構造変化と格差34(社会保障負担)


ちなみに中国で昨年から賃上げ要求のストライキが頻発していますが、最も工業化の進んだ広東付近でのことですが、報道によると月給2〜3万円程度を一割近く上げろという要求が中心だったのですから、今でも我が国の工場労働者の10分の一以下くらいの水準でしょうか?
月収だけではなく我が国はボーナスその他が手厚いので(年金や退職手当)月収や年収だけでは一概に言えませんが、年収に直すと我が国の正規雇用者の平均年収は4〜500万円程度ではないでしょうか?
ここで念のために平成12年2月発表の賃金センサスを見ておきましょう。
賃金センサスは学歴や年齢・男女別・企業規模など細かく分類されているので(・・交通事故損害賠償などで実用的に弁護士が使っている統計ですが、この場合、具体的職種が重要ですので細かく分類されています)一概には言い切れませんが、全産業平均を見てみると4〜500万見当が妥当な印象です。
ちなみhttp://www5d.biglobe.ne.jp/Jusl/IssituRieki/Chingin.html「賃金センサス(賃金構造基本統計調査)による「平均賃金」」は、平成22年分まで見易く加工しているので、これによると全産業男女学歴計では年収466万円となっています。
ギリシャ・南欧経済危機問題は、新興国の台頭による国際競争に落ちこぼれた結果、国内の失業救済のために政府が介入して公共工事や福祉等に精出して来た結果ではないでしょうか。
賃金を国際競争力以上に高止まりさせて、その結果増えた失業者を従来の高賃金をベースにして政府が面倒見る政策は、せっかく国内に残っている国際競争力のある元気な企業に対する(税だけではなく保険名目の)高負担を強いることになります。
高賃金の従業員をせっかく技術革新等で削減しても、失業保険や各種社会保障負担がその分増えるので、国内企業の負担は6割にしか減りません。
例えば1000万人の国内労働者を事業効率化あるいは海外展開によって、100万人減らしても、企業には失業保険として6割の給付負担が残る計算です。
直接には、個々の企業にとっては失業保険掛け金はみんなで負担するので率はもっと低いのですが、国全体で6割給付しているから国全体・全企業では6割負担になっています。
しかも不況長期化に比例して失業保険給付期間の延長傾向になります。
同じことが年金や健康保険すべてで始まっているので、ここ20年近く保険等の掛け金率(企業負担率)が0、何%ずつで、増税とは言わないでマスコミも問題にせず水面下でジリジリと上がる一方です。
例えば千葉の例で言うと協会健保(中小企業中心)に関しては平成22年度は8、17から9、31に上がり、23年9、44%、24年4月までは9、44%だったのが9,93%まで上がりました。
このように厚労省が簡単に負担率上げが出来ない国保・国民年金(雇い主がいませんので・直接国民相手です)で、赤字化が進行して大騒ぎになっているとも言えます。
国民や企業にとっては保険と名が着こうが強制的にとられる点では税と本質的には変わりませんが、税でないので、国会で(厚労省に一任した法律は当然あるでしょうが)毎回の議決なしに厚労省が勝手(勿論審議会等を経て大臣認可方式ですが・・)にいくらでも上げて行くような印象です。
マスコミは企業負担としては法人税を問題にしていますが、社会保障関連負担の増加も大きな問題です。
円高で苦しんでいる企業の負担ばかり増やしているのでは、却って元気な企業もつぶしてしまうか海外脱出を加速させてしまうので早晩無理が来ます。
元気な企業でさえ海外に逃げる状態では国内新規開業は減る一方となります。

構造変化と格差33(新自由主義7)

インフレ待望論者は、基本的には円安待望論と重なっているのですが、貿易赤字待望論は一人もいないのですから、円キャリー取引のようなイレギュラーな事態を予定しない限りマトモな主張とは言えません。
経常収支黒字の積み上げ→円高→実質賃金率引き上げになる関係ですが、黒字が続くということはその円相場でも黒字を稼げる企業の方が多いことになります。
(特に日本の場合、資源輸入による円安要因が働くので加工品の競争力に下駄を履かせてもらっている関係です・・2011年には原発事故による原油等の大量輸入で貿易赤字・円高が修正されましたが、製造業の競争力がその分上乗せになる関係です)
黒字による円高で悲鳴を上げる企業は、国内平均生産性に達していない企業のこととなります。
(この辺の意見はかなり前に連載しました)
生産性の高い企業が一定水準の円相場でもなお輸出を続けると貿易黒字が続きます。
その結果更に円高になりますので、これについて行けない・生産生の低い順に国内人件費の実質アップを回避するためには海外移転して国内高賃金雇用を避けるしかありません。
生産性の低い企業が海外工場移転した分、国内雇用の需要が減る→その結果国内労働市場では需給が緩み労働者の経済的立場が弱くなるのは当然の帰結であり、これはまさに経済原理・正義の実現と言うべきです。
労働者は自分の生産性を上げない限り(中国等の10倍の人件費を貰う以上は10倍の生産性が必要です)円高の恩恵だけ受けて痛みの部分を受入れないとしても、時間の経過でその修正が来るのは当然・正義です。
ところが人件費に関してはストレートに円相場の上下率に合わせた賃下げが出来ないので、その代わり経営者としては労働者を減らして行くしかありません。
既存労働者の解雇は容易ではないので、新規採用をその分抑制する・・あるいは新規工場を国内に設けずに海外に設ければ、現役労働者を解雇しなくとも新規労働需要が減少して行きます。
大手企業・・例えばスーパーやコンビニを見れば分るように大量店舗閉鎖と新規出店の組み合わせで活力を維持しているのですが、新規出店分を海外にシフトして行けば自然に国内店舗・従業員が減少して行きます。
大手生産企業も新規設備投資とライン廃止の繰り返しですが、新設分を海外にシフトして行くことで新規雇用を絞っています。
新規雇用に関してはこうして需要が減る一方ですから、現下の社会問題は、既得権となっている高賃金労働者の保護が新規参入者にしわ寄せして行くことになっていることとなります。
(この外に定年延長による新規雇用の縮小問題は別に書きました)
既得権保護・・これをそのままにすれば新規参入者が狭き門で争うことになります。
・・減ったパイを少数者が独り占めよりはワークシェアリングとして、短時間労働者の増加・・大勢で分担する方が労働者同士にとっても合理的ですし、短時間労働者は需給を反映し易いので企業にとっても便利なので新規雇用分から少しずつでも非正規雇用に切り替えるしかなくなって行きました。
この結果正規雇用が減って行く・・中間層の縮小となりました。
海外移転が急激ですと急激な雇用減少が生じますが、非正規雇用の増大はこれを食い止めるための中間的選択肢(・・一種のワークシェアー・・あるいは給与シェアーと言えます)の発達とも言うべきです。
解雇権の規制を厳しくして既存労働者の保護がきつくする(定年延長論もこの仲間です)ばかりで、他方で非正規雇用を禁圧あるいは白眼視・・何かと不利益扱いすると、却ってこれによって国内に踏み留まれる企業まで出て行かざるを得なくなるリスクがあります。
非正規雇用→一種のワークシェアーは、急激なグローバル化による賃下げ競争の緩和策になっていることを無視する議論は無責任です。
かと言って非正規雇用自体が良い訳ではない・・若者の未熟練労働力化を放置しているわけにはいかないので工夫が要ります。

構造変化と緩和策3

ユニクロの貢献に戻しますと本社が日本にあると言うだけでは、本社そのものも海外移転するのは簡単ですから、何時海外企業になるか知れません。
ユニクロは今のところ国内売上・国内店舗が圧倒的に多いのですが、海外展開事業が成功すれば海外売上比率・店舗の方が多くなっていきますので、販売店舗さえ国内に多ければいいと言う根拠自体怪しくなります。
結局商業系企業(デパートであれ、スーパーであれ、あるいはホテルチェーンであれ、)が海外展開で仮に成功しても、生産工場が国内にあるのと比べて国内雇用創出には殆ど役に立たないということではないでしょうか?
多くの人を雇用する生産工場でさえ海外展開すれば理屈は同じですから、結局は輸出商品を国内で作らない限り多くの人を養えないことに帰します。
ところが、一方的な輸出超過は永続出来ない・・究極的には輸出入均衡しかないとすれば、これまで輸出超過を前提に国内で国内需要以上に大量に物を作って来たこと・・これに対応する多くの生産用人口を増やし過ぎたのが誤りだったことになります。
これで何十回も繰り返し書いているように輸出用に人口を多くし過ぎていた点に無理があって、人口を縮小均衡に戻すしかないための失業の不安や就職難・・ひいては、賃下げ圧力に伴う閉塞感がここ20年ばかりのストレスの根本ですから、早く少子化が完成し労働需給が均衡すれば、社会が安定します。
少子化未完成の間における構造変化に対する企業による緩和貢献に話題を戻します。
トヨタなど愛国心の強い日本企業の多くは海外の儲けを注入して国内雇用を守り続けているのですが、これらの努力は急激な雇用縮小・賃下げを回避・・緩めようとしているに過ぎず、彼らの出来る努力もそこまでが限度で、半永久的に高賃金・大量雇用を維持することまで期待出来ません。
高賃金を半永久的に保障出来るのは高賃金に見合う仕事をしている者に対してだけ・・高度化対応人材に対するものだけで、それ以下の汎用人材が汎用人材のままで新興国の10倍もの高賃金を取得し続けるのは無理があります。
(10〜8〜6〜4〜2倍と順次倍率が下がっても同じことで、同じ仕事をしている限り、ほぼ同じ賃金であるべきです)
同じ仕事をしているのに、日本人だというだけで10倍もの高賃金を何十年も要求しているのは日本とアジア諸国が今のところ別の国だという前提で問題になっていませんが、これを一体の社会と見れば社会不正義と言えるでしょう。
(短期間ならば、激変対応準備期間として容認されるとしても・・・)
海外で儲けている企業にとっても高賃金維持努力を永久に出来る訳ではなく、いきなり大幅に賃金を後進国並みに下げるのは可哀想だから企業が海外の儲けを投入して下支え努力してくれているだけであることを忘れては行けません。
いつまでも海外の稼ぎで高賃金支給を続けるのでは、上記のような社会不正義かどうかの理屈だけではなく実際に日本企業は高コスト過ぎて国際競争に負けてしまうので、どんな企業でも長期的には国内賃金を徐々に下げて国際相場に合わせて行くしかないでしょう。
ところで海外からの投資収益のある企業は自分の企業内の高賃金(実は正規雇用だけですが・・・)を維持出来ても、海外の儲けの少ない企業は同じ賃金では国際競争出来ないので、補助金の分配がない限り工場縮小を迫られ、雇用自体を守れなくなって行き、国内雇用縮小がこの分野で急激に進んで行きます。

構造変化と緩和策2(日本企業の利益率)

高度化努力だけではなく痛みの分かち合い方面でも日本企業がよく頑張っていると思います。
欧州危機や地震によって売れ行きが落ち込んでも直ぐに解雇せずに社内失業を抱え込んだりしている御陰で、アメリカその他の先進国に比べて失業率が低く留まっています。
海外投資収益を還元して国内労働者の高賃金を維持しているのも企業努力の御陰です。
このため海外に比べて企業収益が低くなっていて株式相場もずっとさえないままですが、それは痛みの分かち合い国家である以上甘受すべきです。
海外投資家にとっては、せっかく儲けても国内高賃金の穴埋めに使われて配当率が低いのでは、魅力がないのは当然です・・。
企業にとっては市場での資金調達力に影響するので株式相場は重要ですが、我が国の金利は世界一低いので社債等での調達に支障を来す心配がありません。
日本は中国や韓国等のように外資の導入で回っている経済ではなく、長期間蓄積した自前の資金が豊富であって、国債の引き受け手に困っていないのと同様に企業も資金が潤沢で外資の導入を必要とはしていないので、株式相場をそれほど気にしなくて良いから儲けを国民に還元し続けられるのでしょう。
(株が下がれば自社株買いなどでそれなり努力していますが・・・下がったところで買い戻すのはいい方法です)
高賃金・高コストの国内工場をドンドン閉鎖して海外展開を進めれば利益率は上がるでしょうが、それではアメリカ並みに高失業社会・高格差社会となってしまいます。
ユニクロが衣料品市場を機能性と廉価品で席巻し始めたのは、(製品に工夫があった点が単なる海外生産移行企業とは違っていますが)ほぼ全量中国生産でコストが安くなっている(国内に高賃金工場を殆ど抱えていない)面とのダブル効果があった点を無視出来ません。
日産のように国内工場を閉鎖して思い切ってタイ王国へマーチの全生産工程を移管した例もありますが、その他の企業は、国内労働者を安易に切り捨てる訳に行かないので国内高賃金従業員を大量に残しながらの海外進出ですから、海外の儲けを国内の高賃金支払原資に投入せざるを得ないことから、国内雇用維持にこだわるトヨタその他の企業は利益率が下がって苦労することになります。
この苦労の部分を見ないで、日本企業はもう駄目だなどと言い、国内雇用に大して貢献しないユニクロを賞賛しているのは誤りです。
外国人投資家にとっては、儲けを利益配当するよりも労働者保護に回している企業の株は魅力がないのは当然・・もう日本は駄目だと見放すのは立場上当然ですが、これを受け売りして日本人まで「日本企業は海外企業に比べて利益率が低すぎる」と批判しているのは馬鹿げた話です。
バブル崩壊後華々しいユニクロがいくら儲けても本社が日本にあり、販売店の多くが日本にあるだけで、それ以上のことはありません。
今、日本で必要なのは国内(高賃金)雇用を如何に守るかの問題です。
日本発の企業であれば本社部門その他比較的多くの日本人雇用が生まれていることは確かですが、国内工場中心の企業に比べて雇用比率が少ない筈です。
ユニクロが拡大して採用した国内店舗での採用従業員は、ユニクロが成功していなければ他所の販売店が残っていた筈ですので、差引増えた訳ではないでしょう。
この点は海外デパートが大量出店して国内デパートが廃業した場合雇用が拡大したと言えるかと同じ問題です。

構造変化と緩和策1(ストレスとその対処)

バブル崩壊以降の我が国の苦境は、汎用品製造に関しては、低賃金国とのコスト競争に無理があることによるのですから、汎用品製造向け人材は徐々に低賃金国の水準に生活水準を合わせて行くしかないことにあります。
最近、今後4〜5年もすれば中国の人件費の上昇によって、日本国内生産の方がカントリーリスクを加味すると安くなると言う願望的意見が出始めています。
こうした願望が繰り返されること自体、人件費格差が我が国経済低迷の最大の原因であること・・結局は先進国の賃金が下落し新興国の水準が上昇して結果として生活水準の平準化の完成しかないことを物語っています。
そうとすれば、新興国の賃金上昇と日本国内の賃金水準のジリ貧・長期的下降が続くのは不可避です。
この現象はこれまで豊かな生活をして来た先進国国民にとっては大きなストレスであることは疑いのない事実ですが、このストレスの吐け口として特定政治家・政党の責任にしたり、今の若者がだらしないと言って世代問題や教育の所為にしても解決しませんし、特定のスケープゴート探しで解決出来るものではありません。
現下の閉塞感の根本は、グローバル化の進行・・構造問題・・結局は生活水準低下の見込みを国民が体感していることにあり、誰に文句言っても仕方がない・行き場のない不満・・これをストレスというのでしょうが、政治家や誰かの責任にしても意味がありません。
この苦境を乗り切るには国民みんな一人一人の智恵の結集しかないのですから、国難に「明るく」対処して行くしかないでしょう。
ただし、急激な国際平準化進行による痛み・・職場縮小の速度を落とし、失業の増加、生活保護の増加を緩和する必要があるのは確かですから、これをどのように実現するかが重要ですから政治家の役割がなくなったのではありません。
ただ・・・・誰がやっても後ろ向きの政策が中心ですので、国民にストレスが溜まるのは仕方がないでしょう。
破竹の勢いで進むときの大将は楽ですが、損害を少なくしながらの撤退作戦は難しいのです。
急激な失業や賃金下落に対する緩和策としては海外展開によって儲けを多くして国内に送金する穴埋めも1方法でしょうが、海外収益の送金に頼るのは日本の過疎地で言えば出稼ぎによる送金・仕送り頼みと同じですから先の展望がありません。
前向きの施策としては、正月以来東レなど高度化の成功例を紹介してきましたが、こうした成功事例を少しでも大きくして行く努力が政治であり経済人のつとめです。
こうした成功事例が少しくらいあっても、高度化対応出来る人材は限られていて大量生産職場縮小の穴埋め・・この種人材は大量にいます・・には追いつかない・・精々賃下げ圧力を少し押しとどめる程度に過ぎないのが実情です。
すなわち、努力がうまく行っても急激な落ち込みを緩和するくらいが関の山ですから、徐々に平均的人材の職場が減って行くのは防ぎようがない・・・国民は痛みを我慢するしかなくストレスを感じるのは仕方がないことです。
これが不満だからと言って政治家のクビのすげ替え・内部分裂・・何でも反対ばかりしていては、却って落ち着いて対処出来ず国力が低下するばかりです。
ここ数年千葉県弁護士会の総会では執行部提案が次々と否決される時代が続いています。
会の基本方針が何も決まらない状態・・ともかく反対が多いのですが、私はこれをストレス発散時代が来たのではないかと理解しています。

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