ぐに大暴落してしまう権利でしかありません。
このように、(サブプライムローンも同じことだったでしょうが)金融資産は実態経済から見ればその中間経路を複雑にして膨張し過ぎている部分が多いので、時々これの是正をして行かないとその乖離が大きくなり過ぎる・・一種のバブル崩壊まで待つのは却って危険です。
今回のギリシャ危機も独仏等の黒字国が、南欧諸国への貸付金を支払能力を超えて名目上膨らましていた咎めが出たに過ぎません。
我が国で過剰に発行された紙幣はタンス預金になって退蔵されたり、直ぐに銀行等に還流してしまい、銀行も民間資金需要がないので国債等へ還流していました。
余ってしまった紙幣の行き先は、(国債で得た資金を政府が税で財政投入資金として不足需要の穴埋めとして無理矢理に利用する以外は、)円キャリー取引としての外国人投資家への貸し付けが中心でした。

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