現在の年金赤字問題は、大きく分けて原因が2種類・・経営ミスと人口減の2種類あると思われます。
人口減の問題も突き詰めれば、以下に書くように経営見通しが大きく狂ったことに帰する・・結局は経営責任の問題と思われます。
先ず経営責任から入って行きましょう。
第1 経営責任
① 長寿化が進み計算(勘定)が合わなくなったことによる大幅赤字
年金受給開始後仮に平均して10〜15年で死亡を前提に設計していたとした場合、平均20〜25年も生きるようになると積立金が約2倍必要・・裏から見れば支給予定額の半分不足になりますから、このままですと大赤字になるのは必定です。
少子化と言っても年金納付年齢層としてみればまだ始まったばかりですから、現在の赤字原因の大方はこれによると見るべきでしょう。
この見通し違いの責任はどこにあるのでしょうか?
民間の年金・生保・損保等で考えれば分りますが、今年は死亡者が予定より多かったから保険金を払わないと言えないし、火事が多かったから火災保険を払わないと言えないのは当然です。
このために支払原資確保のために資金余剰が政策的に厳しく要請されていますし、突発的大事故に備えて再保険等が発達しています。
契約者の方も、25年も掛けて来たのに年金をもらえない年齢で死んだり、貰い始めて数年で死んだから損だ・・掛け金を返せと言えない・・生保で言えば満期まで1回も死ななかったから損だとも言いません。
私などいくつも生命保険に入っていましたが、一回も死なずに掛け損でしたが文句を言ったことがありません。
これが保険の原理です。
逆に長生きし過ぎたからと言って、(私の場合年金では長生きして元をとろうと思っていますが・・)顧客である生保年金等の加入者の責任である筈がありません。
これが国営になると長寿化の責任だ、少子化による加入者減が原因だとマスコミが宣伝し始めて経営責任・見通しの悪さを不問にするマスコミ論調が風靡しているのですから不思議です。
企業年金も同様に予定が狂って困っていますが、これに対してはマスコミはだんまりです。
年金赤字分は企業の負債(本体からの資金投入責任)として財務諸表に影響してきます・・GMが破綻処理で、これを切り離して再生に成功したことについては以前書きました。
最近では日航の再生でも年金の給付基準引き下げが話題になりました。
この部分の赤字は、制度設計した政府や企業年金が責任を持つべき分野(税の投入・・生保や企業年金で言えばこうした場合に備えた準備金や企業本体からの繰り入れや借入などで対処すべき)です。
政府は年金積立金で県営住宅建設資金その他に使って来て資金を蓄積して来なかった付けが回って来たのです。
食いつぶしてしまったのは運用者である政府の責任です。
② 当初の制度設計が、加入者増を前提にしていたのに加入者増が頭打ちどころか減少に転じたことによる資金不足=赤字
これも後に書くように永久に国民が増加し続ける筈がない・・企業年金も従業員数が無限に増え続けるワケがないのですから、増え続ける前提の設計は経営見通しの悪さ・目先の利益を目的にした制度設計に起因しています。
土建業界などでは、加入者減の結果払えなくなって困っていますが、従業員が減少に転じるとは思わなかったという言い訳は、通らないのが普通です。
優良企業でもいつかは、業容縮小・従業員減に見舞われることを覚悟すべきです。
現存する企業の平均寿命を見れば分るとおり、何百年も続く企業が滅多にないだけではなく老舗でも従業員が増え続ける企業などあり得ません。
(古代から続く企業は家業的にやって来たところが主で従業員を増やし続けると企業が続きません)
人口や従業員増加が無限に続く前提で・・年金額を決めることに、大きなミスというより故意責任があったのです。
少子化による加入者減も企業年金赤字と共通ですが、マスコミは少子化の影響と言います。
エルピーダやシャープ等の人員削減を見ても分るとおり、企業は少子化の結果従業員が減っているのではありません。
③ 制度設計当時に比べて積立金の運用利回りが低下して、予定通り支払が出来なくなったことによる赤字
AIJ事件が起きたばかりですが、多くの企業年金・適格年金が利回り低下に苦しんで、高利回り運用を売り込んだ怪しい投資顧問会社に頼った悲劇です。
高利回り社会=インフレ期待・・インフレの連続を期待していたことに誤りがあった・・結局は経営責任の範疇でしょう。
何回も書きますが、インフレ期待とは借金や資金を預かった者にとっては、返すときの貨幣価値が半分〜10分の1になっていれば返すときの負担が半分〜10分の1で済むという狡い発想・一種の詐欺行為です。
制度設計者が長期間の年金積み立て者をへの実質返金・分配額を減らせると思っていたが、うまく行かなかったに過ぎませんから、騙され損なった加入者が責任を取る話ではありません。
(まじめに年金を掛けて来た国民は被害者にならないで済んだだけで、何が悪いの?)
悪巧みをした方が「そんなうまいことは許されないよ・・」と天罰を受けている状態です。
④ 上記の亜流ですが、低成長下で給与アップ(あるいは絶えざる物価上昇)=納付金アップを前提にしたスキームに無理が生じて来たことによる一人当たり納付金の減少による赤字
(マスコミによるインフレ期待論の基礎ですが、インフレ期待は邪道であることをこれまで連載してきました・・これも見通しの悪さ=経営責任であることは明白でしょう)
韓国・中国その他新興国の成長を見れば明らかなように、高成長は無限に続くものではない・・いつかは、給与アップが緩慢になり最後には停止するのは自明ですから、永久に給与アップが続くことを前提に制度設計すること自体無謀であり、その失敗による設計責任は設計者が負うべきものです。