増税と国有資産売却

特別な支出の必要に迫られての増税だけならば、増税した分を100%使い切るので前回書いたように景気刺激策になるのですが、「身を削る努力をしたのか」という決まり文句を主張する人が多いためにややこしい結果になります。
国民の嫌がらせの結果、増税に追い込まれるほど苦しくなるまで増税出来ないので、歴史的にはいつも増税と歳出削減が一緒になるから増税するとその翌年以降不景気になる歴史法則が成立しているに過ぎません。
増税による不景気・・景気下降を防ぐには、誤った歴史経験を改めれば良いのであって、誤った経験を所与のものとして、増税=景気低下論・反対論が幅を利かすのですが、分析すれば実は「身を削ってからにしろ」という変な世論が不景気を招いているに過ぎません。
今回のように復旧のために使う場合には、増税による増収分をそっくり使うのが明らかですから、いわゆる復興需要によって景気刺激策になるのは明らかです。
仮に1兆円増税して1兆円全額を政府が復旧資金に使ったときに、国民の個人消費はその5%=500億円しか減らなければ、9500億円の国内消費が増える勘定です。
消費縮小分が5%でも10%でも20%で同じで、いずれにせよ増税分100%縮小することはあり得ない(・家賃・学費・ローン等固定支出が大きいので、増税分そっくりの消費減はありえないことと、そんな大幅増税は政治的に成り立ちません)ことが明らかですし、仮に100%縮小することがあっても徴収した税を100%使えば国内消費はトントンであって経済が縮小することはあり得ません。
以上によれば、景気にマイナス作用があるから増税による復興資金をまなうのに反対という説は誤りです。
ところで、支出に対する監視機能という観点で増税・赤字国債発行・国有資産売却の3通りの資金獲得方法を比べてみれば増税は最も賢明な方法です。
支出増には増税で賄うという原則にすれば、国民の支出に対する監視が厳しくなりますので、これが最も健全な方法でしょう。
復旧資金に2兆円までしか国民が増税に応じないとすれば、国民の意思が(可哀想だといくらきれいごとを言っても)そこまでだということです。
これが赤字国債発行によると国民の意思を離れて政治家が密室で良いように決めて行くことになりますし、国有資産売却も同じです。
次は借金に頼る方法ですが、これは国民に直接負担をかけない・お金の余っている人が金儲けのために国債を買うだけですから・・増税よりは抵抗がありません。
安易なので、ついこれに政府は頼るのですが、その内日本のようにモンスター化・ガン細胞化して行きます。
それでも一定規模を越えてガン細胞化して来ると赤字累積が目に見えるので、ギリシャのように市場の逆襲を受けるし、国民もさすがに不安になり支出に厳しくなり、この時点での歯止めが働くようになります。(トキ既に遅しかな?)
国有財産を売って間に合わせる方法(地下資源採掘も同じです)の場合、国民に全く痛みが伴わないので、支出に対する国民の監視機能・・節度が失われ、子孫に残すべき国有財産・地下資源が減少する一方になり最悪のパターンです。
赤字国債の累積に比べて、徐々に売り食いして行くと資産の減少累積額が見え難いので歯止めがありません。
赤字国債の増発に対する批判を避けるために増税すると言っていたのが、増税を嫌がる国民を納得させるためにいつの間にか国有財産売却でその一部を間に合わせる話になって来ると却って赤字国債増発よりもさらに節度のない、意味のない結果になります。

増税と景気効果1

仮に外貨準備が足りなくなっても純債権国の場合、海外に買ってある土地や工場売却・・・投下資本の売却などで資金回収が可能ですから、更に厚みがあることになります。
(実際には投資してしまった工場や店舗・採掘権などを直ぐ売るわけにはいかないので、実際には簡単ではないですが、そう言う厚みがあるという意味です)
今回の大地震直後イキナリ円高が進んだのはこの連想作用によるものでした。
すなわち、日本は復興資金需要のために海外投資を引き上げるのではないか、そうなると海外資産を売って円に両替する→円高の連想作用・単なる思惑で急激な円高になったのです。
このように純債権国の場合、危機になってもギリシャなどの純債務国のように(海外から借りる必要がないので)その国の通貨が暴落するのではなく逆に円高になります。
日本は今のところ国内金融資産自体が部厚いので、(国内で国債発行すれば間に合う・・国内で殆ど消化出来る実力があります)海外から資産を引き上げる必要すらないことが分って、投機家の思惑が間違いであったことが分り、春先の円高が一旦収まっていました。
復興資金として東京メトロの政府株を売却すると言えば、直ぐに都知事が買いたいと名乗り出たことからも分るように国内でまだ資金余裕があります。
海外にまでメトロ株を売りに行く・海外勢に購入してもらう必要がありません。
ただし、本来は復興需要が始まるとインフラの被害で輸出が停滞する上に無資源国日本では復興用に輸入が増える→貿易黒字の減少または赤字転落ですから、短期的には円安傾向になるべき局面に戻っていました。
これがギリシャ問題で日本の安定性が見直されて再び円高局面になって来たのです。
東京メトロ株の売却の話題が出たついでに、復興資金用に増税あるいは国有資産売却をするのと赤字国債で賄うことの違いをこの際書いておきましょう。
巨額の災害対策・復興資金が必要ですが、これ以上赤字国債発行ばかりでは大変だという常識・大震災後急に日本の国債は国内総生産の何倍だとか言ってマスコミが騒ぎ始めました。(財務省のお先棒担ぎでしょう・・?)
このマスコミのムードに乗って国の借金を余り増やさないために増税で賄うべきだと言う議論・野田政権が出て来たかと思ったら、(増税に対する反対論を和らげるために、)最近では政府の保有株や不動産を売って復興資金の一部に当てる話になって来ました。
どこかの資金の出方次第で節操なく報道するマスコミに惑わされないように、災害復旧資金源として増税・国債発行、国有資産売却の功罪を考えておきましょう。
(幸い私は弁護士業の収入で書いているのでスポンサーが不要なので気楽です)
今回は災害によって、被災した分の資産が減少していて、これを政府が何らかの補填・復旧をすることになるのですが、その補填・復旧資金を仮に100%増税で賄えば、復旧後の政府の総資産は被災前と同額まで復活します。
復旧費用100%を借金(国債)で賄えば、復旧前後を通じて資産は(被災によって政府資産が減損したまま)同じです。
(1000億円掛けて復旧しても1000億円の借金が増えているとプラスマイナス零です)
復旧資金全額を国有財産の売却で準備した場合・・橋や道路の回復に1000億円掛けて完成しても同額分の国有財産を売却していれば、借金した場合と同様一方で資産の喪失があるので資産の増減はありません。
不要・遊休資産を売却して被災地の復旧資材等に置き換えただけです。
いずれの方法も市中から紙幣を必要額だけ吸収してしまう点は、同じです。
企業施設が被災した場合、増資して復旧すれば資産が回復しますが、増資しないで、どこかの施設を売って資金を作り、それで被災施設を復旧すれば、企業の総資産は、被災のよって痛んだままです。
政府の場合、企業の増資あるいは売上増に対応するのが増税による増収です。
増税による増収がない限り、借金で賄っても国有資産を売り払っても、政府資産の増減は同じです。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC