会社の運営3(総会の機能・事後評価1)

一定以上保有株主は帳簿閲覧だけではなく、会社側に臨時総会の開催を要求出来、会社が一定期間内に応じない場合、裁判所の許可を得て臨時株主総会を開催出来ます。
しかし、臨時総会開催を要求して総会で要求出来ることは前向きな経営提案ではなく過去の不正等の追及以外にありません。
政治の場合、次年度予算審議→議決によって次年度の政府行為を縛れますが、企業には予算制度がありませんので,定時株主総会には次年度の企業活動を規制したり方向付ける機能・役割がありません。
せいぜい執行部が総会で次年度あるいは中期計画を報告するくらいであって、その計画自体を決議事項・議題に上げていないのが普通です。
総会で議決出来るのは前年度決算発表とその説明を受けるだけで、決議するのは・・人事と配当決定が中心にならざるを得ませんので、「指導者を選任するだけでその後は一切お任せ」という大統領制の亜流となっています。
大統領制の場合、毎年の予算を議会を通す必要がありますが、企業にはこれがないのでもっと一任性が高度です。
しかも、定時総会ではなく少数株主が臨時総会までを要求するには、具体的不正行為等余程の追及材料がないとせっかく要求して臨時株主総会を開催しても、数〜5%の保有比率ではあっさり否決されるだけで相手にされません。
こうした要求は具体的な不正の証拠をつかんでからのことになりますし、手続きが大掛かり過ぎます・・工場新設や海外進出の是非等の今後の行動計画に対する妥当性に関する意見となると、なおさら何らの意見を述べるチャンスもありません。
一定数以上の株主しか行使出来ないのですが、今の世界的大手企業では数〜5%も保有していれば最大株主〜2〜3位に食い込めるような状態ですから、今ではこの条文・・救済システムは(個人的企業を除けば)空文化しています。
上場企業では会社法で保護されている筈の少数株主権を行使出来るのは大株主(年金等の機関投資家)でさえやっと言うパラドックスになっているので、もっと少ない一般少数株主権の保護の問題を再構築する必要があるでしょう。
会社法
(会計帳簿の閲覧等の請求)
第433条 総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
(株主による招集の請求)
第二百九十七条  総株主の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。
2  公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
3  第一項の株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に算入しない。
4  次に掲げる場合には、第一項の規定による請求をした株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができる。
一  第一項の規定による請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合
二  第一項の規定による請求があった日から八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合

会社の運営2(株主の権利)

オーナー企業の場合、行政のように民意を反映すべきステークホルダー(省庁間対立)が内部には存在しませんが、債権者と顧客(市場)双方からの監視があります。
銀行や社債権者保護のためには、1つには会計帳簿の厳格な運用・・会計基準の絶えざる見直しと非上場企業には担保付き社債しか発行を認めないなどの制約があります。
商品に対しては保健衛生や建築基準、工業規格等による行政による各種規制によって品質確保を図ること等によって、一応の暴走が避けられます。
規制に従うだけでは市場競争に負けてしまう(市場の監視がある)ので、必死の努力が必要です。
規制をかいくぐった品質不良・不正があればいつかはバレるので、そこで市場からの大きなしっぺ返しが来て命取りになりかねないので、経営者は余程のことがないと虚偽データ作成に走りません。
最近大騒ぎになった事例では、姉歯1球建築士の鉄筋偽装問題やオリンパスの不良債権飛ばし・・粉飾決算問題と現代自動車の燃費虚偽発表の発覚でしょうか?
(大分前になりますが国内では、雪印や高級料亭吉兆の食品偽装も社会問題になり、雪印や高級料亭もつぶれました。)
一定規模以上の規模になると上場するのが普通になりますと株主=オーナーではなくなりますので、上場前にオーナー=経営者に背くことのないように発達して来た旧来の法規制・・内部統制・・不正防止策だけでは済まなくなります。
オーナーではない普通の株主を大株主あるいは経営者の横暴から守る必要が生じます。
上場して部外者の株主が増えて来ると会計帳簿整備・監視だけはなく、会社の意思決定システム段階自体に重要利害関係者である株主の意向を反映するシステムが要請されます。
大株主と言えども、総会での議決権行使によって意向を反映出来るだけでは、このシリーズで書いている大統領制と同じで、一旦選任すると株主権行使の機会が次の株主総会まで何もないので、その間どのような無茶をやられても牽制する方法がないことになります。
また政治と違って日々の業務執行状態・・方針決定等になると企業秘密があって、会社のやっていることややろうとしていることが政治に比べてもっと分り難いので、事前監視・・事前計画段階での意見を述べるチャンスが全くありません。
(日々向き合っている取引先や顧客の方が、敏感に会社姿勢の変化を知るチャンスがあります)
商法時代から少数株主の保護制度がありますが、ことは少数株主だからツンボ桟敷に置かれるというのではなく、企画や実施段階で関係するチャンスがない点は(オーナー・創業家は別として)大株主でも同じです。
株主は株主総会で意見を言えますが、それまで(期中)の結果(業績)に対する事後評価・・事後的質問や主張しか出来ません。
一定数以上の株主は帳簿閲覧権や臨時株主総会招集請求権もあって、これを講学上少数株主権の保護制度と言っています。
大株主は、経営を自分でしている(オーナー=経営者)という前提で法律が出来ているから少数株主の保護で足りるという考えでした。
3%以上という要件はもの凄く比率を下げて少数株主保護のつもりで作ったのでしょうが、今になると世界企業の株式を3%も持ってれば2〜3番以内に入る大株主様です。
(私の司法試験受験勉強中から同じ比率です・数人の友人で作ったばかりの会社で仲間割れしたとか、相続で細分化した株式を取得したような場合に限って3%の比率が妥当する比率ではないでしょうか)
帳簿閲覧権は経営陣の不正追及にはなりますが、これらは事後的追及・・後ろ向き権利でしかなく,企業運営をどうするかの決定への前向き参画権ではありません。

衆議に基づく政治7と会社の運営1

藤原氏一族が廟堂の構成員を独占するようになっても、合議によって決めて行く習慣は変わらず、しかも最下位者から発言して行く習慣も変わりません。
司法修習生も所属している裁判体の合議に参加するのですが、私が修習生の頃には、修習生から先に意見を述べて行き、合議体構成員の裁判官も最末端の左陪席から意見を述べ次いで右陪席、最後に裁判長が意見を述べる順序でした。
・・その内順不同のケンケンガクガクの言い合い・・論争になって、(そのときの左陪席判事補の論理は鋭く自説を簡単に曲げなかったので・・)最後は酒でも飲んで気分転換して終わり・・というパターンが刑事裁判の合議では多かった記憶です。
あれから約40年もたちましたので今のことは知りませんが、こう言う習慣は簡単には変わらない筈です。
これは鎌倉北条政権での政策決定〜信長や家康時代の軍議でさえも同じ形態でした。
明治から現在の日本の内閣制度・・閣議は全員一致でなければ決められない仕組みで、総理が命令する機関ではありません。
ところで企業・・会社の意思決定の場合、我が国の取締役会議は形骸化していて社長の独壇場で担当役員が案件説明をするのに対して何人かは質問するけれども、社長がどの方向で行こうとしているかによって会議の方向性が決まる印象が続いていました。
そもそも企業体では、衆議に基づいて運営するという村落共同体的慣習がないところにアメリカ流監視システムが持ち込まれたので、監視機能がうまく機能し切れていないのではないでしょうか?
事業の始まりは、家業を大きくして法人化して行くか、個人が一念発起して始めて成功して次第に大きくして行くのが普通のパターンです。
今は大手企業の事業部門同士で合併して別の会社が生まれたりしますが・・。
創業から考えると一定期間はオーナーの存在が普通で、オーナー=社長ですし、創業して成功しているので絶大な発言力があるのは当然です。
上場企業以外の大多数の会社の場合、オーナー=社長が独断的に会議を仕切っていて部下に対する指示の場であること(・・合議するための役員というよりは執行役員でした)になってしまうのは成り立ちから言って当然です。
創業後株式市場に上場して(他人資本が入ります)一定期間が経過し、且つ、上記のように分社化等を繰り返しているうちに、創業家との関連が薄まって行くのが普通です。
この段階になると創業家以外の株主(投資家)の比重が大きくなって、(投資家)株主の意向が反映されることが期待されるようになります。
社長もいわゆる雇われ社長になり、取締役会議が文字どおり株主の意向を反映して法律どおりに社長に対する監視義務を負担する役割になって来ると、社長による独断専行は許されなくなります。
(取締役経理部長という従来からの形態から、最近は執行役員と言う独立の役職が生まれて来て代表者を監視すべき取締役と分離されるようになったのはこの流れで理解すべきです)

 会社法(平成十七年七月二十六日法律第八十六号)

第429条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

この取締役の責任については、会社法成立前に同旨規定であった商法266条の3の解釈として代表者の暴走等を止められかった監視義務違反というのが通説判例でしたので、新法になっても条文が同じですので今も性質は同じでしょう。
以下はhttp://park2.wakwak.com/~willway-legal/kls-k.bl3-10.htmlで紹介されている判例の引用です。
  昭和44年11月26日最高裁判所大法廷(昭和39(オ)1175)
「法は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しかも株式会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであることを考慮して、第三者保護の立場から、取締役において悪意または重大な過失により右義務に違反し、これによつて第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務懈怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係があるかぎり、会社がこれによつて損害を被つた結果、ひいて第三者に損害を生じた場合であると、直接第三者が損害を被つた場合であるとを問うことなく、当該取締役が直接に第三者に対し損害賠償の責に任ずべきことを規定したのである。」

商法中の会社法部分を抜き出して独立法にしたのが会社法制定ですから、条文が同じである限り法の趣旨は会社法制定前から上記のとおりで、しかも確定判例ですので、この条文の解釈を巡る裁判をしても無駄なので、新会社法になってからの新判例は当然ありません。
ついでに新法制定の仕組みを説明しておきますと、法文の規定が不都合があって、解釈でいろいろな補っている場合、補っている部分を明文化するような場合にはその部分の条文が詳細になりますが、(私にが弁護士になるころには)民法に根抵当の規定がなくて、実務の発展を判例法で運用していたのでこれを明文化しましたし、仮登記担保については独立の仮登記担保法が制定されましたが、いずれも判例法を明文化したものでした。
条文を改正する必要のない確定判例については、そのまま新法に引き継がれるのが普通です。

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