20年で失われたのは?2

我が国経済は、前回まで紹介したとおりバブル崩壊後じりじりと黒字を拡大し続けて平成2年の約6兆円あまりから平成19年には約24兆円あまりの黒字(円表示ですからドルの下落に関係ありません)にまで伸びていたのですから、中国がこれにすごい勢いで追いついて来ている・・ここ2〜3年前から年ごとのフロー収支では追い越されているとしても、何も困りません。
データ紹介ついでに外貨準備高の推移も見ておきましょう。
海外進出が盛ん(海外進出をするための資本が比例して出て行っている筈ですが)であるにもかかわらず、外貨準備高(個人で言えば預貯金のようなものですが・・・)もものすごい勢いで増えています。
2008年5月頃には1兆ドルを突破したようなニュースを見た記憶がありますが、リーマンショック後海外進出の加速で外貨準備が減ったのか、(資本収支・海外投資残高の推移を見れば分ります)財務省の平成23年1月11日発表の平成22年12月末現在で1兆0961億8500万ドルになっています。

以下はウイキペデイアからの転載です。

日本の外貨準備高の変遷(1996年10月〜2007年12月)出典ウィキペリア

日本の外貨準備高の変遷(1996年10月〜2007年12月)

個人の収入が50代から高収入で安定していて(自宅も取得してこのための蓄え目的の収入が不要になっているのに)逆に金融収益が増えているとすれば、まだ自宅もない若手の収入が5〜60代の人に追いついて来ていても、自分の収入が減らない限り他人の収入を気にしなくても良いのと同じです。
実際、国際経済で見れば円相場がリーマンショック以前に比べて約5割くらい(前回紹介したとおりドル換算値が125円と82円を比較すれば約5割アップです)上がっているのは、冷静な見方で(マスコミの誤った意見だけ紹介されていますが、これを除外して)言えば、日本経済は将来に向けて高い評価を受けていることを物語っています。
(将来下がる前提で円を買い進めることはないので、市場での円値上がりは取りも直さず日本の将来性を買う経済人の方が多い現実を表しています)
バブル期から見れば平成19年の経常収支が実に約4倍の黒字(ドル表示ではもっと倍率が上がります)になっていて、国力としては伸張中であることが明らかで、たそがれどころではありません。
若者が苦しいのは、この20年で職場が大幅に失われた・・経済構造の変化・・労働需要減+長寿化による労働人口の増加→失業の増大を避けるためのワークシェアートしての非正規雇用の拡大=正規就職の困難性によるのであって、国力低下によるものではありません。
国全体の儲けが減って来てみんが苦しいのならまさに大変な事態ですが、これまで繰り返し書いているように儲けが大きくなっていても現場労働や中間管理職が増えないどころか、技術革新によってむしろ減って行く社会構造になって来たので、従来型の汎用品製造・一般事務職向け職場が激減してしまい就職難に陥っていることが、若者に閉塞感が漂っている大きな原因です。
事務系でも中間職が激減しているのですから、ホワイトカラー・中間職の次世代の多く・大卒(親世代よりも大卒が増えているのですから大変です)が親同様の安定した職に就けなくなったのは当然です。
他方で、今朝の日経新聞朝刊に大きく出ていましたがソニーが優秀な学生を採用するために採用枠を外国人3割に引き上げる予定になっています。
汎用品的職場が減るだけではなく、優秀学生向け職場も内外をとわずに募集するようになってくると、惰性的に子供を多く産んでも職場がない事態が起きるのは当然です。
このように急激に就労構造が変わり汎用品向け労働市場が縮小して来たばかりではなく、国内でも海外労働者と競争が起きている以上は、労働者供給を優秀な人材に絞り込むのが政策目標であるべきです。
優秀な人材を育てるには・・具体的には人口抑制しかありません。
これをしないで、逆に長寿化によって労働者の滞在人口は増える一方の現状を放置していると、新規参入の若者が就職難になるのは目に見えています。
その点の責任に触れずに「今の若い者は不甲斐ない・・」海外志向の若者が減ったとか「覇気がない」と批判しているのです。
親世代が次世代の労働環境を予め整えておくのを怠り・・人口政策のミスをそのままにして次世代に転嫁しているに過ぎません。

適正人口3

 

今後日本の労働需要がどうなるかの見通しによって、どの程度の労働可能人口を形成するのが適正かの基準を考えるしかないとすれば政府の人口政策は重要です。
企業はパソコンの普及等産業構造変化やグローバリゼーション化にあわせて、人材の配置転換等で迅速に対応して(不要人員には中途割り増し退職金支給等で企業外に放出するなどして)いますが、政府の方は不要な国民に支度金をやって(満蒙開拓団のように)海外に放出するわけにはいかないので、企業以上に先を読んだ人口政策が必要です。
企業家が数年〜数十年先の需給見通しによって仕入れたり、工場立地・・研究開発を進めるのと同じく、政府も何も考えずに成り行きに任せるのではなく、労働力の仕入れ=出産政策も30〜60年先の労働需給見通しによって策定すべきです。
そこで今後の労働需要の見通しに入って行きますが、グローバル経済下では日本だけが世界の工場として存在し続けるのは不可能ですから、長期的には国際平準化に向かうしかなく、この方面でもかなりの労働需要の減少が見込まれます。
出典不明ですが、ネットでは1990年に1197万人の製造業従事者が2007年には897万人に減っていると書かれています。
あるいは、平成22年11月16日経済産業省で開かれた「国内投資促進に関する意見交換会‐議事要旨」の発言によると
「平成14年から21年までの政権交代までの7年間、製造業では96万人、建設業では82万人の雇用減があった。」
とあり、需要減が続いていることが明らかです。
リーマンショック後に海外展開したことによる国内労働需要の減少だけでも、正確な数字は忘れましたが、何十万人にのぼると報道されていました。
この消滅した需要はリーマンショックの不景気から日本経済が立ち直っても最早国内に戻ることのない需要です。
仮に同じ生産量を国内で維持していても機械化・効率化によって従業員数は減る一方ですから、製品輸出産業に従事する労働力需要はじりじりと減って行くしかありません。
同じことは事務系労働者にも当てはまり、国際化による規模縮小だけではなく、事務処理の電子化等による効率化によって、中間管理職以下の事務職員の需要が激減しつつあります。
今後縮小して行くべき分野・裾野人口ほど、関連人口が多いのは当然ですので、裾野分野の過剰労働力発生に代わって研究開発やデザイン、漫画等知的分野で外貨を稼げるのは、うまく行っても少数の人間ですから、工場労働者や末端・中間ホワイトカラー向けのような大量の人員を養えません。
January 5, 2011「合計特殊出生率2と人口増減」で紹介したとおり政府や学者の予想では、現在よりも出生率が下がり続けても1955年の人口水準に戻すのには今後約45〜50年もかかってしまう予想ですが、それでは急激なグローバル化や効率化による上記のとおりの労働需要の減少に間に合わない筈です。

過剰労働力と域外脱出

適正人口がどうあるべきかの基準としてみれば、青森県の例・・たまたまネットで拾っただけで地方はいずれも似たような状況でしょう・・は大きな示唆を与えています。
青森県では人口減も始まっていますが、それでは収まらずに社会減=労働人口過剰が続いている・・・人口減と労働人口不足とは連動しないことが分ります。
青森県民・・あるいはその他地方では学者や政府が見通しを示してくれなくとも、適正人口を上回っていると自己判断した結果、脱出が続いていると見るべきです。
地元にとどまって失業率を押し上げるよりは、脱出して未知の地で就職活動をした方が良いと言う判断でしょう。
この結果地方の失業率はそれほど上がらず、(前回書いたとおり、就職機会がないと求職活動自体が低下するからです)大都会の方が失業率が高くなる傾向があります。
こうした実際の動きを無視して、失業率・持ち家率その他の統計だけで「地方は住み良いぞ!」とする宣伝を良く見かけますが、本当に住み良ければ地方の人口が減る筈がないのです。
地域として社会減があるのは、地元で吸収出来る以上の人口を用意してしまった・・人口政策を誤っていたことの厳然たる事実の現れと見るべき・・過去の為政者の人口政策と産業政策の総合的失政と言うべきですが、地域の場合過剰人口になってしまっても、他の仕事のありそうな地域への国内移動で間に合うので(地元失業率が許容出来ないほど上昇する結果責任を回避出来て)政治責任が顕在化しなかったに過ぎません。
これが政府が国全体の人口政策を誤って人口過剰になると、仕事のありそうな海外へ脱出出来るヒトは県外に出るのに比べて極めてハードルが高くなります。
政府が労働需要創出策とセットにした大枠の労働需要判断を誤り・・無責任に子供を増やすと、国内は失業の増大で大変なことになります。
(上記ネットあるいは関連ネットでは、流出が進むと過疎化が進んでしまい、大変だと騒いでいますが逆です・・青森のように出て行ってくれるから良いのであって、誰も出て行かないで県内で失業者が溢れたらもっと大変ではないでしょうか)
この流出実態に対して、地方では過疎化するからもっと子供生んでもらうには・・・と政策動員している現在の政治・マスコミはどうかしていませんか?

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