健全財政論7(武士の生い立ち)

「国民生活をインフレから守るベシ」との経済官僚の古くからの気概(DNA)は、大恐慌によって金兌換制が廃止された以降中央銀行と言う組織に委ねられるようになりました。
ちなみにインフレは消費者である国民にとっては収入が目減りするので損であり(他方で必ず得するもの=供給側企業)、デフレはこれと反対で消費者が得する関係であることについては、5月18日その他のコラムで書いています。
経済官僚(元は武士です)にとっては、貨幣の質低下→インフレ=国民生活混乱阻止に対する強固なDNAの歴史があるので、中央銀行はインフレにはすごく敏感ですが、デフレに対しては鈍感なのは、中央銀行制度成立の歴史によるものです。
ここで少し話題がそれますが、武士が国民生活を守るのに何故敏感であるかということについて書いておきます。
武士と我が国以外の多くで採用されて来た専制君主制の兵士との違いが大きいと思われます。
2012/08/09「貨幣維持1」でちょっと書きましたが、専制君主制の兵士とは違い我が国の武士は、地元血族集団・領民保護のために戦うべく自然発生して来たものであって君主のために徴兵されたものではありません。
戦闘集団として効率的に戦うためにその時々にもっとも有利なグループリーダーを推戴しているうちに、一時的に推戴された指導者の立場が強くなって行ったに過ぎません。
古くは源氏についたり平家についたり、鎌倉末期には北条についたり足利についたり、室町期には南朝についたり北朝についたり、戦国時代には各地土豪がその時々のリーダーの元に離合集散を繰り返して次第に越後の国や甲斐の国あるいは尾張の国などの国内統一になって行ったことは周知のとおりです。
最後の離合集散が、関ヶ原だったと言えます。
関ヶ原以降は圧倒的な武力を背景に徳川氏が、中国の思想を借りて来て専制君主のような主張(忠孝を強調)して勝手に専制君主に変質しようとしていた(最後まで成功しません)に過ぎません。
いくら借り物の儒教道徳を教え込んでも、草の根から興った武士の本質を変えられませんから、地元民(先祖代々の一族の集まり)を守るためには中国からの輸入概念であるニワカ主君の命に反することが武士にとっては本来の正義であり、謀反でもなんでもありません。
これが大塩平八郎の乱の思想的背景ですし、彼が謀反を起こした極悪人ではなく、「義士」として歴史評価されている所以でしょう。
この意味では応仁の乱以降下克上の時代と頻りに学校で習いますが、学校教育は江戸時代以降のかっちりした主従関係を前提にした誤解であって、一族・・その背後にいる郷土の親類縁者を守るにはどちらについたら生き残れるかの瀬戸際の判断でそれまで従っていた有力者から別の有力者に乗り換えるのは、謀反でも何でもありません。
下克上に関するこの種の意見を02/24/04「与力 (寄り騎)6(主従とは?2)」、09/22/04「源氏でなければ武家の棟梁になれない」の不文律はあったのか?3」に書いたことがあります。

新興国の将来7(内需拡大1)

6月12〜13日に書いた統計は政府公式発表に過ぎないので実態はもっと深刻でしょう。
ちなみに中国の統計数字やGDPや成長率等の公式発表では少なめにみなければならず、国防や治安関係経費は多めにみなければならないので、我が国で言えばデータのはっきりしない中で行っている天気予報みたいで大変です。
リーマンショックまでは主要輸出先であったアメリカの輸入が激減し、その次の標的になっていた欧州もギリシャ危機で輸入が激減して来たので、(東南アジアへの輸出ドライブがあるとは言いますが受け皿の規模が小さ過ぎます)輸出産業が生産調整せざるを得なくなっているのですが、一方で生鮮野菜の物価が3割以上も上がり続けると大変です。
輸出が縮小すれば、輸出用に生産していた各企業は生産縮小か国内向けに販売するしかないのですが、そのためには車などを多くの国民が買えるように生活水準を引き上げるしかありません。
いわゆる輸出依存度の問題ですが、日本総務省が発表した2009年のGDP(国内総生産)に占める各国の輸出依存度を見ると、韓国が43.4%、中国が24.5%、ドイツが33.6%であるのに対し、日本は11.4%に過ぎません。
(0ECD諸国では日本はアメリカに次いで2番目に依存度の低い国です)
輸出依存度の高い国とは言い換えれば、(何事でも簡単に割り切るには問題がありますが、ここでは特徴を書いています)中国のように輸出産業用に外資導入している国・・国内需要としてはまだ車など買える層が少ないが輸出用に工場誘致する・・内需・購買力が低い国と言えます。
国際経済危機が来ると輸出依存度の高い順に危機が押し寄せるのですが、生産維持のために輸出依存度の高い国がその比率を下げて国内販売用に切り替えるには、国内購買力の引き揚げが必須です。
日本のように長い間の儲けが溜まった結果徐々に購買力が上がり、内需が引き上げられて来た国と違い、外需・・輸出先がなくなったので企業の生産維持のために急いで内需拡大へとなると無理が出てきます。
生活水準を上げる=賃金アップするとベトナム、ミャンマー等にコスト競争で負けて空洞化がさらに進んでしまいます。
(アメリカでさえ中国で作るより国内で作った方が安くなると言い出しました)
内需拡大は、財政赤字・外貨準備を食いつぶすばかりではなく、生活水準の上昇効果があるので、その後の国際競争力に関係してきます。
リーマンショック後中国の40兆円の内需拡大効果が、白物家電・クーラー・車などの購買を通じて生活水準を上げたでしょうから、その結果生活費が高くつくようになり、(2010年に人口ボーナスの最大期が過ぎたこともあるでしょうが・・)これが中国での昨夏以来の賃上げ騒動に連なっているのです。
財政出動自体は、貿易黒字の蓄積を当面食いつぶせるので、もう一度内需拡大しても直ぐには負債国家にはならないでしょうが、前回(リーマンショッック緩和のため)の拡大によるバブルがまだ調整し切れていない・・物価上昇中(13日に紹介したように9日の発表では生鮮野菜が30%以上まだ上がり続けています)なのに、ここで更に財政出動すると大変なことになりかねません。
大口輸入先であったアメリカがリーマンショック後輸入削減策に転じており、他方で欧州経済は仮に危機を脱したとしても身の丈にあった経済規模に縮小する一方になることは確実です。
生産縮小=失業を増やさないためには今後財政出動・生産維持のための内需拡大しかなく、しかも将来中国製品輸入先が減る一方なので・・過剰生産力を抱えたままになるとすれば、我が国のように内需刺激策を近い将来やめられなくなる危険があります。
行く行くは過去の貿易黒字を食いつぶしかねない・・将来的には今のギリシャや南欧諸国みたいになってしまう可能性・・リスクもあるので舵取りが難しい状態です。
ところで、中国の外貨準備はどこまで使える真水であるのかという疑問があります。
中国の外貨準備は巨額ではあるものの、貿易黒字分と海外からの投資流入による分があって真水の蓄積ばかりではありません。
その内訳がよく分らないのですが、いわゆる長期資金の場合、これも考えようによれば輸出によって得た資金と言えないこともありません。

構造変化と格差33(新自由主義7)

インフレ待望論者は、基本的には円安待望論と重なっているのですが、貿易赤字待望論は一人もいないのですから、円キャリー取引のようなイレギュラーな事態を予定しない限りマトモな主張とは言えません。
経常収支黒字の積み上げ→円高→実質賃金率引き上げになる関係ですが、黒字が続くということはその円相場でも黒字を稼げる企業の方が多いことになります。
(特に日本の場合、資源輸入による円安要因が働くので加工品の競争力に下駄を履かせてもらっている関係です・・2011年には原発事故による原油等の大量輸入で貿易赤字・円高が修正されましたが、製造業の競争力がその分上乗せになる関係です)
黒字による円高で悲鳴を上げる企業は、国内平均生産性に達していない企業のこととなります。
(この辺の意見はかなり前に連載しました)
生産性の高い企業が一定水準の円相場でもなお輸出を続けると貿易黒字が続きます。
その結果更に円高になりますので、これについて行けない・生産生の低い順に国内人件費の実質アップを回避するためには海外移転して国内高賃金雇用を避けるしかありません。
生産性の低い企業が海外工場移転した分、国内雇用の需要が減る→その結果国内労働市場では需給が緩み労働者の経済的立場が弱くなるのは当然の帰結であり、これはまさに経済原理・正義の実現と言うべきです。
労働者は自分の生産性を上げない限り(中国等の10倍の人件費を貰う以上は10倍の生産性が必要です)円高の恩恵だけ受けて痛みの部分を受入れないとしても、時間の経過でその修正が来るのは当然・正義です。
ところが人件費に関してはストレートに円相場の上下率に合わせた賃下げが出来ないので、その代わり経営者としては労働者を減らして行くしかありません。
既存労働者の解雇は容易ではないので、新規採用をその分抑制する・・あるいは新規工場を国内に設けずに海外に設ければ、現役労働者を解雇しなくとも新規労働需要が減少して行きます。
大手企業・・例えばスーパーやコンビニを見れば分るように大量店舗閉鎖と新規出店の組み合わせで活力を維持しているのですが、新規出店分を海外にシフトして行けば自然に国内店舗・従業員が減少して行きます。
大手生産企業も新規設備投資とライン廃止の繰り返しですが、新設分を海外にシフトして行くことで新規雇用を絞っています。
新規雇用に関してはこうして需要が減る一方ですから、現下の社会問題は、既得権となっている高賃金労働者の保護が新規参入者にしわ寄せして行くことになっていることとなります。
(この外に定年延長による新規雇用の縮小問題は別に書きました)
既得権保護・・これをそのままにすれば新規参入者が狭き門で争うことになります。
・・減ったパイを少数者が独り占めよりはワークシェアリングとして、短時間労働者の増加・・大勢で分担する方が労働者同士にとっても合理的ですし、短時間労働者は需給を反映し易いので企業にとっても便利なので新規雇用分から少しずつでも非正規雇用に切り替えるしかなくなって行きました。
この結果正規雇用が減って行く・・中間層の縮小となりました。
海外移転が急激ですと急激な雇用減少が生じますが、非正規雇用の増大はこれを食い止めるための中間的選択肢(・・一種のワークシェアー・・あるいは給与シェアーと言えます)の発達とも言うべきです。
解雇権の規制を厳しくして既存労働者の保護がきつくする(定年延長論もこの仲間です)ばかりで、他方で非正規雇用を禁圧あるいは白眼視・・何かと不利益扱いすると、却ってこれによって国内に踏み留まれる企業まで出て行かざるを得なくなるリスクがあります。
非正規雇用→一種のワークシェアーは、急激なグローバル化による賃下げ競争の緩和策になっていることを無視する議論は無責任です。
かと言って非正規雇用自体が良い訳ではない・・若者の未熟練労働力化を放置しているわけにはいかないので工夫が要ります。

国債残高の危機水準7(対外純債権)

 対外純債権額と言っても金融資産ばかりではなく、工場進出資金その他の投資資金が多く含まれているので、危機時に簡単に換金出来なくて金融資産そのものとは性質が違います。
日本国債の危機だからと言っても、いくら愛国心の強い企業家でもせっかく軌道に乗った海外工場を売却してまで、国債を買い支えるとは考えられません。
ですから、必ずしも対外債券が国債危機時の買い支え資金にはなりません。
個人金融資産を基準に考える立場を前提にすれば、正味=債務を引くと1000兆円前後しかないとすれば、現在既に国債その他政府(地方政府を含める)債務が約1千兆円に上るようですから、今でも既にプラスマイナス零または直ぐにもデフォルト騒ぎになっている筈です。
ところが将来の危機という議論(将来に備えて増税したいというマスコミ論調)しかなく、市場でも目先の危機は全く問題にならず、むしろ世界経済の乱調に対する逃避場所として外国人の日本国際購入が増えている状態です。
マスコミや学者の宣伝にも拘らず経済の実務では、国債の危機は個人金融資産残高と関係ないとする意見が大勢である証拠でしょう。
日本には事業資金・・すなわち企業の手元資金だけでも余剰資金が多く、3月23日の日経朝刊社説によれば、上場企業だけで余剰の手元流動性が60兆円にのぼると書かれています。
また同日の夕刊第2面によれば、3月23日発表の日銀の資金循環統計速報からの引用として日本国債に対する海外勢保有額が最大になったとの大きな見出しです。
外国人の残高比率は過去2番目の8,5%、78兆円で 、国内金融仲介機関の保有残高は601兆円、比率は65、3%とのことです。
合計で約74%ですから、残りは個人または国内金融機関以外の企業・団体が保有しているのでしょうか?
新聞の書き方は一部1年以上の国債に限った数字であったり、総額であったり一貫しないので保有部門別トータル国債総残高をあえて分り難く書いたような印象です。
同じ記事では個人金融資産残高は1483兆円で1年前比0、4%減となっています。
これは欧州危機による株式相場下落(および円高による海外資産の評価減もあるでしょう)によるものとの意見で、国内現預金額は2、2%増の839兆円になっています。
と言うことは、現預金以外の金融資産(年金や生保・証券投資残高など)が約600兆円ということでしょうか。
(企業にいくら資金があってもその株主の多くが外国人の場合実質的には外国人の持ち物ですから・・結局個人金融資産しか頼れない可能性があることをJanuary 13, 2012「海外投資家比率(国民の利益)1」で書きました。)
企業資金の究極のオーナーは個人でしかないので、経済学者・マスコミが個人の資力にこだわるのは安全基準としては堅いとしても、危険水準を見極める基準にはなりません。 

通貨切り下げ4(インフレ7)

アメリカが貿易赤字の穴埋め用に無制限にドル印刷を始めてドル下落が現実化して来ると、新規国債の引き受けは新札発行で対応出来るとしても既に買った人までも売り急ぐので、マーケットでは暴落傾向になって行きます。
連銀は新発債だけではなく既発債の買い支えまでしなければならなくなり、金融秩序はメタメタになるしかないでしょう。
連銀が買い支えてくれるので、売り浴びせた外国人はアメリカから資金(ドルを円や人民元、ユーロその他そのときの信用出来る通貨や金に替えて)を回収しては海外に引き上げるばかりですから、アメリカドルは際限ない外貨両替要求に見舞われて大幅下落どころか大暴落して行きます。
愛国心に従って指をくわえて見ていると自分の保有している国債の価値がみるみる目減りして行くのですから、その内アメリカ国民も売り競争に参加して行かざるを得なくなり、発行済国債のすべてが連銀保有に入れ替わるまで続くことに成り兼ねません。
ドル紙幣印刷は無制限に出来るとしても、その結果ドルの信任が地に墜ちて来ると、大幅下落中のドルでの取引はどこの国の商人でも敬遠しますので、結果的に今のギリシャみたいになってドル以外の通貨(アメリカにとっては円も外貨です)でしか取引が出来なくなります。
ところが、アメリカの場合・基軸通貨という美名に安住していたので外貨準備が経済規模に比べてホンの少ししかありません。
この状態では、外貨不足を補うための自国通貨建ての起債が出来ないので、円やユーロ建てで起債をするしかありません。
10日ほど前にインドの公社債募集用紙がおくられてきましたが、これによると同じインドの債券が円建ての場合1、何%、アフリカランド建ての場合7、74%、ユーロ豪ドル建ての場合5、93%と通貨ごとに金利差がついていてどれを選びますか?の募集でした。
同じ発行体の社債なのに通貨の信用によって金利差がまるで違うのが経済のルールです。
買う方から言えば、為替下落リスクのある通貨で買うときには、かなりの高金利でないと買えませんし、日本円のように上がる可能性のある通貨建ての場合、金利が安くても売れます。
ドル札を刷り過ぎて自国通貨建て起債の出来なくなった段階で、アメリカは普通の貧困国以下・・デフォルトしたの同様の格式が転落し、基軸通貨どころではなくなり、信用をなくして自国通貨建ての取引すら出来なくなってしまいます。
以上の次第で、現在の債務超過状態から見ればアメリカドルは何時崩壊してもおかしくない状態ですから、アメリカドルに対する基軸通貨という名称は実体的根拠のない空疎なものに過ぎません。
アメリカは、シェールガスなどの埋蔵量を誇示したり、人件費低下による製造業の復活可能性などをアッピールしていますが、人件費が中国に負けないほど安いという「売り」では国民が浮かばれませんし、どこまで復活出来るのか・・結局は資源国(後進国)として生き残って行くしかないのかも知れません。

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