世界の賃金・生活水準平準化が完成するまでは、相手国の為替をいくら切り上げても別の遅れた国で近代工業が発達してそこからの輸入が増えるので、当面の相手を叩けても別の国による自国に対する輸入抑制効果がありません。
輸出国にとっては為替の切り上げは輸出能力低下に直面し成長が鈍化しますが、輸入国にとっては世界全体が同じ賃金水準に達するまで次から次へと新たな国が輸入先・競争相手になって来るので、どこまで行っても自国への輸入量が減りません。
現在中国の人件費が上がるとなれば、(昨年広東などで賃上げストライキが続きました)日本企業はベトナム、インドネシア等への工場立地を探っていますが、このように中国の元が切り上がったりコストが上がっても輸入相手国が変わるだけであって、国内の生産回復にはなりません。
世界中隅から隅まで為替が切り上がって、世界の賃金が平準化して初めて為替変動による貿易収支均衡理論が妥当することになることが分ります。
以上のとおり、為替相場変動制が天の声で貿易が均衡するという思想は、一定の閉鎖貿易関係でしか妥当しないことになります。
上記の結果、貿易戦争で負けている相手に対する為替切り上げ要求は、特定輸出国からの輸入削減効果はありますが、輸入赤字の削減・自国産業保護には関係がないので、国内政治効果としては無意味です。
為替がこんなに切り上がっても(360円の時代から見れば、5倍近くです)輸出国であり続けた我が国では、円相場の切り上げに合わせて順次高収益産業に切り替えてきましたが、グロ−バル化以降の円高にそのときまでの輸出企業主役の変遷を当てはめてみましょう。
今回(リーマンショック以降の)円高は大量生産型産業としては最後に残っていた電機系の生き残りと自動車関連産業の輸出にトドメをさす可能性があります。
(既にテレビ等から日本の電気業界は撤退することに決まりました)
車の輸出が縮小すれば、大量雇傭業種としてはコマツ等の建機・重機類製造はまだ残っていますが・・・、機械製造・工作機械その他数えるほどしか残っていないでしょう。
繊維〜電気〜車への主役変更の流れ等の例で言えば、今回の円高に車産業がもしもついて行けないとすれば、車業界の輸出利益率は落ちていてかろうじて輸出業界としての地位に留まっていたに過ぎなかったことになります。
この間により高収益化していた(製鉄から機械製造・電池、樹脂等まで含めた多様な業界で)各種の部品やソフト関連の輸出増によって生じた円高水準に、最終組み立て産業の仲間である自動車業界がついて行けなくなったに過ぎないとすれば、今度の円高でもなお儲かっている高収益企業が他に一杯あることになるので、より儲かっている・高収益産業に人材をシフトすれば足りるので円高と言っても目出たいことです。
(ただし、2012年1月10日以降に書いたように円相場は製品競争力だけで決まるものではなく、今回の円高は所得収支や移転収支の黒字によるところが大きくて、この結果の円高によってかろうじて儲かっている企業・業界まで水没してしまうとすれば、喜んでいられません)