中国の比重アップと欧米の威信低下

ここ数日米国の世界経済における比率低下を見てきました。
それでも経済制裁が相応の効果があるのは、(対中貿易が30%で対米貿易20%の場合でも)その他の日欧が米国の制裁に大方強調することで、世界貿易量では圧倒的多数を占める制裁を受けるから威力があるのです。
米国が世界貿易の過半を占めているときにはその威力が絶対でしたが、上記のように比重が下がってくると「いじめっ子?」締め付けに周囲のどれだけが積極的に同調するかにその効力がかかってきます。
それには、「弱いものいじめなのか?」「大義があるのか」が重要です。
中国が対米対抗意識を燃やし始めると、米国に大義があろうとなかろうとロシアや北朝鮮のように中国が原油を買ってくれれば問題がないという国が出てきます。
17年の数値では北朝鮮輸出の95%前後が中国と言われています。
15年のデータでは以下の通りです。
https://www.newshonyaku.com/

北朝鮮の貿易国と輸出入について調べてみました。

2017.09.06

MITの経済複雑化観測所(Observatory of Economic Complexity)からの2015年のデータに基づいて、北朝鮮と取引する国が視覚化できるサイトを見つけたのでご紹介します。

主要輸出先トップ5

1.中国(23.4億ドル)
2.インド(9780万ドル)
3.パキスタン(4310万ドル)
4.ブルキナファソ(3280万ドル)
5.その他アジア(2670万ドル)

合計25、404億ドルでそのうち中国が23、4億ですから約92%を占めています。
こういう場合、世界中から経済制裁を受ければ受けるほど中国に頼るようになるし、中国が制裁に協力しなければ経済制裁はほとんど効力がありません。
中国に対する輸出比率が上がれば、中国の影響力が増す一方です。
ロシア原油その他ロシア製品全量買う国力が中国にあるとしても、ロシアやモンゴル等は中国に生命線を握られるのは怖いのでできれば避けたいでしょうが、(原油その他資源買い手が消滅するよりは)緊急的でみれば頼るしかないでしょう。
中小国では、懐の大きくなった中国が「引き受けた」と言ってくれれば、中国の方が米国より怖くてもその場は助かるようになってきました。
今のイランの強気もそこにあります。
こうなってくるとブラックホールみたいになっている「中国経済自体を縮小させるしかない」というのが、トランプ政権の目的で今度の対中対決が始まったのでしょう。
1月14日に引用紹介しや同じ情報源ですが、世界の対中ランキング表では
http://www.camri.or.jp/files/libs/1156/201810011524292185.pdfによると以下の通りです。(表の一部引用です)

(図表2)対中輸出比率ランキング、上位20カ国・地域(2017年)
順位      国・      対中輸出比率    最大輸出品目
1      南スーダン      96%        原油
2      北朝鮮        87%        石炭
3      モンゴル       85%        銅鉱
4     トルクメニスタン    83%        石油ガス
5      ソロモン諸島     65%        木材
6      エリトリア      62%        銅鉱
7      アンゴラ       61%        原油
8      香港         54%        集積回路
9      コンゴ共和国     54%       原油
10    オマーン        44%  非環式アルコール及びその誘導体
11     コンゴ民主共和国     40%         精製銅
12     ミャンマー       39%         石油ガス
13     ガボン         37%         原油
14     ギニア         36%     アルミニウム鉱
15     モーリタリア      35%        鉄鉱
16     豪州          33%        鉄鉱
17     ラオス         29%        銅鉱
18     赤道ギニア       28%        原油
以下省略

上記のように上位国は貧困国〜経済規模の小さい国ばかりなので恐るべき高占有率です。
ちょっと買ってやると小国では7〜80%等の占有率になるので圧倒的影響力を握れる・国連では同じ1票ですから中国はこれを戦略的に狙っているのでしょうか?
輸出に限らず融資攻勢でも同様で、工事のような融資によるインフラ整備の誘導→融資付による工事代金未払い→軍事的要衝等のインフラ(港湾)運営権の中国への譲渡(代物弁済)などの弊害があちこちで起きています。
賄賂攻勢の変形で公式買収ともいうべき状態です。
これにやられている米国が国連やユネスコ等の国際機関ボイコットの動きになっているのであって、トータルで見ると必ずしも正義に反している訳ではありません。
世界中で対米貿易の比率が下がっている以上は、経済制裁をしても協力国の数の多さがその決め手になるのですが、同盟国・・すぐに追随してくれる国の協力意欲を減退させる方向の政治ばかりしているとアメリカの威信は下がる一方です。
トランプ氏が力めば力むほどその威令・信用低下が進んでいる・ひいては協力度合いが下がっていくのに気がつかないのでしょうか?
例えば秀吉が天下人になった以降に惣無事令で私戦禁止したのに反して、北条氏が(上野国の沼田)真田領を攻めたことで小田原攻めに発展したものです。
真田昌幸と幸村の父子が、この恩義・豊臣政権の威令が行き届いたことに感じた・恩義に報いないのは武士道に反するという美学によって、最後まで豊臣家のために奮闘したのです。
今日現在のウイキペデイアによると以下の通りです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%83%A3%E7%84%A1%E4%BA%8B%E4%BB%A4

豊臣平和令のうち、大名間の私的な領土紛争を禁止するものが惣無事令とされる。つまり、領土紛争においては、全て豊臣政権がその最高処理機関として処理にあたり、これに違反する大名には厳しい処分を下すという法令である。また、秀吉は関白の立場を明確に示す形で、あくまでも天皇の命令(勅定)によって私闘禁止(天下静謐)を指令するという立場を掲げた。[2]
惣無事令は、1585年(天正13年10月)に九州地方、1587年(天正15年12月)に関東・奥羽地方に向けて制定された。惣無事令の発令は、九州征伐や小田原征伐の大義名分を与えた。特に真田氏を侵略した後北条氏は討伐され北条氏政の切腹に至り、また伊達政宗、南部信直、最上義光らを帰順させる事に繋がった(奥州仕置)とされる。この惣無事令によって、天正十六年の後陽成天皇の聚楽第御幸の際など、参集した全国の諸大名から関白である秀吉への絶対服従を確約する誓紙を納めさせ、その違背に対して軍を動員した包囲攻撃のみならず、一族皆殺しを含む死罪・所領没収ないし減封・転封といった厳罰を与えた。いわば、天下統一は惣無事令で成り立ち、豊臣政権の支配原理となったのである。[3]

ポンド防衛の歴史17(ポンドの威信6)

ちなみに、平成25年4月17日午後8時5分現在のドル・ポンド相場を三井住友銀行の表で見ると1ポンド売りが147、32円、買いが152,32円となっています。
ドルの売りは97、35円買いが98、35円です。
当時1ドル360円を基準にすると円がドルに対して約3、7倍に上がっていてポンドに対しては約6、7倍余りの上昇・ポンドの約6、7分の1への下落です。
これを個人の年収に置き換えると分りよいですが、イギリス人が1945~65年代には年間1000万円の収入だったのが現在では149万円に下がっている・・日本人の年収が149万円から1000万円に上がったという関係です。
イギリスに旅行すると、何となく元気がない・・イギリス市街がどこも貧しい・沈滞した感じがするのは仕方のないところでしょう。
円安は貿易条件が良くなるという意味は人件費が安く出来るから競争力がつくという意味しかないことを繰り返し書いてきましたが、ポンドの下落を見ればイギリス人の稼ぎがこんなに下がっていることを如実に表現しています。
円安もほどほどにしないと、企業だけ儲かって国民が苦しむことになります。
平成23年12月1日に紹介した「基軸通貨ポンドの衰退過程の実証的研究」は、戦後10〜20年にわたって世界経済を揺るがして来たポンド危機の根源を、為替規制によるスターリング地域の結成と衰退を実証的に研究している分りよい優れた論文です。
(素人の私から見ても、良く分り、子供の頃に抱いていた疑問を解いてくれるという意味ですが・・)
イギリスは裁定相場から完全な変動相場制に移行しているのでポンド防衛から自由にはなりましたが、今でも英連邦諸国との紐帯をどうするかに悩み、共通通貨ユーロには参加していませんし、ことあるごとに主権維持に敏感です。
EUの理念は、主権を徐々に制限して行きながら、将来的には経済一体化を目指すものですから、イギリスがこれに参加しながら主権制限反対に頑強にこだわるのは論理的に無理があります。
貨幣の共通化=グループ構成員間の平均化ですから、グループ内強者は実力以上に為替相場が低く抑えられるメリットを受けますが、平均以下の弱者は実力以上の高い為替相場に苦しめられます。
スターリング地域解体の結果から分ることは、各加盟国に発展不均等がある以上は貨幣の共通化あるいは通貨交換比率共通化は無理があることが分ります。
我が国の地方交付税制度や補助金制度を何回か紹介していますが、それでも弱い地域はドンドン弱くなるのを緩和するくらいが関の山であることは、大都市人口集中・過疎化が進行する一方の各地辺境地域を見れば分ります。
ポンド防衛のシリーズをここでひとまず終わりますが、ギリシャ危機の解決策に関してのイギリスの対応は、戦後ずっと続いて来たヨーロッパの一員に戻るかどうかの重いツケをまだ解決出来ないイギリスの苦しい立場を明らかにしました。
我が国も島国のために中国や朝鮮等の大陸諸国とは基本的に国民性が違うので、将来アジアもユーロのように一体化しないとやって行けない時期が来るとその違いに悩まされるようになると思われます。
このとき・・まだまだ何十年〜100年単位も先のことでしょうが、考えておくべきことでしょう。
ただし、中韓の一体化は歴史経緯もあって目の前に迫っていると思います。
中韓一体化は、元々の支配服従関係(宗主国と服属国)に戻るだけだという視点でまだ冷静に対応して行けるでしょうが、もっとその先の時代・・アジア一体化が進むしかないときに、海の民対大陸と言うアジア島嶼国連合で対応して行けるのかどうかが心配です。
(FTA・TPPその他が発達して来て国境の壁が低くなって、ユーロのような政治的一体化が不要になるのを期待したいものです。)

ポンド防衛の歴史16(ポンドの威信5)

話がそれましたが、経済実力の落ちて来た場合のテーマ・2013-4-7「ポンド防衛の歴史15(ポンドの威信4)」の続きに戻ります。
戦後のイギリスは、経済力が落ちて来たのに格式にこだわって、(核武装もするし武力維持でも無駄に頑張ります)広大な屋敷(毎年の植木屋さんの費用やちょっとした家の修理も半端ではありません)や門塀を維旧家の格式出費が多くて、実生活が苦しい旧家みたいなものでした。
個人の場合、旧家の格式を維持するのが何かと面倒なので都会に出てしまって、簡素な生活に切り替えることが多いのですが、国の場合は逃げ出す訳には行きません。
(大名が明治維新後全員東京に移り住んだのも、元々江戸に住んでいたというだけはなく、地元にいると面倒だった面があったでしょう)
国力の変化を為替相場に委ねてジリジリと実力相応に国家の格式を下げて行けば無理がないし、貿易収支改善も期待出来ます。
現在のギリシャ危機(この基礎原稿は昨年12月10日ころに書いておいたものですが、今ではキプロス危機になっています)の原因も同じで、自国の実力に応じてジリジリと為替相場が下落して行けば自然体で楽だったでしょうが、自国の経済力に直截関係なくドイツ、フランス等EU諸国平均経済実力でユーロの為替相場が決まるのですから一種のバスケット方式に参加してしまった状態です。
実力以上の評価を受ければ外見は格好いいでしょうが・・・その分マイナスが生じます。
能力以上の高校・大学に入ったり、交際関係(庶民が名門女子校に子弟を入れると付き合いが大変なのと同じです)に入るとそのレベルに合わせた付き合いが大変になります。
ギリシャ・キプロス等の弱小国はユーロが実力以上の為替相場になっても、貿易赤字を修正する為替変動を利用するチャンスがなく、赤字が累積してしまった結果現在の危機が来てしまいました。
逆から言えば、どんなに貿易赤字が続いていても通貨下落の心配がないので、ロシアが有効国のキプロスに資金逃避地として巨額預金をしていたのが今回あだ花になりました。
EUとしては基本的に預金の削減・・預金者にも相応の痛みを求める政策のようですからロシアの巨額(不正資金?)預金者は大変なショックでしょう。
中国でもどこでも不明朗国は、裏金をどこか信用出来る国に隠しておきたいようです。
ギリシャは独仏等の相場にリンクするだけで独自の通貨を持っていれば、(アジア危機後のアジア諸国のように)バスケットから離脱すれば良いのですが、自国通貨がない(金利政策も出来ない)ので、イギリスのように自国通貨の売り浴びせを受けない代わりに、為替が下がることによる交易条件を有利に是正するチャンスを失い貿易収支が際限なく悪化してしまったのです。
この解決には通貨切り下げが一番簡明ですがこれが出来ないので、緊縮の強制しかない・・とは言うものの南欧諸国国民が納得しないのが現実です。
EUを完全に経済統合に一歩でも進むか、国別経済の独立性を飽くまで維持するならば、自国独自の通貨・金利政策・為替相場に戻るしかないでしょう。
ちなみに2012年12月11日の新聞報道では、ユーロ圏の新条約会議で10日に合意され、(ギリシャのユーロ離脱よりは)財政規律を強化・財政の一体化強化の方向に決まったようです。(このブログはこの頃に書いてあったものです)
財政規律維持と言っても実際には無理がありますので(12月10日ころに予想して書いておいたこのブログ通りに)今春のキプロス危機では、国民の反発で否決されてしまいました)。
行く行くは日本で言えば青森や沖縄その他地方は独立国ではなく、日本の一部として地方交付税その他補助金など補填して成り立つような関係に持って行かない限り根本的解決にはならない筈です。
ただし、財政規律重視方向は将来的には上記のような財政の一体化に進むしかなくなるので、主権維持を気にするイギリスが飽くまで今回の合意に反対を貫いたので、独仏との間で将来に禍根を残すことになったと報じられています。
ちなみに敗戦直後から1990年までのドルとポンドの対円為替レートがグラフになっているデータがあったので紹介しておきます。

以上は以下のアドレスからのコピーです。

http://homepage3.nifty.com/~sirakawa/Coin/J062.files/Graph13.gif

http://homepage3.nifty.com/~sirakawa/Coin/J062.htm

ポンド防衛の歴史15(ポンドの威信4)

戦後イギリスの長期に及ぶ耐乏生活は、「武士は食わねど高楊枝」的な選択をしたこととは言え、経済実利から見れば格式やメンツにこだわればこだわった分だけ実利で損をするのは当然の負担・結果です。
明治維新以降門構えの割にフロー収入が減っている旧家が、お祭りのときに門構えの格式維持のためにやせ我慢して高額寄付を続けるのと似ています。
イギリスが世界の覇者のときに実力に応じたポンド高だったのでしょうが、ドイツ、アメリカの追い上げを受けて、2番手3番手になり、戦後は日本やフランスにも負けて5〜6番手の老大国・人間で言えば高齢者になって実力が落ちて行けば、相応のポンド下落を徐々に受け入れて行けば(始めっから完全な変動相場制を受け入れておけば)無理がなかったことになります。
スターリング地域の設定によって英連邦諸国に強制預金させて資金をロンドンに集めたり無理をしてポンドの威信を維持して来たのですが、無理が利かなくなってスターリング地域が解体され、更に欧州経済にリンクしてまで何とか維持しようとして来た無理をソロス氏に見透かされたのがポンド危機でした。
変動相場制・・その日その日の実力が赤裸々に出るのがイヤな心理は個人にもあって、出来るだけ大きな組織に属していたい・企業組織も似たような心理があって多様な取扱部門を持っていると一部赤字部門が発生しても全体としては取り繕える期待感があるのと同じでしょう。
多角経営・他部門の収益で下支えがあるのは、臨時緊急事故対応であれば合理的です。
たとえば大震災や一時的水害等のような偶発的事故対応ならば他部門の利益をまわして緊急時をやり過ごして事業再開するのが合理的ですが、恒常的衰退部門なのにその部門を下支えし続けると損害が大きくなります。
イギリスの場合、臨時の事故による損失ではなく基礎的競争力衰退が始まってるのでしたから、この状態で為替相場維持にお金を使っても意味がありません。
イギリスだけの問題ではなく日本だって長い間固定相場制でしたし、アジア通貨危機で多くの国が振り落とされましたが、今でもドルリンク制の国々がのこっているでしょう。
ちなみに4月7日現在のウイキペデイアによれば、
「(アジア通貨危機で殆どの国が振り落とされたので・・私の意見です)現在のドルペック制採用国・地域は香港ドル、エルサルバドル・コロンパナマ・バルボア(硬貨のみ)中東産油国(クウェートは2007年5月に撤退)だけのようです。
バスケット方式の国は、シンガポール、ロシア、マレーシア、中華人民共和国(2010年6月21日より、米ドルとの連動が解除される)」
となっています。
固定相場制から為替制度が始まったのは、金・銀兌換制が始まりであった関係で当然ですが、コンピューター処理が加速している現在時々刻々に相場が変動している実態に通貨交換比率も時々刻々に反映して行くのに技術的困難がなくなったのですから、リアルタイムに反映した方が合理的です。
成長力の高い国にとっては固定相場性で半年〜数年遅れで時々外圧に合わせ切り上げる方が切り上げタイミングが少しでも遅くなるので貿易上有利ですし、追い上げを受けて競争力を失って行く先進国に取っては固定制の場合、為替相場の切り下げ決定が遅くなるので(メンツは少しでも長く保てますが)不利です。
新興国や小国のドルリンク制(ドルペッグ制とバスケット方式)は、固定相場制の変形で、成長率の高い新興国が戦後下落基調の続いているUSドルにリンクしていれば、為替切り下げ競争上有利・・アメリカドルが下落すれば、自動的に自国通貨も切り下げになるので大きなメリットを受けていました。
これがアメリカによるドル高政策(1995年)転換によって、ペッグしているアジア新興国の為替が実力以上に連動して上がってしまったので、ポンド危機同様の原理で投機筋の売り浴びせにあったのが、アジア通貨危機の構造的要因でした。
この危機の結果、多くの新興国がドルペッグ制を放棄しました。
一方的にうまい話はないという教訓の一事例です。

ポンド防衛の歴史13(ポンドの威信2)

アメリカがプラザ合意以降のドル安政策(円高政策)にもかかかわらず、ビッグスリーに始まり製造業縮小がとどまらず、昨年時点では製造業従事者が全労働者の8%しかいなくなったといわれています。
この辺でアメリカがドル安政策を採用する前から、衰退を始めていたイギリスのポンド下落の歴史に戻って行きます。
ポンド下落については、December 1, 2011「ポンド防衛1」のシリーズ以降連載してきました。
2011年12月10日「ポンド防衛の歴史10(成長率格差と英国病)」に紹介したように他の欧州諸国よりもイギリスは成長率が低かったし・・さらには同年12月26日に紹介したように貿易赤字の続くイギリスポンドが欧州全体に連動して上がるのは実力からみて無理がありました。
ちなみにイギリスの国際収支を2011年12月11日「ポンド防衛の歴史12(ポンドの威信1)」のコラムで紹介した[世] イギリスの国際収支の推移ecodb.net/country/GB/imf_bca.html – キャッシュでみると、1984年以来上記の紹介した日までずっとマイナスのままです。
ポンド防衛のコラム開始冒頭前後で紹介したように、ポンドの実力以上の割高感を投資家ジョージ.ソロス氏に見抜かれて、空売りを仕掛けられてしまいます。
この結果一気にポンドが大幅下落し、僅か1週間ほどで支え切れなくなってERMから脱退し、完全な変動相場制に移行せざるを得なくなりました。
ポンド切り下げの経過を見て行くと、為替相場を自己の実力によるのではなく、自国経済力以外のものと連動するという実態を無視したやり方・半端な変動相場制は、無理が露呈するまでには時間がかかり・・時間を稼げますが、結果的に無理は無理であることが明らかです。
今で言うところのバスケット方式は自国の経済状態の短期・臨時的変動に直ぐには大きく反応しない点で利点がありますが、長期低落傾向のときには調整が長引く分だけ傷が大きくなります。
南欧諸国の経済危機も自国経済力とユーロ為替相場が直結しないところに無理があることを書いてきました。
ついでに書きますと日本で地方が衰退する一方になるのも(人材が中央に吸い上げられる外経済面に注目すると)同じ原理によります。
東京その他大都会の生産性が上がると、その地域の輸出競争力に合わせて為替相場が上がって行くのですが、生産性がそれほど上がらないその他分野の占める比重の大きい地方経済にとっては為替相場が割高になります。
農業の生産性が1〜2割しか上がらないときに、工業生産性が5〜10倍に上がって行き工業製品の競争力に合わせて為替が上がって行くと、農業その他旧来製品生産に従事する比率の大きい地方経済は大都会に合わせた高過ぎる為替相場では競争力を失って行きます。
青森等東北地域と東京圏を、今のギリシャ等南欧諸国とドイツの関係に置き換えると分ります。
イギリスはドイツ等に比べて生産性上昇率が低いのに為替相場を生産性上昇率の高い国とリンクさせると損をする関係です。
スターリング地域諸国の発展不均等が広がると全体平均相場でポンドの価値を決めること自体無理があって、それぞれの国が離脱して行って遂にスターリング地域が解体して行ったのが戦前からの歴史です。
英連邦の結成やスターリング地域の盛衰に関しては、2011年12月10〜11日ポンド防衛の歴史10〜11(ポンド管理政策の破綻1〜2)のコラム前後で連載してきました。
発展不均等によってスターリング地域が解体した経験があるのに、この経験を生かせずにイギリスが欧州グループに自分が再びリンクするようにしていたのですから滑稽な再経験・こだわりでした。
イギリスは第一次世界大戦頃から、ドイツの追い上げを受けて、次第に国際収支が赤字基調・・国力の低下基調になって来たのをカモフラージュするために、スターリング地域でのポンド・プール制を採用していました。
その無理が徐々に出て来てスターリング地域を維持出来なくなったのですが、スターリング地域・・英連邦諸国経済・栄光ある孤立から転換せざるを得なくなって、戦後は欧州諸国と自分の為替相場をリンクさせて自国通貨安の進行が明らかになるのを少しでも誤摩化し・カモフラージュしたい心理が働いていたのでしょう。
(往生際が悪すぎたことになります)
為替相場は安ければ安いほど貿易上有利ですから、イギリスによるポンドの威信維持・・実力以上のポンド高維持政策努力は、実利よりは格式にこだわる選択・経済的には大損な選択です。

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