財政出動4(増税3)

本当に債務を圧縮するには、既存の固定資産を減らしてしまえば、(仮に市内に1000個あった交差点の信号を500個に減らすなど)その年度の固定資産評価残高は一時的に(企業の特損にあたります)減りますが、その代わり翌年以降の減価償却負担や電気代等維持管理費が減ります。
(交通事故が増えるかな?)
企業のリストラや不採算工場や店舗売却はこのやり方です。
こうして見て行くと社会資本が充実している先進国ほど、その管理コストが上がり赤字財政に陥り易いことが分ります。
儲かっているときに野放図に田舎の方まで高速道路網を広げていると財政が苦しくなるとその補修維持が出来なくなってあちこちで危険な道路や橋がいっぱいになってきます。
不要な資産を圧縮し、必要な公共団体保有資産を減らさずに、減価償却費の積み立てをした上で、黒字化を実現してこそ財政赤字を克服したと言えることです。
道路や公園をつぶして用地を民間に売却すれば、維持費が要らなくなる上に、収入が増えますし、福祉的施設・・県営住宅などの削減も経費縮小にはなりますが、その分住民サービスが低下します。
不要公共財産(利用率の低い◯◯会館など)を廃棄縮小して行けば、上記のとおり、次年度以降の維持管理費が減少するので、赤字削減の有力手段になりますが、何が不要かの価値判断が難しいので、一旦造れば原則として維持して行くことになりがちです。
この傾向に歯止めをかけようとするのが民主党政権の事業仕分けですが、やってみるといろいろな要求施策の経費を満たすには、到底足りない感じです。
足りない分は、増税しかない筈ですが、増税には飽くまで反対するのですから不思議な国民性です。
国民性というよりは、庶民が選挙権を持つことに無理があるのではないかと思っています。
下層民は自己の利益を守るのに精一杯で全体の利益などまるで気にしていない階層だからです。
我が国民のレベルは決して低くないのに衆愚政治の弊に陥ってしまいつつあるのは、衆愚に政治を委ねるシステムの行き着いたところから起きるべくして起きたのです。
代表なければ納税なしという以上は納税しない人が政治権力を持つのは矛盾です。
これからの日本は都心集中化政策により人口を都市中心部に集めて公共資産もコンパクトにして行く・・郊外に広がり過ぎた公共資産を売却して行き、管理コストを縮小して行く努力が必要です。
不要資産圧縮努力(国で言えば、事業仕分け)をいくらしても、現状の住民サービスを維持して行くには収支が赤字になるとしたら、住民が自分の拠出金以上のサービスを要求していることになるので、その分を我慢するしかない筈です。
(収入以上の支出をするのは無理があるのは子供でも分る道理でしょう)

財政出動3(増税2)

法人税増税は不景気対策・景気循環の谷間で行うのではマイナスですが、景気循環に関係のない輸出減少による雇用喪失の穴埋め・内需振興策として増税する場合、今回の復興資金目的の場合で言えば、政府は増税分を100%使い切るので特に所得税に限れば、国内需要創出効果としては優れています。
たとえば、税引後所得が500万円の人が100%使い切る生活をしておらず、仮に1割の50万円を貯蓄に回しているとした場合、増税によって手取り所得が450万円に減っても貯蓄ゼロにする人は滅多にいません。
仮に3〜40万円前後の貯蓄をするとした場合、消費が3〜40万円減りますが、その代わり国の方ではお金が足りなくて増税するのですから、増税による増収分50万円を100%使いきるので、全体の消費は10〜20万円増える関係です。
この辺の意見は、大震災復興資金は増税で賄うべきだと言うSeptember 30, 2011「増税と景気効果2」前後のコラムで書きました。
同じ金額の消費であれば、個人の自由・・官が計画して使うよりは民間に任せた方が、社会の発展性があって良いというのが私の基本的意見で、これまで繰り返し書いていますが、国民が自分でお金の使い道がわからずに貯金するしかない・・金融機関も使い道がなくて国債を買うしかないという今の状況下では、どうせ国に任せるならば増税の方が、内需が高まる効果があります。
大震災被害者を可哀想だと言いながら、自腹をいためたくない国民が多い結果、増税・会費増額で解決しないで、対外借金(国債増発)で先延ばしして行くのが今のどこの国でもトレンドです。
何かがあるとその補償をすべきだ政府負担でやれ、という意見が多く、生活保護基準ももっと引き上げるべきだ、あるいは弱者救済の公的補償水準をあげろと言う場合、(エレベーター設置など)その分だけ増税しない限り帳尻が合わないのですが、そっちの方は知らんぷりです。
前回書いた10人の会員の場合で言えば、借金の限度は会員一人一人の金融資産が会名義の借金を上回っていれば、イザとなれば会員が自己資金で解決できます。
日本の場合、輸出は減少して行ってもずっと国際収支が黒字のままで純債権国ですから、黒字蓄積の有る間は財政赤字を続けても政府借金の引き受け手が国内にいる・国債の国内消化可能ですから問題がありません。
国際入札資格を海外に解放している結果、最小割合の5%前後の海外購入者がいる状態に過ぎませんが、国際収支赤字国がこれをやっていると、国内に資金がないので海外からの借金・・海外購入者が中心になります。
国際収支の黒字以上の国債発行を続けていると、いつかは蓄積もなくなりギリシャ危機、南欧危機に留まらず、(対応する税を取らないで対外借金で)財政出動を続けているといつかはその国の信用が破綻するのはどんな大きな国(アメリカ)でも同じです。
我が国の場合、国内個人金融資産1400兆円以内で借りている限り、国内のお金のやり取り・・税でとる代わりに余力の有るところから国債購入代金名目で吸い上げているだけですから、無理が有りませんが、個人金融資産残高1400兆円を越えるようになって来ると越えた分は対外借金ですから、大変なことになってきます。
実際には資産は金融資産ばかりではないので、たとえば日本国民が金塊だけで、100兆円分持っていれば、何時でも換金可能なので、これもプラスしなければ本当の実力が分らないなどもっと複雑です。
金融資産を基準にマスコミが議論しているのは、企業で言えば全体の資産表を見ないで手元流動性の額を基準にした一応の議論を流用した程度のレベルで、あまり合理的な基準とは言えません。

財政出動2(増税1)

赤字国債は好景気になったら増税して取り戻す予定で始めるのですが、せっかく立ち直りかけた景気に水を差すと言っては、国民・政治家が反対し続けるので、内需刺激策が普通の状態になってしまい、一旦始めると、これをやめることが出来なくなります。
October 18, 2011「国際競争力低下と内需拡大1」以下で連載しましたが、内需拡大(財政出動)政策は、国際競争に負け始めたことによって、国内生産減少による失業増大・・あまった労働需要を吸収するため(失業対策として)に始めることが殆どです。
(輸出減少または輸入拡大による生産縮小は景気の波動による不景気と生産縮小の結果が同じですが、景気の波動による縮小では有りませんから、景気対策と称するのは誤りです)
過疎地などへ補助金投入(その地域の内需拡大)も、過疎地域の産業空洞化が原因ですから原理は同じで、域外出荷出来るような地場産業が育たないで空洞化が収まらない限り、その土地の人口が少なくなって廃村になるまで続けるしか有りません。
とすれば、国際競争力を回復しない限り何年経っても労働力余剰のままである点は変わりがないのですから、いつまでたっても内需拡大政策・・不要な公共工事等の財政支出をやめることは出来ません。
我が国が20年くらい内需拡大・公共工事を続けざるを得なかった原因です。
今はさすがに公共工事は不人気ですので、就労対策として介護関連支出への応援団が多くなっていますが、失業救済・外貨を稼げない点は同じです。
(過疎地の場合には、時間を掛けて安楽死・・次第にその地域の人口減少を待てるので次第に失業人員が減って行く点が違います)
輸出がジリジリと減る傾向の国にとっては、(私の持論である人口減政策を取らない限り)数年経っても一時しのぎ的内需刺激策を廃止するどころか、更に輸出が減って行くばかりですから、増える一方の失業者を吸収するために財政支出を逆に追加していくことにならざるを得なくなります。
個人でも団体でも1%の生産が減れば、生活水準を1%落とすしかないのが原理ですが、それをするには、仮に1%の失業救済資金が必要ならば働いている人から1%増税してそれを回すしかないことになります。
景気対策としては前回書いたように増税はマイナス作用が有りますが、景気の波動対策の場合、持ち直しがありますが、構造不況・・輸出減少に対する対策は本来景気の波とは関係がない・・数年待てば生産が自動的に回復することは有りません。
輸出減少による生産縮小の場合は別の観点・・ここは分担方法の観点が必要です。
みんなが1%仕事を減らしてシェアーするワークシェアリング論も同じ論法です。
10人の会員のうち収入ゼロになった一人の生活を救うには残り9人が1割ずつ拠出するしかないと考えれば単純明快です。(全員が9割の水準になります)
各人の拠出(増税)を嫌がって(不景気になるという理由で)、会の名義で他所から借金して救済しようとしているのが今の政治です。
しかし、上記のとおり、輸出減による生産縮小の場合は、景気循環による生産縮小ではないのですから所得税を増税しても国内資金量は同じですから、不景気・経済縮小にはなりません。
法人税を上げると法人が萎縮して経済活動も縮小するので、景気に悪作用ですが、所得税が上がっても国民の勤労意欲は変わりません。
また、所得税が少し上がっても消費額自体はこれにピッタリ反比例して減少するものではありません。

増税と国有資産売却

特別な支出の必要に迫られての増税だけならば、増税した分を100%使い切るので前回書いたように景気刺激策になるのですが、「身を削る努力をしたのか」という決まり文句を主張する人が多いためにややこしい結果になります。
国民の嫌がらせの結果、増税に追い込まれるほど苦しくなるまで増税出来ないので、歴史的にはいつも増税と歳出削減が一緒になるから増税するとその翌年以降不景気になる歴史法則が成立しているに過ぎません。
増税による不景気・・景気下降を防ぐには、誤った歴史経験を改めれば良いのであって、誤った経験を所与のものとして、増税=景気低下論・反対論が幅を利かすのですが、分析すれば実は「身を削ってからにしろ」という変な世論が不景気を招いているに過ぎません。
今回のように復旧のために使う場合には、増税による増収分をそっくり使うのが明らかですから、いわゆる復興需要によって景気刺激策になるのは明らかです。
仮に1兆円増税して1兆円全額を政府が復旧資金に使ったときに、国民の個人消費はその5%=500億円しか減らなければ、9500億円の国内消費が増える勘定です。
消費縮小分が5%でも10%でも20%で同じで、いずれにせよ増税分100%縮小することはあり得ない(・家賃・学費・ローン等固定支出が大きいので、増税分そっくりの消費減はありえないことと、そんな大幅増税は政治的に成り立ちません)ことが明らかですし、仮に100%縮小することがあっても徴収した税を100%使えば国内消費はトントンであって経済が縮小することはあり得ません。
以上によれば、景気にマイナス作用があるから増税による復興資金をまなうのに反対という説は誤りです。
ところで、支出に対する監視機能という観点で増税・赤字国債発行・国有資産売却の3通りの資金獲得方法を比べてみれば増税は最も賢明な方法です。
支出増には増税で賄うという原則にすれば、国民の支出に対する監視が厳しくなりますので、これが最も健全な方法でしょう。
復旧資金に2兆円までしか国民が増税に応じないとすれば、国民の意思が(可哀想だといくらきれいごとを言っても)そこまでだということです。
これが赤字国債発行によると国民の意思を離れて政治家が密室で良いように決めて行くことになりますし、国有資産売却も同じです。
次は借金に頼る方法ですが、これは国民に直接負担をかけない・お金の余っている人が金儲けのために国債を買うだけですから・・増税よりは抵抗がありません。
安易なので、ついこれに政府は頼るのですが、その内日本のようにモンスター化・ガン細胞化して行きます。
それでも一定規模を越えてガン細胞化して来ると赤字累積が目に見えるので、ギリシャのように市場の逆襲を受けるし、国民もさすがに不安になり支出に厳しくなり、この時点での歯止めが働くようになります。(トキ既に遅しかな?)
国有財産を売って間に合わせる方法(地下資源採掘も同じです)の場合、国民に全く痛みが伴わないので、支出に対する国民の監視機能・・節度が失われ、子孫に残すべき国有財産・地下資源が減少する一方になり最悪のパターンです。
赤字国債の累積に比べて、徐々に売り食いして行くと資産の減少累積額が見え難いので歯止めがありません。
赤字国債の増発に対する批判を避けるために増税すると言っていたのが、増税を嫌がる国民を納得させるためにいつの間にか国有財産売却でその一部を間に合わせる話になって来ると却って赤字国債増発よりもさらに節度のない、意味のない結果になります。

増税と景気効果2

ここで、増税反対論が多いので、国債発行や国有資産売却による資金源獲得と増税による資金獲得の経済に与える影響の違いを考えておきましょう。
どちらも市中から紙幣を引き上げて政府が使う点は同じですが、国債の場合、預貯金で眠っている資金が国債購入に充てられるだけですから、個人消費は変わりません。
個人は預貯金や株券を国債に振り替えるだけであって手持ち流動資産は同じです。
今回のように復興資金が必要な場合、むしろ政府は必要があって発行する以上、取得した資金を100%使ってしまうことから・同額の国内消費が増えて個人が預金で持っているより経済が活性化します。
ただしこの場合、預貯金を有効利用出来る銀行等があれば話が違ってきますが、この20年ばかり、紙幣がだぶついていて銀行や郵政公社も預貯金の使い道がなくて、国債を大量に買っている状態ですから、民間が使うべき自由なお金を政府が奪っていることにはなりません。
銀行の金融機能・信用創造機能喪失については、以前から何回も書いてきました。
増税の場合、使い道のない・どうせ貯金しているお金の余っている人だけが自由に拠出するのではなく、収入が多くても使い道のある人や生活カツカツの人からまで強制的に税を取るので、そういう人の民間消費分が萎縮することがあり得るだけです。
しかし、年収数千万円の高額所得者の場合、50万や60万円増税になってもその人の消費水準がいきなり変わるとも思えませんし、(その年の貯蓄が少し減る可能性があるだけです)自由に任せれば海外でも使うでしょうが、同じ金額を税で取れば100%国内消費ですから税の方が、国内消費拡大向きです。
中低所得者の場合(極貧は別として)でも、増税があっても子供の学費・家賃や光熱費その他支出がそのままの家庭が多い筈ですから、その年の貯蓄が減るかも知れませんが増税分そっくり消費が減ることはありません。
(年間平均100〜150万円貯蓄していた人の貯蓄が1〜2割減るなど)
他方、政府は必要があって増税するので増税分を100%使うことになれば、国内全体での支出はやはり増税しないよりも増加します。
国債も増税も集めた資金は100%消費することは同じですが、増税の場合は増税による増収分を100%使っても増税された国民がたとえば5%しか消費を控えないとすれば、95%しか消費が増えないことになるだけであって、全体の消費が伸びることは同じです。
ですから増税は景気を冷やすという主張・俗説(ほぼ100%の学者がそう言う説ですから・・私の意見が俗説となるのかな?)は事実に反していて、単に選挙民におもねる主張に過ぎません。
過去に増税した翌年に景気下降したと一般に主張されていますが、そのときは、財政健全化のために公的支出抑制と同時実施だったからです。
増税するだけで、政府支出を増税前と同じにすれば、上記の例で言えば5%の消費縮小効果だけ残ります。
赤字幅削減のための増税・・増税によって集めた資金を一銭も使わずにそのまま赤字国債償還に充てると増税による増収分と同額の紙幣が市中に戻りますが、国債償還を受けた方は元々余裕資金ですから、預貯金を増やすだけで(何%かは使うでしょうが・・)消費がは殆ど増えませんが、増税された国民一般は、(余裕のある人ばかりではないので)ある程度(前記の例で言えば5%)消費が萎縮するだけマイナス効果になります。
前年比政府支出を同じにして増税分をそっくり国債償還資金にした場合、いわば、国民平均から増税によってお金を集めて、国債保有者・金持ちに配り直す所得再分配に似た結果になります。
まして・増税した分を支出に回さずに赤字削減のために全部使ってしまうどころか、同時に前年比何割減の支出削減をすればその減少分がそっくり消費減→経済縮小になるのは当たり前であって、景気悪化は増税の効果ではなく支出抑制の効果に過ぎません。
実際にはこの中間が普通であって増税による増収の半分ないし3分の1を過去の赤字削減に使い、半分を追加支出に使うなどのバリエーションがあります。
今回の復旧経費資金のように、追加支出のための増税であれば、増税した分だけ政府支出が増えるので(・・復興需要が生じ)景気が良くなるだけですが、増税に対する国民のアレルギーが強いために、増税は政府支出の緊縮策との同時実施が一般的です。
気前良く使いたいので増税したいとは言えないために、にっちもさっちもいかなくなってからの増税になりがちです。
今度のギリシャ危機でも同じですが、支出の削減で間に合わない分の増税ですから、増税と公共工事・給与削減などとセットになってしまうのです。

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