日銀の国債引き受けとインフレ2

市中で(民間が)国債が引き受けた場合、その分紙幣が市中から吸収されてしまうので、国債と引き換えに政府が手に入れた紙幣を政府が使っても市中に出回っている紙幣量は変わりません。
September30 ,2011「増税と景気効果2」前後で、増税しても吸い上げた紙幣を政府がほぼ全額使うので、市場での紙幣流通量はむしろ増えることが多いので、増税が景気を冷やすことはあり得ないと書いたことと同様に国債で吸い上げた場合も同じです。
国債増発も増税も資金循環としての経済効果は、同じであると繰り返し書いている所以です。
その論理の応用ですが、国債を市場で売らないで日銀が印刷した紙幣で買うとその分量だけ市場に紙幣が多く出回ります。
日銀が政府短期証券を引き受けた場合、(政府の為替介入資金として)紙幣が出回ったままにならないように売りオペで紙幣を市中から回収するのが普通です。
為替介入・・例えば円売りドル買いの場合、政府短期証券と交換に円紙幣を政府に供給し、政府がドル買いのために市中に放出した円は、日銀が政府短期証券を市中で売って(売りオペ)同額の円を吸収することで中立化を図っています。
ついでに為替介入して得たドル紙幣の行方を説明しておきますと、政府が為替介入で得たドル紙幣を市中に出して両替するとドルが下がってしまうので、ドルのままでアメリカの財務省証券を購入するので、日本や中国のドル外貨準備が増えます。
貿易黒字国が自国の通貨じり高を防ぐために為替介入すると、その結果アメリカの財務省証券や公的債権保有が増える仕組みです。
アメリカは上記のとおり資金が還流して来るのでいくら貿易赤字を続けてもドルが赤字分だけ下落することもなく、環流した資金で更に輸入出来ることになっているのが現状の世界経済です。
国債の日銀引き受けの場合、国債を市場に再販売出来れば問題がないのですが、買い手がつかないほど国債が暴落したときに伝家の宝刀を抜くことになるのですから、日銀は市場相場(大幅額面割れ)よりもはるかに高い値で引き受けることが前提です。
国債の信用がなくなって仮に額面の6割の値段でしか市場では買い手がつかないときに、日銀が政府希望価格の95%で引き受けたとすれば、これをそのままあるいは日銀の販売コストを上乗せして転売・売りオペするのは不可能です。
そんなことが出来るくらいなら日銀が引き受ける必要がありません。
日銀引き受けの場合、論理的には売りオペを出来ないので、紙幣が大量に出回ったままになるしかありません。
古典的あるいは現在の経済学・・あるいはマスコミでは、紙幣大量発行を放置すればハイパーインフレになると心配しますが、私の意見によれば現在日本で紙幣をいくら大量発行しても国内インフレが直ちには起こりません。
この辺の関係については、9/15/08「国債の無制限引き受けとインフレ1」February 22, 2012「為替相場と物価変動2(金融政策の限界2)」前後のコラムで連載したばかりですが、飽食・飽和商品時代では紙幣があるからと言って買い物に殺到する人が少ないからです。
牛乳、卵、キャベツ、人参でもお金があるからと言って2〜3倍食べたりしない、お酒も2〜3倍飲んだりしない・・精々無農薬野菜などレベルアップする程度で終わりです。
健康志向の強い現在では多く食べるかどうかは貨幣の量ではなく健康意識にかかっています。
年収1000万円の人の収入が1割増えても、日常品の欲しいものは既に持っているので、消費がそれほど増えるのではなく、預貯金が増えたり海外旅行をするくらいで、消費物資を買いあさって物価を上げるまでは行かないでしょう。
供給過剰社会では、品質レベルや好みに合う製品を供給するかどうかであって、購買力はそれほど影響がありません。
(携帯からスマホに移行しているのは購買力や金利による変化ではありません)
そのうえ、先進国では鉱工業製品・・車やテレビ、携帯などは、需要が盛り上がっても単価が上がることはなく単に増産すれば足ります。
供給余力のある先進国では商品価格は紙幣量に比例するのではなく、競合他社との製品比較・・競争次第で決まる傾向があります。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC