江戸時代でも、大名から大身の旗本あるいは御家人などへ順次地位が下がってくると娘が持参金としてまとまった領地(の収入)まで持って行けることはなかったでしょうし、自作農でも農地を分与して持参しようがないので実家の経済格差に応じて結婚に際しての夫婦財産関係の実情は違っていたのでしょう。
大地主は別として、一般農家の場合女性は貴重な労働力とカウントされて嫁に行く印象でした・・・養って貰うのではなく嫁ぎ先の貴重な労働力として農家では考えられていましたから、離婚すれば待ってましたとばかりに引く手アマタだったとも言われていたことを以前紹介したことがあります。
当時庶民の女性は働き手として期待されていたので、明治生まれの私の母親の世代までは、何かと言うと如何に「自分が働き者だった」かを自慢するのが常でした。
現在でも女性の自慢は、如何に自分が社会的に有能で、バリバリ働いているかではないでしょうか?
パートで働いたり一般会社の下働き程度ですと子を産むのと天秤にかけて子を産む方に傾く人が多くなりますが、一定の高学歴者・・・女性裁判官・高級官僚などではキャリアーに穴があくのを恐れて子を生む人が減って来ています。
子を産む性と入っても、仕事に就けるレベル次第と言うところです。
勿論下働きであっても女性の美徳は几帳面にコツコツ働けることであることは同じですから、男に比べてどこの会社でも女性はよく働きます。
白魚の手などと言うのは最近の褒め言葉であって、昔(と言うか最近まで民話や文学作品などで)はごつごつした骨太の手が働き者だった証としてほめる文章が多かったものです。
特に農家では女性のこつこつと真面目に働き続ける性格は貴重なものでした。
男は灌漑に関する土木作業(これはしょっ中あるものではありません)や、牛馬を使う田起こし等の一時的作業が中心で、持続作業には向きませんので後は祭りの準備や寄り合いなどで時間をつぶしていたのです。
上級武家の妻や、現在のホワイトカラー層以外の庶民では昔から現在の共働き以上の貴重な労働力でしたから、自分の食い扶持を持って嫁に行くどころではなかったのです。
ホワイトカラーその他専業主婦・・高度成長期に一時的に形成された結婚すれば妻を養うしかない・・無駄飯食いになる前提で、夫婦のあり方や離婚を考えると間違います。
むしろ離婚したくとも夫が同意しないと離婚出来ないので、離婚出来るための三行半と言う簡略な書式が考案されたと見ることも可能です。
庶民に取っては、嫁に出すのは働き手を出してやるだけでしたから嫁いで行く娘の食い扶持を実家で仕送りする必要がなかったので、持参金自体考えられもしなかったし、仮にあっても形式的なもので良かったでしょう。
逆に一定のお金をもらえる関係だったと言えるかもしれません。
野球選手のスカウトが甲子園活躍選手の親に契約金を用意したりするのと同様に、嫁入りに関しても結納金として受け入れ側がお金を用意する習慣が出来たのはこのせいです。
嫁入り時の結納金支払習慣がいわゆる人身売買と悪く言われる前金の支払習慣の原型になったかも知れませんがし、いずれにせよ育ち上がった女性はお金を前金で渡すほど役に立ったと言うことです。
このように婚姻する階層によって下に行けば行く程、女性の働きが重視されていましたので、その働きによる夫婦生計の一体制が強まって行く関係だったのです。
明治以降サラリーマンと言うか都市労働者が法的対象の中心になってくると、農作業時代に比べて女性の賃金が低かったことから、次第に女性の地位が低下して行った感じです。
有産階級でも貨幣経済時代になると持参金は名目的になって行きます。
(タンスや着物を持って行くくらいでしたが、今では一生涯分の着物を予め用意して行くなどあり得ない・・5〜10年先に着る洋服など今では想像出来ませんのでこの習慣もほぼ廃れたと言っていいのではないでしょうか)
持参金や持参した領地の上がりで自給出来ない階層・・専業主婦層が法の対象・主役中心になって行った(ブルジョワではなく中間層や庶民が法の対象になってくる)ことが、2010-12-6「婚姻費用分担義務4」まで紹介した同居協力の義務・・すなわち婚姻費用分担請求権が法定されるようになった社会的基礎でしょう。
ちなみに夫婦同居協力の義務は、今とは言い回しが違いますが、結果として明治に出来た民法・・すなわち現行民法が戦後改正される前からありました。
明治の規定と戦後の同居協力義務規定は、家の制度や男尊女卑思想・・一方的な関係から相互関係に変更しただけです。
民法親族編旧規定
(戦後改正されるまでの条文)
第二節 婚姻ノ効力
第七百八十八条 妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル
2 入夫及ヒ壻養子ハ妻ノ家ニ入ル
第七百八十九条 妻ハ夫ト同居スル義務ヲ負フ
2 夫ハ妻ヲシテ同居ヲ為サシムルコトヲ要ス
第七百九十条 夫婦ハ互ニ扶養ヲ為ス義務ヲ負フ
現行条文
第2節婚姻の効力
(同居、協力及び扶助の義務)
第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。