海外留学熱鎮静論6(社会人留学)

ところで、大学を出ただけでは(今の若者は未熟過ぎて)実社会では役に立たないので、企業は入社後の実務兼教育(ジョブトレーニング)に力を入れています。
大学の教育力が下がったという視点で議論されていますが、長寿化による成熟段階の間延びによって世上言われているように名目年齢に7割がけぐらいしか成熟していない実態を前提に資すれば、同年齢でも昔の基準の学力・思索力を期待するのは無理です。
大学は言わば中学生か高校生レベルの未成熟な学生相手に高尚なことを教えようとしているのですから、空回りにならざるを得ませんし、企業に入ったころから昔の大学生レベルの思考力になるのですから、企業はそのつもりで社員教育しています。
今でも一定水準のエリートは、従来どおり大学院レベルあるいは一定に研究者レベルに到達してから交換留学などを行なっている外に、企業派遣その他の理由で有名私立大学等に一定数留学し続けています。
我々弁護士の分野で言えば、大手法律事務所に就職して一定年限実務経験を経てから、アメリカなど留学してアメリカ(ニューヨーク州など州別資格)の弁護士資格を取得するのが普通ですし、いろんな分野の企業派遣留学者も一定の実務修練を経てから行なっていると思われます。
就職後30代前後の若いうちに現地事務所に派遣して現地社会の実態を体感させる試みを留学とは言わないのでしょうが、こうした数は、グローバル化に比例してマスコミの宣伝とは逆に増え続けている筈です。
話題が変わりますが、グローバル化対応とは単なる国内企業が国内に留まったままでの輸出企業に留まらず、現地経企業進出するということですが、現地進出とは日本企業の方が優れていることが前提です。
国外進出は強い方から弱い方へするものです。
現地進出して成功するには、日本企業のやり方を現地で指導定着させる必要があります。
指導者としては、一定の修練を経た中堅とその直前ころの若者の現地派遣が必要ですが、未成熟な20代前半の若者では役に立ちません。
先進国への旧来型留学形式の場合でも、基礎学力もない子供(夏目漱石の描く「三四郎」のような成熟した高校生は今ではいません)が留学・・学部留学しても、まだ一人前に成熟していないので、進路すらも定まっていないし、大したことになりません。
私の世界・・弁護士で言えば一定の水準・・弁護士資格取得直後ですらなく、一定期間国内弁護士実務を経験した後のアメリカや欧州諸国へ留学してアメリカ等の弁護士資格を取得させる方が・効率的・合理的です。
(まして司法試験すら受かっていない基礎レベルで学部留学しても何を学べるか?と言うことですし、高卒段階で留学しても海のものとも山のものとも分らないでしょう。)
医師で言えば、医学部に入ってもその時点では進路が定まっていないし、数十年前の例で言えば、心臓手術の先端技術を学ぶ留学経験が有名でした。
この例で言えば、医師資格を取らない高校卒でアメリカの医学部に入るよりは、日本で医師資格を取り多様な医学分野の中で心臓外科に進んだ医師の中で、一定の手術修練を経て適性があると分ってから、更に最先端技術修得するために先端手術をしている海外病院等へ留学をした方が合理的です。
今では、内視鏡手術が主流ですが、これは日本の方が器具その他で進んでいると思われますので、留学するどころか日本の医師が教える立場に逆転しています。
これを学びに来る外国人医師は、高卒学生→学部留学ではないので日本への留学者数にはカウントされていないのでしょう。
産業技術研究等になると、海外へ留学するどころか新日鉄やトヨタや東レの例を出すまでもなく、日本からの各分野での高度技術流出リスク管理・・秘密保護法制定の方に関心が移っています。
今朝の日経新聞朝刊には中国によるサイバー攻撃被害がアメリカ企業で激増していて、我慢できなくなって来たので、国防白書に明記するほどになって来たとのことです。
アメリカほど明白に発表しないものの、我が国も企業秘密流出被害はかなり深刻になっている筈ですから、技術防衛力強化の一環としての「国防特定」だけではない「一般」秘密保護法制の充実・強化が急務になっています。
話題を戻しますと各種研究分野でも高卒現役の学部生の留学では、海のものとも山のものともまだ分らない・・先が遠過ぎますので、今では一定の研究者レベルに達してからの留学の方が合理的ですし、これが主流になっている筈です。
スタップ細胞で世間を騒がせた小保方氏も大卒後の留学経歴です。
近年では社会人・・一定レベルに達した後の留学・社員の現地派遣(必然的に年齢も上がりますが・・今は若者の成熟が遅れている面もあってちょうど良いのではないでしょうか?)に比重が移っています。
マスコミや文化人は長寿化による成熟の遅れを見ないで(高卒現役)若者・・学部留学生数(私費が1割減ると全体では大幅減です・・と公費の分類すらしないで)総量減少を見て、若者が内向き志向になっているが、これで良いのかと大騒ぎしているように見えます。

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