最低レベル競争の有用性(入会資格)3

各地の弁護士会のランクとしては、長者番付に乗るような高収入の人が多くいても他方で会費納付に苦労して会費免除受けているような人が多い会よりは、高収入の人が少なくとも、会費納付に苦労している人が少ない会の方が、信用不安が少ない・顧客満足度が高いのではないでしょうか?
国や社会構成・学校・スポーツチームその他のあり方と同じで、最低底辺層の底上げ・基準をどこに置くかは組織にとって重要・死活問題です。
企業でも官僚組織でも不良社員・役人一人2人の行為で甚大なダメージを被る場合があります。
サッカーや野球等でも一人二人のポカが命取りですし、山登りでも何でも能力の低いところに合わすのが普通です。
我々が修習生の頃にはアパートを借りるのに保証人など要求されることはなかったし、地方の名士の仲間入りとしてどこでも歓迎されました。
それがこの10数年ほど前から修習生がアパートを借りるのに保証人を要求されるようになったり、収入不安定で住宅ローンなど組めなくなったと聞くようになりました。
我々のころは銀行でもどこでも弁護士になる人ならいくら(額の制限なく)でも借りて下さいという時代で(逆にこちらは借りる必要もない時代でしたが・・)生きて来たことから見れば信用力に雲泥の差が生じています。
(私が今の新事務所に移転したのは神戸の震災後でまだ10年あまり前ですが、そのころでも保証人も保証金も当然のように要求されていません)
若手弁護士の経済力の変化を、社会がシビアーに見ていることになります。
可哀想だからと言って、点数の低い人をドンドン入学させたり入社させているとその学校や企業の評価は下がって行きます。
組織維持には入会資格(最低基準)が重要・必須です。
客商売のレストランやホテルでも客単価を落とせばそれなりの人が入って来るし、上げればそれなりの客しか入りません。
国・社会の場合、生まれつきの人である限り一定レベル以下だからと言って国外追放・国籍を与えない訳に行きませんので、殆どの国で知能レベルで言えば精薄から重度知恵遅れまで一定数の分布がある・・知能レベル運動能力・会話能力等計測可能なレベルで言えばどこの国でも最低ランクのレベルは同じになります。
ただし新規加入資格としての帰化には、国籍法第5条4項に生活能力要件があります。

  国籍法(昭和二十五年五月四日法律第百四十七号)

第五条  法務大臣は、次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。
一  引き続き五年以上日本に住所を有すること。
二  二十歳以上で本国法によつて行為能力を有すること。
三  素行が善良であること。
四  自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生計を営むことができること。
以下省略

アメリカで一定額以上の預金があれば、永住権を与えるのも同じ原理です。
上記のとおり、生まれつき以外の後からの入会資格には一定の資格(弁護士や宅建業者で言えば試験合格)の外に殆どの組織では経済要件を課していることが分ります。
法曹3者で見れば、裁判所も検察庁も司法試験合格・修習修了者と言うだけで無制限に採用するのではなく、試験合格の上に更に厳格な採用基準を設けていて合格者500人時代と比べて採用者がその割に増えていません。
弁護士会も加入要件と試験合格とは別にすべきでしょうが、職域を守るための独善・競争排除との区別がつき難いのが難点です。
入会資格のハードルを引き上げるのは問題ですが、政治に迎合して引き下げる必要までないのではないでしょうか?
(例えば年収◯◯円以上という基準が仮にあるとすればその額を引き下げても)一般の資格引き下げはただそれだけですが、会費減免は会に必要な経費を他の会員の負担で賄おうことですから、一種の所得移転を計ることになりますから、なおさらです。
弁護士会費が元々高過ぎるのではないかと言う批判もありそうですが、弁護士会の場合、他の団体とは異なり膨大な無償社会活動を行っていて(本来公費で賄うべきところを)それが会費で賄われているからです。
巨額会費をつぎ込んだ無償・低廉活動(原発相談その他)会から担当者に相談料や日当が支給されます)の多くが若手会員によって担われていますが、若手会員の仕事の場・・顧客獲得にもなってるのですから(ひまわり基金その他無償あるいは低廉活動の多くは若手の新規職場提供にもなっています)会費支出の恩恵を一番受けているのも若手会員になります。
即独する人がまだ事務所を決めていないので、(卒業試験合格前に借りてしまうのはリスクがあります)新規登録申請にあたって届け出事務所を自宅にしておくしかないという話題から、どうせ直ぐに仕事がある訳でもないし事務所を借りるまで「登録を数ヶ月送らせたら会費も負担しなくていいのに?」という疑問に対して、早く登録しないと法律相談その他の仕事が回って来ないから・・と言う回答でした。

最低レベル競争の有用性(入会資格)2

ちなみに古くから、弁護士が高齢化した場合や病気療養中の場合、会費免除申請して認められる制度がありましたが、自分が高齢化して収入がなくなって来たら会費免除申請を出すのは(自動的に認められそうですが)問題があるのではないかと大分前に思案したことがあります。
会費も払えないということはそれだけの仕事ができない・・客も能力を認めないということだから、弁護士として仕事を続けるのはおかしいのじゃないか・・高齢が原因であろうと若くて病気であろうと、会費支払が負担ということはともかくその間弁護士実務遂行能力が不足していることに相違ないことです。
弁護士職務能力のない人が弁護士を名乗って仕事をしていると、能力を越えた事件受任をして不祥事・ミスをしてしまうリスクが大きくなります。
未就職でも高齢化でも、原因如何にかかわらず長期間会費をまともに払えない人はその期間中の実務能力もそれ相応に低下しているのではないか・・ひいては弁護過誤その他問題が生じて来ないかを心配しています。
(これは自分が高齢化して実力が落ちた場合・・どの辺で隠退すべきかを心配して考えていたときのことです)
長年キチンと仕事をして来た弁護士に対する処遇としては、それまでの功労を認めるとしても、高齢化によって会費を払えない以上は能力が落ちているのだから(自分を守るためにも・・)受任してはいけない・・せいぜい名誉弁護士というような別の資格が正しいのではないか・・「元弁護士」で良いのじゃないかなどと大分前に考えたことがありますが、まだ考えがまとまっていません。
若い頃に如何に有能な弁護士であったとしても高齢化して会費を払えない程度になれば、実力も落ちているのだからミスを犯さないように(懲戒事件を起こさなくとも事前に)実務をする能力を否定する退会システムが必要になります。
他方で数十年以上きちんと会務に貢献して来た人は、元弁護士として会のサロン等をに出入りしたり情報を得る権利程度で良いのではないか・・と考えられます。
私の考えがまとまっていないうちに、(自分のことではなく)新入会員の一定期間会費一部免除政策が始まりました。
ちなみに、交通事故や脳内出血等で臨時に入院・病気療養中の臨時的な会費免除は、弁護士資格を維持したままでも入院・療養期間中仕事をしませんから、能力に余ってミスを起こさないでしょうし、病気療養中の人からその間会費を徴収しなくとも(相互扶助の精神だけで処理出来ます)原則として問題がありません。
会の入会資格付与・退会基準は可哀想かどうかの問題と同時に実務能力の査定・・合格の証でもある訳ですから、双方の視点が重要です。
可哀想だと言う視点と実務能力付与基準の双方を満足させるには、、一旦入会させて会の情報やスキルアップの研修を受ける資格を与える必要を満たし、(それと実務資格を与えるのは別問題ですので)将来的には半人前としての資格を創設して、会費を一人前に払えない間は独立受任を禁止するなどの方策(今のところ思いつきですが・・・)が考えられます。
一律に数年間弁護士補にするのではなく(就職していてボス弁の指導のある場合その他能力差がありますから・・)一人前に働けるようになれば会費一部免除を辞退して数ヶ月〜一定期間継続納付後に効力が生じるようにすれば良いことでその人の自主性に委ねるのが合理的です。
半人前の資格創設は法律改正事項ですが、会内ルールとして会費減免の条件として共同受任を義務づけるのは可能な感じがします。
現在でも指導担当弁護士指定制度がありますが、(私もその指導者になっていますが・・)相談されないと何をしているか分らないので、実質的に機能しているとは思えません。
実務能力と資金力は関係がないという意見もあるでしょうが、顧客から見た信用維持は、支払能力・・経済力が大きな指標である点については、不動産業界では宅地建物取引主任資格を試験で得ても、一定の保証金を積む能力のない業者は営業出来ないようになっていますし、旅行業法その他殆ど全ての業法はこうした仕組みですから、信用保持のためには一定の経済力を必要とする法意識が現在社会では普通ではないでしょうか?

宅地建物取引業法
(昭和二十七年六月十日法律第百七十六号)
(事務所新設の場合の営業保証金)
第二十六条  宅地建物取引業者は、事業の開始後新たに事務所を設置したとき(第七条第一項各号の一に該当する場合において事務所の増設があつたときを含むものとする。)は、当該事務所につき前条第二項の政令で定める額の営業保証金を供託しなければならない。

弁護士の場合、顧客から巨額の資金を預かることが多いにも拘らずこうした規制がなかったのは、資格試験としての司法試験が厳しくて合格=職業能力充実(お金に困る人は滅多にない・・不祥事は高齢化によるジリ貧の場合が中心でした)という実態があったからです。
大量合格時代→資格と職業能力が乖離する時代が来た以上は、逆に入会=職業能力審査をもっと厳格化すべきではないでしょうか?
職業能力審査はペーパーテストではなく、就職出来るかどうかにかからせるのが合理的です。
就職試験は結構シビアーで全人格的能力を問われることは必定で、これに通らない人の能力は平均以下とすれば、平均以下人が数年以上に及ぶ先輩弁護士の下積みとしての実務訓練を受けることすらなしにイキナリ独立開業するのはなおさら問題です。
新人に対する会費減免制度は支払能力不足を理由とするものですが、きちんと就職出来ていればそんな心配が要らないことからすれば、まさに即独・軒弁救済策・奨励策となります。
これを正面から主張し過ぎると弁護士会は参入障壁を作っているという批判が怖いので逆に緩めているのでしょうが、この辺の政治的判断がよく分らないので、私は弁護士会のこの種の政策に反対をしていませんが、(実際せっかく合格しているのに就職の出来ない人は気の毒ですし・・・)長期的には弁護士の信用力低下にならないか心配しています。
「武士は食わねど高楊枝」と揶揄されていた徳川時代の武士はお金を扱う部署に殆ど関係していなかったことで何とかなっていました。
弁護士が食うのに困るようでは先行き人材供給レベルが限られて来るし、不祥事が起き易いし、不祥事が起きないまでも会費を払うのに苦労しているような弁護士が多くなると後見人等で総財産を託す人が不安になるのは目に見えています。

最低レベル競争の有用性(入会資格)1

上から10〜20段階の国民がいた場合、暴動の主役になる階層は最低とその次レベルの人が中心でその他の階層の人は実は冷めているのが普通です。
最低レベル者はどこの国にも一定数いますし、殆どの国では最低辺レベルは似たようなものですから、その中の更に質の悪いのが政府の煽動や大災害等何かチャンスがあるとこの機会に乗じて暴動略奪が起きるのが普通です。
学校ならば、一定レベル以上でないと入学を認めなければいいし、企業でも会員制組織でも一定レベル以上を採用・入会資格(事後的には欠格事由)にすれば良いので最低レベルの底上げが簡単です。
話が変わりますが、若手弁護士の就職難対策として若手会員の入会金や会費等の負担を軽くする動きが盛んですが、入会資格基準を引き下げるのは単に可哀想という次元を越えています。
会員になるための最低資格である資格試験合格と会員資格とは本質的に違います。
新入会員特典は会費を払うのすら困るような弁護士・・一定レベル以下でも、仲間と認める入会資格レベルの引き下げの意味を持っています。
せっかく試験に合格したのに就職もできないために弁護士資格を得られないのは可哀想だという意見は尤もですが、既存会員が病気等で臨時に困っているなら相互扶助のレベルですが、就職し損なっている人で会費を払うのが困難でも会員になれる=弁護士業を出来るようにすることは、(オンザジョブトレーニング不能効果もあって)入会資格レベルを引き下げることに他なりません。
結果的に弁護士レベルの引き下げ誘導となるので、相互扶助とは本質が違うのではないでしょうか?
資格試験に合格しただけでは、もしも採用されればその仕事をする資格があるというだけです。
調理師・理髪師免許でも、あるいは国民は一定年齢になれば国会議員や総理になれる資格があるだけであって、採用され、あるいは当選しなければその職に付けないのが、全てに共通する原理です。
これまで資格試験である司法試験合格基準が厳しくて採用試験とほぼ同じだったので、資格取得と職業能力の違いが明白でなかったのですが、大量合格化・資格試験のレベルを引き下げて行く以上は、職業能力・会員資格のハードルをより厳格化するべきであって逆に引き下げるのは大問題ではないでしょうか?
合格者増に併せて入会資格を引き下げて行くのでは、弁護士の信用維持にとって将来大変なことになり兼ねません。
この心配から今後倫理教育に精出すのが日弁連の方針ですが、「お金を使い込むのが行けない」という教育をいくらしても(お金を使い込んだらいけないくらい教育を受けなくとも誰でも知ってます)経済力が引き合わないと不祥事が起き易くなるのは火を見るより明らかです。
(経済力が指標になる点は・・未就職者は結局能力が低いのではないかと言う後記代議士の見方が表している外に、その後の訓練を受ける機会が少ないことから余計に実力差がつきます)
劣化した弁護士資格付与を認めると将来弁護士の信用がガタ落ちになるリスクを抱えてしまいます。
品格維持はお金・経済力だけが基準ではないと言う反論があるでしょうが、試験合格者に対してそれ以上再試験をするのも困難ですので、客の大金を預かることの多い弁護士業には一定の品格維持のためにする一定の経済力維持が必須の要件のように思われます。
昨年末の衆議院選挙に当選した弁護士から、政策秘書にいい人がいないかと聞かれたときに「いくらでも就職出来ない修習修了者がいるんじゃないの?」と言うと彼は、「いやあ先生、就職出来ないのはそれだけのことがありますよ・・使い物になる訳がないでしょう・・」と言われてしまいました。
お金の多寡と人格・能力は違うという形式論が幅を利かしていますが、法律用語として、「信用とは経済力」のことであると02/03/09「政府・公共団体の破綻2」その他で以前紹介したことがあります。
お金がないのはいろんな事情があるでしょうが、(タマタマ病気で能力発揮出来ないとしても、そのときには臨時ですが能力がないことになります・・)結果として実力の総合結果である点は同じですから、就職出来ない・・会費を払うのが大変という人に弁護士資格を優遇して与える必要があるかは考えものです。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC