円安効果(持続性)2

工業製品が競争に負けていて貿易赤字になっている場合、円安によって国内生産品の競争力がつくと半年から1年前後経過でその製品輸入が減って赤字が減るだけではなく、同じ製品が逆に輸出商品に変わるのでJカーブ効果が終わると貿易収支改善上、上下のダブル効果が出て急激に収支が改善し、その結果円安が終わり再び均衡から円高になって行くことになります。
ちなみに、均衡状態は殆ど瞬時の通過点ですので変動相場制では均衡状態が続くことは滅多にありません。
いつも下がり過ぎから上がり過ぎへという状態の繰り返しになるので・経済ファンダメンタルズを越えた行き過ぎ緩和のための為替介入は一時的には有効な政策です。
こうしたシーソー的効果を前提に為替の変動相場制が成り立っています。
しかし、資源輸入拡大による円安の場合、我が国には資源自体の国内生産がないので資源輸入による赤字化で円安になっても、国産資源の国際競争力がついて逆に資源輸出国に変換することはあり得ません。
燃費合理化しても輸入減には滅多にならないので、現在の国内総生産を維持した場合ほぼ同じ量の輸入を続けることになります。
円安になっても資源輸出国に逆転しないので、円安がドンドン進めば進むほど決済代金増加効果が生じて、貿易赤字は簡単に減って行かないでしょう。
この辺の理は工業製品等についても価格格差の大きい場合に同じことが言えます。
1〜2割の格差で競合している場合、円安による競争力強化が効いてきますが、数倍の価格差のある、あるいは品質的・ゼザイン的に太刀打ち出来ない製品の場合、2〜3割円安になっても部品等の輸入価格が円安分だけ上がってしまうリスクが生じてきます。
円安によって国際競争力を回復した製造業が生産を国内回帰すると生産増に比例して輸入が増えるので、原燃料あるいは上記2〜3割前後の価格下落程度では勝負にならない製品では却って輸入支払金が増えます。
円安がなくとも増えた輸入量に比例して決済代金が膨らみますが、これに円安による割高な決済が必要になる(・・円が2割下がれば原油輸輸入代金その他部品代金も2割増えます)ので円安は二重の赤字拡大要因となります。
円安によって国内企業と価格的に拮抗している輸入品を駆逐して逆に輸出産業になって行くとしても、燃料関係や大幅値段差のある製品等の輸入増・・支払い増加を凌ぐには普通の円安よりはより多くの時間がかかり、簡単には赤字解消が出来ません。
このように書いて行くと我が国経済は大変な事態に陥っているようで、心配する方が多いでしょうし、実際私は大変な事態に陥っていると考えます。
円安のマイナス点を冷静に見る必要がありますが・・我が国の場合、長年の蓄積がありますので、直ぐに食い詰めることはないのでそれほど焦る必要はありません。
この辺が私固有の逆張り的発想ですが、資源輸入急増による赤字の場合、製品輸出のちょっとやそっとの増加では、最悪10〜20年単位で黒字転換出来ない=円高に戻らない不安と円安効果を享受出来るメリットがあります。
蓄積がなければこの間に食い詰めてしまいますが、我が国は長期の赤字に耐えるほどの蓄積があるのでその不安はないのですから、ここは円安メリットの効果をじっくり見定めるのがよいかも知れません。
国内増産投資の可能性・・投資家マインドとして見れば、長期的赤字=円安定着どころかもっと進むと言う見通しがあれば、安心して国内投資出来るメリットがあります。
短期資金(投機的資金移動)の動きだけから見れば、短期の円安でもその差益狙いで株式相場は上がりますが、生産設備投資や雇用を誘発するには長期的円相場が重要です。
逆張り的発想で見れば、長期赤字継続=円安見込みが、国内産業回帰を願うものにとって天佑と言うか利点になります。
生産工場がかなりの規模で国内回帰・国内で増産投資して輸出しても、10年単位で原油等の輸入拡大・決済資金増加によって貿易赤字は解消出来ない・・ひいては、少しくらい国内生産が増えても長期的円安が続くとすれば、産業界は安心して国内増産投資して行けるので、今回の円安効果で海外進出の動きが緩和され、他方で国内投資が増えると考えられます。

円安効果(持続性)1

為替相場と国内産業問題に戻ります。
天災が多く、資源がない分だけ資源のある国よりも多く働いても国際収支が黒字化し難い・・円高になり難いし、かなり稼いでも黒字にならない・・真面目に働くのが好きな人にとっては資源国に生まれなくて良かったことになります。
高度成長期に都市近郊で生まれた土地成金の息子がすることなくて遊んでいると大体ろくなことにならなかった事例を多く見て来ていますが、個人でも国でも結果は同じです。
アラブ首長国連邦やサウジのように自噴している原油だけで豊かな生活が出来る・・国民は働かなくて良いと言われても(発展性がないし・・)日本人ならばヒマをもてあまして困るでしょう。
東北大震災直前までの円水準ならば貿易黒字のままだった・・すなわちまだ国際競争力があった筈ですが、(実際には大震災がなくともそれまでの継続的円高で体力が蝕まれていて、赤字転落直前だったところに震災の追い打ちを受けただけだったのかも知れませんが・・)原発事故の結果資源輸入が従来水準より多くなった分、貿易赤字が大きく膨らみ、その結果円安になりました。
これが恒常的かどうかが分らない場合、企業にとっては一時的に(円安差益で経理上)助かる・・精々株価が上がったり配当が増えるでしょうが、イキナリ海外工場を閉鎖して国内回帰への動きをするには躊躇してしまいます。
ただし、輸出競争が有利になるので、国内工場の増産が期待出来、(トヨタも国内増産すると言っています)他方で今円高で倒産しそうな企業が延命出来るでしょうし、海外展開予定だった企業はその準備を遅らせてその分国内増産投資に振り向けるかも知れません。
円高による貿易赤字の場合、対応努力しなければあるときの円高で比喩的に言えば10の企業が脱落した結果為替が均衡するところを、8の企業が円高適応してしまうことが多いので、8の貿易黒字が残るので更に円が上がる繰り返しで来たのが我が国の経験です。
上記のように今回の貿易赤字は近代工業製品の輸出競争力が低下してのことではなく、資源系の巨額輸入によるとすれば、競争力の適応努力の限界に来たという意識が企業人にまだないでしょう。
企業人の意識あるいは国民一般の意識として1〜2年は円安で持ちこたえてもやはり長期的には円高だろうと思う人が多いと国内新規投資は様子見になり勝ちです。
しかし、2013年2月26日に書いたとおり、いわゆる貿易赤字→円安にはいわゆる
Jカーブ効果があるので、放っておいても半年から1年くらいは逆に貿易赤字が拡大する(円安が更に続く)傾向があります。
(逆から言えば円高のときも同じ効果があって、競争力の均衡点を越えて更に円高が進んでしまう法則です)
一般論としての(どこの貿易赤字国にでも為替変動の結果生じる)Jカーブ効果だけではなく、今回の我が国の貿易赤字は原燃料輸入の急拡大による特殊性があるのでjカーブ効果を超えて貿易赤字が更に拡大すると見るべきでしょう。
円安になって国際競争力が上向いても資源輸入数量が同じ場合、その分の決済代金は円安に比例して(円が2割下がれば決済資金が2割多く必要になります)増加しますから却って赤字増加要因になります。
今回の円安傾向は円高による近代産業の競争力低下→貿易赤字の結果ではなく、(この場合企業の必死の努力の繰り返しで適応出来て来たことは上記のとおりですが・・・)燃料輸入の急拡大によるものですから、国内製造企業の責任でもないし省エネ製品化努力・国民の節約努力程度で輸入量を減らせる訳でもなく、増加した原油等の輸入代金が簡単に縮小しそうにもありません。

海外収益の還流持続性5(ギリシャ・フランスの選択)

この5月6日 (日本時間では7日報道)に行われたギリシャの選挙で経済危機対策として行われている緊縮政策に反対する政党が躍進し、フランスでもドイツと連携して緊縮政策を進めて来たサルコジ現職大統領が敗れ、公務員増加など緊縮よりも支出拡大を主張して来た社会党のオランド氏が勝利しました。
第1次世界大戦後巨額賠償金債務に参ってしまったドイツが、その反動としての開き直りの主張でナチスドイツが躍進したのを想起させる事態です。
フランスやギリシャではナチスのように、景気対策として軍需産業を拡大して隣国を侵略する力はないでしょうが、それでも債務を踏み倒す(「貧者の核兵器」みたいな権利です)ことは出来ます。
債権国の言いなりの緊縮生活は御免・お断り等の主張の結果は、どうなるでしょうか?
緊縮反対と言うことは「倹約して借金支払に努める約束をしたくない」ということですから、言わば開き直りです。
1国だけで支払い拒否すると国際社会から除け者になるので出来ませんが、南欧諸国やフランスその他がまとまって未払い同盟を結ぶと除け者にしておく訳に行かなくなります。
世界中では債務国の方が多いので、金融資本の横暴と言う大義名分を打ち立てて思想的裏付けを得れば、瞬く間に金融資本打倒・・未払いを主張する政治結社が出来てこの主張が世界中に広がるでしょう。
緑の党・環境運動などに比べれば実利があるので、多くの賛同を得易い筈です。
折しも金融資本の総本山でオキュパイウオールの運動が起きたばかりでもあり、金融資本の儲け過ぎ・・横暴批判の思想が広がり始めています。
一定時期・・例えば2020年1月1日午前零時を期してそのトキ現在の債権債務を全部帳消しにするという国際合意(国際的徳政令)が出来たらどうなるでしょう。
このような合意ではっきり損をするのは純債権国ドイツと日本くらいで、その他は収支トントンまたは得する国が殆どでしょうから、この合意(と言う協定成立は無理でもこうした風潮・・今の基準で言えばモラルハザード・・)が成立する可能性が高いのです。
貿易黒字で外貨準備が大きいと思われている中国でも、全部チャラに出来れば日本や諸外国からの投資(木の書いたようにこれらは金融債権・株式です)をすべて接収出来るので損がありません。
以前どこかに書きましたが、約千年も続いた今のイタリア・ベネチア共和国は、最後のころは金融資本で食っていて、スペインやイギリスに次々と踏みたされたことが衰亡の原因になりました。
日本は世界最大の債権国ですが、この蓄積のある内に高齢化時代を乗り切り、人口7〜8000万人程度の安定期を迎えられれば理想的ですが、中南米諸国の国有化の動きやギリシャやフランスの動きを見ていると予想外に早く資本収益の本国送金が許されなくなる時代が来そうな雰囲気です。
我が国が高齢者の方が多い頭でっかち状態の人口構成から脱しない状態で資本収益回収が出来ない時代が来ると大変です。
高齢者が過去の蓄積による資本収益の(年金資金の運用先の焦げ付きにより)回収が出来なくなり、他方で、ここ数十年では現役世代は自分の働きだけでは高齢化した親世代を養うことが出来ないことが明らかです。
そのときまでに、一日も早く少子化を徹底して人口5〜7千万くらいでの安定状態に持って行き、国民の多くが物造り従事しこれによる収入を基本として、これに付随した程度のサービスや商人・金融業者等の均衡のとれた社会になるべきです。
そうなれば、日本は所得再分配による格差是正の必要性が少ない社会になります。

海外収益の還流持続性4(外資の国有化)

生産基地としての中国の工場は、昨年来の人件費上昇政策の結果、立地する魅力が薄れベトナム等への工場移転もしくは、新規進出が盛んです。
これをもって、中国の高成長は終わりだという感想を持っている人が多いのですが、
世界最低賃金で勝負する時代から、もう少し中程度の賃金水準で輸出出来る国に引き上げて行きたいと言う中国自身の選択の結果と言えないこともありません。
中国は低賃金工場・熟練度の低い生産は民族資本で出来るようになったので、人件費アップ政策により、世界最低賃金を目的とした外資を事実上追い出しにかかっていると見ても良いでしょう。
「中国の人件費が上って来たからもっと安いところへ・・」とは言っても、すでに巨額投資しているので進出後数年で設備を叩き売りして移転していたのでは採算が取れません。
そこで、直ぐには撤退出来ずに中国国内でも出来るだけ機械化して高効率化、高度製品生産に日系企業は努力している・・中国国内企業レベルアップ化に協力している状態で、中国の思い通りの展開になっています。
こうした繰り返しで中国の国内人材はレベルアップして来て、中程度産業・・行く行くは高度産業でも日本の競争相手になって来るでしょう。
世界企業としては次々と次の新興国へ投資先を移動して行くしかないのでしょうが、どこへ行っても一定時間経過でその国への技術移転が進むしかないので、いつの日にか国際平準化が完成する時代が来れば、・・海外収益の国内還流方式も終わります。
タマタマ5月11日の日経新聞第6面を読んでいたら、アルゼンチンでは今年の4月に外資の国有化を宣言し、これにベネズエラが支持表明するなど国有化の動きが中南米で強まっているとのことです。
来日したペルーの大統領がペルー進出企業の国有化はしないと発言した(ので安心して投資して下さい?)と大きく出ていました。
中国のように進出企業で働いた従業員・・例えばコンビニ等で働いて接客サービスを身につけるなど実力を蓄えてから独立して、競合する日系企業を追い出すのは無理がありません。
これに比べて、中南米や過去のアフリカ諸国のように独立したときの勢い・強烈な民族意識だけで外資を国有化してしまうと外国人を追い出した後の運営がうまく行かず、経済が崩壊してしまうリスクがあります。
チュニジャやリビヤ、エジプトなどの民主化運動でも同じですが、現政権を倒した後に政権を担える人材が育っていないのに、感情に任せて現政権を倒すと混乱が続くばかりとなります。
国有化した国が混乱するか否かは別として、追い出された外資は大損害ですから、外国への直接投資の場合にはこのリスクを常に考慮していなければなりません。
ちなみに短期投資・債券や株式は外国の株を買っても、いつでも市場で売って逃げられるので工場進出のような大きなリスクがありません。
そこで、新興国では長期資金=企業進出の場合は、質に取ったようなものでかなり無理を言っても簡単に逃げられる心配がないし、国内技術水準の向上・雇用増加に繋がるので歓迎ですが、投機資金・短期資金の流出入に対しては厳しく規制しているのが普通です。
短期資金は逃げ足が速いので、(アジア通貨危機の原因になりました)アメリカの希望する金融自由化交渉においても新興国・後進国はその自由化には慎重です。

海外収益の還流持続性3(中国の場合)

中国政府は今のところ外資導入が必要なので黙っていますが、国内産業・人材が成長して外資と競合するようになれば、この主張が大きくなって・・政府がその気になれば直ぐに大規模デモになって・・現実化するでしょう。
当面最低賃金の引き上げや法人税率・社会保障その他の企業負担(事業所税や固定資産負担など)を引き上げて行けば良いので簡単です。
昨年から問題になっている短期滞在者に対する年金支払義務化もその一環です。
数年〜5〜6年しか駐在しない日本人は年金を払わされるだけで将来もらえないことが明らかですから、(どこの国でも年金受給資格としては一定期間以上の掛け金が必要です)社員は給与から天引きされる・この間の日本国内での年金受給期間が空白になると困るので2重に掛け金を支払わなければならないし、企業は半分負担させられるし・・「中国人を雇わないと損するぞ」という脅しです。
昨年来のギリシャ・欧州危機の結果、欧州からの投資が減って中国は今では資本不足に陥って、上海株式市場も人民元相場も大幅下落しています・・まだまだ自前の資金・技術が足りない国ですから、今のところまだ海外からの投資が欲しいので、年金加入強制実施が先延ばし(地方政府に一任する形式で)になっています。
技術は資本とともに入って来るので、技術を身につけるには企業進出=長期資本投資を求めざるを得ないのが今の中国であり新興国です。
サービス業を例にとれば、国民が接客態度その他を身につければ、将来的に外資が邪魔になってくるので、こうした形で、次々と日本企業を邪魔にし始めるのは目に見えています。
5月3日の日経朝刊では、中国の人件費が2割前後も上がって来て、生産基地としての魅力が薄れ、今後は消費地=市場対象国としての評価になって来ているという大きな見出しが出ています。
現に最近の中国アジア等への日本からの進出企業を見るとコンビニ系を中心に販売業種の進出が盛んです。
こうなると中国にとっては、輸出減・国内生産業が過剰になって来るので、製造系外資は邪魔になって来るのは目に見えています。
中国にとって外国資本は中国国内に投資してくれて輸出で稼いでくれる限り意味があります。
外国から進出した企業から技術を学んだ従業員が独立した国内民族資本で輸出出来るようになったり、外国資本の生産品の輸出が鈍化すれば製造系外資は邪魔なだけです。
デパート・コンビニなど内需型で稼ぐ産業の場合、日本的サービスが身に付きさえすれば何かと嫌がらせをして追い出しても、同レベルに達した国内企業・人材が入れ替わるだけで損がありません。
実際このような状態になって来ると競争激化で、収益率が低下するのが普通ですので海外からの投資収益の回収率自体が低下して行きます。
従業員のレベルが外資でも民族資本でも同じようになれば、外資は民族資本に太刀打ち出来ません。
外資がよその国に進出してやって行けるのは、技術レベルに格段の差がある場合に限られます。

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