ところで、世界の警察官をやめるのは軍事力負担が重いだけのように見えますが、それよりもアメリカ実業界にとってロシアその他に対する経済制裁が大きな損害・・負担になっている面を無視出来ません。
経済制裁というのは一方の立場を表現しただけであって,痛みは双方平等です。
10対1あるいは100対1の経済力差があるときに一方はその痛みに耐える力がその差に比例して持続出来るだけの違いです。
イラン禁輸・ロシア禁輸も同じで,アメリカ協力国総合と相手経済力の差に比例します。
ただ,北朝鮮の例で分るように,制裁直後は相手の民心に利きますが窮乏生活に慣れてしまうと相手国民心への影響力は漸減して行きます。
民主国家との体制相違も大きな影響差があります。
独裁政権では言論の自由がないので国民不満はただちに大きく出て来ませんが,アメリカの場合相手の10分の一の経済被害でもその業界に大きく騒がれる弱みがあります。
人命比較すると簡単ですが,IS等に日本人やアメリカ人が一人二人でも殺されても大騒ぎですが,その陰でイラク・アフガン・シリア人等が何万と殺されていても相手国の士気に何の影響もない・逆に反米士気が上がります。
長期的には封鎖されている方は国力が大幅に低下するので,最後の決戦力は弱まりますが最後の決戦に持ち込まない限り北朝鮮のように,世界の進歩に遅れたままでも元の19世紀よりも良くなったと喜んでいれば済みます・・元々圧迫を受けている敵愾心の強い民族には経済制裁だけでは実は効力が殆どありません。
禁輸している方の経済界では、(制裁前に相手国の輸入が大きかった場合・良い顧客だった場合には)逆に売り損なっている不満・経済的に見ればロシアに輸入禁止されているのと同じ経済効果が大きくなって来ています。
金融サービスであれ何であれ消費する方は別の業者、国から買うか消費を減らす・・外食や映画鑑賞を減らすのはどうってことがないなど柔軟対応可能ですが、供給側は1~2割でも売り上げが減れば固定経費の支払いがあって死活問題です。
買う方よりは売る方がダメージが大きいのが原則です。
ロシアやイランなどは元々原油程度しか売るものがないので、損をするのは国営系大型企業、国家財政だけで輸出に関係のない庶民零細企業には殆ど影響がありません。
要は西側のオシャレな商品、美味しい消費財が入ってこない不便さだけです。
消費財を売っていた企業は苦しくなるので連合体制の場合には何かと理由を付けて例外を求めるクニが現れますが,制裁を主導するアメリカ自身が率先してやるしかない以上,アメリカが一番損な役割になります。
ナポレオンの大陸封鎖・禁輸令が失敗に終わった原理です。
以上のようにアメリカが世界の警察官をやめると言い出したのは自分自身の制裁疲れが起きている面を無視できません。
世界の警察官をやめる=制裁解除は、国内企業の支持が多く一方的宣言で可能なので国内だけを考えれば意外に実現性が高い可能性があります。
ただしロシアその他への制裁は総合的国益を判断して行って来たはずですので、選挙のテーマにならない間接的ないろんな利益を損なう可能性が高いのですが、例えばちょっと考えてもサウジアラビアや欧州など関係国との協調をどうするかなど実は複雑です。
国際政治上アメリカに頼る関係で何かと譲歩して来た国々が一杯あります。
これを無頓着に行うと旧来の友好国との間で築き上げてきた膨大複雑な利害を無視することになり多方面の離反・アメリカの不利益を招くリスクがあります。
イラン制裁復活の主張もしていますが、解除で動き出したばかりでこれを一方的に覆すとアメリカの信用性が大きく揺らぐので実は簡単ではありません。
高関税、輸入規制の実現性を見ましょう。
アメリカ国内だけで見てもトランプ氏が仮に中国製品やメキシコ製品に45%も課徴金をかけると中国やメキシコ制裁のように見えますが,中国やメキシコがアメリカに対してのみ45%高くないと売らないと決めた輸出禁止(アメリカだけ高く買うしかない)を受けているのと経済効果は同じです。
イキナリ国内生産に切り替える暇がないから,国内は品不足で大混乱になるか,高くとも輸入して買うしかないので中国等からの輸入が45%減るのではなくもしかしたら一割程度しか減らないと思われます。
45%アップより10%高くてもいいからと中国以外から買うとすれば、結果的に国民が10%割高な買い物を強制されていることになります。
国内で作らなくなってしまった製品をイキナリ国内生産に切り替えるには人材も工場設備、サプライチェーンもないので,その間他所から買うとなれば結局割高なもの買うしかないのでアメリカ国民にとっても大幅な損失です。
それでも中国にとっては,時間の経過でアメリカ国内生産や他国からの輸入が増えて中国製販路が縮小するので大打撃です。
別の見方・・輸入品に45%の高関税を掛けて国内工場保護する場合,輸入品に一律45%の消費増税したのと同じ結果になります。
相手の立場で見るともっと無理があります。
自国産業保護のために高関税を掛けて相手国の報復関税を受ける連鎖が起きると,世界を鎖国状態に戻すことになります。
これが1929年頃の大恐慌に際して(いま同様に自国中心主義で)アメリカが先に関税を大幅に引き上げたので、これに欧州が報復関税をやった結果→報復合戦のエスカレートの末に植民地別のブロック経済・・国際物流縮小が始まった原因です。
日本の場合,後記のとおり原燃料等を買うしかない・・輸入禁止出来ない弱い立場なので,報復関税競争に参加していなかったのですがブロック化するべき植民地を持たない日独伊がトバッチリで真っ先に参りました。
当時の世界2大経済圏の流通が止まった結果、国際経済活動が窒息状態に陥ったのでこれを打開するため→ナチス・ファシズム台頭→日本は満州の囲い込みに走るなど世界戦争に入った原因です。
アメリカに高関税で狙い撃ちされれば中国は、ためらいなく報復に出るでしょう。
短期的には中国の代替としてその他の国の輸出は伸びるし,一方でアメリカの代替として中国への輸出も伸びて良いこと尽くめのようですが,米中2国間経済戦争の影響度・・戦前の2大経済圏であった欧米間の報復合戦同様にどのように波及して行くか,今は見通せませんが、世界経済は大変な状況になるリスクがあります。
アップルのようにアメリカ輸出用の製造工場が中国やメキシコに一パイありますが,(中国やメキシコの対米輸出が多くて怒っているのですから一杯あるのはあたり前です)その輸出が減ると日韓その他の対中輸出も減り→日本や韓国の輸出が減れば,日本韓国へ原材料輸出しているクニも困ります。
このような連鎖波及の切っ掛けが戦前の大恐慌であり→戦争になって行ったのです。
ところで貿易ストップの自国内反作用の大きさは相互往復貿易量(輸入輸出総量)に比例しますから,アメリカにとっても今や対中貿易量が大きくなり過ぎている結果(中国が違法行為をしてもアメリカが武力で脅せないのと経済面でも同じです)、対中貿易をストップしかねない35〜45%もの急激な課徴金を課することは実現不可能と思われます。
トタンプ氏はスローガンを掲げた以上は,結果などどうでもいいと言う無責任・蛮勇で踏み切れるのでしょうか?