国際競争力低下と内需拡大1

欧米では、日本の高度成長が始まったとき(昭和30年代後半)以降、輸出競争で日本に追い上げられていて、日本が伸びた分だけ輸出産業の衰退縮小・・労働力過剰が続いていました。
欧州諸国は競争力低下解決のためにトルコ人等低賃金労働者の受け入れで凌ごうとして来たのですが、(我が国の場合韓国台湾東南アジア等への進出策でしたが・・)低賃金競争で日本に負けたのではなく技術力(古くは繊維・ソニーやトヨタなど・・・)で負けたのですから、低賃金外国人労働者の受け入れで解決出来る筈がなかったのです。
今朝の日経朝刊の「私の履歴書」では東レが炭素繊維で世界トップ技術になって行った経過が書かれています。
後進国から未熟練労働者を受け入れると労働者の平均レベルが余計下がってしまいます。
長期的には労働人口過剰・・彼らと彼らの子孫に対する教育負担・犯罪増その他お荷物が増えるだけの結果になって・・将来への負担を残して行く筈です。
外国人労働力移入の問題点については August 18, 2011「損害賠償リスクの先送りと外国人労働」その他これまで何回も書いています。
(今夏にはイギリスで外国人労働者2世?が暴徒化して大問題になりました)
自尊心その他の要因で自己欺瞞のために低賃金国に競争で負けたと宣伝したい気持ちは分りますが・・現実を直視しないと却って傷が深くなる例です。
この辺はアメリカも同じで、外国人労働力という名目ではないですが、移民・難民受け入れ名目での低賃金労働者の絶えざる流入あるいは人口増で労働人口が増え続けていますが、この政策は国全体ではGDPが増えるかも知れませんが、平均レベルが下がってしまい却って個々人は貧しくなるしかありません。
上記のとおり、欧米では観光その他内需型・住宅産業・サービス業にシフトして失業者の受け皿として来た内需振興・・資金の食いつぶしの歴史が長く、(約50年経過))たとえば、アメリカで言えばかなり前から過去の蓄積を食いつぶしてしまい純債務国になっています。
アメリカは1986年以降純債務国になっていて、2008年までの対外純債務は13兆6418億700万ドル[3](GDPの95.6%、2008年第4四半期)と2011、10、16日現在のウイキペデイアに書かれています。
(今年の統計はまだ出ていませんが、多分もっと増えているでしょう)
ちなみに日本はバブル崩壊後でも貿易収支・経常収支共に黒字を続けていましたので、(何故失われた20年と言われるのか意味不明であることも繰り返し書いています・・・)の対外純資産は同じく2008年末で(世界最大)225、5兆円にふくれあがり、その後も経常収支は毎年黒字ですから、今年は、およそ240兆円近くになっている様子です。
収支が赤字で純債務国になれば支出を削るしかないのが経済の原則ですが、この逆に景気対策名目で、(低賃金労働力を輸入すれば人口増分だけ当然国内需要は伸びますが・・)内需拡大で誤摩化していると対外借金が増える一方となります。
これを続けるといつかはドルやギリシャ国債の大暴落のように帳尻を合わせるしかなくなってしまいます。
2008年秋のリーマンショック以降の経済危機に対しては、従来のように更なる内需振興・サービス業などを拡大して余剰人員を押し込む余裕がないので、アメリカでは失業率が上がる一方になるしかありません
(借金で20年以上も内需拡大して来た咎めが出たのが、サブプライムローン→リーマンショックですから、この危機解決のためにこれまで以上に借金して内需拡大で解決するのでは背理です)
20年以上無理(借金経済=経常収支赤字)をして来た咎めが出てアメリカでは29歳以下の失業率が4〜5割に達するとも言われていて、これがウオール街での格差是正デモに発展しているのです。

社会構造変化と非正規雇傭の増加2

非正規労働者の増加原因の分析については、製造業等のオートメ化・電子化等の合理化による雇用減少や産業の海外移転による労働者の受け皿削減分がどのくらいで=本来新たな受け皿がなければ職からあぶれるべき人の受け皿になった分がどのくらいあったかを数字で明らかに出来る筈です。
内訳を明らかにした上で論じないと、ムード的なスケープゴート探しの主張に過ぎず説得力がありません。
非正規が増えたので正規職員が減ったのではなく、正規職場の減った分に近い非正規の受け皿を何とか用意出来たので、わが国では欧米のように失業率(欧米では10%前後が普通です)が上昇しないで済んでいると言えます。
ちなみにギリシャの失業率を見ると、調査機関ELSTATによると今年の第2・四半期で16、%の失業率と言われ、15─29歳の若年層で、失業率は32.9%だった報じられています。
ちなみに、平成バブル崩壊後増えた職場は殆どが内需振興型・・公共工事や医療・福祉関連等のサービス業・・一種の失業対策事業であって、対外的収入を獲得出来るものではないので、これは膨大な貿易黒字の蓄積があってこそ可能になったものです。
ちなみに、製造業や公共工事が駄目なら医療・福祉へシフトすべきだ・・その分野ではまだまだ人手が足りないという主張が多いのですが、一家の働き手が失業して遊んでいるならば家の掃除やお婆さんの病院への送り迎えや介護を手伝うべきだというのと同じで、一家(国家)の総収入が減ったままであることは同じです。
本来収入減に合わせて支出を抑えるのが本則ですが、景気対策としてこの逆ばりで内需拡大・・支出を増やす政策を世界中でとってきました。
この方面へのシフトは必然的に一家・国家の貯蓄食いつぶし・・フロー収支で見れば赤字政策ですから、このシフトが始まった平成のバブル崩壊以降財政赤字の拡大・・年金や医療保険の赤字が始まったのは当然です。
(年金や保険の赤字原因は、少子高齢化だけの問題ではありません)
・・ですから、対外純債権(日本国の対外貯蓄)のあるうちにこの余剰人員・失業者を減少させて労働市場の需給を均衡させてしまう必要・・・・人口減少政策を促進すべきと言うのが年来の私の意見です。
純債務国になってもまだ過剰労働力を抱えてままで失業対策的内需拡大=赤字政策を続けていると、アメリカやギリシャの二の舞になってしまうでしょう。
世界の工場として輸出していた時期に需給が均衡していた労働力は海外輸出の減少・・貿易収支の均衡化=国内需要分を越える生産力不要化に合わせて労働力過剰が生じますから、これに合わせて労働力を減少させて行かないと失業者が溢れてしまいます。
急激な労働需要の縮小に対応する人口減は(30年以上かかるので)直ぐには間に合わないのでその間の緩和策として内需振興・失業対策事業があるのですから、対外純債権国である間は貯蓄を使ってやって行けるとしてもいつまでも続けていて、その内貯蓄(対外純債権)を食いつぶしてしまうと大変なことになります。
対外純債権・貯蓄のあるうちに早期に財政赤字政策を打ち切るためには一刻も早く過剰労働力解消・・人口減を急ぐしかありません。
国際競争に不適合を起こしていた農村人口は幸い、高度成長期の余録をつぎ込んでいるうちに何とか人口縮小に成功しました。
今後は、対外純債権国であるうちに下層単純労働人口の縮小に成功出来るかが、我が国の将来を決めることになります。
この種の意見は、February 1, 2011「非正規雇用と高齢者雇用」その他で繰り返し書いてきました。

社会構造変化と非正規雇傭の増加1

パート出現のときには、人手不足時代であったために正社員もパートも双方とも増えたので社会問題にならなかったのですが、派遣制度が始まった頃にはグローバル化進展によって、海外進出→逆輸入の進展などで、日本国内生産の停滞縮小時期に重なるのでこの間正規社員が平行して減っていきました。
(あるいは、後期のとおり、正規社員を減らさないと国際競争上やって行けなくなって国内雇用を守るために非正規雇用制度が産まれたとも言えます。)
統計数字の結果だけ見ると、この間に例えば正規労働者が1千万人減って、非正規雇傭が1千万人増えたとすると、如何にも正規社員がクビになってパートや派遣に入れ替わったような印象となります。
しかし、生産工場の方で海外生産移行などを原因として国内正規社員を減らすしかない趨勢が先にあって、その受け皿として、彼等の失業を防ぐために公共工事拡大やサービス業などで短時間労働職場を増やした結果・彼等の受け皿を作れた面もあります。
非正規のシステムがあろうがなかろうが、企業は世界政治・経済の動向に合わせて海外進出し、その分国内生産を縮小してくしかない以上、これに合わせて人員削減するしかないのですから,リストラ実施の必要性が先に存在していたのです。
元々輸出産業の乏しい地域では、受け皿=失業対策としての税を使う公共事業が隆盛を極めていましたが、輸出産業のあった都会地でも必要になったところが大きな違いです、
公共工事は言うまでもなく100%税を使うし、都会地の労働力の受け皿として新たに始まったサービス関連職種の内医療福祉関連は、100%ではないまでも巨額の財政支出を伴います。
バブル崩壊後のわが国財政赤字が累増し、年金や医療の赤字が問題になって来たのは、この結果です。
リーマンショックは、赤字分を借金で賄う強いアメリカの虚構性を白日の下に曝したものですが、借金体質・借金で贅沢している虚構性が衝かれた以上借金=財政赤字の増額による内需拡大は、基本的に無理があります。
そこで我が国でも赤字削減が過大になってきましたが、福祉と公共工事の赤字のうち医療・福祉はやめられないので、公共工事激減策に進むようになりました。
リーマンショック以前から進んでいる製造現場・公共工事その他旧来産業の人減らし分の受け皿として、リーマンショック以降介護・福祉現場や観光産業の振興を宣伝してこれら分野への労働者の転換の必要性がしきりに叫ばれています。(この記事の原稿はその頃書いていたので現在形です)
これを後から見るとそんな職業を作り出すから、非正規労働者が増えたと批判をしているようなもので、内容を見ない合計の統計だけで議論すると滑稽なことになります。
これでは、せっかく失業者を減らすために国民みんなで苦労して新たな受け皿を作ったことが、却って非難の対象になってしまいます。
もしも半端な就業形態の職場を作らなかったら、行き場を失う労働者のために政府は、企業のリストラを制限する事になるのでもっと多くの正規社員が残れたと言うことになるのでしょうか?
リーマンショックによる売り上げ激減後も「労働者を一人も減らすな」と叫ぶのは勝手ですが、それを政府が強制していたのでは、トヨタもホンダも新日鉄もつぶれてしまいます(その前に海外に逃げるでしょう)から、もっと大きな失業がその次に来るだけです。
(この辺の意見は2008年秋のリーマンショック直後の年越し派遣ムラが世間を賑わしていた頃に書いておいたものです)

契約・派遣社員(手切れ金9)

我が国では、今でも終身雇用を原則としていることから、必然的に正規社員の中途採用が極端に少ない・・・多分逆方向への転進が狭き門になっているので、非正規雇用が批判の対象になっているのでしょう。
しかし人材の流動化を双方向へ持って行くためには、正規社員の終身雇用慣行を崩して行くことに精力を注ぐべきであって、これを所与の前提として放置したまま非正規雇用を減らす方向へ逆戻りするのは時代錯誤と言うべきです。
非正規雇用規制論者は、パートか正社員の二種類しかなければ、子育て中でしょっ中休む人でも企業は仕方なしに正社員として採用するしかないだろうと言う立場と思えます。
仕方なしに採用する企業もたまにはあるでしょうが、それは余程人手不足の場合・時代にだけ通用する考えで、現在のように労働力過剰で困っている時代では、(1ヶ月きちんと働ける人でさえ失業者が多くて困っているのです)二者択一しかない社会にすると1日5〜6時間でもあるいは月に10日くらいでも働きたい半端な人に対しては就職の機会を100%失わせるリスクの方が高くなります。
比喩的に言えば100万人の半端な時間だけ働ける人がいた場合、そのうち2〜3万人だけ正規・終身雇用で採用されて残り97〜8万人が完全失業してしまうことになりかねません。
ここは感情的な二者択一論ではなく、終身雇用をやめる方向に持って行って中途採用が活発になって正規雇用への転進がスムースに進める方向への努力をする方が合理的です。
身障者雇用制度では一定率の雇用を義務づけていますが、これと似た発想で、職種ごとに一定率まで終身雇用比率を制限して一定率まで10年ごとの定年制を決めるなどして行けば、正規雇用者の中途採用がシステム的になって来るでしょう。
若年定年制論については、February 3, 2011「終身雇用から中短期雇用へ」のコラム前後で連載しました。
夫婦別姓論も同じで、選択も出来るようにしようとするだけで別姓にしなければならないのではないのですが、反対論者は、選択出来ることすら気に入らないのです。
次第に別姓が広がる心配をしているのは、別姓の希望者が多いことを前提にしているのでしょう。
契約や派遣の場合は、労働者の自主選択権が弱くて企業・雇傭側に一方的選択権があるのが(終身雇用制維持が正しいとした場合)問題とされます。
子育てが終わって正規社員になりたいと思ってもその道が少ないのは、派遣制度があるからではなく、実は中途採用の少ない終身雇用制に基礎的問題があると私は考えています。
派遣制度が出来たから正規社員が派遣に切り替わったばかりではなく、元々特定の時間帯で働きたい人たちには、再就職すべき職場がなかったのが派遣や契約社員制度の広がりのお陰で一応働けるようになったプラス面が多いでしょう。
パートの場合、正社員が一日数時間のパートに変更されたのではなく、元々正社員として中途採用される余地のなかった中高年主婦層の働き場が増えたのと同じ面がある筈です。

契約・派遣社員(手切れ8)

終身雇用中心の労働市場から、パート、契約社員や期間工、派遣労働など多様な労働形態の発達についても、借地人や借家人から出て行ってくれない限り期限不確定・・半永久的に更新して行く借地権だけの時代から、確定期限の定期借地権等の創設・併設と同じ流れの線上にあると見ることが可能です。
終身雇用一本ですと、ミスマッチが生じた場合、労働者の方ではやめたくとも適切な転職先がないので我慢するしかないし(うつ病などが増えます)、経営側も辞めてもらうわけにはいかないので草むしりさせたり窓際族に追いやるなど労使双方共に不毛です。
別の分野であれば有能な人材を有効利用出来ないで腐らせておくことになります。
契約社員や派遣の場合、不透明な手切れ金・解決金・・あるいは裁判不要なのが、(裁判の場合解決時期が明確でない)など企業にとって煩わしくないメリットになるでしょう。
労働者にとっても雇用の流動化が進めば必然的に受け皿も多様に出来て来るので、ある仕事についても適性がないと分れば契約期間が終われば別の職種につくチャンスが多くなります。
(平行してチラチラ書いていますが、離婚の自由度・破綻主義の進展問題も同じでしょう)
契約社員や派遣制度は、労働者全員をこれにしろと言うのではなく、従来からの終身雇用制度を残したまま、短期でもいいから半端な契約時間で働きたい人のニーズにも応えるために受け皿としてのコースも別途用意したのですから、従来型の借地借家に定期性の借地借家契約を併設したのと同じ発想です。
ただし、これが建前どおり選択肢が増えただけというためには、地主や経営者だけが自由に選べるだけではなく、借地人や労働者にも選択の自由が現実に存在する必要があります。
これがないのでは、事実上労働者や借地人が不利になっただけになります。
どちら側からでも自由に選べる社会状況であって初めて、選択肢が広がっただけと言えます。
借地契約に関しては、元々借地人に有利すぎることから、(高度成長の結果大都市とその周辺では土地需要がうなぎ上りになった)昭和40年代後半頃から新規借地供給は皆無と言えるほど減少していましたから、新法制定以降定期借地契約ばかり増えたとしても、旧来型借地契約がこれによって減ったことにはなりません。
(地主は貸すのではなく売るか売らないかの二者択一だけで、元々新規契約・新規供給ががほぼなくなっていたのですから・・・)
しかし労働契約・市場に関しては、終身雇用は企業にとって不利だからと言って企業側が新規終身雇用を100%近くやめていた訳ではないので、(そんなことは出来ません)非正規雇用制度が出来てそこへ流れた分だけ終身雇用者数が減った・・企業側にとって選択肢が増えただけとも言えます。
労働者にも半端な時間だけ働きたい人がいることは確かでしょうし、多様な労働市場が出来れば、労働側にも選択肢が広がったことによるメリットがあります。
たとえば、子供が大きくなったので今度からフルタイムで働きたい希望に変わったときにも、一定の比率で正規社員への転進が保障・・中途採用の受け皿が整備されていないと、一旦非正規を選ぶと正規=終身雇用に戻れない・・非正規雇用者ばかり増えてしまいます。
もしも簡単にどちらへでも転進が出来るならば、メニューが豊富になっただけと言えますが、正規社員から非正規への一方通行が中心で、逆方向の転進が少ないとなれば建前通りではないことになります。

免責事項:

私は弁護士ですが、このコラムは帰宅後ちょっとした時間にニュース等に触発されて思いつくまま随想的に書いているだけで、「弁護士としての専門的見地からの意見」ではありません。

私がその時に知っている曖昧な知識を下に書いているだけで、それぞれのテーマについて裏付け的調査・判例や政省令〜規則ガイドライン等を調べる時間もないので、うろ覚えのまま書いていることがほとんどです。

引用データ等もネット検索で出たものを安易に引用することが多く、吟味検証されたものでないために一方の立場に偏っている場合もあり、記憶だけで書いたものはデータや指導的判例学説等と違っている場合もあります。

一言でいえば、ここで書いた意見は「仕事」として書いているのではありませんので、『責任』を持てません。

また、個別の法律相談の回答ではありませんので、具体的事件処理にあたってはこのコラムの意見がそのまま通用しませんので、必ず別の弁護士等に依頼してその弁護士の意見に従って処理されるようにしてください。

このコラムは法律家ではあるが私の主観的関心・印象をそのまま書いている程度・客観的裏付けに基づかない雑感に過ぎないレベルと理解してお読みください。