集団責任3(組長訴訟)

昨日紹介した暴排条例の続きです。
暴力団員一人一人が犯罪を犯せば処罰されますが、何もしていない・・犯行を具体的にしていない・・証拠がなくとも指定組織員と言うだけで社会活動からのほぼ100%の閉め出し、各種プレーお断り出来るようにする風潮です。
近年暴力団に対する締め付けが広がり、あらゆる業種・・ゴルフ場などで「暴力団員のプレーお断り」などあちこちに広がっています。
(温泉の入れ墨お断り程度なら入れ墨さえしていなければ良いし、生活には支障がありませんが、レベルの違う話です)
振り込め詐欺事件では、末端で銀行口座の名義貸しをした人が、(本人確認資料提出している関係で)先ず検挙されますが、その犯罪事実は他人に貸す目的を言わない・・銀行を欺いて口座を作ったこと・・これが詐欺罪に問われる仕組みです。
(名義貸し主が検挙されると、多くは「振り込め詐欺に使われるとは知らなかった」と言う言い訳ですから、振り込め詐欺の共犯容疑では有罪判決まで持ち込むのには無理があるし、検挙時には関連証拠もありません)
組員自身が組に入っているのに入っていないと噓を言って、自分名義で銀行口座を開設したり不動産取引等をしても、組員ならば取引に契約しなかったと言う業者の供述調書が作られて、詐欺罪になります。
最近では組長の娘が自分名義で口座を作って、父親である組長に使わせていたことが詐欺罪で有罪になっています。
条例自体は刑事罰ではないとしても、これに従って、かなりの業種では、業界ひな形によって、契約書に暴力団関係との契約禁止条項を入れるようになり、契約時に暴力団員なのに組織員ではないと噓を言って契約すると詐欺罪になる・・事実上あらゆる種類の契約・・社会生活が出来ない事態が起きています。
家を買うことも借りる契約することも、銀行取引も出来ないので、電気ガス電話料金等の引き落とし契約も出来ません。
最初は誰かの名義を利用していれば良いと思っていたでしょうが、上記のように名義貸し自体が詐欺罪検挙の運用ですから大変です。
クルマの場合、名義貸しではなく名義人が組長の運転手として毎日乗っていれば名義貸しにはなり難いでしょうが、そんな程度です。
組員が悪いことをしても全員が共謀に関与している訳ではないので、個人責任原理のきつい刑事手続では、(振り込め詐欺の例では上記のとおり)刑事責任を問えない代わりに、そんなグループとは社会全体でおつきあいをお断りしましょうという運動が法的レベル・・取引自体が刑事処罰になるのではなく、民間が暴力団排除契約書を作っている結果、騙して契約しないとマトモな契約1つ出来ない・結果的に詐欺罪となって刑事処罰を受ける仕組み)になってきたのが現在社会です。
ムラの掟を守らない一家には一定限度を超えても刑事処分までしない代わりに、村八分にして村の共同社会の付き合いをお断りしていた江戸時代と原理が同じです。
ただ、暴力団組織員は生まれつきの身分ではなく、「足を洗い」さえすれば逆に更生出来るように公的に応援する仕組みですから、自分で選んでいる点が民族問題とは、大きな違いです。
出身民族は自分で選べないので、出身による事実上の公的差別をすると大きな人権問題になります。
憲法
第十四条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

人によっては帰化して日本国籍を取れば良いのに、敢えて何十年も在日のママでいる方がおかしいと言う意見もあります。
この辺は、暴力団から脱退しないのと似ているけれども違う・・この違いこそが本質的な差であると思う人が多いでしょう。
日本国籍を取る気がないのに長期間居住させる方に問題があるならば、永住権その他外国人在留資格制度を改正して行くべきかどうかの問題です。
観光や留学その他入国目的によって、在留期間が法定されていますし、その滞在態様によって日本で果たす権利・義務も違って来るべきでしょうから、在特会の批判の多くが在留資格と果たしている義務が比例関係にないことにあるのかも知れません。
その辺の具体的な議論に入って行くと、話題がそれるので、また別の機会・・話の流れによってそのときにします。
公的な在日排除条例がないのはその点で妥当ですが、個人的に「在日とは付き合いたくない」と思うのは個人の自由の範囲と思えます。
これを外部に言いふらす・・賛同者を募るのが許されるかどうかの問題でしょう。
誰も相手にしなければ(例えば子供を殺された人の周辺だけ加害者一家と付き合わなくとも、)害がないのですが、賛同者が人口の過半を占めるようになると「在日」と言うだけでその社会で生き辛くなるので、人権問題になります。
こうして見ると、賛同者が増えると危険になる関係です。
集団内の行為については、その結果をある程度引き受けるべきだとしても、その程度が重要です。
民族に関係のない集団と個人の関係の話題に戻ります。
刑法では、犯行に直接関与しない組幹部の責任追及を出来ませんが、民事では10〜20年以上前から、いわゆる組長訴訟・・組長に対する損害賠償訴訟が定着しています。
以下はhttp://www.lawandpractice.jp/files/yongou/urakawa.pdfからの引用です。
組長訴訟の生成と発展 浦川道太郎
「抗争の前面に立って実行行為をする末端組員 には賠償資力がない者が多く,収監されてしまえば,実際上賠償を求めること は不可能になる。
このような状況の中で,被害者救済のために,組織の上部で最終的・最大の 利益を収めている暴力団組長に対して損害賠償責任を問うことが必要になる。 この方法として,民法 715 条に定める使用者責任を基礎に,暴力団組長の責任 を追及する「組長訴訟」が提起されることになった2)。
「使用者が被用者の活動によつて利益をあげる関係にあることに着目し,利益 の存するところに損失をも帰せしめる」報償責任の原理を考えると,組員の活動から上納金の形で利益を吸い上げている組長に対する責任追及には,同原理 を根拠にする使用者責任こそが相応しい法的構成であるともいえよう。」

このように暴力団に関しては、個別犯罪を認定出来しなくともその周辺利益帰属者に幅広く網がかかる時代が来ています。

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