養育料支払義務を履行する意欲のある人がなかなか増えないとすれば現在の血の繋がった父親の責任を強調する制度・思想が当事者の動物的意識その他の実情に反する面があるからです。
ところで養育料支払が滞る人が多いと言う報道を見かけますが、ホワイトカラー系は職が安定しているのできちんと払っていることが多いのですが、離婚事件の大半は、現場労務系ですので、職が安定せずしょっ中職が変るので養育料支払能力が低い・また取りようがないのが現実です。
従って養育料支払率の低さを議論するならば、その職業別統計をとらないと意味のない議論になっている可能性があります。
非正規あるいは日雇い労務者等の離婚率はものすごく高いのですが、(皆さん身近かなホワイトカラーの中で何割離婚しているか見回して見れば全体の離婚率との違いが分る筈です)彼らは元々安定収入がないので同居中でもマトモに生活費を入れられなくて離婚になることが多いのです。
生活費をマトモに入れないことを主たる理由に離婚になった場合、彼らに離婚後の養育料支払を期待している妻が元々いないのですから、こういう統計をいくら取っても意味がありません。
私に言わせれば、04/06/10「母子一体感3(養育料3)」で書いたように、子育ては社会全体で見るしかないのですが、社会制度が未整備の間は誰かに責任を負わすしかないから夫を父親だからとして責任を負わすようになったに過ぎない・・過渡的・便宜上生まれた思想に過ぎないと考えられます。
にも拘らず、政府や文化人(人権活動家)がこれを金科玉条のごとくに思いつめて運動した結果、政府は、「従わないならば・・」とばかりにムキになって養育料未払いに対する強制執行制度の強化に乗り出していて、最近では将来分(6ヶ月限定ですが・・・)を含めて執行出来るように改正しました。
強制執行するには支払期限が到来していることが鉄則(30条一項参照)ですが、(たとえば3ヶ月先の給与を今払ってくれとか、3年先に明け渡す約束で借りているものを今日から2〜3日で返してくれと言うのは、お願いであって権利ではありません)養育料に関しては期限未到来・半年先の分までの合計金額で今から差し押さえが出来るように便宜が図られたのです。
民事執行法
(昭和五十四年三月三十日法律第四号)
第三十条 請求が確定期限の到来に係る場合においては、強制執行は、その期限の到来後に限り、開始することができる。
2 担保を立てることを強制執行の実施の条件とする債務名義による強制執行は、債権者が担保を立てたことを証する文書を提出したときに限り、開始することができる。
(扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例)
第百六十七条の十六 債権者が第百五十一条の二第一項各号に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権を有する場合において、その一部に不履行があるときは、第三十条第一項の規定にかかわらず、当該定期金債権のうち六月以内に確定期限が到来するものについても、前条第一項に規定する方法による強制執行を開始することができる。
これはこれで実務的に必要な制度改正ですが、(私も養育料を請求する立場の場合、ある程度未払いが溜まってからでないと執行出来ないのは不都合と考えていましたし、そう言う意見をどこかで書いたと思います)別れた夫に対する養育料支払強制強化の側面として見ると、これが政策的に妥当かは別問題です。