資格制度の空洞化?2(自民党緊急提言)

一定期間経過すれば、3年も4年も勉強している合格ラインスレスレの予備軍がいなくなって、試験が易しくなったから自分も受けようかと言う元々想定外だったレベルの新規参入者が中心になります。
私は昭和最後から平成始めの750人体制(結果的に丙案)になる議論最中に日弁連司法問題対策委員であったのでその最前線にいたのですが、その後法曹養成委員会という専門委員会が日弁連に出来て私は日弁連修習委員になった関係から結果を聞くだけの委員になったのですが、政府は増員の突破口が開いた勢いで?ドンドン合格者を増やして行き約2000人まで増やしてしまいました。
500人基準で言えば合格出来なかった筈の1500人が毎年多く合格しても裁判所や検察庁は弁護士が食えなくなれば任官希望者が増える・・上澄みの元々の500人から採用すれば良いので何ら心配がないと言うスタンスでした。
しかも従来基準で言えば到底合格出来なかった筈の人材がドンドン参入するようになる以上は、訓練期間を延ばすのが本来のスジですが、この大増員と平行して増員に対応する「指導教官が足りない施設が足りない」と言う理由で我々500人時代の研修期間2年を半分の1年に減らしてしまいました。
裁判所や検察庁は採用後内部研修するから、弁護士になる人材と一緒に2年も国費をかけられないと言う露骨な姿勢でした。
悪く言えば、弁護士の質劣化を露骨に狙っていたことになります。
毎年落第生が出るとその後の教官との会合で説明を聞く機会が日弁連修習委員会でありますが、裁判検察科目では滅多に落第が出ない・・弁護科目の落第が圧倒的でした。
我々の頃には、裁判科目が一番難しかったのに今何故弁護科目で多く落第が出るかの説明では、裁判検察では落第スレスレの人材を採用しないから劣等生がいくらいても「我関せず」の姿勢のようだと言うことでした。
その頃から、検察では修習に対する熱意が見られない・・オザナリ的印象が強く何でも見せる時代ではなくなっている印象です。
しかし、全体の魅力がなくなると優秀な学生まで他業界に流れる点を見逃していたようです。
研修所教官との会合ではいつも「合格水準を変えていない・・質は下がっていない」「修習期間が半分になった分・濃密な授業をやっている」と言うのが普通です。
合格者が500人から2000人になってしかも研修期間を半分にしても水準が変わらないと言うならば、昔よりも何倍も優秀な人材が多く集まるようにならないと数字が合いません。
合格者500人時代には、大学でトップクラスの誉れ高い人だけ(東大法学部卒でさえも現現役合格者が一握りの時代でした)が挑戦する超難関試験でした。
当時大学別に何人が現役と言う数字が新聞発表されていましたが今になると過去のデータがネットでは出て来ません。
その何倍も優秀な人材が、ソモソモどこにいたの?となりますし大学院に行けば6割が合格すると言うのが売り物の制度でしたから、論理が破綻しています。
更に需給を無視した大量供給をすれば、低価格競争・収入減→資格取得の魅力が減る→その方向からの応募者人材劣化が防げません。
従来99点取れるような秀才でないと合格出来なかったのが、60点くらいのレベルでも合格出来るとなれば一時的に参入者が増えますが、社会は甘くない・・相応の待遇になって来たと言うことです。
食材千円の料理を600円の食材に落として定価を変えなければ大もうけですが、客の方は2〜3回来れば最近味が変わったと来なくなります。
公式意見の矛盾は試験制度による面からと市場評価の2方面からのレベル劣化の現実を無視する裸の王様のような議論でしたが、大量供給が始まってからの合格者が実務につくようになって約10年以上経過すると、弁護士になっても食うや食わずの実態が広がってきました。
弁護士し某社はそれでも志が高いので、収入が減ってもサービス・・弱者によりそう姿勢をよりいっそう強めているのは大したもので、社会の評価が下がったとは思いませんが、他業界と比較シテ・・応募段階での人気が下がる一方です。
レベルダウン以前に職業としての魅力がなくなって来たので、前段階の大学院応募者が減って来て資格試験制度自体が成り立たなくなる?弊害が目前に迫って来ました。
4月14日に書いたように法律家の質は(ドローン1つ実験するにも法規制のクリアーが必要です)国際競争上重要な戦力ですから、自民党も無視出来なくなって来たらしく緊急提言が発表されました。
自民党の緊急提言の一部引用です。
http://www.moj.go.jp/content/000124826.pdf法曹人口・司法試験合格者数に関する緊急提言 平成26年4月9日
  自由民主党 政務調査会 司法制度調査会・法曹養成制度小委員会合同会議
1.はじめに
21世紀の国際社会において、わが国が自由・民主主義・基本的人権・法の支配といった基本的な価値に立脚し、存分にそのリーダーシップを発揮するためには、法の支配の貫徹を担う司法が力強くその役割を果たすことが不可欠である。また、複雑高度化し、多様化する国際社会において、わが国が本来の活力と国力を取り戻すためにも、個人や企業等の自由かつ創造的な活動を支える司法、法曹の力は極めて重要である。とりわけわが国が通商国家・科学技術立国としてグローバル社会を勝ち抜くため、内外のルール形成・運用の様々な場面で、法曹が先端的で高度な専門性を備えるプロフェッションとしてその役割を十分に果たすことが欠かせない。」
・・・司法制度改革のもと、平成16年、法科大学院を中核とする「プロセス」としての法曹養成制度がスタートした。しかしながら、近年、法曹となるまでの時間的・経済的負担感の増大、司法試験合格後の就職難等を背景とした法曹志望者(法科大学院受験者、同入学者等)の減少が続き、有為な人材が法曹を目指さないという深刻な状況が指摘されるに至った。」
「国際社会でリーダーシップを発揮し、本来の国力を取り戻すため、力強い司法・法曹の存在が不可欠であること、さらにはデフレ経済から脱却して経済活動が活性化し、国家として活力を取り戻す過程にある重要な時期にあることに鑑みれば、こうした状況はわが国にとって国家的な危機とすら言うべき事態である。」
2.当調査会での議論の状況
・・・その一方で、司法試験合格者のうち、上位合格者層と下位合格者層との間には歴然たる質の差が見られるという指摘があり、これを前提に合格者数は1000人以下を目安にすべきであり法曹需要を見極めるまでは当面500人以下とすべきとの意見、若者の法曹離れを直視しその根本対策として合格者数を1500人とすべきとの意見 があった。
全体としては現在の司法試験合格者数は、良質な法曹人材に対する実際の需要を大きく超えており、現状より削減すべきとの意見が少なくなかったことは重く受け止
める必要がある。・・」
3.法曹人口・司法修習等をめぐる状況についての認識
ク)司法試験合格者数が2000人に増加したにもかかわらず、判事補に適する質を
有する司法修習生が任官せず定員を満たさないと最高裁判所が自認するような
状況にありながら、司法修習における二回試験及び集合修習の修習生各人の成績分布の把握や分析、これに基づく司法修習委員会において十分になされていないこと」
4.緊急提言
・・・全体として法曹の質を維持することが困難な事情が生じているのが今の法曹を巡る現実である。・・・・下記に付言するような様々な取組みには時間を要するのでり、それまでの間は質を維持した人材の増加が見込めない状況の下、人為的に合格者数を増加させるべきではない。まずは平成28年までに1500人程度を目指すべきことを提言す
る。」
この緊急提言により、翌平成27年5月に1500人とする有識者会議の結論が出て現在に至っています。

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