廃藩置県と藩の負債処理

話を明治までの地方の名称であった国から縣へ変えた意味に戻しますと、半独立性の強い区域を表す国から中間管理職・任命制の地方長官が管理する「縣」の漢字の意味に合わせたことになります。
国のママでは半独立性があって中央集権を貫徹出来ない恐れ・・奈良時代の律令制導入が失敗に終わった経験から国のママでは都合が悪いと思って国を縣に戻したことになります。
我が国では縣を地方制度トップにするのは初めてのことであって旧に戻した訳ではなく、中央集権制で3000年も継続して来た本来の中国の制度に戻したと言うことでしょう。
このとき中国の古い制度を真似するのならば郡が上にくる郡県制であるべきですが、明治時代の中国では既に郡制がとうの昔になくなっていて省府縣制であったことも影響があったかも知れません。
ちなみに、真水康樹 氏の研究によりますと、秦の乾隆帝(乾隆35年といえば1770年頃?)以降の地方制度は省府縣制(直隷州を含む)だったようです。
これは府の下に縣が来る制度ですが、我が国明治以降の府縣制度は府と縣を上下関係ではなく対等にしている(今も上下関係がありません)点が違っています。
省を第1級の行政単位とする清朝の制度が、現在の中華人民共和国の省制度に繋がっているのです。
明治の版籍奉還が成功したのは、江戸時代中期以降には殆どの大名家が財政赤字に苦しんでいたことにあります。
大名家を取りつぶすだけならば、その大名の借金に将軍家は責任がありません。
しかし,版籍をそのまま引き継いだ以上・・会社で言えば吸収合併したようなものです・・引き継いだ政府の方で責任を引き継ぐしかないでしょう。
各大名家では財政改革(上杉鷹山その他が有名な大名家がいくつもあります、佐久間象山など改革で名を挙げた人物もたくさんいます)が行われていたことはご承知の通りです。
徳川家自体では享保、寛政、天保の三大改革がありますし、財政改革にある程度成功していた大名家は少数だったからこそ、彼らは幕末に発言力を持つのです。
大多数の大名家では財政赤字のために元々窮乏の極みにあって、地元商人層からの借金で首が回らなくなっていただけではなく、領内流通の紙幣類似のものを発行していて(当時は藩と言う名称がなかったので藩札と言う概念はありません)これが財政赤字に伴い累増していたのです。
成功していた大名家でも幕末動乱期になると無理して洋式兵器を買いあさったり、戊辰以降の兵役に参加せざるを得なかったりして、緊急の軍資金確保(戦争参加には巨額資金が必要です)のために大量の大名家家発行の紙幣類似のもの・・結局は借用証文みたいな効力ですから、国債や社債に似ているものの、小口ですから小切手みたいなものだったと言えます。
財政改革に成功していた大名家でも、幕末動乱で資金を使いはたしていましたので大量発行の藩札(慶応4年6月の政体書で藩と言う名称が生まれていますので、版籍奉還の頃には藩札と言うのは正しい)を償還することが不能になっていました。
朝敵になったことで有名な長岡藩(河合継之助のいた藩です)その他経済苦境にあった大名家は、一斉の版籍奉還前から独自に領地返納の申し出でをしていたくらいです。
多くの藩では発行済藩札や豪商に対する借金の支払不能状態・破綻状態でしたので経営権の返上を望んでいたことにあります。
今で言えば、経営破綻した銀行や企業を国有化してもらって自分は経営権を維持しようとする虫のいい思い込みです。
財政赤字の責任を明治政府に持って貰って、自分は責任をとらないまま藩知事に残れると言う都合(虫)の良いことを考えていたのです。
政府の方もこれに応えて版籍奉還後元藩主を知藩事に横滑りさせた(古代の国造を郡司に横滑りさせた例もありました)ので大名の方は安心したのでしょう。
政府は藩を承継した形ですから借金の責任を取るのですが、版籍奉還直後から藩札(この時には正式に藩と言っていましたので名称はあっています)回収命令を出し、これを市場価格で査定して回収することにしていました。
幕末混乱期の財政難のために各大名家では幕末から明治にかけて膨大な額の発行をしていたことから、殆どの藩ではデフォルト状態ですから、市場価格での政府負担・償還となれば、藩札保有者・債権者は表面価格の何十分の一に低下した市場価格で政府発行の紙幣を受け取ることになります。
債券が大暴落した時に額面で買い取ってこそ政府保障の意味ですから、市場価格で支払うと言うのでは、政府が責任を持ってやった事にはならないでしょう。
明治政府の紙幣発行制度について、01/16/07「不換紙幣と中央銀行の独立性1」で少し書きましたが、日銀券の発行が1885年に始まり、統一紙幣になったのは1889年のことでした。
廃藩置県(明治4年)の頃には、政府発行紙幣さえ存在しない時代でしたので、実際に政府から紙幣を受け取れたのは何十年後だったようです。

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