原発事故以降の市場の動きや経済界の動きとこれを受けた賠償支援法の成立は、少なくとも東電自体には十分な事故賠償能力がないことを前提にしていることになります。
一旦原子力事故が起きたときに業界あげても賠償資金を捻出出来ないような業界が、それでも原発の方がコストが安いと何故言えるのか不思議です。
原発賠償支援法では、東電自体に十分な支払能力がないことを前提に業界一丸となった機構を設立しますが、その機構も賠償に足りるだけの基金を集められず、自己資金では支払能力がないことを前提に機構が新たに社債を発行してその借金で支払う仕組みです。
しかし機構自体は何も生み出さない単なるトンネル会社ですから、東電から返済を受けない限りその借金を返すめどはありません。
結局は東電の支払能力にかかっているのですが、東電は巨額賠償能力がないことを市場は見越して東電株や社債の大暴落になっているのですから、東電から元利がきちんと帰って来て利息を付けて払えるから大丈夫ということでは新機構の社債は売れません。
そこで発行社債に対する政府保証をすることによって社債の発行をスムースにしようとするのがその中心的仕組みですが、1年後には原子力損害賠償法を改正して国の責任を引き上げて行く方針・・すなわち東電自体の責任を一部国が肩代わりすることかな?も付則に決まっているとマスコミで報じられていました。
前回紹介した条文によると「賠償法を改正する」検討課題になっているだけで、責任限定する方向性まで書いていませんし、一年とも書いていませんが、法案作成段階の議論ではそう言う含みだったのでしょうか?
賠償責任の限定をする付帯決議に反対する日弁連意見書が出てますので、条文ではない付帯決議にあるのかも知れません。
1年くらいでは、国民の怒りが収まるとは思えませんが、マスコミに騒がれなくなればこっそりと東電の責任を限定する方向へ改正するつもりなのでしょうか。
政府としては、全部東電・原子力発電業者の責任のままにしておいて、保証だけしている方が外形的には、政府支出が抑えられて、赤字国債の外形も増えなくて済むので本当は有り難いのですが、付則で(1年経過後に)事業者の責任限定する法の改正を予定しているのは、今回の東電の責任を免責するためでだけではなく、将来の原発事故による損害賠償リスクを見据えたもの・・・と言うことは再発がかなりの確度で予想されてるということでしょうか?
このまま無限責任・・加害者が発生した損害を100%賠償するのは当然だと言う当たり前のことを決めたままでは、今後事故があるたびに倒産の危機・・(関西電力中部電力その他すべてが)機構のお世話になり、政府管理される会社のようになってしまうのですから、どこの会社でもそれはいやでしょう。
国民には「事故など起きる筈がない・絶対安全だ」と宣伝しているものの、自分の会社が事故を起こす場合が一応想定されるので、その場合、全面的な損害賠償責任を負う・国の管理になってしまうのがイヤだと言うことでしょうか?
国債の場合は行く行くはデフォルトになるだろうとは言っても大分先であることは間違いないのですが、原子力発電の場合「いつか事故が起きるがずっと先のことだから・・」と言っている場合ではありません。
この原稿を書いている瞬間にも再び大地震・・事故が起きないとは限りません。
このままにしておくと、そんなリスクの大きい原子力事業から撤退したくなる業者が出かねないし、市場から見れば原子力業界の株式を持っていると東電の株みたいにある日突然数%まで下落するリスクがあるのですから、今から東電に限らず電力業界の株式や債券を誰も買う人がいない・・売りたい人ばかりで総崩れになってしまいます。
これを宥めて何とか原子力業界を存続させるためには、国民の怒り・・不安のホトボリがさめたら責任限定の法改正をするからという暗黙の了解ですが・・そこまで行かないと市場不安が収まらないから、付則(あるいは付帯決議で)に賠償法の改正と明記して成立したものと思われます。