男性の優位化2(戸主権)

 

明治民法で男性の優位が明文で書かれていたのではなく、戸主権を媒介しての男性の優位でした。
戸主には絶大な権力が認められ、戸主になるのは男性と法定されてはいませんでしたが、家督相続は男子優先でしたから、女性が戸主になれる場合は稀でしたし、せっかく女戸主になっていても736条で入夫婚姻をすると夫が自動的に戸主になってしまう形式・・夫がいれば原則として戸主になることが制度の前提になっていました。
男尊女卑と明文で書かれていたのではなく、戸主になれるのは原則として男性であり、女性は夫がいない時にだけ戸主になれたのです。
こうした明治の思想の歴史があるので、今でも天皇家の後嗣・・女帝に対するアレルギーがあるとも言えます。
ただし家の代表は男性とする前提で来たのは、昔からのような気がしますが、武家ではない庶民にまで戸主制度を敷いて一家内で主従関係を強制したのは明治以降のことではないでしょうか・・。
この戸主制度の定着が、今でも女帝制度にすると女帝が結婚したら、その夫が天皇になってしまうのかと誤解している人が多い遠因でしょう。
古代の女帝の場合、結婚しない前提でしたから、(夫の天皇がなくなって女帝になるのではなく、)未婚のままに女帝になると結婚出来ないままになって悲惨でしたが、イギリス王家みたいに、結婚してもその夫が必ずしも王様になる必要がないとすれば良いことです。
この辺の考えについては、06/24/10「女帝と結婚」で安倍内親王が未婚のまま孝謙天皇となり、更に重祚して弓削の道鏡事件を引き起こした称徳天皇となった事例とともに紹介しました。

民法第四編(民法旧規定、明治31年法律第9号)
(戦後改正されるまでの規定です)
  第四編 親族

第二章 戸主及ヒ家族
第一節 総則
第七百三十六条 女戸主カ入夫婚姻ヲ為シタルトキハ入夫ハ其家ノ戸主ト為ル但当事者カ婚姻ノ当時反対ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス

第二節 戸主及ヒ家族ノ権利義務

第七百四十六条 戸主及ヒ家族ハ其家ノ氏ヲ称ス
第七百四十七条 戸主ハ其家族ニ対シテ扶養ノ義務ヲ負フ
第七百四十八条 家族カ自己ノ名ニ於テ得タル財産ハ其特有財産トス
 2 戸主又ハ家族ノ孰レニ属スルカ分明ナラサル財産ハ戸主ノ財産ト推定ス
第七百四十九条 家族ハ戸主ノ意ニ反シテ其居所ヲ定ムルコトヲ得ス
 2 家族カ前項ノ規定ニ違反シテ戸主ノ指定シタル居所ニ在ラサル間ハ戸主ハ之ニ対シテ扶養ノ義務ヲ免ル
 3 前項ノ場合ニ於テ戸主ハ相当ノ期間ヲ定メ其指定シタル場所ニ居所ヲ転スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ家族カ正当ノ理由ナクシテ其催告ニ応セサルトキハ戸主ハ  裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ離籍スルコトヲ得但其家族カ未成年者ナルトキハ此限ニ在ラス

第七百五十条 家族カ婚姻又ハ養子縁組ヲ為スニハ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
 2 家族カ前項ノ規定ニ違反シテ婚姻又ハ養子縁組ヲ為シタルトキハ戸主ハ其婚姻又ハ養子縁組ノ日ヨリ一年内ニ離籍ヲ為シ又ハ復籍ヲ拒ムコトヲ得
 3 家族カ養子ヲ為シタル場合ニ於テ前項ノ規定ニ従ヒ離籍セラレタルトキハ其養子ハ養親ニ随ヒテ其家ニ入ル
第七百五十一条 戸主カ其権利ヲ行フコト能ハサルトキハ親族会之ヲ行フ但戸主ニ対シテ親権ヲ行フ者又ハ後見人アルトキハ此限ニ在ラス
    第三節 戸主権ノ喪失
第七百五十二条 戸主ハ左ニ掲ケタル条件ノ具備スルニ非サレハ隠居ヲ為スコトヲ得ス
 一 満六十年以上ナルコト
 二 完全ノ能力ヲ有スル家督相続人カ相続ノ単純承認ヲ為スコト

第五章 親権
    第一節 総則
第八百七十七条 子ハ其家ニ在ル父ノ親権ニ服ス但独立ノ生計ヲ立ツル成年者ハ此限ニ在ラス
2 父カ知レサルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ親権ヲ行フコト能ハサルトキハ家ニ在ル母之ヲ行フ
第八百七十八条 継父、継母又ハ嫡母カ親権ヲ行フ場合ニ於テハ次章ノ規定ヲ準用ス

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