アメリカの自治体1(法定市と憲章市)

アメリカでは自治体が各州ごとに独自の発展をしてきたとはいえ、結果的に今では自治体の大枠は一般法定市と憲章市の2種類に大別されているようです。
http://www.clair.or.jp/j/forum/series/pdf/h18-1.pdf1
カリフォルニア州の地方自治体について東海大学政治経済学部政治学科教授牧田 義輝氏によれば以下のとおりです。

第2節 カリフォルニア州の政府構造
1 地方政府は自治化区域と未自治化区域に別れる
州内の統治、行政サービスは、州政府の責任である。州政府は、そのために州域内をく4まなく区分し、カウンティ政府を作って、地域の問題に対処し行政サービスを行うのである。しかし、人々が自らのためにサービス機関としての自治体を作ったほうが良いと考えた場合、地方自治体を創設するのである。
このようにして自治体はますます増加傾向にある。今日では、多くの州で自治体の新しい創設に制限を設ける傾向にあるが、「結論」で述べるがアメリカ人の思想では、自治体政府を富追求の手段と位置づけるのが多くの研究者の見解である。このような考えから今日でも依然として多くの自治体を作っているのである。
カリフォルニア州には、「カウンティ」は、現在 58 機関存在している。カウンティは、州内の行政に責任をもつ州政府の任務を遂行するために設置されているが、その意味で「準自治体」(または、州政府の下部組織であるとして「半自治体」という人もいる)といわれている。
カリフォルニア州においては、統合された自治体として「市・カウンティ」がある。例として、サンフランシスコ市・カウンティ(City and County of San Francisco)、ロサンゼルス市・カウンティ(City and County of Los Angeles)として存在する。
このほか、地方自治体は、通常「市(City)」であるが、「町(Town)」と呼ばれる場合もある。その町にも「自治体化された町(Incorporated Town)」と単なる「町(Town)」といわれる「未自治体の町(Unincoporated Town)」がある。さらに「村(Village)」といわれる場合は、すべて未自治体である。
2 特別区政府 (special district governments)
特別区政府は、「一般目的地方政府 (カウンティ、市、町、村など)から実質的に管理・財政上独立し、限定的な目的をもった自治政府機関」である。ここでの定義からは、日本の「事務組合」などとは異なっている。なぜなら、日本の場合は、ほとんどが自治体を母体として、そのための広域行政であるからである。つまり、日本の事務組合などは、財政的に人事的に独立しているということはない。
特別区政府は、近年増加傾向にある。その背景には、大都市圏問題の多様化と深刻化の中で広域需要が増大してきていることがある。これに対応して自治体統合や連合などの方式によって広域自治体を作った方が得策であることはいうまでもない。しかし、このことによって公選公務員や職員が削減されることに対する反対、また個々の自治体の強い自治意識が阻止要因となって、広域自治体の実現は不可能である。それで、その妥協の産物として特別区が増加しているのである。
第3節 カウンティ政府
1 アメリカにおけるカウンティ政府の状況
カウンティは、約 1,000 年前のイギリスのシェア(Shire)に起源があるとされている。
当時、市民政府であると同時に国家政府の行政を受け持っていた。合衆国憲法の起草者達は、カウンティを州の問題とし、州の行政手段として位置づけた。
カウンティ政府の最高意思決定・執行機関である理事会(カリフォルニア州では、board of supervisors”、本報告書では「監理委員会」と訳している。なお、他の州では通常“board of commissioners”と呼ぶ)は、条例・規則の制定、予算案の審査・採択などの立法責任、それらを執行し、首席行政官、および部局の活動を管理監督する行政責任などを持つ。通常、理事は、小選挙区制で選出され、4年に1度の選挙で選出される。
2 カウンティの創り方、憲章の制定・改定
知事は、カウンティの創設が住民から提案されたとき審査をする「カウンティ形成審査委員会(County Formation Review Commission)」を作り、5人の委員を任命する。
カウンティ憲章の制定、および改定の手順は、カウンティ監理委員会のメンバーが過半数以上の賛成で採択された条例に基づいて発議される。条例の制定には、直近の選挙によってカウンティの有権者によって選出された 15 名の有権者から構成される憲章委員会の選出が必要である(Code Sec.23000-23027)。
6 カウンティ政府と広域行政
・・・カリフォルニア州同様、アメリカには連合型の広域政府が一例としてない。1960・70 年代に犯罪、福祉、暴動、環境、人種差別問題が大都市問題として噴出したときこれらの問題を解決するために大都市圏総合広域政府の創設の提案が、全米で 100 例以上提案された。
しかし、この種の広域政府は実現していない。
このようにカナダなどでは多数作られている連合型広域政府でさえ作られない理由は、地方自治体の自治権が強力であることに尽きる。カナダなどの場合、たとえば「トロント大都市圏自治体」の設置のように上位政府である州政府の議決で創設できるのに対し、アメリカの場合は大都市圏広域政府を作る場合に近郊自治体と中心大都市自治体の利害が不一致である場合(人種、経済格差、文化、環境などほとんどが利害対立しているが)住民投票において近郊の多数、中心都市の多数をそれぞれ要件とすることなどによってすべてが挫折したのである。
第4節自治体政府
1 自治体の権限
自治体政府 (municipal governments) とは、「一定地域に集住する人々に対する政治区画であって、一般目的地方政府として設立される自治体法人である」と定義されている。自治体政府は、具体的にどのようなサービスを行い、またどのように課税するかについて自ら決定することができる。それはサービスを提供する「企業」を作るという考えに似
ている。しかし、自治体は無制限に自治権を有しているのではない。
2 一般法定市と憲章市
このように州政府(日本ならば基本的に国家)は、自治体に権限を与えるに制限列挙方式であるが、しかし自治体に広範な自治権を与えていることも事実である。
アメリカの場合、自治体を作るということは、自治権を与えるということであり、州議会が憲章 (charter)を与えるということである。1850 年頃まで州議会は、自治体を設置する毎に特別立法を制定していた。しかし、それは、いかにも繁雑で非効率的であった。結果として、今日では、自治体の作り方に2つの方法がある。
1つの方法は、自治体の人口規模や課税資産価値などによって類型化し、あらかじめ州議会によって制定された法手続きに基づき自治権を与えるという方法である。カリフォルニア州においては、「一般法定市(General Law Cities)」と呼ばれている。
もう1つの方法は、自治体が独自に憲章を作る場合で、通常ホームルール憲章といわれる。この方法は、ホームルール憲章を州議会が認める場合と、州憲法に付与されている権限に基づき憲章を作る場合がある。

カリフォルニア州の場合は、「憲章市(CharteredCities)」と呼ばれる(Code.Sec.34101- 34102)。
(1)一般法定市政府
一般法定市政府は、州法によってあらかじめ定められた手順によって市(自治体)を作
る。次のような職制が定められている。
(a)最低5名からなる市理事会(b)市書記(c)市財務官(d)警察署長
(e)消防署長(f)法によって規定されている下位公務員・職員
(2)憲章市

要は、州のモデル通り設立するのが法定市と言い、自前の定款で市をつくるのが憲章市ということでしょうか。
ただし自前の 憲章を作れると言ってもホームルール法で決まった範囲の自由度でしかないようですし、法定市と憲章市の 違いを書いた以下の比較表表を見ても議員定数や報酬の基準、任期や再選回数の制限など・・それほどの違いはないようです。

表1 一般法定市と憲章市の比較
特徴
政府形態
一般法定市  州法が政府形態を設立するために市理事会が行う手続きを規定している。
憲章市    市長制、または市支配人制を含むいかなる政府形態も採用できる。
契約
一般法定市  公共事業の契約 5,000 ドル以上の公共事業の契約には競争入札が要求される、等。
憲章市  競争入札が要求されていない。交渉力による契約が用いられるかもしれない
その他省略

アメリカの州・郡(County Government)と市町村の関係2

アメリカの場合、州の規模が大きいので隣の州で日常規制・ごみ収集方法が違ってもあまり関係がないと言えば分かり良いでしょう。
例えば、関東地方だけで7都県もありますが、アメリカの場合で言えばカリフォルニア州の何分の1です。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q116683326によると以下の通りです。

カリフォルニア州面積:411,045平方km
(日本の面積の1.1倍)

以上のように州(ステート)と連邦の成り立ち・・歴史が違う上に事実的な意味を持つ面積規模もまるで違うアメリカの州の連邦の政府に対する自治権を理想化して日本の小さな都道府県や市町村に当てはめる議論は間違いです。
アメリカの場合、主権国家内の自治権というよりは独立国の条約による連合体・・EU加盟国がマーストリヒト条約等に従う義務によって、もともと100%あった主権が制限されている関係と見るべきです。
上記歴史経緯や地理条件などを総合すると、州に対して郡(County Government)や市町村がどのような自治権を有しているかの研究こそが日本の自治の参考にすべき基準です。
以下はカリフォルニア州政治に関する17年10月7日現在のウィキペデイアの記事からです。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%82%A2%E5%B7%9E%E3%81%AE%E6%94%BF%E5%BA%9C地方政府

「カリフォルニア州は郡に分割されており、郡が法的な州の小区分である[8]。州内には58郡があり、480の都市、約3,400の特別地区と教育学区がある[9]。特別地区は具体的な公共計画と公共設備を有権者のために運営し、「その境界の中で行政的あるいは所有者としての機能を果たすための州の機関」として捉えられている[10]。
地方政府の権限の詳細を支配下に置くために州議会は1963年にサンフランシスコ郡を除く全郡に地方機関結成委員会を創設した。」

その境界の中で行政的あるいは所有者としての機能を果たすための州の機関」ということは、要約すればこれと言った自治権がない・・州政府の末端行政機関であるかのような位置付けです。
別の記事を見ると郡は条例制定しても市の批准がないとその市内では適用できないというので相応の条例制定権があるようですが、上記カギ括弧書きの要約と合わせると州政府の下位機関としての行政執行を具体化する範囲程度のイメージです。
そこで各州と郡を一体として・・市町村の自治体との具体的な関係を見ていきます。
自治体とは何か?政府とは何か?となると意外に難しいのに気づきます。
昨日書いた通りアメリカは、もともと独立国家の連合体ですから、州内の統治をどうするかについて連邦憲法に何も書いていないことになります。
ですから州政府と郡や自治体との関係も州ごとに違うことを前提にする必要があります。
そもそも州の憲法事項になっているかを最初に問題にすべきでしょう。
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/zk079/zk079_02.pdfによれば以下の通りです。

2.2
地方政府の法的位置づけ10
地方政府は各州ごとに州憲法や州法によって規定されており、その種類や機能は一律に定義することができない。歴史的には、地方政府を州の一部局として自治の範囲を狭く解釈する見解と、州からある程度独立した組織として自治の範囲を広く解釈する見解との対立があった。
地方政府の機能や権限を狭く限定的に解釈する前者の代表としては、
「ディロンの法則(Dillon’s Rule)」と呼ばれる解釈基準がある。この基準によると、地方政府は州憲法や州法によって付与された権限のみを行使することができる。
一方で、地方政府の固有の自治権を主張する議論として「クーリー・ドクトリン(Cooley’s Doctrine)」が挙げられる。クーリー裁判官は1871年にミシガン州最高裁判所で、「州憲法による黙示の制限」によって地方政府の権利は州議会の権力から保護されており、「純粋にあるいは基本的に地方的な事務については、地方政府の法が州法に優先する12」と述べている。
・・・・このため、南北戦争の頃になると州議会の過剰な介入に反発した地方政府や住民が、地方の自治権を主張して各地でホームルール運動を起こすようになった。この運動が一定の成果を挙げて、各州の州憲法や州法において、人口等の一定の条件を備える地方政府に対する、州政府の介入を制限・禁止する規定や、州憲法や州法に違反しないことを条件に、地方政府に自治憲章を制定する権利を認める規定が定められることで、地方政府の自治が保障されるようになった。ただし、実際にはこの特典が得られる地方政府は限られており、また自治憲章に関する規定は州憲法や州法にもとづいている。自治憲章のための権限は、あくまでも州政府から地方政府への授権であり、州政府から独立した自治権を地方政府に与えるものではない。」

以上要するに州法で許容される範囲の自治権しかないということでしょう。
各州が自由に決めてきたとは言っても江戸時代の各大名家が周辺大名家のいいところを吸収模倣して行ったように時間の経過でおのづと共通化していきます。
アメリカでは学校制度から何か何までいろいろあって自由な国だという評価する人が多いですが、ただ発展段階が原始的〜初歩段階にあるからに過ぎないのではないでしょうか。

非武装平和論7と国連憲章の旧敵国条項

国連憲章(日本語版)を読んでいると日本は旧敵国条項の対象になっていて、旧敵国が「侵略政策の再現」→国連秩序・戦後秩序に挑戦しようとする場合には、安保理事決議がなくともどこの国でも単独軍事行動をすることが出来る・・違法な侵略にあたらないと言うお墨付き条項があります。
日本が竹島を奪還しようとしたり、もしも尖閣諸島が中国に占領されたときにこれの奪還作戦をしようとすると、中韓は安倍政権が戦後秩序違反・侵略を目論んでいると主張さえすれば、(戦争に際しての本当の正義は誰にも分らないので、主張だけで足りるのが怖いところです)いつイキナリ日本攻撃をしても安保理事決議のない違法な軍事行為の批判を受けないお墨付きになっています。
以下は、国連広報センターからの条文引用です。
http://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/
「第53条

安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極または地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。
本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。」

日本が中韓による突然の攻撃・侵略を受けても、日本が侵略しようとしたからと言えば、安保理は違法と言えません。
安保理は当てに出来ないので、日本は実力で守るしかないのですが、それには、アメリカとの相互防衛協定が必須と言うか最有効です。
日米安保条約があると、中韓がイキナリ攻めて来てもアメリカが撃退してくれる・兵器供給などで応援してくれるので、安保理事の停戦命令決議がなくとも何とか守れるという歯止めが期待されています。
これまで何回も書いていますが、政治運動は机上の空論・学術論文ではなく、現実の効果を国民に及ぼすためにあるのですから、その意見どおりにしたらもたらす効果が何か、どんな効果を期待しているかこそが重要です。
政治運動する人は、すべからくどのような効果を期待しているかの立場を明らかにすべきです。
古来からの祖法と言われた鎖国制度でさえも、明治維新で必要に応じて開国に変更したように、非武装論者が有り難がって已まない日本国憲法が日本の先祖が作った祖法や家訓であっても時代に合わせて変えて行くべきです。
まして、日本国憲法はアメリカが仮に善意で強制して作ったとしても、その条項が現実世界で合理的かどうかの検証すること自体を忌避する理由がありません。
これを被支配者であった日本人が金科玉条にして、もたらす結果の合理性の有無よりはアメリカの強制した憲法に反するかどうばかりを基準にするのは、不合理です。
古代から異民族支配したときに、属国の武器まで全部取り上げてしまうような酷い支配をするのは、その民族を消滅させてしまう目的のときだけです。
民族自決。国民主権精神の発達した現在社会で、日本の降伏/占領と同時に全面武装解除してしかも、将来にわたって一切の軍備を持たせないようにする憲法を押し付けたアメリカの意図は、工業生産の全面禁止とあわせてみれば、推して知るべきです。
話が変わりますが、強制されたかどうかに関わらず米軍占領によって改善された男女平等や国民主権等の精神など良いところはそのまま取り入れて行くべきでしょうがから、誰が作ったかではなく、要は内容の合理性を基準にすべきです。
永久的に非武装化を目指した部分は、独立を保つべき国際基準(主権国家の尊重)から見ても非合理ですから、変更して行くべきです。
非武装論者と重なる左翼文化人は、何かにつけて「世界ではこうなっている」「国連人権規約ではこうだ」世界標準主張が大好きなのに、どうやって日本民族を守れるかの議論なると「憲法に書いてある」と言うばかりで議論から逃げているのは、非武装で自国を守れると実践している民族や学説は世界中探しても皆無だからではないでしょうか。

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