ソフト化社会7(紛争予備軍1)

生活水準の向上により人格・性格がソフトになったばかりではなく、2月6日まで書いたとおりシステム的にも法的紛争が起き難い社会が構築されていますし、日本人は元々無益な紛争を好まないので、これからもっとこの種のシステムが発達する一方でしょう。
人間自体がソフトになって紛争が起き難い社会になっているのは、事故や事件を起こす年齢構成でも分ります。
交通事故でも刑事事件でも総数が激減しているのに、年齢構成別に見ると減らないのは中高年齢層の事件や事故ですが、彼ら高齢層が被害者になっているというよりは、彼らは昔ながらの荒い生活をしているので事件に巻き込まれ易いことを表しているのです。
この1年間に私が担当した刑事事件(交通事故等)を振り返っても、殆どが70代前後の人です。
(ある事件は70代前半の被告人と被害者も70代半ば・・交通事故の示談解決での脅迫事件ですが、これは60代の生活保護受給者です。)
世界中で若い年齢の犯罪が減ってるのに高齢者犯罪率が減らないのは珍しいのですが、我が国の場合、粗野な世代が長寿化の結果まだ生き残っていることから生じた現象です。
60代以上が何故そんなに粗野かと言えば、戦時中人を殺し合いして来た世代から直截影響を受けた世代がまだ生き残っているからと言えます。
今の40〜50代以降が6〜70歳代になって来ると(私の兄や姉の子供の世代ですから、戦後2代目です)世の中がもっと落ち着くでしょうから、上記の通り紛争未然防止システムの完備と相まって紛争事件は高齢者層でも今より更に減少する筈です。
紛争予備軍として残っているのは、生活水準が向上しなかった・・ソフト化に進化出来なかった、生活保護所帯すれすれ階層の事件ばかりです。
(離婚・少年・刑事事件・相続でさえすべてこの階層に集中しています)
相続は資産家の争いかと誤解している人が多いと思いますが、実際の紛争はどこかの統計に出ていましたが、遺産数千万円程度の階層に多いそうですし、私の実感でもそうです。
遺産数千万円あるいは1000万円あるかないかの親が死ぬと、この次世代は食うや食わず見たいな人が多い上に人間関係を円滑にするソフトが発達していないことから争いになり易い感じです。
離婚でもホワイトカラー階層以上になると話し合いで解決しているのが普通で、法的手続きまでは必要がないことが多いようです。
生活・知的水準が向上すると権利主張が激しくなってトラブル多発するのではなく、却って紛争に発展しないで処理する智恵が発達するのが、我が国社会と言えるでしょうか?
人の一生で言えばギャングエイジと言って自我が主張出来るようになった最初はソフトが発達していないのでもめ事を腕力で解決したくなる年代があります。
ギャングエイジ的な稚拙な社会を前提にすれば、権利があるのを知れば円満解決の智恵がなくてストレートに権利行使する社会となりますが、成熟した社会では自己の権利を守るために落ち着いて解決する智恵が生まれるのです。

ソフト化社会6(トラブル回避システム)

一般民事事件を見ても,いろんな分野でトラブル回避システムが発達しています。
アパート経営も今では金融会社の保証で貸すことが増えたことと不動産会社の管理に委ねていることが多いので、大家さんが個人で家賃不払いその他のトラブルに対して弁護士依頼することがほぼ皆無になっています。
自動車販売会社も,私が弁護士になった頃には車販売代金の焦げ付き回収→車の回収事件が多かったのですが、20〜30年ほど前からファイナンスが普通です(現金支払は皆無に近い)ので、リスク管理・訴訟は皆無になったと言えます。
今では修理のクレーム処理・・それも殆どクレーマー相手の相談が中心です。
ファイナンスと言えば住宅建設も住宅ローン建設が中心ですから、出来上がってからお金がないことによる言いがかり的苦情・トラブルは減りました。
建築やリフォームあるいはちょっとした大きな取引では支払能力があるのかないのか分らないで、受注するリスクが減ったのです。
「あなたは本当にお金があるのですか」とアパートを借りに来た人や家を建てたいという人から聞くことは不可能ですし、資産状況のリストを出してくれとは言えませんが、ローンや保証会社付きでしたら業者が客に求めたり品定めする必要がありません。
銀行や信販会社が自動的に所得証明その他の資料提出を求めるので、収入の不安定な人や過去に焦げ付きを起こしている人は契約段階ではねられてしまうのでリスク軽減が進んでいます。
その上,不動産取引は建て売りやマンションが普通になったので個人が自分で建築契約すること滅多にありません。
立て替えの場合個人が建築契約当事者になりますが、今は大手ハウスメーカー=既成品注文が多いので、実質的には販売契約に近くなっています。
建て売りやマンション業者関連の建設工事の不具合は、建て売り業者やマンション業者が、建設工事会社に要求する関係ですので,継続的受発注関係の中でおおむね処理されて行き、トラブルや訴訟事件になるのは継続関係の切れた場合の例外的現象になります。
このように社会システムの進展と(生活水準の上昇)人格のソフト化によって、我が国では訴訟事件がここ25〜30年ほど激減傾向にあります。
交通事故自体が減っている外に保険制度の発達で現在では殆どが保険で間に合いますし、交通事故が裁判になるのは私が弁護士になった頃に比べて、100分の1もないでしょう。

ソフト化社会5と紛争当事者2

我々熟年層以上の弁護士にとっては従来獲得した中小企業経営者の顧客層や会社顧問等がありますが、若手がこれに参入し損ねているから苦しいとは言い切れません。
熟年弁護士層にとっても、従来の主要顧客であった中小企業経営者の依頼・・あるいは紹介事件が激減しています。
中小企業の世界も大手企業の下請け等に組み込まれていて、独立事業者とは言い切れない状態になっている結果かも知れませんが、今や創業者も言葉遣いや身のこなしや判断を含めて紳士的です。
70代以上の創業者は次世代に実権を譲りつつある世代で,その結果彼らがいろんなところに手を出して失敗しては,弁護士に相談に来る件数が今では激減しています。
次世代の後継者(40代)はの特徴は創業者と違って,継承した事業の維持発展にやっとの人が多いので,いろんなところに欲を出す傾向が少なく,ひいては紛争に巻き込まれることが少なくなっています。
50歳代弱以降の性格がソフトになったことから若年層の刑事事件は激減していますし、被疑者段階からの国選の始まりで私選弁護を頼む人は激減しました。
私撰弁護依頼件数が仮に2割であったとすれば 、100%国選になったので事件が増えたろうと言えばはそのとおりですが、国選事件が何倍に増えようともコスト的に赤字受注が前提ですから、弁護士は窮乏化するしかありません。
赤字受注が前提であることから,支援センター直属のスタッフ弁護士が配属されるようになって来たことを以前紹介したことがありますが、(彼らは国の建物や事務所経費等丸抱えで事件処理する仕組みです)全部が私撰になると弁護士は黒字受注分がないのに赤字の扶助的仕事・・経費持ち出しばかりやって行くのでは経済的に無理が出てきます。
以前は採算の取れる私撰事件で稼いだ分で赤字の国選を引き受けて来たのですが,今では刑事事件は,ほぼすべて社会奉仕として担当しているだけになりました。
(民主党元党首の小沢さんの事件やホリエモンのような事例は、滅多にありません)
統計上刑事事件総数が激減しているだけではなく、年齢別では中高年齢層の刑事事件が減っていないのが我が国の特異性ですが、これは生活水準の向上・・若者のソフト化によるものとすれば、理解可能です。
若者の犯罪が減って高齢者の犯罪が増えているのではなく、粗野に育った世代が若かった頃に一杯事件を起こしていたのですが、彼らがその性向のまま持ち上がって高齢者になったから、今度は高齢者の犯罪率が上がり、彼ら世代の犯罪比率が減らない状態です。
今の高齢者が高齢者になってから粗野になったからではありません。
その10〜20年以上年長の(大正から昭和初期生まれ)世代では、60〜70代になれば犯罪者・加害者になるほどの元気がなかったので、高齢者は被害者になる率が高く加害者になる率が低かったのです。
今の60〜70代はまだまだ元気なので70代以降になっても加害者になる・・高齢の加害者・犯罪が増えるようになりました。
昨年1年間に私が国選で担当した刑事事件では,全員70代以降(80代もいました)の被告人でした。
4〜5年前に60歳代半ばの被告人の10数件に及ぶ連続強姦事件を担当しましたが,昔(数十年前)なら考えられない年齢の事件です。
(60代になってイキナリ性犯罪を犯したのではなく,前科も同じ種類の事件で,出所後直ぐに犯したものでした)
一般刑事事件が激減中であることは大分前に統計を紹介しましたが,交通事故死に関しても激減中で,以前は年間1万人以上でしたが今では,5000人を割るところまで下がっています。
これはインフラ整備によるところも大きいでしょうが、人格的にソフトになって乱暴な運転が減ったことも大きい筈です。
この分野でも高齢者の引き起こす事故・・加害者になることが目立っていますが、上記のとおり高齢者になっても運転をやめないことと、70〜80代の人は戦中、戦後育ちで元々粗野系が多いことにもよります。

ソフト化社会4と紛争当事者1

話が大阪の地盤沈下と橋下氏の政治手法にそれましたが、生活水準向上・・社会のソフト化と訴訟事件あるいは法的トラブル増減の関連に戻ります。
私が職務上経験する直感では、私が弁護士になったころの顧客の中心は中小企業経営者あるいはある程度の資産保有者でした。
今では、こうした人々は事件を起こしたり事件に巻き込まれなくなって顧客の中心から外れています。
今では生活保護すれすれの人・・まだ生活水準上昇の恩恵に浴していない階層の顧客が、交通事故であれ離婚であれ、少年事件であれ貧困層が中心です。
最近の若手弁護士の受任事件の傾向を見ているとその殆どが国選事件や法テラス(支援センター)からの事件・・基本的に生活困窮者の事件が、大方を占めている状態です。
資産家の争いのように見える遺産相続事件でさえも、被相続人は一定の遺産を残しているのに次世代は非正規雇用等貧困層中心で、生活に困っている人・・何でも大きな声で争う人々中心に移行しつつあります。
鳩山元総理やホンダ自動車,あるいはソニーや西武など大手企業創業者の遺産相続のような巨額遺産相続人が、法的紛争をしないのが一般的であるように,一定の中産階層でも穏便に片付いているのが普通です。
相続が開始するときには次世代が既に50〜60代ですから,ホワイトカラー層は言うに及ばず、工場労働者でも安定的に働いて来た階層では,既に持ち家に住んでいて生活に不自由を感じていないのが普通です。
この段階で,母親が死亡しても(父の死亡時にはよほど生活に困った子供がいてゴネない限り母親に一任するのが一般的です)母親の面倒を見て来た子供が一定の分配案を示すとこれに反対して兄弟喧嘩までする人は滅多にいません。
母と同居していた兄や姉あるいは弟妹の提案が仮に若干不公平で正しい数字を要求すればさらに数百万前後自分の取得分が多くなるとしても,自分の生活が安定的に回っている人にとっては、預金通帳の残高が少し増えるだけで日常生活に変化がないのですから,そんな程度のために兄弟が一生口をきけなくなるような争いをするのは割に会わないからです。
衣食がある程度足りている人は余程のことがないと争いをしなくなるのが,我が国の文化習慣ですし,むやみに喧嘩っぽい・争う人は人間のレベルが低いと見なされてしまう社会です。
生活の安定・・水準向上の結果,今では貧困層あるいは精神的におかしな人?が,紛争の中心になっています。
教育現場ではモンスターと言われ,企業の消費者問題ではクレーマーと呼ばれる人の増加ですが,彼らは精神病ではないものの,相手が少しでも悪かった(是正対応が終わっても・・)となれば粘着質というのか際限なくクレームを要求して来る傾向があります。
しかも会社に何回も繰り返し来て,来ると4時間でも5時間でも粘るのが普通で,会社としては担当者(安全のために複数対応するとなお大変です)が長時間対応に追われて日常業務が麻痺してしまうので困りきって弁護士相談になります。
こういうことは・・昔はヤクザの言いがかりが多かったのですが、今はヤクザが彼らを就職先として吸収しなくなったのか今は一般人化していて、(クレーム以外は善良?な市民ですから)企業は対応に苦労しています。
昔はヤクザ相手なので法的処理が簡単でしたが,今は「消費者は王様」の肩書きで来るので,簡単に刑事事件にもならないし,ギリギリまで丁寧対応が要請されるので弁護士対応になるまで相当の時間が経過しています。
学校現場は子供の教育的配慮が絡んでいるのでなお親の態度が強くなる感じで,自分が給食費など納金しない非を棚に上げて、子供が同じように配慮されないのはおかしいというような使い分け論理まで多くなっています。
この使い分け論理が加わった結果一般消費者のクレーマー的要求を越えているので,「モンスターペアレント」という概念が生まれて来たのでしょう。
交通事故損害賠償分野では,保険会社が担当していますので,一定基準以上の法外な?要求の場合機械的に弁護士対応としている(システム化されている)ので,それほどクレーマーに悩まされていません。
ただ,千葉県弁護士会だけで見てもかなりの数の弁護士が保険会社の代理人として相当量の債務不存在事件の受任をしている様子ですから,世の中には膨大なクレーマーがいることになります。
実際には09/01/02「交通事故の損害賠償額について2(保険会社の役割 2)」前後で連載したことがありますが,保険会社の基準による損害賠償額は訴訟基準よりは半額程度のことが多いのです。
実は多くの人がこれを知らずに,本に書いてるとおりの基準で払われるなら仕方がないか・・と示談していることが多いので、保険会社の基準自体に問題がないとは言えないので,これを肯んじない人がすべてクレーマーではありません。
訴訟結果を統計化しないと正確なことが分りません。
しかし、このような正当な主張に対して弁護士対応になった場合,裁判の結果が分かっているので,弁護士会基準(赤い本・あるいは青い本)に計算し直して示談に落ち着いているのが普通です。
それでも示談出来ずにプロの弁護士が債務不存在確認の訴えを提起する事件では,その大方は被害者の主張は不当な請求だった・・あるいは似たような結果になっていることが、多いものと推定されます。
弁護士が保険会社の代理人として受任するのは,保険会社の担当者では手に負えない・・基準を大幅にずれた主張をする被害者に対する分だけですが,千葉では保険会社の代理人として事務所収入の多くを依存している法律事務所がいくつもあります。
これだけクレーマー的被害者・主張が多いことが推定されます。

生活水準向上とソフト化社会2(大阪の地盤沈下1)

このシリーズで何回も書いていますが、バブル崩壊後の生活水準の向上は目覚ましいところがありますが、例えばユニクロ以来各種衣料品・生活雑貨で言えば100円ショップで大方間に合うし、食品で言えば牛丼や回転寿し等々、生活コストはバブル期以降約半分以下になっています。
タマタマ日経朝刊1月23日の9面に出ていましたが、花王の洗剤アタックが25年前の870円台に対して店頭実勢価格が300円以下になっているなどの事例が出ていましたが、機能が良くなって半値以下というものが消費財にはゴロゴロしています。
(牛丼・パソコン・携帯電話その他いくらでも半値以下になったものがあるでしょう)
物価が半値以下であれば現状維持の収入でも生活水準が2倍以上になっていますが、繰り返し書くようにバブル崩壊以降国内総生産がジリジリと上がっていたのですから、生活水準向上は2倍どころではないことになります。
これをドル表示で見ても約2倍になっていて裏付けられることを、2012/01/19「為替相場1と輸出産業の変遷1」のコラムで書きました。
前回書いたように生活水準が上昇するとすべての分野で行動形態がソフトになるのが我が国の傾向で、(そこが諸外国とは違います)勢い粗野な争いがなくなって行きます。
高度成長期に生まれた膨大な中間層の2代目が、みんなお坊ちゃんお嬢さん育ちになってデーイプインパクトのようにソフトになってしまって「大阪のおばちゃん」と揶揄される横柄・厚かましい人種が姿を消してしまったのです。
この種の人は10〜15年くらい前までは東京でもどこでも一杯いてオジさんやオバはんが嫌われていたのですが、生活水準の向上に連れて厚かましい中年族はいつの間にか姿を消した(今では60〜70代になって世間に余り出なくなった)と言うか、少数派になってしまったのですが、大阪だけ今でも残っていることから目立つのでしょう。
大阪だけに何故今でも厚かましいオバはんが多く残っているのかですが、以下に書くように大阪経済圏では生活保護受給率が大阪では高い・・医療保険の利用率も高い、学テでは全国最低水準になっているなどの現象からみて、この20年あまりの我が国の生活水準向上の波に乗り遅れているからではないでしょうか?
どこかで言ったことがありますが、大阪の長期的地盤沈下は、府と市の二重行政に原因があるのではありません。
産業の主役が繊維系から電気に移るまでは元気だったのですが、その後車産業に主役が移ったときについて行けなくなったころから、関西経済圏の沈下が始まったと私は考えています。
江戸時代中期ころから関西以西では木綿栽培が発達していたと読んだことがありますが、これを基礎にして、近畿圏周辺〜岡山までには繊維産業が明治維新以降勃興し、これに連れて糸扁の商社も大きくなりこの傾向は戦後も続いていました。
戦後は家電系も松下電器産業(ここから派生して生まれたサンヨー・・今は合併しましたが・・・)に始まって新たに経済を支えましたが、精密な電子産業以降となるとちょっとついて行けない感じになって行きました。
造船その他重工業も大阪の経済規模に合わせて十分発達しましたが、車製造が経済の中心になる時代が始まると新たに広大な工場敷地を必要としました。
過密化していた大阪周辺では工場敷地の余裕がなかったこともあって、自動車産業と関連産業の新規開設立地がほぼ皆無だったことが、大阪の地盤沈下に甚大な影響を及ぼしたと思われます。

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