アラブ7カ国入国拒否(大統領令とは?1)

ここで少し話題が変わりますが、入国禁止に関する大統領令に関して法律家として気になる点を書いておきます。
ただし,ナマの実を知らないで報道だけを前提にしていますので,正確に何が行なわれているのかよく分らないままで気になる点を書いています。
後日徐々に正確な情報が出たら,この意見はその限度で自動的に修正されるものと思ってお読み下さい。
アメリカの価値観は,人種差別・自分が強ければ何をしても良いと言う意味の「裸の」自由主義価値観でないか?と言う基本的疑問でこのコラムを書いて来ました。
英米法のルールオブローは人民を支配者から守るためのものであって,中国の専制君主の支配道具・・命令貫徹のためのマニュアル・法家思想とは方向性が違うと習って来ましたが,本当か?と言う疑問です。
アメリカに都合が良ければ守れと言うが,自分が主導した国際ルールでも自国に都合が悪くなると国際合意を無視する・・国連やユネスコ分担金支払い拒否などの繰り返しがアメリカの行動基本でした。
クリントンも日本に対して100%課税の大統領令署名で脅しましたし、トランプ氏の一方的高関税脅しもWTOルール違反になるか?などハナから問題にしていません・・文句あるなら脱退すると言う基本です。
こう言う自分勝手を繰り返して来たアメリカと日本とは基本的価値観が違っていると言う意見を前提に、安倍総理の価値観外交は便法としては有効だが本質的に違っていることを「2014/02/05/「価値観外交に頼る危険性12(米中韓の一体性4)」その他で書きました。
上記のとおり,私はアメリカは本来の法治国家・人権尊重国家と言えるかの疑問を基本的に持っていますが、今回は対外勝手主義に留まらず国内法制度上も議会無視で何でも出来そうな(上記のとおり報道イメージだけで書いているので正確には乱暴なことは出来ないのかも知れませんが・・)大統領令の効力・・専制・恣意的支配をそのまま許す制度設計・・大統領令1枚でイキナリ入国停止出来る法制度についての疑問を以下書いて行きます。
対外的にルール無視することの多い政府が国内法的にも同じ制度設計だったのかな?と言う疑問です。
外で整理整頓出来ない人が自宅だけ綺麗に片付けられるとは思えないのと同じ発想・・国内人権侵害も同様に酷いのじゃないか?本当は法治国家ではない?と言う疑問が今回の大統領令の騒動によって気になり始めました。
戦時中の(アメリカ国籍を有している)日系人強制収容・資産全面没収は、ルールオブローの国と言われるのに、法によらずにルーズベルトの大統領令だけでやったことです。
三権分立→行政府の長(大統領)は議会の制定した法に従って施行実施するものと思って来た日本人にとっては,驚きでしょう。
日本のような閣議決定すらもいらない・大統領一存で数秒で書ける大統領令とは何か?法に超越する効力があるらしいことに対する疑問です。
日系人と言う枠組みだけで犯罪も何も悪いことをしていない国民を大統領令と言う超法規的命令1つで強制収容→監禁罪や強盗罪を合法化する制度を持っているクニが、専制支配の中国王朝とどこが違うのか?もう一度見直してみる必要がないかの関心です。
一党独裁の中国でさえ党の機関決定等が必要です。
権力闘争を乗り切った習近平は、常務委員会を腹心で固めるだけに留まらず機関決定不要にしたい・・骨抜きを図るために大統領制移行を目論んでいると言われています。
議院内閣制の場合の総理大臣は政令その他重要事項決定には閣議決定が必要であり各省大臣の所管事項を直接行うことは出来ません。
大統領制の場合には各省長官は、命令する部下でしかないので機関決定制度自体不要ですから全面的独裁・・なんらの手続き不要です。
議会議決=法の範囲内しか権限がないからこそ、その範囲内でオールマイティも許されると言う理解が普通でしょう。
ところが立法府の議決に反する大統領令で国民である日系人を拘束できるとなれば、大統領は専制君主とどこが違うかの疑問です。
行政府の大統領が議会議決・・法律・・刑事訴訟手続き等の要件によらずに日系人とはいえ米国籍のある日系人を大統領令を根拠に何故資産没収し強制収容出来たのか?
もしもこれが合法行為であった・・違法な監禁罪、強盗罪に当たらないと言うならば、大統領令が法に優先することになります。
戦後日系人の名誉回復したと言うだけで(犯罪行為をしていないのだから名誉回復など・・当たり前過ぎます)・法によらない人権侵害に携わった人らを強盗や殺人監禁罪等で処罰しないのは、法に優越する大統領令に従ったからと言う解釈によるのでしょうか?
ちなみに、命令に従って法律違反しても違法性がない、責任がないと言い出すとギャングの親分の命令で何をしても良いことになります。
ですから,関与した主な公務員一人処罰されなかったと言うことは,大統領令が人権条項等に反した拘束であっても違法ではないと言う意味でしょう。
今回での入国騒動に戻します。
複雑な移民法に基づいてアメリカ政府から予めビザを得てはるばるアメリカに到着して入国手続している人を、どう言う法制度上の根拠があって、大統領令1つで入国禁止したり拘束出来るようになっているのか不思議な印象を受ける人が多いでしょう。
入国審査官が個別最終判断権を行使した結果言動が怪しかったならばわかりますが、大統領令で特定国出身者だけを(具体的嫌疑なく)一律拒否し拘束出来るかのような報道を見ると、今でも大統領が日系人、中国系と指定する収用命令に署名さえすればすぐにも既存の法令に関係なく強制収容出来る法制度になっているような心配が起きて来ます。
報道の仕方が偏っているのか、上記日系人強制収用を許して来たことや戦後でもクリントン政権が大統領令で対日100%課税で脅して来たことがあることから見ると制度が前近代的なまま残っているようにも見える・・どちらかハッキリしない疑問で書いています。
トランプ氏擁護者は,「どう言う人を入国させるかを決めるのは主権国家として当然の権利である」と言い、今回の措置に対する「支持率が50%を超えている」と言いますが,既にビザ発給されて到着した、形式要件の揃っている筈のひとを出身地域で一律拒否する理由にはならないし、(熱狂的)支持さえあれば,法に基づかず・無視して人権侵害して良いかの議論からすればズレています。
移民規制の妥当性に関しては、昨日書いたとおり,国内に移民との低賃金競争を持ち込んで良いかどうかはよその国のことですから,好きにして下さいと言うことですが,ここの関心はこんな重大なことが議会ではなく,大統領の一存で何故実行出来るのか、法の支配とは何かと言う関心です。
アメリカが宣伝して来た法治国・人権保障国触れ込みの信憑性です。
ただし報道では実態が見えません・・実際にはビザには良いことを書いていたが,到着した人物のチェックをしたら爆弾・銃器を持っていたとか、申告内容の辻褄が合わないなどの場合には,入国審査官の判断で入国拒否したりその場で拘束するのはどこのクニでもしている当然のことです。
トランプ氏が,テロ支援国の7カ国だけ厳重審査しろと言う程度の命令しただけならば法治国として何らの問題もないでしょう。
もしも厳重審査命令だけならば,大騒ぎする必要がない・・反トランプ派マスコミの煽り過ぎです。

中間層の重要性4(テロ・暴動の基盤1)

資源収入に頼る国・・産油国では分配対象(一定金額の収入・生産に要する必要人員)が少なくて済む(労働分配率が殆どない)ので、貧富格差が飛躍的に拡大します。
これが資源輸出に頼る国・アラブや北アフリカ諸国では政治不満が起き易くテロ組織が勢いを増す構造です。
ちなみにテロ組織の隆盛・事件頻発は、アラブとかイスラム教に特有の関係ではなく、国家経済が資源収入に頼る割合が高い→利権種入を得る王族や支配者の外におこぼれに預かる関連従事者が少なく分配対象者が少ない→貧富格差の拡大進行によるものです。
アラブ諸国の中で、エジプトのみが(今回の騒乱まで)長年安定していたのは、資源輸出に頼る割合が殆どない(不労所得としては、スエズ運河収入くらいですが特権階層がいないこと)、もともと農業国で主として国民の労働に頼っていた・・所得分配が広く薄く出来ていたことによるでしょう。
また湾岸首長諸国やサウジ王国が安定を保っていられるのは、産油収入が多い割に人口が少ないので、王族だけが裕福ではなく一般国民にまで気前よくバラマキを出来るからです。
アメリカのシェールガスやオイルが出回ってアラブ・北アフリカ産油国の売上が減少して国民への分配が減ってしまうと、昨年のチュニジュア〜リビヤやエジプト、今回のマリ共和国内戦〜アルジェリア等と同様の騒乱が始まるリスクが高まります。
中国等近代工業化に離陸したアジア新興国では、産油国の王族同様に経営者や共産党幹部等、利権収入を得る特権階層がいる点は同じですが、工業化による場合は非正規雇用中心であっても多くのヒトを使うので産油国よりも多くの人に薄く広く所得分配出来ることが重要です。
一般人に殆ど仕事のない産油国・・砂漠の民等と違って、給与が安くても、身分が不安定でも日々の収入さえ継続していれば政権に対する不満がその分緩和され・・命がけで暴動する人が出ません。
昔から農民が如何に貧しくても、食えている限り農民が暴動を起こしませんし、流民化しません。
リビヤのカダフィ大佐の私兵同様に、中国の場合も共産党の私兵である人民解放軍や公安警察による強権による締め付けによって政権維持しているのですが、これは締め付けがうまく行っているからではなく、多くの工場労働者の存在・・一応分配出来ていたことによります。
ただ、これが大量に失業するようになると、リビヤ等と同じ問題・・軍や公安の力だけでは抑え切れなくなるでしょう。
従来中国沿海部と内陸の格差がマスコミで報道されていましたが、地域差ならば(目の前の人が皆同じく貧しいのですから)それほどの不満が起きません。
対策も単純で財政出動さえすれば(日本でも地方過疎地への公共工事で誤摩化してきました)何とかなりますが、都市に入り組んだ非正規雇用者の失業増大・生活困窮となると一筋縄では行きません。
日本でも地域差の問題ではなくなって来た結果、地方政府や企業補助等の間接的財政出動ではなく、個々人への直接バラマキが必要になった背景事情として「都市住民内格差1と選挙制度」January 21, 2011のコラムその他であちこちで書きました。
1月19日の日経新聞朝刊では蘭州市で、山を崩して巨大ニュータウンを作る工事写真が出ていました。
汎用品生産工場中心で離陸発展した中国では、人件費高騰のあおりで反日暴動以前から外資に逃げられつつあったのですが、住む人もいない新市街・鬼城(ゴーストタウン)を作る工事によって、当面の失業対策・GDPアップ効果になっているという記事です。
こんな無駄な工事(鉄道工事や幽霊マンションの大量建設もその例です)を繰り返して苦境に陥っている経済実態を糊塗しているのが現在の中国経済ですが、こんなバカなことがいつまでも続く訳がありません。
中国賛美記事の多い日経新聞では珍しい現象です・・・こんなことはずっと前から分っているのに国民を騙すために報道していなかっただけ(だからこそイザとなれば1日で現地写真を出せたのでしょう)ですが、これはこの後で書くように中国政府発表に驚いてマスコミも慌てて追随しているのでしょう。

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