精神障害判断(エピソード重視リスク)2

社会防衛の話題からコロナウイルス対策に長く入っていましたが、この辺で5月21日以来書いてきたコロナ対策第一幕の総括を(再度緊急事態宣言があった場合やその時の話題の都合で触れることが合あるかもしれませんが)一旦終了します。
March 8, 2020 12:00 am「精神障害判断(エピソード重視リスク)1」の続き・・精神障害と隔離に戻ります。
精神病関係は伝染性疾患ではないのですが、・・「自傷他害の恐れ」という社会防衛思想が前面に出る点で人権侵害と隣り合わせになる点が違います。
これまでの受任事件(障碍者が傷害事件等を起こすのは入院していない在宅の場合が普通)では20年ほど前までには親が70台以上になり子供が40台での事件が多かったのですが、最近(と言ってもこの4〜5年医療観察法事件をやっていません)では80台前後の親に4〜50台の息子というパターンが増えてきた印象です。
経験的印象では統合失調症系の事件は服薬その他の病状管理が行き届かなくなる場合が中心の印象ですが、発達障害等は(人間関係の障害ですので)子供の年齢上昇に比例して家庭内暴力が多くなります。
父親に体力があって抑え込める時期には暴発控え目だった息子が、体力逆転してくると親の威厳だけで管理しきれなくなるのと息子の病状が高年齢化に比例して悪くなる相乗効果かもしれませんが、対外事件に発展して表沙汰になる(弁護士として知るのは氷山の一角)ことが多いようです。
昨年元農水次官が発達障害の息子を自分の手にかけた事件は、高年齢化による将来不安の境界年齢で「自分に体力あるうち・・」にという決断が背を押したものと思われます。
横にそれましたが、親の自助努力・責任感に頼る「保護義務者の同意」という制度に無理が来たので、保護義務者制度ををなくして家族の同意と広げたようですが、今後子供の兄弟が減る一方ですのでこれもすぐに破綻するでしょう。
ところで、本人以外の状況説明に頼る点では救急車出動の場合も付近にいた人の直前状況説明と、客観状況判断、脈や呼吸状態把握し瞬時の判断をしますし、交通事故等事件性の場合、受傷箇所特定など状況説明が重要な端緒です。
精神障害の場合医療申し込みは本人名義で行うものの実は関係者同行・関係者に連れてこられる(受け身であることが多い)点が救急患者と似ていますが、救急患者の場合、第三者の説明だけでなくバイタルデータに決定的意味があるのですが、精神障害の場合、本当にあったかどうか検証余地のない10〜20年前からのエピソードに頼る比重の高い点が大違いです。
20年3月7日の日経新聞朝刊1面には、全国の介護度認定のばらつきを大きなテーマにした記事が出ています。
客観データのない過去の生活状況説明に頼る弊害(客観性欠如の問題)が出ているというべきでしょう。
以下介護認定の実務の紹介は10年ほど前まで後見人等選任申し立て事件や、民事事件の争点・・契約当時の高齢者がどの程度の判断力を有していたかの必要があって介護認定表を参考にしていたころの私個人の経験ですので今はかなり変わっているかもしれませんのでそのつもりでお読みください。
最近では禁治産宣告制度から被後見制度に変わった結果によるのか、高齢化進展により後見制度活用が急膨張してきた結果?後見人選任申立用の診断書様式が簡易になって、精神科専門医でないかかりつけ医に行ってもすぐに、いわゆる長谷川式簡易テスト程度で(付き添って行った妻や娘などから日頃の様子を参考に聞く程度?)すぐに診断書を作ってくれるようです。
(これはこの1年〜2年半ほどの間における複数事件の経験です)
現行民法の制度は被後見人等の能力制限が目的ではなく被後見人等の身上看護や財産保護等に主眼が置かれるようになった制度目的の変更が影響しているのでしょう。
以上の次第で、今では介護認定データを見る機会が減っていますので様式もだいぶ変わっているかもしれませんので、そのつもりでお読みください。
介護認定表では日常行動として自分で何ができるか、時々どういう忘れものがあるか道に迷ったことがあるかちょっとした買い物ができるかなどのチェック表があって介護している近親者等からの日常生活の聞き取り中心で認定している実態があります。
調査担当者が調査事案ごとに実際に買い物について行く実験やお風呂やトイレに入ってもらう?似たような再実験をするのは時間、コスト的に無理でしょう。
親族や介護事業者等からの聞き取りやチェック項目記載結果を総合して医師を中心とする認定会議で介護度を決めているので、大げさにいう人と控え見に言う人との個性差や、利にさとい地域差が大きく出る仕組みだからこそ、政府も地域差が気になって、3月7日に紹介したような都道府県別の認定格差表(その関心で事前データ集計など行い)を公表したのでしょう。
7日の新聞の結果を見ても都道府県別健康保険利用・医療費データとほぼ同じような傾向が出ているような印象を受けました。
医療保険では濫診濫療問題が古くからありますが、受診のためには仕事を休むデメリットや、それなりに痛い思いをする他、無職高齢者の場合家族に送迎してもらうなど負担がある外1〜3割負担などの自費支出が発生します。
経済デメリットが全くないので合理的チェックが働かないのが、生活保護者利用の乱診乱療問題です。
介護関連制度は保険適用外のサービスが介護度のレベルアップになれば自費負担が減る一方でなんらの負担も増えない関係ですから、医療の濫診濫療よりブレーキが効きにくくなる傾向があります。
より高度な介護支援を保険適用にしてほしいという利害では、家族にとってオーバー表現に走るのは合理的行動でしょうが、制度本来の介護必要度の認定と、介護認定が一人歩きして人権侵害に連動する危険という面では割り引いた謙抑的認定が必要ですが、厳し目に割り引いて認定するとこんなに大変なのに介護度が2〜3なのか?あるいは要支援のママなのか?という不満が出ます。
利害対立者の一方が目の前にいない・保険赤字負担する国民は抽象的存在でしかなく直接応援してくれないので、目前の強い声に押されがちになるようなイメージです。
認定される本人も家族に家計負担かけない方が気楽なので、「そんなことくらいできるよ!と反論しないでうなづいて済ます傾向があります。
施設入所者あるいはデイサービス利用者の介護度ランク上げも同様で介護事業者にとっては、保険適用外サービスで顧客に対する自費負担・費用請求額アップよりは介護保険適用サービスになって自費負担が1〜2割になった方が営業的に楽です。
医師や、医薬品業界が、新薬等について保険適用を求める利害団体になるのと同じでしょう。
認定を受ける高齢者もこれが将来自分に対する人権侵害に使われる「万1」の可能性など気にしませんので、問診あるいは調査担当者に対して親族に経済負担をかけない方向へ協力する傾向が高まります。

精神障害判断(エピソード重視リスク)1

精神病以外の病気の場合、診断や手術ミスかの認定には医師単独で完結しない多くの関与者作成の手術直前の時系列に従った客観データ・体温や脈拍、血圧・血液検査の結果数値や画像の外検体自体が残っていることが多いのですが、精神病の認定や隔離入院判断の場合客観補強データとしては利害関係者のエピソード供述しかなく、診断にあたって、本当に過去にそう言うエピソードがあったかの関心で医師が補強証拠を検討しているように見えません。
一般医療の現場で考えれば、「昨日何時ころからどこそこが痛み始めて今朝我慢できなくなってきました」という説明が嘘かどうかで検証している暇がないし痛くてきている本人の説明を疑う必要もないのでどこそこが「痛い」という説明を信じてその説明に応じた診察(触診や検査)を始めるしかないのが現実ですからそれで良いのでしょう。
精神障害による強制入院のうち措置入院の場合、文字通り強制収容(人権侵害の最たるもの)ですのでいわゆる自傷他害の要件該当性判断が必須で、多くは具体的近隣相手の暴力行為があって警察通報に始まる事件が中心ですので、エピソード自体の客観性が事実上保障されていますし、障害があることにより自傷他害の恐れの認定に際し指定医2名の判断が必要なので判断自体の客観性もある程度担保されています。
問題は入院の大多数を占める同意や保護入院です。
まず措置入院制度を紹介しておきます。
これだけ始まりが厳重な制度設計でも一旦強制入院させたら永久入院で良いのではなく、実務上数ヶ月経過での再審査が必要になっています。

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)
第五章 医療及び保護
第一節 任意入院
第二十条 精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない。
第二十九条 都道府県知事は、第二十七条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
2 前項の場合において都道府県知事がその者を入院させるには、その指定する二人以上の指定医の診察を経て、その者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて、各指定医の診察の結果が一致した場合でなければならない。
3 都道府県知事は、第一項の規定による措置を採る場合においては、当該精神障害者に対し、当該入院措置を採る旨、第三十八条の四の規定による退院等の請求に関することその他厚生労働省令で定める事項を書面で知らせなければならない。
4 国等の設置した精神科病院及び指定病院の管理者は、病床(病院の一部について第十九条の八の指定を受けている指定病院にあつてはその指定に係る病床)に既に第一項又は次条第一項の規定により入院をさせた者がいるため余裕がない場合のほかは、第一項の精神障害者を入院させなければならない。
第二十九条の二 都道府県知事は、前条第一項の要件に該当すると認められる精神障害者又はその疑いのある者について、急速を要し、第二十七条、第二十八条及び前条の規定による手続を採ることができない場合において、その指定する指定医をして診察をさせた結果、その者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人を害するおそれが著しいと認めたときは、その者を前条第一項に規定する精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
2 都道府県知事は、前項の措置をとつたときは、すみやかに、その者につき、前条第一項の規定による入院措置をとるかどうかを決定しなければならない。
3 第一項の規定による入院の期間は、七十二時間を超えることができない
第二十九条の四 都道府県知事は、第二十九条第一項の規定により入院した者(以下「措置入院者」という。)が、入院を継続しなくてもその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがないと認められるに至つたときは、直ちに、その者を退院させなければならない。この場合においては、都道府県知事は、あらかじめ、その者を入院させている精神科病院又は指定病院の管理者の意見を聞くものとする。

ガイドラインでは概ね3ヶ月に一回この判断のための診察をするようになっているようです。
医療観察法の事件で医師と面談した時に聞いたのかいつ聞いたか不明ですが、自傷他害の恐れは興奮状態のものなので、興奮を鎮める薬投与(が発達しているの)ですぐ興奮は治るので3ヶ月もたってまだ恐れがあるというのは一般的に無理があるが服薬をやめるとすぐ再発する可能性がある・・問題は退院後も服薬指導に応じるかどうかが重要とのことでした。
医療観察法による強制入院の場合、退院後の強制通院制度もあるので素人的には完全体制のような印象でしたが、同意という名の任意や準任意入院の場合、服薬を嫌がる人の場合、どうして良いかの制度問題があるというイメージでした。
違法収容されていると主張して治療に不満がある場合、退院できれば服薬指導に応じないのが普通ですので、これが悩みの種でもあるようです。
無罪主張で判決が有罪認定になった場合、犯罪を冒した反省の情がないことを理由に刑が重くなるのと似た関係です。
実数で言えば、本当の人権侵害事件は万に一つあるかないかで本当に精神障害があるのに病状を自覚しない患者の方が多いのでしょうが、(自覚していても入院生活に不満な場合も多いでしょう・狭い空間に拘束されて気持ちの良い人はいません)だからと言って、患者とはそういうものだと決めつけるのも危険です。
20条で同意入院原則が書かれていますが、実際に自分から進んで入院したい人が少ない前提で医療保護入院という制度が用意されています。
従来保護義務者同意でしたが最近家族一人の同意でも良くなり、これも身寄りのない者などの例外も揃っています。

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