新興国の将来1(後進国の追い上げ)

年初以来先進国の格差拡大・高度化対応とその限界について書いてきましたが、今の新興国も時間の経過で自分が次の新興国に追い上げられることになればどうなるでしょうか?
他人のことはどうでも良いと言えば良いことですが、ついでの関心です。
中国等の新興国はグロ−バル化によって日本等の現地工場進出を受けて漸く19世紀型の近代工業社会化転換の恩恵に遅れて浴しているに過ぎません。
中国が世界第2位の総生産になったと言っても、遅れている分基本的賃金水準が低く、広州などで先進地域工場労働者の賃金が日本の約10分の1まで上がってきましたが、これがまだ上がる傾向があるので、先進国企業が一部逃げ出す方向になっています。
そもそも発表される中国の政府統計(は各地方政府からの成果報告で行っているのですが、各地方政府は中央の号令が未達だと出世出来ないので勢い「こんなに成果が出ている」と過大に報告する傾向があるので実態は何割減です)が怪しいので(控えめに見て)2〜3割程度割引いて考えるべきでしょう。
そうするとまだまだ実際には単年度の収入であるGDPでさえも日本に追いついていないことになります・・・。
大躍進政策のときも大成功していると発表していましたが、今になると大失敗で3〜5000万人前後の大量餓死者が出ていたのが実際の歴史ですので・・正確なことは数十年後でなければ分らないでしょう。
・・例えば車の販売台数が前年比何割減・マンションの下落幅が何割と報道され、電力使用量・鉄鋼その他各種指標が何割も減っているのに昨年8%前後のプラス成長と発表されています・・。
最近ではこうした基礎データは外国企業が進出している結果、誤摩化し難いので(マンション相場など誤摩化せないでしょう)トータルの統計数字の虚偽性が却って浮き彫りになり、まるっきりの虚偽発表がし難くなっている筈ですが、それでもまだ高成長を発表し続けているのが中国です。
3月3日ころの全人代は今年度成長目標を漸く8%に下げましたが、元々マイナス成長している可能性の方が高いのです。
話を戻しますと最近ではアメリカ南部の賃金下落との関連で、3月3日に紹介したようにアメリカは中国での生産を引き揚げて国内回帰・製造業復活の兆しさえあると言われています。
アメリカはさておき中国は、人件費が低いだけでは次の新興国・インド・ベトナム、インドネシア等に追い上げられつつあります。
韓国や台湾、タイ、中国等既存新興国は急速に(先進国の技術導入で)成長して来たので、日本のように自前で工夫して繊維〜電気〜車と順番に次の産業に移ったのではありません。
新興国では同時的に近代産業技術を(主に日本から)導入して来たので北国の春が一斉に来るように成長率は高率になったでしょうが、その代わり高度産業に転換するほどの技術蓄積の期間が長くなかったので、関連裾野産業が育たないままです。
(新幹線技術も導入すると同時くらい・・国内開業と同時にさっそく輸出産業・自前技術として宣伝していて大事故になったことは記憶に新しいところです)
結果的に技術蓄積が非常に乏しいので、速やかにベトナム・インド等へ生産移管が進むと穴埋めする自前の高度技術が育っていないので大変です。
韓国が何かと交渉の度に日本に対して技術移転を求めて来るのはこうした事情によります。

高度化努力と新興国追い上げの限界1

高度化努力を際限なく続けてその結果際限なく円高になるのを繰り返して行っても、いつかは力尽きる時が来ることは防げません。
ただ、例えば日本が年に1割の高度化努力に成功していたのが、8%〜6%〜4%と順次成果が小さくなって行くとした場合、前年比ゼロ%になった時点で海外競争に負けてしまうかと言うとそうとは言い切れません。
相手の方も生活水準上昇による賃上げ率の上昇があるので、適当なところで日本に対して追いつく力が尽きることもあります。
韓国や台湾がそれで、一定程度まで日本に追いついていましたが、最近その差がこれ以上縮まらくなっている感じです。
中国もその内一定以上に生活水準が上がったところで、ピークを打つ可能性があります。
学業の成績上昇の変化を例あるいはマラソン走者を例にに考えるとよく分ります。
全く勉強しなかった子供があるときに目覚めて勉強を始めると各科目平均20点台から始めた場合当初は急激に伸びますが、その勢いで際限なく伸びるのではなく、子の資質次第で50点台で上昇率が鈍り60〜70点くらいで打ち止めになったりします。
他方元々60〜70点台だった子も負けずに努力すると少しずつ上昇するのですが、20点台から40点台に上がる子に比べて60点台の子が5〜10点でも上げるのは大変です。
このように低水準から始めた子供よりも、元々の上級者の方が上昇率が低いのは当然です。
あるいはある人が1km先に走っていた後で次の人がスタートを切れば、先に走っている方は疲れているのでスピードが落ちていることから最初の数百〜1kmメートルは距離が縮まるでしょうが、一定距離を走った後はその走者の能力次第で同じ能力ならば、1kmの差に戻ってしまうし、逆に開くことさえあります。
(日本の高度成長は明治維新以降の技術力の蓄積の上に始まっているので、中国や韓国とはスタート台の違いも重要です)
この勢いの良い初期段階を見て新興国は今にも日本に追いつき追い越すかのような単純な妄想を抱いて高慢になり、日本のマスコミも「大変だ」と騒ぐ傾向がありますが、物事の発展段階のルールを知らない幼稚な議論に過ぎません。
このように新興国も一定水準以降は技術力・生産性の向上率が下がって先進国の上昇率と肩を並べることになったり、(追いつかない内に同じ上昇率になると差が縮まりません)あるいは止まって下降曲線になる国もあります。
相撲で言えば勢い良く昇進していた力士が幕内上位になると足踏みし、その内下がり始める力士の方が多いのとを想起しても良いでしょう。
最終的には遅れて目覚めて勢い良く上昇し始めた国がどこまで先進国に追いつけるか、どの段階で息切れするか、追い越せるかについては、日本人の資質と競合国の資質の差に落ち着くでしょう。
今のところ急上昇中の新興国の上昇率に賃上げが追いつかないので、先進国との賃金格差が大きすぎるのですが、最終的には資質差の範囲内に人件費の差が縮まって漸く安定することになります。
(画期的発明がなく)同じような製品の競争を続けている限り、日本も60→70→80→90点台になるとそれ以上技術力の向上は難しくなるので、どこかで打ち止めあるいは上昇率低下に見舞われることがあり得るでしょう。
日本が仮に95点で上昇率が頭打ちになり、韓国が85点、中国が80点でそれぞれ頭打ちになるとしたら、その時点での賃金格差がこの点数差と一致していれば国際競争力が均衡することになります。
(歴史を見ると一見停滞しているようでも少しずつ進歩して来たことは間違いがないようですから、何時の時代でも少しずつ進歩し続けるのですが華々しく目立たないだけですので、進歩が停止するのではなく上昇率が低下するだけです。)

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