グローバル化と格差27(賃金センサス)

ところで、リストラによる中途退職者が、退職前同様の高賃金職場が見つからないので、失業保険や退職金のある間再就職しないでいる場合や、定年退職者が年金やそれまでの蓄積を取り崩して、退職後の低賃金を補完して行く場合は、言わば自前の蓄積によるものであって他人の世話になっていない人々です。
これらの原資は国際収支で言えば、貿易赤字でもなお所得収支の黒字分で経常収支が黒字になっている場合に匹敵するのでしょう。
上記のような自前の蓄積がないにも拘らず、グローバル化前の高度な生活水準を維持するには、高度技術者の高収入あるいは蓄積のある人の投資収益のおこぼれ・再分配で生活する方向・・底辺層になって行くしかありません。
3月4日の日経朝刊の報道では中国の最先進地域である広東付近での賃金・・月収約2〜3万円ですが、国内で同じような汎用品生産に従事する日本人は、賞与等込で月額約40万円以上も貰っています。
2010年の賃金センサス(厚労省)によると男女学歴総平均が「4,667,200」であり、高卒男子が4,619,000」で、短大卒男子が4,700,300」となっています。
この平均は全産業でパートその他すべて含むので分り難いですが、正規雇用者の場合平均よりも高いと推定して良いでしょう。
(ちなみに産業別のデータがokinawa-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/var/…/2012112102215.pdfに出ていて・・表があるのですが、出典や何年度分と明記していないのではっきりしません・・・)
製造業は従事者数が487、0710人平均年齢40、8歳所定内給与が30万1000円となっていますので、ボーナスなど、加えると平均40万円くらいになるでしょう。
(賃金センサスでは所定内給与と年間賞与など併記するのが普通ですので、賃金センサスの一部の紹介とすれば「所定内給与」とだけある場合は、賞与を含まないと解釈すべきでしょう)
更に将来払われる退職金や年金社会保険等の負担(企業負担が半分です)がこれには入っていませんが、これを加えると企業にとっては大変な負担額になる筈です。
ちなみに今朝の日経朝刊第一面には公務員の退職給付が高すぎるという記事の中に、民間では2547万円あまりが平均と出ていました。
中国等新興国の退職金制度の有無を知りませんが、少なくとも年金制度・社会保障制度は先進国よりも遅れている筈ですから、この面でも大きな差があります。
数日前に出ていた大阪市のバス運転手の賃金が民間に比べて高すぎるとの報道が出ていましたが、比較する民間賃金水準として以下のとおりと出ていました。
「大阪市交通局が市バス運転手の平均年収(約739万円)を4月から38%減の約460万円とする案」を提案したと報道されています。
バス運転手の相場と工場労働者の相場がどちらが高いか分りませんが、如何に機械化が進んでいるとは言えある程度の熟練を要する製造現場の方が少し高いと私は思っていますが、如何でしょうか?
(偏見と言われるかも知れませんが、失業その他で就職先が見つからないときに運転出来るという最低資格で最後に就職するのが各種運転手への就職ではないでしょうか?)

グローバル化と新興国の逆襲2

中級レベルの技術や学歴・教養不要の世界の動きに対して、世間の動きは逆で、今後は知財だ高度化だと言うことで却って学歴競争・・職業訓練ばやりになっていますが、知財で食えるほど能力のあるのは宮大工や伝統工芸職人になれるような限られた少数人材だけです。
日本人や韓国人が何百万人も研究者になれる訳がないのですから、そんなに大勢に勉強させても(コストをかけても)意味がありません。
オーバードクター問題が生じるのは当然です。
この点は事務系職員も同じで中間管理職向け多くの大卒が不要になりつつあります。
事務処理が簡単になって大卒の能力が不要になっているとしたら、大量に大卒を生み出すシステムが問題になって来るべきです。
工事現場で交通整理している人でもかなり大卒が混じっている状態になっていますが、これなどは無駄なコストでしょう。
人件費が新興国に比べて高すぎるのは今まで不当に搾取していただけではなく、現在の生産には中級の技術者・大卒能力が不要になっているのに、彼らを未だに大量養成し続けている社会コスト負担も原因の1つでしょう。
(教養がある方が生活が豊かになる側面は別に考えて行きますが・・ここは経済効果面限定で考えています)
明治の初めに剣道を習った元武士と兵役で来た農民兵とどちらが強いかの西南戦争がありましたが、意味のない訓練は高コストになるだけで役に立ちませんでした。
現代の進学熱は機関銃や大砲の時代になっているのに時代遅れになった武士に憧れて、剣道や柔道教室に大勢通っているようなものです。
高学歴化・高技術レベル者ばかりの国になると普及品まで良いものがあってレベルの高い社会と言えば言えますが、そのコストはどうなるかとなります。
日本は良いものを作るが高すぎると言われる根本がそこにあります。
新興国などまだ電化製品その他先端機械が何もないところでは、先ず手に入れること・普及が大切ですから、当面使えれば良いのであって日本製は10年使えるから5割高いというよりは5割安い韓国製で5〜6年使えれば良いとなるのが普通でしょう。
機械製が手作りより5〜6割安い場合、余程良いもの以外は工業製品に客が流れるように同じ機械を使って製造した場合、職人の腕の差は限られていますから、後進国で作れば10分の1で作れるとしたら、後進国に競争で負けるのは当然です。
3月5日日経夕刊では現代百貨店の電気事業部が日本でダイオード照明装置を販売することになったと報じられています。
その報道では日本製品と同等品質のものが韓国では5割安く出来るそうです。
同じ品質の機械設備を設置して製造すれば、人件費や土地代等のコスト差がそのまま現れるのは仕方のないことです。
韓国は中進国から先進国へ仲間入り中で最早後進国ではなく、品質面でも日本にいろんな分野で肉薄中です。
新興国や後進国は、自前でのオートメ化能力がなさそうに見えますが、今は半導体装置
だけではなく、原子力発電装置でさえそっくり先進国が据え付けてくれる時代ですから、結局は後進国が産業革命によって自前で設置したのと経済効果は変わりません。
そうとすれば、後進国によるオートメ化の逆襲・・先進国の(高学歴・高技術に基づく)高コスト構造が逆襲を受け始めたと言えるのではないでしょうか?

グローバル化と格差26

昨日(3月3日)に続いて100点満点のテスト得点比での比喩を続けます。
80点以上の少数者の稼ぎで、その他大勢に対して(従来50〜60点相応の収入を得ていた人が20点の人と同じ収入しかなくなった人等に対して)従来の生活水準近く・・3〜40点での生活水準を保障するには、80点以上の人が円高に負けない新技術開発に成功した場合、収入が小刻み社会での収入格差よりも何十何百倍も大きくなる必要があります。
80点以上の恵まれた能力保持者はピラミッド型社会構造の原理からして少数者ですから、この少数者が多数の人に収入を配分するには、彼ら能力差以上に大きな(点数差以上にテコの原理を活かしたような)格差収入が必要となります。
80の収入の人が21まで収入を残して残り59人に一点ずつ配ると完全平等ですが、(全員21点)80点の人が60人に一人ではなく121人に一人だと20点以下の人には0、5点ずつしか配れません。
仮に従来・グローバル化前に60点相応の収入を得ていた人に対して、30点まで保障しようとすれば、一人当たり10点の上乗せ必要ですから、5人にしか配れません。
(80点の収入の人も30点分まで自分の分をとりおくと50点分しか分配に回せないからです)
80点以下の人が100人中僅か5人ということはあり得ないので、上記のとおり60人くらいに配るためには、80点以上の人にはその10倍以上の収入・・実力以上のレバレッジ効果が必要になります。
新自由主義経済政策が格差を拡大したという意見(マスコミ風潮・社民党や日弁連関係者にはこういう意見がここ5〜6年多く見受けられます。)は、グローバル化によって、先進国では汎用品向け中間層が没落しつつある・・社会構造の変化によって生じた結果である点を無視した意見ではないでしょうか。
明治維新から戦後直ぐまでは一定の教育・技術レベルがないと近代産業について行けませんでしたので、受入れ能力がない国では産業革命の成果を享受出来ませんでした・・・。
車の運転1つするのにまで車のメカを勉強させられる時代でしたし、何かの精選をするにはある程度の熟練が要求され、これが従業員の定着・終身雇用を求められる基礎になっていたのです。
ところが、電算機の発達で機械化・ロボット化が進んで来るとすべての分野で操作が簡単になり、近代産業機械の構造が理解出来なくともボタンの操作で誰でも複雑な機械の運転監視が出来るし、微分積分を知らなくとも電卓で計算も出来るし、原理が分らなくとも携帯もパソコンも使えるし写真も撮れる時代が来たから、教育の蓄積のないどこの国で生産しても同じになりました。
(周回遅れでアジア諸国はちょうど現在の産業構造に合致したということでしょう)
オートメ化の進展で近代鉱工業生産技術を後進国に解放・グローバル化して、半導体製造システム等生産システム・・原子力発電設備まで丸ごと売る時代では、どこで生産しても同じになったのです。
高賃金の先進国では高度技術以外・・機械化対応可能な仕事で輸出品を生産することが出来なくなるどころか、汎用品では賃金が高過ぎて輸入にすら負けて行くのは必然ですから、自国内利用分すら国内生産出来なくなります。
白物家電製品の国内生産が全面的撤退になっているのはその一例ですし、日産マーチを嚆矢として今後は車製造も順次海外に移って行き逆輸入品になるでしょう。

グローバル化と格差25(新自由主義2)

話を2012/02/18「構造変化と格差23(新自由主義1)」の続き、グローバル化・国際平準化対応策→国内格差問題に戻します。
グローバル化(低賃金国の攻勢)に対応するには際限ない産業高度化しかないのですが、(対応に成功するとまた円高になりますが、この点はおくとしての話です)これが成功して仮に汎用品製造部門が縮小して行き、高度部品製造工程だけが企業に残った場合には、企業内に従来通りの給与水準で残れる人材は中間層以上の能力のある・高度技術対応人材に限られます。
国民個人も企業同様に国内に留まる限り中間層・・汎用性のある人向けの職場が減って行く以上は、元中間層は最底辺労働者としての収入を得るか失業者として高度技術者の稼いだ高収入のおこぼれを貰うしかないのは、仕方がないことです。
これを潔しとしないならば、企業のように海外脱出して低賃金国へ移住して行った先でその土地の相場の賃金で働くしかないでしょう。
生活水準低下拒否の先取りをして来たのが、(旧空間で格下げされて惨めな生活をするくらいならば知らない世界の路上生活の方がましと言う)昔からある蒸発者でしょうか?
とは言え、多くの人は生活レベルを下げるためにわざわざ行動するのは、イヤなものです。
サラ金等への支払に困っている人の相談(弁護士に相談にくるほど困っている人)でさえも、給与や収入が下がったのに合わせて安いアパートへ引っ越すのは、なかなか決断出来ない人が多いのが現実です。
高額ローンの高級マンションに居座ったままで、ローン支払用の政府補助金額が少ないと文句言っているイメ−ジになりつつあるのが現在社会でしょうか。
国内に留まって自分より稼ぎのいい人のおこぼれを貰おうとする以上は、稼ぎの多い人と彼からおこぼれを貰う人とは一定以上の格差が生じるのは当然のことであり、非難するべきことではありません。
乞食への施し・・最貧困国への援助でも何でもそうですが、「援助」というものは余程格差があってこそ行うもので、同じ会社員でも数千円や数万円の給与差程度では、援助までしないでしょう。
社会保障・・あるいは権利と名を変えても持てるものから持たざるものへの援助の本質は変わりませんから、他人の働き・援助に頼る以上は援助者と非援助者との間に一定の格差が生じるのは仕方のないことです。
より良く稼ぐ人に一定のインセンチィブを与えるために格差は必要なものですから、結局は実際の格差が合理的な許容範囲かどうかの問題です。
比喩的数字で言えば、5〜10点刻みに能力相応の小刻みな仕事があれば格差もわずかですし、誰も気にしないでしょう。
中間的仕事がなくなって60〜70点以下はみんな10〜20点(非正規雇用)の人と同じ仕事しか出来ない社会では、最低でも上記点数差だけの収入格差が生じます。
20点の仕事しか出来なくなった人はその水準の収入で良いとするならば、80点以上の人は自分の能力通り80点以上の能力に対応する収入で間に合いますので,格差はその数字差だけにで収まります。

グローバル社会とリーダーシップ

民主党がせっかく政権を獲得した以上は、従来と違った斬新な企画を打ち出してくれるかと期待していたのですが、既得権益の利害調整に手間取って何も出来ないで立ち往生しているのが現状です。
この体たらくを見ると、民主党は駄目・・無能だと落胆している向きが多いと思いますが、これはせっかく政権交代したのに、従来通り利害調整型で運営しているから(国民の多くが利害調整を期待しているままだから)何もできないで右往左往しているばかりになっているのです。
利害調整型で政治を続けるのを期待するなら、自民党の十八番・・得意な方法ですから、あえて民主党に変わる必要がなかったのです。
この立ち往生を打開する方法が見つからずに与野党一致して小沢氏をスケープゴートにしようとしているようですが、現在の民主党政権の立ち往生は小沢問題と何の関係もありません。
何の関係もないと言うのは言い過ぎとしても、国民の期待の多くは、海外競争に遅れを取りつつあるわが国の体制を立て直してほしいと言うことでしょう。
これがうまく行かないので企業流出が続き若者の就職機会が減少して困っているのですから、小沢氏の政治資金報告の虚偽記載を明らかにしても国民の多くが困っている問題の解決には何の関係もないどころか、党内抗争にうつつを抜かしている弊害の方が大きいと思います。
政治の手詰まりから目をそらすために党内抗争をやっているとしたら、政権政党として怠慢そのものです。
そもそも今の政治の停滞は小沢氏が邪魔をしているから起きているのではなく、指導力の欠如によるに過ぎないからです。
自民党が小沢問題を追及するのは民主党の最大勢力を追求して民主党執行部がこれに乗ってくれば民主党内がガタガタになることを狙っているに過ぎず、民主党の政策に協調するためではありません。
大阪城の外堀と埋めるような作戦です。
取捨選択型が必要とすれば、主要テーマについて与党がある分野を切り捨てようとすれば切り捨てられる方が野党に応援を頼む・・与野党の意見対立が必須ですので、与野党一致していて政治が停滞する筈がないのです。
小沢氏を切り捨てようとすることに与野党が一致していると言うことは、政策の違いで彼を切り捨てるのではなく、党内抗争や個人的恨み等の低次元で切り捨てたいと言うだけの動きでしかないことになります。

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