脱原発と貿易赤字3

中韓による追い上げ解決策として日本企業自体が現地生産からも卒業して組み立て型・最終製品から脱却してBtoB戦略への移行が徐々に始まったのですが、その大規模移行期が重なって、日本経済が踊り場に差し掛かっていたなどの総合的影響もあるでしょう。
(もともと韓、台湾〜タイなど東南アジア〜中国への生産基地移転でも、日本から中高度部品輸出が行われていて、その経験があったのを正面から進むべき方向性として認識するようになったにすぎません。)
国際収支という外形を見ると日本は縮小一方になってしまったように見えていたが、内実では震災被害克服・復旧だけでなく同時に、(工場や商店が被災して建て直すのにお金がかかりその間生産販売が止まりますが、その機会に内部仕様を変えるのが普通です)最終製品からの脱却も進めていたのを中韓は気がつかずに日本はダメだと思い込んでトドメをすべく反日運動に精出していたことになります。
外形上の黒字縮小どころか総合収支赤字転落が目前に迫り、この傾向が続くと15年以降どうなるかという不安の年でしたが、安倍政権成立後の異次元金融緩和による円安効果と、産業界の構造改革(BtoBへのシフト)の成果+14年夏ころからの原油相場下落によって国際収支が急回復できました。
貿易赤字が縮小(14年10兆4653億赤字→15年には8862億・10分の1以下に急減)したのは14年央から原油相場下落の恩恵効果の出た15年に入ってからです。
14年の月別データで見ると単月で経常収支の赤字になる時も出てきていましたが、1年間合計で何とか黒字に終わったという薄氷の年でした。
以下歴年別ではなく、月別の統計を財務省の国際収支月別統計(季節調整済み)から、14~16年分の引用します。
貿易赤字が13年秋から増勢を強め毎月8800〜9億超えの赤字が定着し、14年1月と3月にはいずれも1兆5000億円超えの赤字になっていましたが、14年9月頃から赤字縮小を始めます。
BtoBシフトや石油系火力よりコストの安い石炭火力新設等の影響が徐々に出て次第に貿易赤字縮小が進み14年夏ころからの原油相場急落の影響が15年に入ってはっきりと出てきたことがわかります。
https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/bpnet.htm

単位億円

注  左から経常収支 貿易/サービス収支 貿易収支の順です・稲垣
経常収支  貿易/サービス収支 貿易収支

 

平成26年 1月 2014 Jan -14,561 -28,131 -24,241 54,742 78,983 -3,889 14,892 -1,322
  2月   Feb 7,409 -7,323 -5,761 59,331 65,093 -1,562 15,947 -1,215
  3月   Mar 2,445 -12,484 -11,934 64,900 76,834 -550 19,135 -4,206
  4月   Apr 3,554 -14,286 -7,992 59,764 67,756 -6,293 19,917 -2,077
  5月   May 6,936 -7,321 -7,052 57,093 64,146 -269 16,344 -2,088
  6月   Jun -1,934 -7,669 -5,542 61,090 66,632 -2,127 6,231 -496
  7月   Jul 5,482 -13,202 -8,661 62,570 71,231 -4,541 20,182 -1,498
  8月   Aug 4,039 -11,193 -8,557 56,526 65,083 -2,636 16,731 -1,498
  9月   Sep 10,086 -9,081 -7,192 64,777 71,969 -1,889 20,659 -1,493
  10月   Oct 8,607 -9,716 -7,643 65,762 73,405 -2,073 20,336 -2,013
  11月   Nov 4,524 -7,346 -6,318 63,248 69,566 -1,028 12,904 -1,034
  12月   Dec 2,628 -7,237 -3,759 70,944 74,703 -3,478 10,870 -1,005
平成27年 1月 2015 Jan 930 -12,643 -8,833 63,257 72,090 -3,810 14,315 -743
  2月   Feb 14,660 -2,465 -1,317 60,049 61,366 -1,148 18,802 -1,677
  3月   Mar 27,519 8,042 6,478 71,324 64,846 1,564 23,197 -3,719
  4月   Apr 13,718 -6,893 -1,495 62,345 63,840 -5,398 22,665 -2,055
  5月   May 18,814 -48 -564 57,375 57,939 516 20,795 -1,933
  6月   Jun 6,587 -954 1,007 64,759 63,752 -1,961 7,865 -324
  7月   Jul 18,483 -3,346 -1,235 65,657 66,892 -2,111 23,158 -1,329
  8月   Aug 16,581 -3,617 -3,558 58,687 62,245 -59 21,538 -1,339
  9月   Sep 14,847 -39 503 63,752 63,250 -542 17,309 -2,424
  10月   Oct 14,019 -2,163 1,810 63,477 61,667 -3,973 17,681 -1,499
  11月   Nov 10,759 -3,154 -3,273 59,439 62,712 119 15,798 -1,885
  12月   Dec 8,277 -889 1,616 62,621 61,005 -2,505 9,908 -743

 

 

脱原発と貿易赤字2

原発全面停止により高コストの石油石炭燃料に切り替えた前後の国際収支がどうであったかについて、財務省の日本の国際収支(2003年までカット)では以下の通りです。
https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/bpnet.htm
単位億円
注  左から経常収支 貿易/サービス収支 貿易収支の順です・稲垣

2004C.Y. 196,941 101,961 144,235 577,036 432,801 -42,274 103,488 -8,509
2005C.Y. 187,277 76,930 117,712 630,094 512,382 -40,782 118,503 -8,157
2006C.Y. 203,307 73,460 110,701 720,268 609,567 -37,241 142,277 -12,429
2007C.Y. 249,490 98,253 141,873 800,236 658,364 -43,620 164,818 -13,581
2008C.Y. 148,786 18,899 58,031 776,111 718,081 -39,131 143,402 -13,515
2009C.Y. 135,925 21,249 53,876 511,216 457,340 -32,627 126,312 -11,635
2010C.Y. 193,828 68,571 95,160 643,914 548,754 -26,588 136,173 -10,917
2011C.Y. 104,013 -31,101 -3,302 629,653 632,955 -27,799 146,210 -11,096
2012C.Y. 47,640 -80,829 -42,719 619,568 662,287 -38,110 139,914 -11,445
2013C.Y. 44,566 -122,521 -87,734 678,290 766,024 -34,786 176,978 -9,892
2014C.Y. 39,215 -134,988 -104,653 740,747 845,400 -30,335 194,148 -19,945
2015C.Y. 165,194 -28,169 -8,862 752,742 761,604 -19,307 213,032 -19,669
2016C.Y. 210,615 43,888 55,176 690,927 635,751 -11,288 188,183 -21,456
2017C.Y. 219,514 42,297 49,554 772,855 723,301 -7,257 198,374 -21,157

リーマンショック前には概ね経常収支黒字が20兆円前後、前年07年では14兆円あまりの貿易黒字で経常収支は25兆近くもあったのですが、リーマンショック後の09年には、貿易収支が5兆3,876億円、経常収支が13兆5,925億円まで急減し、以後徐々に復調して10年には貿易収支9兆5,160億円/経常収支が19兆3,828億年になってリーマンショック前に回復する直前の大地震でした。
10年の貿易収支9兆5,160億円→11年-3,302ですから、約9兆8000億円の減少でしかないようですが、原油輸入が増えるまでには、追加購入注文から船積→日本到達までのタイムラグがあるので、8〜9月頃から到着(財務省統計は通関統計でしょう)とすれば最後の4ヶ月前後の輸入増加分となります。
2012年は原発停止後マル1年間の統計ですが、12年は、4兆2700億以上の貿易赤字(10年比14兆円弱の悪化)・経常収支では4兆7,640億円(10年比約15兆円の減少)になりました。
10年貿易収支9兆5,160億円→13年は-8兆7,734の貿易赤字ですから10年比18兆円以上の減少です。
14年は-10兆4,653億の赤字ですから10年比約20兆円余の収入減少です。
原発停止による原油等追加調達量は12年も13年も14年もマル1年間で同じ筈ですが、13年にさらに貿易赤字幅が拡大したのはエネルギーコストアップ=各種産業の基礎コストアップによって、国際競争力が大幅低下したことによる可能性がありますがこれはこの後で書きます。
10年には回復基調・上り坂にあったのですから、11年以降本当はもっと黒字が増えるべき時に逆にこれだけ減ったと見るべきでしょうが・・これが原発全面停止による1年あたり収入減の実態でしょう。
昨日仮定数字としてキリの良い10兆円としましたが、原油輸入の増加による支出増加だけではなく輸出業界全体のコストアップによる競争力低下の結果、14年には何と20兆円もの貿易収支悪化が生じています。
貿易赤字が縮小(14年10兆4653億赤字→15年には8862億・10分の1以下に急減)したのは14年央から原油相場下落の恩恵効果の出た15年に入ってからです。
原発事故時に、原油や石炭の輸入数量急拡大によって、高度成長期以降初めて経験する巨額貿易赤字化が突然始まり、これが半永久的に続くと日本経済はどうなるか?
日本人は青くなりましたが、もちろんこれを大喜びする国も人もいます。
プラザ合意以降欧米包囲網作り→米国による日本叩きによって失われた10年とか20年というキャッチフレーズが世界で流布していましたが、内実をみれば日本は形を変えて、経常収支で毎年20兆円前後をシコシコと稼いでいました。
これを米国は許せないから世界中で日本叩き・中韓はこれに便乗して慰安婦騒動反日暴動など仕掛けてきたのが対中韓紛争の構図です。
この辺は、失われた20年論に対する反論として10年ほど前に連載しましたが、この日本の誇る経常収支黒字が震災前までの平均約20兆円から、急減して14年には何と4兆円弱・・首の皮1枚となるまで下がってきたことが分かります。
14年には月別データで見ると単月で経常収支の赤字になる時も出てきていましたが、1年間合計で何とか黒字に終わったという薄氷の年でした。
これは、円高あるいは消費地生産の国際動向に合わせた日本企業の海外進出→国内空洞化の複合的結果も左右しています。
現地生産あるいは、中国〜ベトナム等の低賃金を求めて工場が次々と移転していく時代・・・プラザ合意以降でいえば、韓国、 台湾進出の第一段階が終わってタイ等の東南アジア進出〜中国進出するようになると、韓台が中国現地生産では日本との競合企業になり、次の低賃金国ベトナム等へ移動すると今度は中国現地資本も競合企業になるなど、どんどん日本の優位性が失われていきます。
これに対する適応のための踊り場と重なった点も留意する必要がありますが、結果として(国内生産を縮小して現地生産に切り替えている以上は貿易赤字は仕方がない、その代わり現地生産による儲けの還流=所得収支黒字で穴埋めして行くという考えの否定につながる)経常収支でさえも赤字まで来たのは正月早々(14年1月は1兆4000億以上の経常収支赤字)の衝撃でした。

脱原発と貿易赤字1

原発停止分の代替燃料原油等輸入が年間10兆円多く必要とした場合、民生と産業界で平等分担すれば(仮に電気使用量が5分5分と仮定すれば)産業界5兆円だけがコストアップですが、民生分をも負担すると、産業界の負担が10兆円の高コストになってその分、国際競争力が落ちてギリギリの競争をしている多くの輸出産業が負けて失業者が増え、一方で輸入品が増えて長期的には購買力低下・結果的に生活レベルを下げるしかなくなります。
原発停止によってコストが割高になっても火力〜再生エネルギーで補充する=割高になった分国際収支悪化→赤字になってもどんどん原油輸入してその他支出を切り詰める=生活水準低下を我慢するかの問題です。
簡単に言えば、原発廃止によって原油石炭等の輸入が年間10兆円(仮定数字)増えるとすれば、原発運転継続に比べて毎年10兆円支出(国外流出)が増える・永久に赤字を続けられないので先送りの結果、いつかは電力消費を国際収支均衡するまで減らす覚悟・減らしっぱなしでは産業界がまともな国際競争ができなくなり産業空洞化が起きます。
どの程度の産業収縮→先進国から中進国への地位低下に耐える覚悟があるかこそ、民意で決めるべきことです。
10万年に1回の大地震が心配で今から毎年10兆円(仮の数字)ずつ生活費を切り詰め産業縮小するのかどうかは民意で決めるべきでしょう。
数百年に1回の津波が心配だから漁業関係者が海辺の作業をやめて高台まで魚介類を運んで作業したり(高コスト化して海外からの輸入に負ける)自宅だけ高台に移転し二重生活するか(生活コスト倍増=生活水準半分に低下またはその分魚介類の販売価格上げ?)、10万年に1回のリスクなど考えてられないから今まで通り海辺に住み着くか、「人里離れた一軒家は100年に1回は強盗の心配→用心が悪いからガードマン程度の仕事しかなく収入が半分以下に減っても都会に移る」かどうかは、本人が決めることです。
仮に年間10兆円の支出増とすれば、そのコストアップをどれだけ減らせるかの省エネ革新能力・代替エネルギーの低コスト化の進捗に合わせるかの見通し・判断も必要です。
さしあたり原発停止でどれだけ原油等の輸入が増えて国際収支悪化するかが重要です。
その前提として電力コストの比較を見ておきましょう。

資源エネルギー庁

http://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/nuclear/nuclearcost.htmlによる発電コスト比較です。

  2017-10-31            

原発のコストを考える

原発、石炭火力、LNG火力、風力、地熱、水力、石油火力、太陽光の発電コストのグラフです。

上記の通り、電力を原油や石炭輸入に頼るとコストパフォーマンスが悪い・・ひいては各種産業のコストアップに連なり、国際競争力が低下します。
原発廃止の代替対電力として石油原料に切り替えることによって10兆円出費が増えるだけではなく、生活費や産業コスト全般で年間10兆円を負担するために生産コストが10兆円上がる・・その分輸出競争力・輸入品に対する国内産業の競争力が落ちてしまいます。
世界中同じ電源構成ならば負担率が同じで構わないですが、日本と競合する韓国を例にすれば、原発事故をチャンスとばかりに原発増設とこれを背景にした輸出競争に励んでいます。href=”https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_jigyo/korea/detail/1231605%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8C%E3%81%B0%E4%BB%A5%E4%B8%8B%E3%81%AE%E9%80%9A%E3%82%8A%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82″>https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_jigyo/korea/detail/1231605によれば以下の通りです。

韓国は今後も原子力開発を推進してゆく方針である。
政府の「第1次・国家エネルギー基本計画」(2008~2030年)では、2030年の総発電設備容量に占める原発の比率を41%に、総発電電力量に占める比率を59%に引き上げることが目標になっている。このため、今後、100万kWや140万kW級の原発を各地に建設することが計画されている。

また、政府は原発事業を輸出産業に発展させる方針であり、次世代型原子炉(140万kW級APR+)の技術開発を進めている。なお、2009年にはアラブ首長国連邦から原発プロジェクト(APR14000を4基建設)を受注している。

韓国は日本の原発被害を煽りながら、一方で自国の原発比率を引き上げて日本との価格競争を優位に運ぼうとしていることがわかります。
韓国にとっては日本に追いつき追い越す千載一遇の大チャンスですから、日本国内のシンパを利用して1日でも長く原発再開妨害・先送りさせる戦略のように見えます。

貿易赤字解消策(保護政策の功罪)3

最近では中国の部品製造能力が上がり単なる加工基地ではなくなりつつあります。
有名なアップル・アイフォンの生産国は主に中国にある・一種の常識ですが・・という以下の記事を紹介しておきます。
https://04510.jp/factory-times/1002/
2015年11月15日公開 2017年9月14日更新

新モデルが発表されるたびに大きな話題となるiPhone。その大半は中国で製造されています。
台湾に本社を構え、中国に生産拠点を持つフォックスコン・グループの中心的存在で、電子機器の受託生産を行う世界最大の工場です。
受託生産とはAppleからの依頼で、iPhoneやiPadなどの製造を行います。iPhone6については、その6割の生産を鴻海精密工業が行っており、ほぼ独占的に製造しています。
なぜ中国でiPhoneはつくられるのか?
人件費は高い?安い?
著しい成長が続く中国では、人件費を引き上げる動きが相次いでいます。iPhone6をつくるときもiPhone5より生産難易度が高いため、賃上げが行われました。今の中国で人件費が安いということはありません。
それでも製造を中国で行う理由は、しっかりとしたサプライチェーン(原料の調達、製造から消費者のもとへ届くまでの流れ)が存在しているからです。しかも鴻海精密工業のサプライチェーンは質が高いことで知られます。たとえばディスプレイなら、原料の到着からわずか4日以内で1万台もの組み立てができる生産能力を備えています。
世界中でつくられるiPhone
では、中国以外ではどこでつくられているのでしょうか?中国に続く国として、最近はインドが注目されています。次はインドでの生産に焦点を当てて解説します。
2020年にはそうなる予定です。なぜインドなのでしょうか?それは、インドのスマートフォンの市場規模が世界第3位を誇るうえ、中国に比べて人件費などのコストを安くできるからです。Apple側も労働人口の多いインドで、コストを抑えながら現地生産できる強みは大きいと考えているようです。
iPhone以外の製造品は?
たとえば、Apple初のスマートウォッチとして発売されたApple watch。生産工場があるのはやはり中国で、江蘇(こうそ)省の常熟(じょうじゅく)にあります。ただし鴻海精密工業ではなく、MacBookやMac Pro、iPodなどを製造してきたクアンタ社の工場です。
日本メーカーもiPhoneにかかわっている!
製造拠点は中国にあるものの、iPhoneの中身は日本製の部品が採用されています。世界の中でも高い質を誇る日本の電子産業は、Appleの貴重な下請け企業として信頼されているのです。
カメラ機能
iPhoneの手ぶれ補正機能を果たしている部品はアルプス電気とミツミ電機という二社によってつくられています。暗い場所でも撮影が可能な「光学式手ぶれ補正用アクチュエーター」は欠かせない装置になっています。アルプス電気は中国へ、ミツミ電機はフィリピンへと生産拠点の移転を進めています。
ディスプレイ
4.7型と5.5型の両方の液晶パネルをつくっているのが、ジャパンディスプレイです。スマートフォンやタブレット、デジタルカメラ、カーナビなどのディスプレイを幅広く手掛けています。iPhoneだけでなく、中国メーカーからの受注が増加すると予想されています。
iPhoneの画面を点灯させるLEDバックライトをつくっているのはミネベアです。同社は中国だけでなくカンボジア、タイなどにも生産拠点を増やしています。

以上アイフォンを現在国際分業の代表的なものとして紹介して来ましたが、以上の通りで、今は(といっても昨日書いたように10年以上前の記事です)単体の技術のみが競争力の源泉ではなく、人材の層の厚さ・スピード等の総合力に移っています。
日本は高度部品供給国としてアイフォン製造に参画していますが、高度部品を作れても・それに安住していると大変なことになります・・世の中は絶えず流動しているので・・発注後どのくらいの日数で大量納品できるかなどいろんな要素が競争力に関係する時代です。
分秒を争う時代になると加工組み立て工場近隣で高度部品工場〜研究拠点を持たないと納品競争に負けてしまう時代が来ています。
この結果「最終加工しているだけ」とバカにして来た中国その他の加工基地周辺に高度技術拠点(今は外資との合弁企業中心ですが)集積するようになって来ました。
複雑なサプライチェーンになっている現在、米国による中国からの特定品の輸入制限がどういう効果・・アイフォン等の先端商品生産工場の米本国回帰があり得るのか?となってきます。
製造業者は、「最も良いものを作りやすい場所で作る」原理で動いているので、米国向けだけ別の国・・最適=ベストでなくても次順位・ネクストの国で作って(その分納品が遅くなるとか2級品?)米国へ輸出することになるのではないでしょうか?
ただし米国の本音は中国進出企業に対する知財移転強要に業を煮やしたという点で擁護する意見がありますが、それならばその制裁をすればいいことであって、同盟国にまで貿易赤字の削減を要求し、関税引き上げまたは、数量規制を要求するのは筋違いになります。
プラザ合意以降日本を叩いても中国が出て来たように、せいぜいインドのような中国のライバル国を育てあげて成功しても、そこへ中国から生産基地移転可能かどうかだけでしょう。
軍事側面から見た対中抑止力としての関係で、インド抱き込みに日米が必死になっているのもわかりますが・・。
後白河が平家を利用して源氏を叩いても平家に頼るしかなく、次に平家を追い落とすと源氏がより強く育ったので、結局武士の時代・鎌倉幕府が出来てしまったし、英国がドイツの挑戦を気にしているうちにアメリカにヘゲモニーを奪われたような関係・米国が追われる立場の再現です。
中国とロシアの違い・・ロシアが中国のように何故離陸できないかが気になります。
ロシア経済は、解放前の中国同様ソ連時代からロケットや戦闘機を作れても車や電化製品等の消費財をまともに作れない経済構造でした。
(ロケットなど大規模技術はスパイで何とかなりますが、洗濯機等消費財は単価が安いので従来型スパイになじまなかったことをSeptember 29, 2017,その他で紹介してきましたが、この点は解放前の中国も同様でした。
ロシアになっても消費材製造に弱い構造のままで困っていたところ、2000年直前頃から資源価格急騰によって黙っていても売上2倍になって潤ってきた結果、資源を売って消費財をふんだんに買えるようになった結果、消費財製造能力が上がらないままになってしまい、まるで進化していません。
この辺の経済原理は以前からナウール共和国の例を引いて書いている通りで、現在でいえば資源頼りの経済脱却にサウジ皇太子が焦っている通りです。
一般製品国際競争力を基準にした為替相場よりも、資源輸出による黒字分だけ通貨が高くなります。
資源だけで大幅黒字を稼ぐ結果、資源以外の農産物を含めて製造コストからみたら割高な通貨設定になってしまう結果、消費材や工業製品の国際競争力がなくなってしまうので、資源の値上がり分だけ国内産業が育つどころか先細りになります。
中国のように部品の国内製造に離陸できない原因は民度レベル差もあるでしょうが、ロシアは資源に頼りすぎるマイナスも大きいでしょう。

貿易赤字解消策(保護政策の功罪)2

19世紀型の貿易の場合・・例えば食料品・美味しい果物輸入の場合、大してうまくない果物を米国民だけ高く買うしかないとしても、それだけのことで国内産業競争力に響きませんが、部品輸入の場合に完成品性能に関係するので大変です。
中国が南沙諸島での埋め立てに異を唱えるフィリピンを黙らせるために、バナナ輸入規制しても国民が困らず、フィリッピンが音をあげたのもその一例です。
部品の場合、不良品でなくとも他国よりも25%も高く買うとコストアップになるし、それを嫌って性能の劣る国産部品を仕方なしに使うと品質低下分以上値下げしないと国際競争力を失います。
比喩的に言えば、ある部品が1%性能が劣り2%単価を低くしても、性能の良い部品を使った完成品の単価が2%高くても方が使い勝手が良いと何倍も売れるのが商品というものですから、ちょっとした性能差の為に5〜10%価格を下げないと売れない場合、少し高くても高性能部品を使うのが普通です。
人材で言えば、人種差別意識で有能な社員を採用できないと有能な社員を採用した企業よりも発展性が遅れます。
軍事戦略意図によって、情報収集ソフトが組み込まれるリスクを理由に中国国有企業の中国の華為技術や中興通訊(ZTE)との取引禁止命令(華為技術やは事実上の?)が出たようですが、両企業が世界席巻しているのは、中国政府の後押し的不純原因もあるでしょうが、それ相応の使い勝手の良さがユーザーを引きつけているからでしょう。
4月22日現在の中興通訊(ZTE)に関するウイキペデイアの記事です。

世界合計14ヶ所のR&Dの設備がある。2008年には売上が約443億元(約65億ドル)、利益が約16億6000万元(約2億4300万ドル)に達している[2]。
160カ国、地域でスマートフォンをはじめとする携帯電話端末を発売しており、2016年にはアメリカでのスマートフォンシェアが4位、スペインとロシアで2位、ヨーロッパ全体でシェア4位にランクされるなど、欧米でのスマートフォンの販売台数が増加していた。
2016年3月:アメリカ合衆国商務省が同社及び子会社に対して、2010年にイラン政府系通信会社や北朝鮮に禁輸措置品を納入し、またその事実を隠ぺいしたとして輸出規制措置とした。
2017年3月:上記の措置に関連し、アメリカ合衆国商務省は最高約1,300億円の罰金の支払いと、社内のコンプライアンス教育の徹底、今後6年間にわたり規制を順守したか年次報告を行うことなどの司法取引を行うことで、輸出規制措置を実施しないことで合意した。
2018年4月16日:アメリカ合衆国商務省は、前年の司法取引で合意した内容の一部を同社が実施していなかったことが判明したとして、米国企業に対し同社への製品販売を7年間禁止すると発表した。
・・・同社製品に使用されている米国製品の割合は25-30%に達し、この措置は同社事業に深刻な影響を与えるとみられている。・・・なお、アメリカ国防総省とアメリカ合衆国国土安全保障省にZTEが下請け経由で通信機器を納入していたことも問題となった[11]。
共和党のトム・コットン上院議員とマルコ・ルビオ上院議員は2018年2月7日、米当局者へのスパイ行為に対する懸念を理由に、ファーウェイとZTEの通信機器について、米国政府の購入やリースを禁じる法案を提出した[12]。

ウイキペデイアの華為技術に関する4月22日現在の記事です。

華為技術有限公司(ファーウェイ・テクノロジーズ、Huawei Technologies Co. Ltd.)は、中華人民共和国の通信機器メーカーである。スマートフォンにおいては、出荷台数・シェアともに世界3位。米キャリアのAT&Tが、ファーウェイのフラグシップスマートフォン『HUAWEI Mate 10 Pro』を取り扱う予定で、交渉も順調に進んでおり、2018年1月8日にラスベガスで開催されるCESで正式に発表されるはずだったが、直前になってAT&Tが白紙撤回した。白紙撤回の理由は不明だが、安全保障上のリスクを懸念する米国政府からの圧力という説が有力。

両社製品が世界を席巻しているのは相応の商品価値があるとした場合、米国企業だけ中国の両企業を使えないと、その分米国企業は損をします。
鉄鋼製品の場合、長期的には米国内生産で日本で作るより25%高コストでも価格競争できるようになるので国内生産に移行する期待があるでしょうが、物品販売の場合価格次第ですぐに輸入先を変えられますが、製品の場合技術水準の問題ですから国内業者に技術がない(から作れないのでしょう!)と、すぐには国内製造に切り替えられません。
この間米国企業だけ低レベル部品利用または高価格品利用になって国際競争力を失って行くのが普通です。
1985〜1990年頃のいわゆる日本叩きの攻勢によって日本の製造業叩きには成功したものの、結果的に米国企業は(日本の高性能部品を割安に利用できる)他国より割高かつ低性能部品を使うしかなくなったので国内産業の国外移転が相次いで国内空洞化・貿易赤字→衰退を早めただけでした。
米国の対中巨大赤字というものの米国企業の逆輸入がその大半とも言われるように(事実かどうか不明ですが)輸入規制すれば米企業自体が海外に出て行って良いものを使うしかなくなります。
以下の引用記事は古い・・対日貿易赤字になっている・・ここ4〜5年は部品の中国国内生産率が向上して対日貿易も黒字が続いているし、外資系企業の貿易黒字に占める比率が高いと書いている点も今は下がっているなど現状そのものではありません。
以上のように10年以上前の論文でかなり古いものの、アップル製品のほぼ全てが中国の工場製であるのが知られているように産業の集積状況など大方の傾向は変わっていませんので、今でも参考価値があると思われるので引用しておきます。

中国の対米巨額貿易黒字の見方

ビジネスレポート
2007年6月26日  馬 成三
米国の対中貿易赤字は米国企業の対中進出とも関係している。
米国系企業が中国で生産した製品の大半は、中国市場で販売されているが、中国での現地生産により、同製品の対中輸出を減少させているのである。また米国の対中投資のうち、付加価値の低い製品を中心に米国に逆輸入しているケースもある。
Made in China」よりも「Made in Asia」が多い中国の対米輸出
中国の対米貿易黒字の拡大は、諸外国・地域、なかでも東アジア諸国・地域の中国大陸への産業移転によるところが大きい。対米輸出を含む中国の輸出を企業主体別にみると、外資系企業の割合が際立って高い。2006年の数字を取ってみると、同年中国の輸出全体に占める外資系企業輸出の比率は約6割、貿易黒字額に占める外資系企業の比率も5割を超えている(表2)。これに対して、国有企業や私営企業を含む中国資本企業の貿易黒字額は貿易黒字全体の半分以下(うち国有企業は赤字)にとどまっているのである。
中国の外国直接投資受入れの7割が、日本、アジアNIES(新興工業国・地域)とASEANを含む東アジア諸国・地域から来ている。長い間、日本、韓国、台湾など東アジア諸国・地域は対米貿易で巨額な黒字を抱えたが、その対米輸出製品の生産を中国大陸にシフトしたことで、中国大陸の対米貿易黒字となったのである。
中国が東アジアにおける加工基地となっている現状を踏まえて、研究者の間では中国の対米輸出製品(組み立て用の部品を含む)を、「Made in China」よりも「Made in Asia」と見なすべきだとの見方もある。
東アジア諸国・地域が生産拠点を中国に移しただけでなく、部品などを中国に輸出し、その加工製品を米国に輸出するといったケースも多くみられる。中国税関統計によると、2006年における中国の対米貿易は1,443億ドルの黒字を出した一方、日本、韓国、台湾との貿易には1,358億ドルの赤字が記録された。

上記は2007年の論文なので実情が様変わりですが、日米韓やアジア諸国の対中投資拡大が中国の対米黒字の大きな原因になってきたことは確かでしょう。

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