発展を急ぐ社会3と文化

欧米価値観では、在任期間が長かったことや、非合法に会社資金流用していたとすればそのことだけが批判対象でしょうが、日本価値観ではコストカット=容赦なく切り捨てる経営自体が上に立つ者がやってはいけない暗黙の合意のある社会です。
せいぜい許されるとすれば、日産の危機回避のためにやむなくとった非常手段としての位置付けですから、一段落したら整理の責任者が元社員を訪ねる陳謝の行脚をしなければ許されない・「辛い思いをさせましたが皆様の犠牲があって、今企業が立ち直れました」・・)風土です。
こういう風土ですから「身を引いた人たちの犠牲の上にある」という意識・・今の繁栄が自分の手柄のように自慢するようなことが許されない社会です。
(毛利や上杉が所領大幅減にも関わらず家臣団をそのまま維持し続けたことが美談として伝わる国がらです)
ゴーン氏が豪奢な生活をしていたとなれば国民感情として納得できない・・単なる義理も人情も弁えない「コストカッターだっただけでないのか?」
という激しい評価(日本人は慎み深いので表明されませんが・・)になりました。
欧米価値観からは、「いい事をしたのに日本人から感謝されていない」のは理解不能でしょう。
平成天皇がアジア各地の戦跡をめぐる鎮魂の旅も「今日本人の多くが豊か生活を謳歌できているのは戦陣に倒れた多くの御霊による」「安心してくだい」という報恩の旅でもあったでしょう。
粗放経済・・製造現場は流れ作業.小売業はスーパーやコンビニでは商品知識よりは陳列の合理化だけが重視されるようになると「非正規だから」技術の伝承が途絶えるのではなく、ちんれる作業やレジ打ち作業員を正社員にしても商品対するうんちくが高まることはありません。
アメリカでは もともと書店や喫茶店オーナーがうんちくを傾けるような新たな文化を発酵させていくような人材がいないからこそ、これが成り立ち誰も不満に思わないのでしょう。
発酵と腐敗とは違いますが・・・アメリカ人の多くは時間があれば「発酵」せずに「腐敗」方向に行くのかもしれません。
「小人閑居して不善をなす」と言います。(君子必慎其独也,小人閑居為不善)
日本人からアメリカ人を見れば凝ったものなど理解不能・・安もの好き国民性印象になる所以です。
流れ作業をこなす程度の仕事→全自動化が行き着くところ、アメリカが大量に抱える非熟練労働者レベル・・さしたる訓練のない新興国や消費地でも生産可能になったので、アップルに代表されるようにほぼ全て新興国へ生産移管してきたので米国が汎用品の世界生産基地でなくなりました。
低賃金あるいは工程簡略化に頼るビジネスモデルの場合、そのモデルさえ利用すれば(流れ作業の手順をこなせればいいのですから)ちょっとした訓練さえすれば、どこの国でも生産ができるようになります。
工程簡略化・・関与人員削減の場合、従来1000人で行っていた仕事を500人〜100人へと減らす工夫でしかないのですから、その結果余剰になった人員をどうするかの知恵がいります。
この工夫・受け皿なしに人員削減ばかりで切り捨てて行くと切り捨てられた人材がどうなるかです。
関ヶ原の結果、大規模に領地縮小した毛利や上杉家が、縮小した財政力で元の家臣を養ってきたことが知られています。
勝者となった徳川方の大名も戦闘員としての武士が不要になっても武士を放逐しませんでした。
武士自ら有能な官僚や文化人に変身していったし、(芭蕉も酒井抱一も元は武士で平賀源内は足軽です)農工商分野でも効率化によって生まれた余剰時間を精密農耕化していったし・・作庭〜盆栽その他手間暇かけた文化・・浄瑠璃〜歌舞伎〜俳句、狂歌/川柳への発達、大和絵から浮世絵〜工芸では漆器(手間のかかる蒔絵など)や細工物など衣類では、友禅染などを育てる歴史でした。
アメリカ人の多くは効率化一辺倒で、効率化によって浮いた時間を文化創造等に転化する能力がないように見えますがいかがでしょうか?
日本は過去の文物の修復技術に情熱を燃やすひとが多くそのレベルも世界一級ですが、アメリカでは用済みにならば「ぶっ壊す」ばかりのようです。
日本企業はアメリカのご機嫌をとるために現在アートを重宝がるしかないとしても、見に行くと着想(思いつき?)主義で修練というものを重視しない印象を受けます。
アメリカ流の品種改良・F1の草花は、いくら大事に育てても次世代の花は咲かないし改良にも適しません。
スクラップアンドビルドの精神・・・不要になった人員の解雇・切り捨て文化です。
日本では社内教育が盛んですが、底上げ努力しないで切り捨てに特化していると、新興国がローエンド製品を製造するようになると先進国の同レベル人材は製造現場から弾かれます。
新興国並みの生産性しかないローレベル人材をどうするか?・・過去大量に仕入れた?移民が重荷です。
アメリカはこの数年シェールガスで元気を取り戻したように、資源国としての生き残り程度が能力相応?になってきたのを見ると、建国約200年でメッキが剥げてきたようです。
生産基地の新興国展開が始まった結果、アップルで言えば全量中国生産になっているように国内ローエンド製造業が壊滅とまでは言わないまでもお荷物になったのは間違い無いでしょう。
腕力に任せて「米国内生産しないと許さない」というので、トヨタや日産など日本勢は米国内生産・旧来型労働者の雇用確保に協力していますが・・言わば第二次奴隷解放・低レベル労働者の放逐が始まったことの隠蔽・ごまかしでしかないでしょう。
米国に本籍のある企業の場合は、アメリカ社会の本質を知っているし、選挙権者でもあるので政権による脅しなど怖くないので、気楽に米国内生産に見切りをつけてさっさと国外生産移転を進めています。
自分らは安い賃金の国に進出して儲けられるだけ儲けるので、割高賃金雇用を任せるよ!・・トランプのババ抜きのババを「外国資本に引き受けさせれば良い」というのが、彼らの目先損得勘定でしょう。
その代わりゴツく儲けたお金(の大部分はタクスヘイブンに隠して?)の一部を寄付するから・・と言うのですが・・こんな身勝手な企業経営者を国民が許すしかないほど国民が弱いのです。
日本のような愛すべき国民はいない・搾取対象の人民しかないと言うことでしょうが・・・。

発展を急ぐ社会2(アメリカの場合)

奴隷といっても3月1日書いた通り生存保障が前提でしたから、(牛でも馬でも死んだら元をとれません)奴隷廃止=保障なしに放り出せばいいのでテイのいい終身雇用の切り捨て政策だったことになります。
GMが過去の退職者に対する年金債務の重圧に耐えきれずに破産申請して身軽になったやり方と似ています。
「奴隷解放」とは言うものの終身養ってくれる前提で何の貯蓄もなく(賃金がないのですから貯蓄ゼロは当然です)文字も教えられず生きてきた奴隷が、奴隷解放の名目で無補償で露頭に放りだされた場合、彼らにとっては実は大変なことだったのではないでしょうか。
発展中の近代工場労働に転職できた人もいたでしょうが、何の教育も受けない元奴隷にとっては多分ごく稀な例で、大方の元奴隷にとっては単純に野に放たれた状態となります。
長年飼っていた牛馬や犬や猫を生物皆平等といって「解放すべし」と言って単純に野に放てば多くの犬猫ライオンその他動物は飢え死にします。
いきなり元のアフリカの大地に大量に戻しても、餌を取る能力退化もあり大量死が待っているでしょう。
人間だって同じことで母国と縁が切れて何十年もたった人が母国に帰っても生活基盤がありません。
奴隷解放するならば1世代以上の期間をかけて次世代の職業教育してからにすべきだったでしょう。
なぜそんなに急いだのか・西欧に一刻も早く追いつきたい焦り・この辺は中国も同じです・が社会の変化をゆっくり待てない心理だったのでしょう。
中国も米国も産業構造高度化に取り組んでも高度産業に対応できる労働者がゴマンといるから心配ないということでしょうが、仮にそうとしても社会には表通りと裏通り・高級品〜中級品〜最低の形だけのものなどを売る店のように雑多な混合が必要です。
支配層や産業資本家としてはどんどん近代化し、適応できない従業員を切り捨てれば良い・・・ローエンド製品しか関与できない人材には最低賃金を引き上げて対応すれば良さそうですが、ハイエンド製品対応社会になると物価があがるので最低賃金を少し引き上げる程度では、まともな生活ができなくなります。
高級住宅街や高級ショップの並ぶ商店街は底辺層に住みにくい地域になる一般的現象を見てもわかるでしょう。
そこで最低賃金を引き上げという発想になるのでしょうが、時給900円を1000円にしたところで一泊数万〜5万円以上のホテルに泊まる身分になれない点は変わりません。
逆に生産性以上の賃金にすると採算性の悪い商店などがバイトを雇えなくて廃業してしまい、アルバイト先がなくなってしまう弊害が起きているのが韓国です。
韓国文政権による最低賃金引き上げによる零細事業の閉店ラッシュ・失業増加です。
奴隷解放とか急激な近代化より、徐々に産業構造・労働者が入れ替わって行くのを待つ方が無理がなかったように思えます。
性急な社会変化がその後もアメリカ社会変化の常態になって現在に至っているように見えます。
一定レベルに達したらその次のステージ・・じっくり文化を育てる能力がないのを開き直って変化の速さを自慢してきたようです。
功成り名を遂げたら次は文化に勤しみ楽しむのが日本の価値観ですが、アメリカは成金になれば、文化に勤しむのではなく、追いかけてくる新興成金にせっかく掴んだ成金の地位を脅かされるのが怖い・いつも「前年比成長」していないと気が休まらない社会です。
何かある都度「変化の激しい国際社会」に乗り遅れるという説明が日本知識人?の基本意見・立場ですが、変化が激しいのは文化を楽しめるようになるまでの過渡期・病病理現象でないか?という意識がないのです。
敗戦で焼け野が原にされた結果やむなく国民一丸になって「24時間戦えますか!」のフレーズでむしゃらに復興に努めてきただけのことで、ここらで一息つき独自文化を育むべき時期がきた・これが平成の時代であったというのが私の価値観であり、いつまでも前年比何%成長にこだわるのは恥ずかしいことです。
個人でいえば若い時には寝食を忘れて稼ぐのも良いですが、一定の成功を収めたら事業拡張一点張りから家庭生活・文化を楽しむ生活に切り替えるべきというのが私の持論ですし、わたしの家庭はそのようにしてきました。
繰り返し書いていますが、平成の時代は失われた20年ではありません・・落ち着いて身の周りを振り返るべき時がようやく戻ったよき時代です。
余剰人員が出る都度放り出している社会では、放り出された落ちこぼれが大量に排出されます。
・・飢えた猛獣がたまに人を襲うように黒人のための技能習得政策なしに大量放置すれば治安が乱れ、黒人への不満が高まる悪循環でした。
「犯罪率も高いし黒人差別されるのは当然」という差別擁護論も起きてきますが、なんの教育もせず動物のように育ててこき使った挙句にいきなり放り出す方が悪いのです。
奴隷解放後もアメリカの産業構造はベルトコンベアー方式に代表されるように熟練の技を求めず大量生産・粗放農業による低価格出荷競争が主眼でした。
熟練の技では歴史の長い出身母国と競争できないので非熟練者の有効活用を狙った点は、新発見でした。
アメリカの成功以来、世界中が組織内での訓練によるレベルアップ競争よりも、(1時間に10個作れるひとを15個作れるように訓練するよりは)作業手順の分解・分業の合理化でトータル同じようになるならば安い人件費で済む)方が競争原理上有効という価値観が世界を支配するようになります。
熟練工や手の込んだ高級品質を求めず「低レベル労働者を安く利用して中間レベルの製品を大量に安く生み出す」工夫に重きを置いてきた歴史というべきでしょう。
小売業でもスーパー方式の開発でコストカットし、今でもスターバックスやマクドナルドなどレストランその他チェーン展開による大量出店(質より量)で稼ぐ本質です。
今飛ぶ取り落す勢いのアマゾンでも、要はより良いものを作る能力を売り物にしているのではなくビジネスモデルの優位性・・ネット通販による大量収集した顧客情報分析による売れ筋把握→売れ筋商品投入の速さを囃しているにすぎません。
最近刑事事件として脚光を浴びているゴーン氏の功罪は、短期的コストカッターとしての役割を果たしただけで、その後必要な新たな価値創造能力がなかったのに、その後も君臨し続けたことが白日のもとに晒されています。

発展を急ぐ社会1(中国の場合)

中国はいわゆるチャイナプラスワンによって国内経済成長失速が怖くて、焦って次々と次のレベルに突き進んでいるように見えます。

まだ使える機械類をもっと性能の良い機械に変える・・先進国がこれを行うときに、機械の場合には中古機械を後進国へ輸出すれば除却損を低減できますし・輸入国は高額投資しないで済むので中韓等が日本で陳腐化した最先端に近い半導体装置等を二束三文(日本企業としては持って行ってくれるだけでも廃棄コストが浮く)で入手して急速に生産を伸ばした事業モデルでした。

一般に知られているパターンでは、日本で古くなった電車車両等を後進国へ無料で提供しているのと同じ考え方です。機械と違って人間の場合、途中でいらなくなったからといって、タダでよその国へ押し付けられない点が違います。早く労働者を回転したいのに先進国より逆に高齢化のスピードが早いのが新興国の流れです。https://ecodb.net/exec/trans_image.php?type=WB&d=LE00IN&c1=CN&c2=JP&s=&e=(世界ネタ帳)からの引用です

改革開放開始直後には平均寿命が67歳前後だったのが、16年では75歳を超えていて日本との差が約10歳から7歳前後に縮まっています。
https://spc.jst.go.jp/event/crc_study/downloads/study63.pdfによる中国の労働者の学歴分布です

上記によると求職者に占める中卒求職者の比率が200年で73%、2010年でもまだ4割を占めています。
20年後の2020年でも35歳労働者中で、中卒が73%、25歳の中卒40%です。
この膨大な中卒労働者が高度産業従事者にいきなり変身できるはずがありません。

社会の安定的変化には1世代以上の時間軸が必要ですが、この時間を待てない新興国が米国であり中国のようです。
中国の政治家は産業レベルの変化に付いていけない彼らの失職後=老後?をどうするかの展望がないママ・・・国民が次のステージに備えて十分な力を蓄えないうちに次々と産業のステージを引き上げて行くのに必死ですが、取り残される彼らの生活をどうするつもりでしょうか?
多くの新興国が「中進国のわな」段階で足踏みしている・・最低賃金をむやみに引き上げないのは、「無理しない方が良い」という相応の理由があるのです。
https://spc.jst.go.jp/event/crc_study/downloads/study63.pdfからの引用です。

中国の人口変動と労働市場の構造変化
厳善平(同志社大学)2013年8月29日(木)

上記は13年までの統計ですがhttps://www.jetro.go.jp/biznews/2018/06/c29d7cd2530c6ef1.html2018年06月27日によれば、18年6月から深センでは月額2200元ですから、13年1620から25%くらい上がっていますし、時給も20、3元ですから、日本の千円前後の2倍になっています。

急激な引き上げによってチャイナプラスワンが進み、深圳等の万単位の工員を使って大量縫製していた工場がガランとしてしまった状況が映像報道されていました。
(バングラ等が今や大量生産基地になって久しい状況です)
現時点でもどんどん海外移転が進んでいます。
以下は中国企業自体の海外移転事例です。
https://diamond.jp/articles/-/179226?page=3

 

2018.9.10
深センで始まった工場移転、「世界の工場」を襲う人件費・家賃高騰
東莞からアフリカへ 5万人規模の工業団地を

このように最低賃金を引き上げると自国企業でさえ低賃金を求めて工場移転してしまうのですが、それに対し開き直って、ローエンドからハイエンド製品への産業構造変更・先進国が応じないならば自国開発を宣言したのが中国です。
そこらの後進国とは民度が違うという宣言です。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC