格差社会1(アメリカンドリーム)

ウオール街での格差是正デモがあったのでこの際書いておきますと、アメリカ社会では一握りの大金持ちがいて大多数が貧しい・貧富格差が大きいのが特徴ですから、正義の実現のためにこの是正が必要なことは国際収支赤字の問題とは別次元の問題です。
10月24日の日経朝刊5ページの「グローバルオピニオン」欄のスティグリッツ氏(ウオール街デモの基礎になる論文を書いた人らしい)によると、アメリカでは上位1%の富裕層が所得全体の4分の1を稼ぎ、富みの40%を占めていると書かれています。
アメリカンドリームという言葉を有り難がっている人が多いのですが、この熟語自体が、超格差社会を反映した言葉です。
国内の富が一定であれば、一人で何兆円・天文学的富を持つ人がいる以上その分誰かが貧しい人がいる理屈です。
また統計の話ですが、国民平均所得で世界ランキングを発表しているのが普通ですが、平均と最多数値帯とは同じではありません。
アメリカやインド中国のように格差の激しい社会では、平均値以下の人が圧倒的多数になります。
工場労働者の平均賃金とか、非正規雇用者の平均賃金など職種別平均賃金で比較しないと実態が分りません。
弁護士でもそうですが、アメリカのように大規模事務所が発達していると、そこのパートナー(経営者)と平の弁護士の格差が大きいので、弁護士全部の平均収入を比較しても大多数の弁護士の収入平均にはなりません。
また、金融収支の比重が上がって来ると国内総生産を国民数で割るようなおおざっぱな統計ではなく、(内容を見るとこんな程度ですから、これを統計と言えるのか驚きです)金融収支の分も加味しないと意味不明になります。
前回まで書いたように、我が国でも貿易収支の黒字よりも所得収支の黒字比率が上昇して来ると、製造業関係に携わるべき人(失業者も含めて)の収入比率が減るのは当然で、逆に無職あるいは低所得でも所得収支で稼いでいる人の比率が上昇します。
金融収入に関与する人は高額所得者ないし遺産収入の有る人などが多いので、格差拡大が余計拡大して行きます。
10月26日まで書いたように、貿易赤字が進んで国内生産が壊滅状態になってもまだ経常収支が黒字の場合、国民の多くは失業しながらも食えて行けるのは、海外からの送金があるからです。
国民全体が無職で年金生活をしているような社会です。
年金や生活保護支給のため、あるいは医療や保険給付,保育士などの職員は,個人としては失業中ではないですが、国家経済全体では生活保護や失業給付支出内の支出に過ぎません。
金融収支や所得収支に頼る国家経済では、海外から送金の恩恵に与かれるのは限られた人になりがちで、限られた大金持ちの海外からの金融所得・知財収入等に失業中の多くの国民がぶら下がる構図ですが、こういう社会になれば貧富格差が大きくなるのは当然です。
対外純債務国のアメリカの場合海外からの利子配当ではなく借金中心ですが、借金出来る人と出来ない人の格差を緩和するために庶民にも支払能力に関係なく借りさせて良い家に住めるようにした・・借金の恩恵を庶民に及ぼしたのがアメリカのサブプライムローンでした。
特にジニ係数・・相対的貧困率になって来ると、フローの収入平均よりもストックも重要ですが、これの統計が難しいので、全く無視して議論している様子です。
高齢社会では、(高齢者は今の収入はゼロに近くとも、ストックの取り崩しで生活している人が多いので・富豪まで貧困層にカウントされてしまいます。)意味がなくなっていることもこの後に書いて行きます。
製造業分野で国際競争から長い間脱落していたアメリカでは、マイケルジャクソンやビルゲイツなど一握りの成功者が巨万の富を得て、国民大衆は失業状態・・彼らの寄付・慈善事業・・おこぼれ・・お布施に頼っているのがアメリカの理想社会の現実の姿であり、これを有り難がっている我が国のマスコミはどうかしています。

都市住民内格差8(公営住宅のミスマッチ1)

底辺層・都市住民内格差の多くが親の住宅が同じ生活圏内にあるか否かにかかっているとすれば、相続税で締め上げて等しく貧しくするのではなく、低廉な公営住宅の供給拡大で対応すべきです。
しかも相続税で没収するのは親が死亡してからですが、January 31, 2011「都市住民内格差5」に書いたように親が生きているうちから、親と同居出来る人と出来ない人の格差が大きいのですから、長寿時代の現在では相続税の重課だけでは格差是正になりません。
ここ20年ほどは世帯数を住戸数が上回っているので、公的住宅の供給事業は不要になったかのように言われていて、千葉県でも住宅供給公社の事業は大分前から店じまい・・残務整理に方向になっています。
しかし、余っているのは、不便なところに建てていることと、ファミリータイプが主流で単身用が殆どないこと・・ミスマッチによることが大きな原因です。
どんな商売でも客の好みが変わる都度、客が来なくなったからと言って廃業している企業はない筈です。
客の好み・・需要動向が変わればそれに向けて供給内容を変えて行くのが必要です。
中高年女性が離婚した後に生活苦のために公営住宅の募集を調べたところ、単身用の一般募集はありませんと断られたと言っていました。
単身用は障害者と高齢者向け優遇枠で一杯(それだけで順番待ち)で健常人向けには存在しないと言うことらしいです。
子連れの母子家庭用は申し込むとすぐに入れる人が多いようですが、子供が育ってからの離婚の場合、今のところ受け皿がないようです。
しかし40代後半〜50代でパートあるいはこれに類する仕事しか出来ない離婚女性の場合、民間アパート家賃を払いながら自活するのは容易ではないので、何らかの下駄を履かせる必要があります。
ところが、単身者用公営住宅は一般向けの募集すらないと言うのですから驚きです。
この女性に限らず、男性でもコンビニの店員やハンバーガーショップやフードコートなどで働いている独身若者にとっても親のスネをかじれない人にとっては家賃負担が大変です。
ところが、公的住宅では上記のように4〜50年前の制度設計・・需要予測を元にファミリータイプを中心に品揃えしたままになっていて、単身者増加時代に対応していないで余っているとして新設をやめてしまい放置しているのです。
ファミリーレストランが下火になれば単身者用に切り替え、総菜関係も単身者が増えてくれば食材その他を単身用にどんどん切り替えているように住宅供給もその方向にシフトすべきです。
まして家族持ちに比べて、単身者あるいは結婚予備軍の内、経済弱者で住宅に困っている人が多くなっているとすればなおさらです。
一昨年の年越し派遣ムラ騒ぎも、単身者の多い非正規雇用者でも都営住宅などに入居出来るようにしていれば、そもそもそういう問題が起きなかったのです。
彼ら非正規雇用の中の最弱者は自分でアパートを借りることも出来ないので、住の保障される飯場その他宿舎付きの非正規雇用が多いのですが、このやり方ですと失職するとたちまち住むところに困ってしまうのは当然です。
セーフティーネット・最低の生活保障として一定規模の公的住宅を用意するのは国家の責務ではないでしょうか?
どんな職業の人でもあるいは単身でも一定の住居が保障される生活・・これこそが文化的先進国と誇りうる社会ではないでしょうか?
文化的生活の最低保障としての公共住居があって、その上にもっと良い生活をしたければ、民間賃貸又はマイホームを持つ社会に区分けして行くべきです。
言わば生活保護や年金は現金供給システムですが、住居に関しては最低保障として誰でも(失業しているか病気で働けないかの理由なし・・審査不要)一定の住居が供給される社会です。
年金制度に比喩すれば、公的年金で高齢者の生活が一定水準で保障されるのが公的住宅に該当し、その上の生活をしたい人は適格年金や民間保険会社の年金に加入したり自分で貯蓄しておくのと同じです。
公的住宅保障制度が仮に機能するようになると国民は安心して生活出来るし、(失業しても食べるだけならば、かなりの期間やりくり出来るし、周辺が援助するにしても僅かな金額で済みます)高齢化しても現行の国民年金程度の支給(月額6〜7万円)でも生活して行けます。

都市住民内格差7(相続税重課)

高度成長期には、地方から出て来てもかなりの人が中間管理職に這い上がれたし、低成長期の今でも地方出身でも高級官僚には官舎があったりして、大手企業エリート社員あるいは弁護士や医師等高所得層になれば、エンゲル係数が下がるので家賃負担程度の格差があっても都市住民2世との格差をあまり感じません。
中間層がほぼ消滅して非正規雇用等の底辺層が人口の過半を占めるようになってくると、彼らのエンゲル係数比率が上がるためにこの格差を埋めることが不可能になります。
例えば、月収60〜100万では家賃負担の有無は大した問題では無いばかりか、January 28, 2011「都市住民内格差3」で書いたように親の家があっても、この階層は自分から外に出て独立するのが普通ですから、地方出身者との負担格差があまりありません。
あっても、ローン頭金等に当てる資金・・親からの援助差程度でしょう。
非正規雇用で月収20万円前後の場合、家賃負担の有無や単身生活をするか否かは大きな負担格差です。
都市住民1世と2〜3世の埋めがたい家賃負担格差は、都市住民の中に入り組んでいるので地域格差のようには目に見えにくいのですが、現在は非正規雇用者(に限らず底辺労働者全般)には都市住民2〜3世(の内親がマイホームを持っている者)と地方出身者1世との格差が固定されて行くところを、重視する必要があります。
何時の時代にも競争落伍者・・底辺労働者は日給月給等の非正規雇用あるいは不安定職であったし、競争自体を悪としてこれをなくせと言うのでは健全な競争・発達が阻害される弊害があります。
どのようなだらしない働き方の人間でも正規雇用で守られるのでは困るので、相応の格差が必要ですが、他方で、どんなに努力しても中間層に這い上がれない社会も困ります。
中間層のかなりの部分・・水ぶくれ部分だったのかも?が消滅し、底辺労働者・非正規雇用者の比率が上がって来たので、「底辺層と言うのはそんなものだ」と無視している訳には行かなくなってきました。
膨大な数の底辺層が生じてくると、底辺労働層内の(本人の努力差によるのではなく、親が都市に家を持っているかどうかの)格差是正も無視出来なくなってきます。
平成21年末の年末派遣ムラのように、現象を追いかけるパフォーマンスだけでは、非正規雇用全部が悪であるかのような印象を与えるだけで、非正規雇用者内の格差を解決出来ません。
住宅の有無による格差是正には相続を禁止する方向・・相続税を次第に重く・・・基礎控除の引き下げと税率アップして行き、都市内の一般住宅をほぼ課税対象にして行くのもひとつの方法です。
非正規雇用者は相続税支払能力が多分低いでしょうから、相続した家を売り払って税を払うしかないので、非正規雇用者階層をすべて家なしにしてしまえるので平等に貧しくなる点では一方法です。
これでも親の家を売ったお金がまとまって入るので少しは楽になりますが、家がなければ一時的に消費を増やして・・一定期間で使い切っておしまいですから、半永久的な格差にはなりません。
来年度税制改革案は相続税の重課税方向に舵を切っているので、この方向に向かっているように見えますが、これはみんなを貧しくして平等にしようとする後ろ向き政策で感心出来ません。
高額所得者に対する増税策ばかりでは、崩壊したソ連同様に余りにも社会主義的政策で個人の競争・労働意欲をそぐ方向に働く危険・・経済停滞に陥るリスクがあるからです。
民主党は基本的に「貧しくても平等」に軸足を置く政党ですが、努力が報われる社会にしなければ発展がありません。

 都市住民内格差6

地方での雇用維持に関しては、都市と地方の格差是正のためには地方に職場を作るしかないことから、我が国では長年かけて地方に研究機関や大企業を誘致し、これを固定資産税の免除等各種税優遇などで助成して来ましたが、関係者は腰掛け的に勤務(単身赴任)するだけであって、地方に安定して住む魅力・原動力にはなりません。
これらがいくら進出しても周辺底辺労働以外には、元々の地方住民の雇用には、あまり効果がないのです。
研究機関・大学やその土地の工場に勤める人自身にとってはその近くに住めば通勤に便利ですが、自分の子供が世襲でそこの研究者や大学教授に就職出来たり、あるいはその大学に入学し、その企業に就職出来るとは限らないので、子供の就職や進学に困ってしまう・・地方には多様な選択肢がないので困ってしまうからです。
最近では奥さんの勤め先としても困る事例が増えてきます。
だからと言って、世襲制の復活を求めるのは無理です。
結局多様な進路のある大都会に住まないと奥さんの再就職や子供の進学・就職等の選択段階で困ってしまうので、結果的にJanuary 2011「都市住民内格差5」まで書いたように地方出身者は居住費その他がかさむことになってしまうので、定住を望まない・・・都内からの単身赴任が普通になっています。
種子島にロケットの打ち上げ基地があるからと言って、ロケット研究者関係者が妻帯で定住する人がいない筈です。
公的委員会で一緒になる女性大学教授で妻子が都内に残っていて、(千葉の場合都内から通えるので)夫だけが筑波に単身赴任していると言う人もいます。
昭和40年代に多くの大学が都心から多摩地区に移転しましたが、不便なだけでメリットが少ないので今になって都心回帰が模索され始めています。 
都心にあれば大学教員が他大学授業の掛け持ちに便利ですし、各種政府委員あるいはマスコミに出るなどいろんな面で便利ですが、八王子に行ってしまうと授業のある日は都内の他の用を足せない不便があって有能な教員ほど困ってしまうのです。
勿論学生もアルバイトその他何かと不便です。
これからは熱効率その他いろんな面で考えて都市集住の時代であるべき・・むしろ促進すべきです。
2月3日の日経夕刊の3面では、インターネットの速度では韓国が世界最速であると出ていましたが、その原因として韓国ではソウルに人口が集中していて高速化に有利であることが上げられていました。
ネット時代には分散して仕事ができるとマスコミが宣伝しますが、そんなことはありません。
都市集中の自然の動きに逆行するために税を使って僻地に研究所を作っても砂に水を撒いているようなもので定住効果が薄いので、地方から都会への移動・・自然の流れを受け入れた上でこの過渡期に地方から都会に移住する人たちへの手当・・都市内格差是正に税を使う方が合理的です。
地域格差よりも出身地・階層による格差がものすごく大きくなりつつある点では、新たな身分社会・人種差別に似た問題になっていることは日本でも中国でも同じです。

都市住民内格差5

話を1月29日の格差問題に戻しますと、地方出身者か否かよりは非正規雇用・底辺労働者かどうかによる外に、非正規雇用の場合に親(とその親)が大都市にマイホームを持っているかどうかによって、大きな格差が生じることが分ります。
非正規雇用(その他その日暮らしに近い)者でも、親の家から通える非正規雇用者等は月15〜20万円の収入殆ど全部を小遣いに使える(その気になれば貯蓄も出来る)上に、仮に職が途切れても親の家ですからどうってことがないのです。
千葉の田舎に類する八街市(千葉市から電車で40分くらい)郊外の分譲住宅に住む高齢者がいますが、息子の職が途切れたと言って帰って来ているので生活費がかさむと嘆いていました。
八街の郊外からでは、仕事に通うのがきついので職のあるときは船橋や市川方面でアパートを借りて生活していたのですが、職が途切れると家賃を払いきれないので親の家に帰って職探しをしているらしいのです。
早く職を見つけて、家を出て行って欲しいのが親の願望ですが、千葉県の場合、親の家に帰ってもそんなに遠くないので(毎日の通勤には遠すぎても職探しくらいは出来ますが、・・と言っても塗装工その他現場系ですが・・・もっと遠くなると(例えば青森や岩手の)実家に帰ると職探しすら出来なくなります。
この種現場系では遠距離からの求職活動は無理と思われていますが、実は弁護士でも同じで、地方で修習中の修習生は就職活動ではかなりの苦戦を強いられています。
実際の就職、求人現場ではメールだけでは相手にされないのが実態・・相応のコネや訪問等の活動が必要になっていますので、遠隔地からの就職面接を繰り返すための旅費だけでも大変なハンデイです。
何をするにも就職先の多い大都会とその周辺に住んでいる方が便利な時代です。
地方出身者や働き先の近くに親の家のない若者は、僅かな収入を家賃その他基礎的生活費に食われていて、日頃から苦しい生活が続いているので、職が途切れるとたちまち住む家さえ維持出来なくなるリスクがあります。
非正規雇用の問題点としては、非正規雇用全般に広げてボカスのではなく、出身地域別格差あるいは親世代がマイホームを持っているか否かによる格差が大き過ぎる点の是正策に着目すべきではないでしょうか?
非正規雇用でも過疎地や地方に豊富な職場があれば、親の家から通えるので地方の次世代も助かります。
とは言え、現在(多分将来もそうですが・・・)は地方に仕事がなくなる一方で、この傾向は変わらないと思われますので、地方に立派な親の家があってもその家に住めずに遠く離れた東京・大阪などに出て行かねばならず、出て行けば狭いアパート家賃を払うのにギリギリの貧窮状態に陥る点が問題です。
江戸時代には跡取りはそのまま親の家を相続して生活して行けたのですが、今は次男だけではなく長男や一人っ子まで都会流出しないと生きて行けない・・結局は地方にいたままでは生活費を稼げない時代です。
その上今では県庁在地でさえも脱出しないと、マトモな職業がなくなりつつあります。
「田舎は良いぞ!」式の地方分散居住の奨励・・国土の均衡ある発展論を私はこのコラムで繰り返し批判していますが、全国に散らばって住む形態は、農業社会に妥当していたに過ぎない事実を無視して、(過去・・農業社会に郷愁を抱いている個人の好みにとどめるべきで、政治目標として誘導すべきではありません)若者を誤導しているのは、時代錯誤の思想で無理があります。
宣伝に載せられてUターンしてしまった若者は、中高年になってみると子供の進学や就職などで困っているのではないでしょうか?

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