アメリカの指導力低下8(ミカジメ料2)

味方してくれるか否かはっきりしないからイヤになるのではなく、(外に頼るべきところがない以上は)このときにこそ、こちらに引き寄せる努力が必要です。
アメリカが同盟国保護よりは、(同盟国から受けられる用心棒料・ミカジメ料が少なければ)中国での儲けにつられて中国寄り発言が増えて行きます。
フィリッピンや日本等からアメリカは頼りにならないと思われても、日本や東南アジア等は露骨にアメリカに嫌がらせ出来ませんから、アメリカは失うものは殆どありません。
世界のヘゲモニーを握っているアメリカに少し交渉ごとで譲っておいても、イザというときに後ろ盾になってくれるからということで,交渉上いつもアメリカがおいしい思いをして来た有利な立場・・上乗せ利益(用心棒料/ミカジメ料)が減る程度でしょう。
例えばアメリカが南沙諸島や西沙諸島を守ってやっても自国防衛には関係がなく(フィリッピンが恩に感じるだけですが)、中国と仲良くした方がもっとメリットがあるとなれば、アメリカがそちらになびく危険があります。
アメリカの言うとおりにしても、イザというときに何の役にも立ってくれないとなれば、(後ろ盾どころか中国の主張に「お前譲れ」と言い、譲らないと「失望した」というばかりではどちらの味方か分りません)どこの国もアメリカに都合の良い条約を結ぶのには二の足を践みたくなります。
こうなるとアメリカも同盟国に義理立てするメリット(用心棒代)が余計少なくなりますから、悪循環に陥ります。
TPP交渉の成否は、アメリカが同盟国を大事にするメリットを考える分水嶺になる可能性がありますから、アメリカを引き止めるにはTPPでアメリカにかなり良い思いをさせる度量が中韓を除くアジア諸国にあるかどうかでしょう。
今後アメリカを中心とした国際決めごとは、アメリカのご威光低下に比例して参加国にとってはアメリカの言うとおりにするメリットが減って行くのですから、これに比例して、アメリカに都合の良い意向が通り難くなって行きます。
アメリカが自分の威光低下に比例して既得権を譲る気持ちがないと次第に決まりにくくなる展開が予想されます。
(本来は5分5分のところをアメリカの警察官的役割のお礼を含めて有利に7対3で決まっていたとすれば、今後はその比率を下げて行くしかない展開で、これにアメリカが我慢出来るかになります)
依頼者が自分の実体的能力以上の要求をしていれば、誰が交渉担当になってもうまく行きません。
アメリカ国民や政府が自分が対外約束を守れなくなっているのに、従来どおりアメリカに何割も有利な約束を獲得しろと交渉担当者に命じてもうまく行きません。
名交渉家と言われるようになるには、まず依頼者に対して自己のおかれた状況説明能力が必須です。
例えば敗訴が確定した事件を相談された場合、交渉出来る範囲が限定されていますのでその限界を良く説明して納得してくれた範囲で受任しますが、その他の訴訟前の交渉も彼我の戦力分析をして見通しを立てて受任するのですから、我々弁護士業務と政府間交渉も似たようなものです。
TPP交渉がまとまらないのは交渉担当者の無能力によるのではなく、アメリカが従来全面的に「俺に任せておけ」と言えた時代に比べて、どこまで要求レベルを引き下げて良いのかが決まらない・・アジア諸国もあまり当てにならなくなってるので、今まで通りは譲れないが、どこまでアメリカに譲って対中戦線の仲間に引き止めるかの軸が決まらない・・お互いに初めての交渉になっているからではないでしょうか?
日本もアメリカを自陣営に引き止めるにはそれなりのミカジメ料の負担が必要ですから国内利害調整ばかりを理由にしていられない高度な政治判断が求められます。
風俗や料飲店で変なヤクザの嫌がらせを受けないために、特定のヤクザにミカジメ料を払うような関係ですが、国際社会にはまだ統一国家がない以上は仕方がないのが現状です。
折角頼んでいるヤクザAが隣のヤクザBに対抗してくれるかどうか分らないのでは、意味がないのでミカジメ料の払う相手をヤクザBに乗り換えようかと言うのが韓国の動きです。

アメリカの指導力低下7(ミカジメ料1)

アメリカは同盟国から見れば矛盾した、腰の定まらない動きがあって信用を落としていますが、アメリカ自身が国力低下によって世界の警察官役を従来どおりはやれないことがはっきりしているが、どの程度縮小するか・どの程度引き受けて行くかについて軸足が定まっていないからでしょう。
はっきりしていることは、自国軍自体を危険な最前線の第一列島線から背後のグアムの線まで引き下げて、その代わり現地軍・・日本やフィリッピン等の軍に危険な最前線の守備・ウオッチャー(昔で言えば狼煙を上げる役割)の肩代わりを求めて行く動きです。
自国防衛のためにはフィリッピンや日本を味方にしておけば良い(敵基地にしなければ良い)のであって、フィリッピンの小さな島・特に中国とフィリッピンの間の島をいくつ中国に取られてもアメリカの防衛に関係がないと言う基本的立場に見えます。
尖閣諸島線が破られると中国潜水艦が自由に太平洋に出られる→いつでもアメリカ本土近くに出没可能となってリスクが高まりますから、アメリカは自国の利益のためにも簡単には島を放棄しないでしょう。
肩代わりして前線を守っている日本軍やフィリッピンが、アメリカの防衛に関係ないことで中国とこと起こしたら、背後の米軍が直接出て行く気があるのかどうかが分らない(ないでしょう)のでみんな心配し始めたのが現状です。
アメリカは前線基地の役割を果たさせるためには、自国防衛に直接関係がなくとも、日本や東南アジア諸国を味方にして中国に対抗して行く姿勢を示す必要があります。
そして、兵器補給等の応援(これはアメリカにとって金儲けになるし)は喜んでするが、日本やフィリッピン等がアメリカのためではなく、自分勝手に中国と起こした紛争には巻き込まれたくない(これが本音でしょう)がどの程度まで応援するフリをするか、あるいは積極的に中国と組んで太平洋を2分するか、国の基本方針・腰が決まっていないように見えます。
外形から見えることは、口先だけでコミットメントするものの、実際にことが起きたら中国と正面から対決することまではしたくないという姿勢が見え見えです。
日中の対決になって自分の出番になるのは困るから、中国が無茶言っても日本が全て引き下がってくれというのがアメリカの姿勢のように見えます。
アメリカは自国防衛のために尖閣諸島を中国に渡したくないでしょうが、そこだけ共同演習等で応援すれば充分であって、それ以上中国を刺激するなということでしょう。
ちょうど日本の左翼が米軍駐留によって米ソ、米中戦争の巻き添えになるリスクがあると主張をしていたことの米国版主張です。
日本が引き下がらないで日中対決が激しくなると口先介入だけで漁父の利を得られないのでアメリカは「失望する」のです。
「失望」の意味は、イザとなっても「喜んで」日本の味方をしたくない・・応援するとしても渋々ですよ」という露骨な意思表示ではないでしょうか?
両方に良い顔したいだけ・・実戦になれば「俺の言うことを聞かないで戦争になってしまったのだから知らない・・」と高みの見物をする予定の同盟国ってあるの?ということになって、アメリカが世界中の不信感を招き始めました。
アメリカは中国の軍事力を恐れているのではなく、あるいは人権侵害を気にしない・価値観が共通だからではなく、そこで儲けているGM等の利益を保護し、さらに新たに進出して儲けたいからです。
この後で書いて行きますが、アメリカの行動原理は市場原理とか民主主義という美名で表現・宣伝されて来ましたが、その実質は金儲け(金亡者・・どん欲な経営者の巨額報酬を見れば分るでしょう)になるかどうかが最優先の国民性です。
個別政治問題の決定基準はロビー活動・・金のかけ方次第になりますし、大統領選その他全て巨額資金を集められるどうかが勝敗を分ける国です。
アメリカの中国への傾斜を防ぐには、中国と組むよりは日本と東南アジアの合計の方が実利があるとアッピールすれば良いのでしょうか?
交渉問題では、警察官役を引き受けてくれる対価(税の一種)としてある程度譲るしかないのも現実です。
アメリカの腰が定まらないのは、アジア諸国がお礼としてどれだけアメリカに良い思いをさせてくれるかによって決めたいというアメリカ側の側面もあるでしょう。
まだどちらに着くか決めていないときこそ交渉効果のある時期です。
敵方についてしまってからこちらに引き戻すには何倍も努力・・見返りが要ります。

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