生産性と年齢別労働人口

一人当たり生産額・所得として国内総生産を総人口で割って一人当たり所得を計算して報道しているのが普通ですが、これもおかしな計算方法です。
高齢化が進むと働いていない人の比率が多くなるのでこれも加えて計算すると一人当たり生産額が低くなってしまい、本当に働いている人の労働生産性の国際比較になりません。
以前書きましたが、我が国の国内総生産がバブル崩壊後低成長ながらジリジリと増えて来たのですが、この間高齢化が進み実質的労働人口が毎年縮小している状況下では、実質一人当たり急激な所得・生産性向上があったことになります。
例えば団塊世代60歳時人口が226万人に対し、現在の20歳人口は120万前後ですから、団塊世代の隠退に伴い国内労働力がその差額だけ減少している(ただし外国人労働力の数をこれにプラス)います。
上記の人口比較は特定1年間だけの変化ですが、その前後なだらかに減少が続いているのですから、10年単位ではかなりの減少になっている筈です。
例えば10年間に労働人口が3割減っていて、国内総生産がその間同じであれば3割生産性が上がったことになります。
これが逆に少しずつGDPが上がっていたのですから、実際に何割人口が減ったかまでは知りませんが働いている人一人当たりにすれば大変な生産性上昇率を続けていたことになります。
しかも上記は円表示でのことですから、この間の円の上昇(約10年前には1ドル約150〜160円でしたが今では78〜79円前後です)に合わせてドル表示に直すと中国の上昇率を優に越えているでしょう。
(・・こんなことを国際的に言うと叩かれるので、「日本は大変だ」と言っている方が得策ですが・・・)
我が国の場合、世界基準の15歳以上で計算するとこの年齢から実際に働いている人が少ないので一人当たり生産性が低く出ます。
19歳以上の人口?・・高学歴化すると労働力率が下がりますので30歳までの労働力率など一定年齢で一律に切ると無理が出ますので、16〜75歳くらいまでをトータルしないで年齢別に輪切りして就労人口を割って年齢別一人あたり生産性を算出して行くのが合理的でしょう。
総就労人口で割れば一人たりの生産性が簡単に出ますが、それだと高齢化して隠居仕事で暇つぶしに働いている人の多い国は生産性が低くなりますから、年齢別総所得を出した方が正確です。
上記は思いつきですが、コンピューター化の進んだ現在ではその気になればちょっとの工夫で精密化出来る筈ですから、統計専門家はもっと正確な数字を出す工夫がいる・責任があるのではないでしょうか?
(統計は精密なのにマスコミがおおざっぱな報道をしているだけかも知れません。)
総人口あるいは一定年齢から65歳までの人口で割るやり方は、世界中が同じ労働力構成だと前提とすれば成り立つのですが、国ごとの発展不均等の結果年齢ごとの就学率・就労率も違うし、女性の労働参加の形態も違うなど一律14〜15歳以上の人口を合計して一人当たりの収入などを計算するのは、あまりにも杜撰すぎます。
男女の就業率も違うし、コンピューター化した現在では各種統計を駆使して、もっときめ細かな統計発表をすることはそれほど無理がない筈です。
そうすれば男女比その他いろんな研究の基礎資料にもなります。
統計自体はきめ細かい・・素人には細か過ぎて読み切れないのでマスコミが要約して発表しているとすれば、要約の仕方が間違っている・・あるいは一定の方向へ国民を誘導したい思惑があるのかも知りません。

労働収入の減少4(遺産の重要性1)

もしも、公私(政府も個人も)共に親世代の遺産・資本収益で食いつなぐしかないとすれば、子世代が少ない方が親世代から受ける資産が一人当たり多くなってより長く持続し、豊かな生活が出来ますから、私の持論ですが少子化こそ早急に進めるべきです。
5月7日のギリシャやフランスの選挙の結果や中国の動きに関連して資本収益が将来的に安心出来ないことを、このシリーズ(資本収益の持続性シリーズ・・・・2012-5-5「海外収益還流持続性1(労働収入の減少1以下)では書いて行く予定です。
以前は自分の生活費くらいは自分の収入で賄えたので、ワンランク上の生活・・家を買うような負担があるかないかの格差でしたが、今はその日の生活費が不足気味なのでその分の下駄を履かせて貰えるかどうかが重要になっています。
遺産・・主として相続した家のある人とない人とでは生活水準がまるで違って来る・・これに加えて、金融資産も残してくれているかどうかも大きな違いになってきます。
(この辺は都会2世と今から都会に出る人との格差問題としてFebruary 5, 2011「都市住民内格差7(相続税重課)」前後で書いたことがあります)
上記コラムでも書きましたが、成長の停まった社会では世襲財産・・遺産の比重が大きくなります。
もしも将来資本収益がなくなって一般労働者が中国並みの月収2〜3万円だけで生活しなくてはならない時代が来た場合、現状の月4〜50万円を前提にする個人の生活費が賄えなくなる結果、親世代遺産の重要性が増しています。
個人に限らず公的資産の維持も収入の減った彼らからの税(フロー収入に対する課税)だけでは賄えなくなるので、公的団体にとっても親世代の遺産重要性(相続税・資産保有税の比重)が増してきます。
現在日本の工場労働者は中国人の約10倍の賃金を得ていますが、同じような工場設備を利用して生産活動してる場合、車その他の製品の品質に10倍の格差がある訳がないので、この差額の殆どは、資本収益(親世代の過去の稼ぎ・・本社機能を日本においていることなどを含めて)の配分によっていることになります。
日本全体が、現役労働対価よりも資本収益が多くなった社会・・例えば全収入の9割が資本収益・・過去の儲けの配当とすれば、この部分は、6〜70代以前の世代の稼ぎ・・相続が殆どでしょう。
国の方も、現役(フロー)収入に対する課税だけでは税収や保険料収入が減る一方になって来て、公的経費が賄えなくなって来るので、政府もこの遺産を欲しくなるのは必然で国と個人間で相続財産の取り合いになります。
そこで、格差是正のためには、相続税を重くして行くべきだと言う制度改正スローガンが出て来るのですが、これは上記の通り政府自体も収入源として相続財産に関心を持つようになったことのきれいごと的表現・・レトリックに過ぎないでしょう。
長い間遺産相続権は血族間で争うものでしたが、(日本の跡目争いやスペインの王位継承戦争など)これからは親族間で争う前に政府が先にどれだけピンハネするかの配分争いが先に生じることになってきます。
遺産の奪い合い・・争いは、今のところ格差是正のスローガンしか誰も気がついていないようですから、外の増税に比べて反対が少なく政府の方に簡単に軍配が上がりそうですが、反対が少ないから・・取り易いからと今後相続税の増税を繰り返して行っても社会が持つ・・持続可能でしょうか?

労働収入の減少3(若者が苦しい原因)

ところで、次世代の労働収入が少なくなっている・甲斐性がないのは、次世代だけの責任でしょうか?
労働需要が一定のときに、定年延長をすればその分若者の職場が奪われる関係にあることを、0/01/03「ゆとり生活2」や01/07/10「終身雇用制2→若者就職難2」その他で連載したことがあります。
ただし、定年延長により不当に職場を奪われているのは、従来の定年時期の55歳から65歳前後までの人が働くようになった約10年分だけになります。
ちなみに、日本全体で労働力不足ならば、外国人を入れたり高齢者や女性をもっと働かせれば、国力増進ですが、労働需要減退の結果、失業率の上昇に困っている現状で、労働力の増加・・高齢者の隠退を1年送らせれば、その分だけ若者の職場を奪うことになるだけです。
同じ率の失業者ならば若者を失業させるよりは高齢者を遊ばせておく方が日本のためになるという意見を01/07/10「終身雇用制2→若者就職難2」のコラムで書きました。
・・アルバイト等の非正規雇用世代を養っている60代後半から70代前後の多くの親世代の収入は、過去の蓄積(年金を含めた)で生活しているのであって、(最早働いていないので)次世代の仕事を奪って生活しているのではありません。
次世代の苦境は、日本から労働需要自体が大幅に縮小し始めたことによるところが大きいでしょう。
労働需要縮小は、日本が先に発展したことによる高賃金化の結果、労働市場での国際競争力を失った結果であり、親世代の責任でもなければ次世代だけの責任でもないことです。
これは世界の発展段階のなせるワザであって、次世代にも適応能力として労働需要縮小を緩和するために努力・寄与すべき分がいくらかあるとしても、現在の苦境は次世代の適応能力不足が100%とは言い切れないでしょう。
このシリーズでテーマにしている労働収益から資本収益への変化を見ると、次世代の責任というよりは世界の構造変化によるところが大です。
労働需要縮小がどちらの世代責任かはさておいても結果としてみれば、今の若者は親世代に比べて親世代の恩・扶養を歴史上最大に受けている関係で子世代が損をしている関係ではありません。
世代間対立を煽っても前向きの解決にはなりません。
親世代が高度成長期に儲けた利益を海外投資していることによって、その収益で現在日本の次世代生活費の多くを賄っている・補助しているのであって若者の職を奪う関係にはなっていません。
非正規雇用等で月額15万円前後の収入で40万円前後の水準で生活が出来ているのは、親世代から現金の援助がなくとも親の家に同居して家賃が不要になっている・・親の資産収入によるものです。
もっと言えば、本来中国の労働者と同じような単純作業でありながら中国人労働者の約10倍の賃金を得ているのは、その差額・・9割分は海外からの資本収益=先人の蓄積による援助・・食いつぶしによるものです。
エルピーダメモリがついに倒産しましたが、ここに至るまでにはそれぞれの親企業の過去の儲け・蓄積を投入し続けこれも限界になって・・09年には公的資金が300億円つぎ込まれたものの、ついに支え切れなくなったものです。
この間の従業員は結果から見れば長い間に先人の蓄積した企業利益や国費としてつぎ込まれた資金と同額だけ、自分の働き以上の収入を得て来たことになります。

労働収入の減少2(世代間扶養1)

マスコミによれば次世代は「年金を払った以上に受け取れないから損だ」と頻りに宣伝して年金掛け金の支払意欲をなくす方向・・あるいは世代間対立を煽る方向へ誘導しています。
老親の面倒を見たら自分の受けた恩よりも多い・損だという論法は本当に正しいのでしょうか?
そもそも昔から子世代は生み育ててもらった恩返しに親世代を扶養するのが務めでしたが、(カビ臭い道徳と言われるかも知れませんが・・)それが個々人で出来なくなった(子世代の能力不足・あるいは合理化)から年金や介護保険で見るようになった歴史を前提にすれば、マスコミの立論はこれを忘れた論法です。
今の若者が世代間の財の移転で損をしているどころではありません。
庶民の子育ての歴史を概観すれば、犬猫や鹿のように乳幼児期を過ぎれば面倒見なかったころから、読み書きそろばん程度までは面倒をみた江戸時代、義務教育まで面倒を見た明治から大正期ころまで、昭和に入るとある程度以上では旧制中学や高等女学校まで面倒見るようになり、戦後は中の下クラスでは義務教育の中卒で働きに出るのが普通の時代(昭和30年代前半まで)から昭和30年代後半以降高卒が普通となり、昭和50年代以降は短大・平成以降大卒が普通になっています。
(従来からの大卒階層では大学院まで・・)
大卒どころか大学院まで面倒見たのに(これからは弁護士資格を得ても自立出来ない若者が増えるでしょう)一人前にならずに居候してる若者さえ少なくありません。
漸く結婚して子供産んでも子育て能力が不足しているので、子育て支援センターあるいは保育所その他多額の社会的負担で何とかなっている状態です。
彼ら若者の納税負担は僅かなので、これら膨大なコストを賄うどころではないでしょう・・まだ社会全体から受益を受け続けている状態です。
日常生活で考えても親世代に子供の送り迎えを頼むなど夫婦現役で働いている人は何かと親世代の世話になって漸く育てている状態の人が多いのが現状です。
このように庶民にとっては従来に比べて子育て期間が長くなっただけでも、その分今の若者は過去の子供世代よりも多くの恩を受けているので、以前の子世代よりも多く恩返しするべき関係です。
70歳前後以上の世代では、(年金制度は昭和30年代初めころに始まったものですから、)マトモに年金を積み立てていなかった親世代の面倒をきちんと見た(私の場合長兄夫婦が面倒を見てくれました・・ここでは一般論を書いています)外に、せっかく子供世代に大金を投じても次世代非正規雇用等(オーバードクターもその一種です)で身分が安定しないために彼らに代わって親世代が年金を払っておいてやったり、家を残してやったり、あるいは生前贈与で家を買ってやったりと至れり尽くせりやって来た世代です。
70代前後世代は兄弟も多く、しかも親世代の殆どが戦争で家屋敷が丸焼けになったので何も・・財産らしい財産が残っていない世代でした。
高度成長期に地方から都会への移住が進んだ結果、せっかく空襲に遭わずに残っていた地方の家は利用不能で、都会に移転した我々世代は自前で自宅購入を余儀なくされた人が殆どです。
次世代は、親の多くが既に都会に住み自宅を取得している人が多いことと、少子化の結果、一人一人が親の家を一戸ずつ相続出来る恩恵も受けています。
すなわち、子供二人の標準的家庭で言えば、親世代と人数が同じなので親の取得した家をそっくり受け継げることになっています。
2人の場合、仮に2分の1ずつ相続するとして、結婚した相手も同様に相続していると結局親世代の遺産を100%相続出来ることになります。
(この辺は都会2世と今から都会に出る人との格差問題としてFebruary 5, 2011「都市住民内格差7(相続税重課)」前後で書いたことがあります)
現在は少子化で一人っ子も多いので祖父母世代から集中投資して貰えるので孫は多くのポケットを持っていると言われている所以です。
このように多くの兄弟で育った70歳前後の世代から見れば、次世代は親世代から歴史上最大とも言える多くの受益をしているのに、受益分の恩返しをするには自己資産形成能力が逆に大幅に落ち込んでいるのが現状です。
多くを受ければ多くを返すのが人倫の基本ですが、その能力不足が年金負担能力・・ひいては親世代扶養能力低下をもたらして、将来の年金制度維持に危険信号がともっているに過ぎません。
毎年のように親世代から次世代への贈与税関連(相続時精算課税制度など)の控除制度を延長していることから見ても、親世代から子世代への財の移転が例外でないことが分ります。
年金問題は若者世代の労働収入が伸びない・安定しない(甲斐性がない)ところに基本的な問題があるのであって、次世代の人口が減ることや世代間負担不公平に課題の中心があるのではありません。
子供が少ない分1〜2人で多くの愛情を受けて育ったのですから、親に対するお返しを1〜2人でするのは当然です。
1〜2人だから・子供が多くないので食事や旅行にも連れて行ってもらえたし、大学も行けたのに、お返しの段になって、1〜2人では負担が大きすぎると言うのではバランスが悪いでしょう。
旅館でも4〜5人1室料金は安いのですが、一人で1室にしてもらう以上は高額負担すべきは当然です。

海外収益還流持続性1(労働収入の減少1)

  日本も直接投資比率が低い点が問題・・債券相場に左右されるリスクがある点は同じですが、日本の場合国内金利が世界最低水準なのでどこの国債・・もっとも信用の高い物=低金利の債券を買っても損がない(日本が世界最低金利国ですから)点が有り難いところです。
繰り返しになりますが、国の安全のためには結局は対外債権の範囲内・・長期的経常収支黒字の蓄積の範囲内で外国人投資家に保有してもらうしかない・・それ以上になると借金経済に陥っている・・危険ということです。
対外純資産と言っても直ぐに換金出来る国債や社債などと直ぐに換金出来ない直接投資がありますので、差引黒字でさえあれば安全とは言い切れませんが、債券投資残高が外国人の日本国債等対日債券保有残高以上であれば一応安全です。
(一応と言う意味は、May 1, 2012「税と国債の違い4(市場評価)」に書いたように対外債券がいくらあろうとも民族自決の視点から国債保有は外国人比率を最小限にすべきだという基本的な意見によります)
人によっては債券をすべて売ることが出来ないから・・と言う意見がありますが、それを言い出せば外国人の方も決済資金として一定額保有していなければならない点は同じで、彼らも全部売りにかけることは不可能です。
共同体維持のために使う資金が国債発行によるか税によるか寄付によるかは、あまり問題ではない・・それよりか民族資本(収入の範囲内)によるか否かが重要であることがこれまでの検討で分りましたが、その資金の出所がどうなるかが重要です。
国債発行で吸収する資金源は何かと言うと、これからは貿易黒字によるのではなく、海外投資収益の還流に頼って、(国内個人金融資産の原資です)高度な社会保障(一種の補助金です)を続ければ良いという意見もありそうですが、これの持続性を維持することが可能かどうかの検討をしておきましょう。
資金源が貿易収支黒字による場合は、その年に国民が生産した結果の超過収益ですからその超過生産に関与した人と関与出来なかった人との格差是正のために税や国債によって資金を吸収して所得の再分配をしても、それほどの問題がありません。
貿易黒字(現役労働者の収益格差ではなく)がなくなり、資本収益(退職金や年金同様に過去の労働収益です)による格差が生じているのが、現在の日本あるいは先進国共通の課題です。
現在高齢者が豊かで若者が苦しいのは、資本収益の比率が上がって来た社会で高齢者が過去の蓄積・・資本収益があるのに対して、若者には自分の現在の労働収益しかないことによります。
マスコミ報道では年金その他で次世代が損をしているかのような書き方・世代間対立を煽る報道が多いのですが、実際には、何万人に一人の大成功者以外・多くの次世代が親世代の世話になっている方が圧倒的多数でしょう。
非正規その他貧しい階層は貧しいなりに、親の県営住宅に居候したりしていて、大学を出てもマトモな職がないので食費すらマトモに入れていない若者が一杯います。
仕事がある間アパートを借りていても仕事がなくなると親の家に戻ったり(当然収入がないので1銭も入れません)している若者もいくらもいます。
(都会地の若者はこの点で有利なことを書いたことがあります)
非正規雇用どころか、普通の正規雇用に就職出来た若者でさえも、親から貰ったり、(結婚式費用を援助してもらったりマンション購入資金の一部援助をして貰ったり)あるいはまだ現に貰ってる(親の家に居候して親に負担掛けている)分より自分の方が多く出している例は万に1つもないでしょう。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC