構造改革と格差社会2

鉱工業生産の大きい社会・・グローバル化前の近代産業中心の先進国では、流れ作業に象徴されるように中間層や末端労働者の職場が多くなって、彼らの職場が確保され貧富の格差が縮小するだけではなく、ひいては庶民が大事にされる結果民主主義が成熟し、社会が安定して行きました。
民主化の進行度や格差の少ない社会が先進国の資格要件というよりは、海外輸出国・・国内需要分以上の生産が可能で底辺労働者や中間層の仕事が多くなり、底辺層が豊かになった近代工業社会化完成(超過生産・輸出で成り立っているのですから行き過ぎ?)の結果に過ぎないと言えるでしょう。
農業社会の時代には、自営農民の多い社会は安定していたと言われているのと同じです。
グローバル化の結果、賃金コストの関係で先進国では押し並べて単純労働・大量生産職場が縮小して行くので、膨大な中間層や流れ作業に象徴される末端労働者需要が減少していくしかありません。
単純作業を減らさないようにするには、新興国と同レベルまでの低賃金化しかないでしょうが、同レベルまでの賃下げが不可能であるとすれば単純作業分野の生産は新興国に移管して行くしかありません。
国内総生産や貿易収支は別の高度化産業の育成で穴埋め出来ますが、これに対応出来る高度レベルの人材は多くありません。
アップルのジョブスやマイケルジャクソンなど、同等の人材が少ないから希少価値があるのであって、いくらでもいる人材ではあり得ません。
高度化社会とは、いくらでもいる平凡な人材の労働需要が縮小して行く社会とになります。
失われた単純労働職場の受け皿・失業対策としての公共工事の拡大の外にサービス業や介護など福祉現場への転換が急がれているのですが、これらの職種でいくら働いても外貨を稼げないので、産業高度化による貿易収支の穴埋めを出来る国でない限り、内需拡大ばかり続けるといつかは財政破綻してしまいます。
何回もたとえ話として出していますが、一家で夫婦が働いていたときに奥さんが失業してヒマになった場合、別の店で働けば(職種転換)収入が一定ですが、職種転換する能力がないからと言って、家の掃除をしたりおばあちゃんを病院へ送り迎えしても失われた奥さんの給与収入が補填出来る訳ではありません。
国民が福祉や道路掃除や公園整備で忙しく働いていても、外貨収入が減った分を稼げるどころか余計お金を使うだけです。(国民が退屈しないだけでしょう)
こうした繰り返しの結果が出たのが、夕張市の破綻でありギリシャ問題です。
戦後「ゆりかごから墓場まで」という標語で有名だった(私の子供の頃にはうらやましい制度だと紹介されていた記憶です)イギリスの高福祉社会もこうした経過・・イギリスの対外競争力低下の穴埋めとして出来た制度だったのでしょう。
イギリスは、ドイツやアメリカに追い上げられたときに日本同様に技術の高度化に活路を求め、その結果ロールスロイスなどが産まれたのでしょうが、それだけでは世界の工業国だったときの多くの単純労働者を養えません。
この再編の過程で、内需に頼るしかない・・行き着くところは福祉産業しかないまま来たので、現在連載中のポンド下落の連続となってしまったのです。
アメリカも借金規模が大きくて分り難いだけであって双子の赤字(国際収支と財政赤字)が続いていることは同じですから、2008年のリーマンショックが起きたのですが、まだこの原因(借金生活)を解決出来た訳でありません。
むしろ財政出動(新たな赤字追加)で誤摩化しただけですから、いつかはその帳尻合わせが起きるであろうことは当然予想しておくべきです。
国全体の経営問題とは別にこの機会に産業構造転換と格差問題に触れておきます。
格差問題はオキュパイウオールデモに関連して少し書き始めていましたが、横にそれている状態ですので、ここで少し書いた後に近いうちに元に戻る予定です。
工場労働縮小の受け皿としてマスコミ推奨のサービス業の拡大や介護等の職場は、従来型底辺労働の変形であって、高賃金化対応の職場ではありません。
(サービス業の中でもバー、飲み屋ラーメン屋などの飲食業や美容・理容等は、どちらかと言えば昔から底辺労働者向けでしたし、洋服屋、靴屋等の店員も同じでしょう)
サービス・介護福祉等分野で正規雇用されたとしても、基本が低賃金職種ですから、大量生産型産業の空洞化の後を穴埋めして来た高度化産業従事者に変身・適応出来た労働者(大学院進学等それなりのコストを掛けているのが普通です)との賃金格差が開いて行くのは当然です。
(グローバル化以降の先進国は近代工業化社会で輩出した中間層の多くが上下階層に再分裂して行く社会です)

構造変化と格差拡大1

国際収支表については何回か表のコピーを紹介していますので、今回はGDPの推移をwww.google.co.jp/publicdataのデータから一部紹介しておきましょう。
上記のデータによれば1990年の日本の国内総生産は447兆3699億円で、1998年489兆8207億円、2009年は560兆6580億円に伸びています。
これが2008年のリーマンショックによる落ち込みを挽回出来ずに2010年は539兆8807億円に下がっている状態ですから、1990年からリーマンショック前の2007年までの18年間で1.25倍=25%の増加をしていることになります。
電気その他重厚長大型産業の多くが白物家電の海外展開に象徴されるように海外進出し続けている・・従来型国内生産が縮小している中において、GDPが落ち込むどころかジリジリと増加していたということは、多様な分野で大幅な産業構造の転換・・高度化が進んでいる・・成功していたことが明らかです。
まして、団塊世代の退職が始まり、労働力減少しつつあることを考えれば、なおさら効率よく稼いでいることが窺われます。
単純作業中心の組み立て産業が出て行った穴埋めに、これに代わる収入源・・高度な産業が育っていたことになります。
我が国においては、底辺労働向けの大量生産型産業が海外に出て行った後にも国内総生産が減るどころか少しづつ増えていて、貿易収支の黒字はバブル崩壊前同様に維持し続けていたし、その間に海外進出が進んだので海外生産分・・海外利益分だけ所得収支の黒字が増え続けていたことになります。
これが国際収支表の中の所得収支の増加になって現れていて、リーマンショック直前には年間12〜13兆円規模になっていて貿易収支の黒字(年間10兆円前後)を追い越すまでになっていました。
この辺の数字は07年5月26日の2のコラムで国際収支表自体をコピーして紹介してありますので参照して下さい。
上記国内総生産の推移に関するデータによると(何故かうまくコピー出来ないので上記のように抜粋しました)日本はグローバル化によって出て行ってしまった国内生産分を穴埋めするための別の産業の創出・・産業高度化への転換に見事成功していたことになります。
高度化転換出来た分野の従事者はバブル崩壊前よりも高収入を得ていて、他方で生産縮小による収入減の人もいて結果的に日本全体で25%の上昇であったことになります
産業構造が高度化転換(各種製品の最終組み立て工程を新興国に移管し、その製品に組み込む各種部品の高度化や研究者やソフト関連の発達でしょう)に成功しても、最後の組み立て作業的現場単純労働向け産業が減って来ると、高度化産業に必要な人材に転進出来る人は限られていて、転進出来ない人材が増えてきます。
現在国内に残っている各種生産現場でも最終組み立て工程は、パートや派遣・期間工など非熟練工中心になっています。
最終組み立て工程分野の多くが海外に出てしまい、この分野ではここ20年間毎年のように労働需要が減少し続けています。
人口構成は一般的にピラミッド型ですから、どこの国でも裾野・・中間・末端労働者人口の方が多いのが普通ですが、この分野中心(ホワイトカラー層も減っていますが)に需要減が起きたのがこの20年間我が国の抱える大きな問題でしたし、これからも問題であり続けることになります。

海外進出と構造転換1

グローバル化前の日本の従来型産業の殆どは、時間の経過で国内生産を縮小して海外で代替生産する方向になって行くので、国内生産の縮小・・これに関連する国内需要減退は留まるところがありません。
内需と言っても末端消費よりは、国内生産あるいはこれに必要な投資に伴う内需・消費が大きいので、これが縮小して行くと内需も大きく減少して行きます。
(白物家電の国内生産撤退どころか、今年になってテレビ生産すらパナソニックが全面撤退したように、従来型産業の国内生産は最近の超円高もあってドンドン縮小しています)
金利を下げたり紙幣供給を増やしてもどうなるものではありません。
最初はどうして良いか分らずにバブルを招きましたが、その後は賢くなって円キャリー取り引きなどで海外へ資金を逃がしていたのです。
昭和50年代初めころにコリー犬を飼っていたことがありますが、お腹が大きいのにこちらがパンをやると喜んで食わえるのですが、どうするかみていると庭の暗闇に行って土を掘って鼻で土を押し付けて埋めているのです。
埋め終わると如何にも食べたかのような顔をして戻って来て、尻尾を振っているのには驚いたことがあります。
政府は、バブル崩壊後不景気となれば、バブルで失敗したのを忘れてバカみたいに再び金利下げをして紙幣大量供給しますが、国民はバブルで一度懲り懲りしているので、喜んでお金を受け取りますが、最早宝飾品や土地にお金は向かいません。
(笛吹けど踊らず・・日本人は犬に負けていませんよ!)
犬が庭にパンを埋めていたように低金利を利用して円キャリー取引等で利ざやを稼いでいたのです。
政府はいくらゼロ金利にして量的緩和をしても景気が良くならない、消費が増えないというのですが、国民の方が政府の言うとおりに踊らない・利口であっただけでしょう。
以上の経緯をみれば金利の調節が悪くて平成バブルになったのではなく、国民の意識がまだ稚拙だったことが原因でバブルになったことが分ります。
以上の推移を見る限り国内産業構造の転換がない限り金利を下げても紙幣大量発行しようがしまいが,国内総生産・・これに必要な国内需要が現状維持どころか急激に減少して行かざるを得なかった筈です。
日本経済は、バブル崩壊後国内生産力の海外展開が進み、物によっては逆輸入が普通になってきました。
(日産マーチが全量タイ生産になった・・裏返せば輸入に頼るようになったニュースも数年前にありました)
上記のように従来型国内生産が縮小し、逆輸入が増える一方でしたが、October 18, 2011「国際競争力低下と内需拡大1」その他で国際収支表を紹介したようにバブル崩壊後リーマンショックまでの約20年間の日本の貿易黒字は縮小ではなく、ほぼ現状維持でしたし、この間の国内総生産はそれまでの高度成長ではなくなったというだけであって、次に紹介するように約25%ものプラス成長を続けていました。

内需拡大とバブル発生

日本は海外展開に伴う国内生産の急減速(前年比増がなくなっただけでしたが・・・)を埋めるために急いで内需拡大に舵を切ったのですが、(内需拡大するための資金はたっぷりあるので・・・)内需の準備・受け皿のないところに紙幣供給ばかり増やして金利を下げたので、(家電製品その他は行き渡っていたので買うものがないという国民の意識もあって)さしあたり実需の伴わない宝飾品や絵画・不動産に需要が集中してしまいました。
ちなみに日本のバブルの約20年後、リーマンショック後の成長率の急減速に耐えられない中国が、国際貢献名目に内需拡大政策に切り替えて、何十兆円か巨額支出しました。
中国では都市部を除けばまだインフラも充分ではなく、家電製品すら行き渡っていない状態でしたから、(事故を起こした高速鉄道網の急拡大もその一環でした)それなりの効果がありましたが、既に家電製品等が行き渡っている都市部では、豚肉等の生活必需品の高騰や不動産・マンションや貴金属美術品バブルに転化しました。
このために今年春頃から引き締めに転じていたものの、欧州危機に関連して経済が低迷(日経新聞12月14日朝刊7面によれば膨大な裾野のある造船業界では、今年10月の受注は昨年同月比2割しかない・・3割の造船所では今年に入って受注がゼロほど落ち込んでいます)して来たので、まだバブルが終わっていないのに金融緩和するなど迷走しつつあります。
東南アジア諸国では欧州危機による景気急減速に備えて内需拡大政策が一斉に発動されていますが、既にリーマンショック後の内需振興によってバブル状態になっている中国が同じことをやると、バブルの二乗倍になって大変なことになりかねません。 
貧しい中国人民がいきなり贅沢しろ、豊かな生活をしろと言われても、家電製品等が一定量充足すれば、豊かな生活に慣れていない国民は量をこなすくらいしか出来ません。
上海等都市部では2戸目3戸目の投資用マンションを買うようになっているのはその結果です。
(田舎の料理は量で勝負すると言われているのと同じです)
我が家では、10年ほど前に比べてずっとおいしくなったほうれん草、小松菜その他の国産農産物の味を楽しんでいますが、いきなり内需拡大と言っても品質が向上するものではなく、10〜20年して効果が現れて来るものです。
徐々に生活水準を引き上げるしかないのが、生活文化と言うものです。
いきなり湯水のようにお金を使えと言われても、使ったことのない国民は、従来型の消費を拡大するのが関の山で、品質改善・生活水準向上には時間がかかります。
手っ取り早い消費は量で勝負するしかない・・インフレになるのは当然です。
せいぜいこれまで買ったことのないもので贅沢品と言えば、貴金属や美術品・土地ですから、これに資金が集中したのは当然です。
(どうってことのない中国の絵が馬鹿高い値段になっていたようです)
本来の需要を越えて政治の力で無理に消費を煽っても空回りしてバブルになるしかなく、金融引き締めが遅かったからバブルになったというのは後講釈に過ぎません。
金利政策も内需拡大政策の一環ですから、勿論重要ですが、我が国の場合国を挙げて実際の需要以上に内需拡大するしかないと思い込んでいたことに原因があるのです。
海外展開と内需減少の関係に話題を転じますと、国内生産を維持したままの海外進出は前年比増の誤摩化し・・迂回輸出目的であれば続きますが、海外でもそこそこのものが造れるようになって来ると同等品については国内生産が割高・・国際競争力がなくなってきます。
現地生産能力の漸増に連れて、低級品から順次国内生産比率を下げて行くことになるのは必至です。
今まで国内生産はそのまま維持し、増産分だけ海外生産するというポリーシー通り国内生産を維持して来たのは、有名どころではトヨタ自動車くらいしか残っていないでしょう。
その分、トヨタは現地生産の進んでいる日産等に比べて新興国での競争に遅れを取っている感じです。
トヨタでさえも今年急激に進んだ超円高には耐え切れずに、国内生産を縮小せざるを得なくなりそうな雰囲気です。

為替相場と貿易収支・金利

為替相場は、貿易収支・所得収支の結果によるだけではなく金利相場によっても(資本移動によって・・国際収支のの項目で言えば資本収支項目のプラスマイナスによって)変動することについては 03/17/09「為替相場の妙味」その他の 円キャリー取引のコラムで書いた通りです。
ここで貿易赤字と金利政策(資本収支)・および為替相場の関係を書いておきますと、貿易赤字・輸出の縮小が始まると輸出不振・輸入品が増加して国内生産が減少して、国内が不景気になるので、金利引き下げによって国内景気刺策を行うのが一般的です。
低金利政策を為替相場の側面からみると、円キャリー取引で説明したように、低金利国で借りて(資金調達して)高金利国で運用したら利ざやを簡単に稼げることから、低金利=資金流出→為替相場安に繋がります。
海外進出も同じ原理でゼロ金利の日本国内で海外投資資金を調達して、中国やタイ(が仮に高金利であっても)で工場建設すると安い金利で新規工場を立ち上げられます。
低金利政策は貿易赤字による両替需要による為替相場の下落力学と低金利による資金流出と連動して為替相場の下落を加速するので、貿易赤字の改善にも効果的です。
為替が安くなれば結果的に輸出産業界も息を吹き返し、ひいてはここに納入する国内産業が活発になって、景気回復に向かうシナリオとなります。
輸出が伸びて好景気になって物価が上昇し始めると、インフレの過熱を抑えるために金融引き締めによってこれを抑制するのが普通です。
(今年の中国の物価上昇や不動産バブルに対して、中国政府は金利引き上げをして引き締めました)
高金利にすれば高金利国に資本が流れ込むので高金利国の為替相場も上がり、この面でも貿易黒字傾向が冷やされ、貿易黒字を前提とした生産力が過剰になって景気が冷やされます。
以上が為替と金利関係・景気循環の一般理解ですが、我が国の場合は、貿易黒字がまだ続いていたのに低金利にした理由は何でしょうか?
バブル発生と崩壊がその原因と言えるでしょう。
これまでの膨大な貿易黒字継続に対する世界のブーイングによって無理が出たために、この解決のためにアメリカ国内への工場進出加速や(欧米への迂回輸出のために)生産設備のアジア諸国への海外展開が進みました。
国内生産増加率の低下ないし減少の穴埋め分として、欧米からの要求もあって焦って内需拡大に向かったのでバブルを引き起こしたものです。
海外展開は国内生産をそのまま維持して増産分だけ海外展開するのが最初の頃の殆どの企業のポリシ−でしたが、それでは前年度比国内生産はゼロ%成長ですから、それまで年率7〜8%増の売上を前提としていた日本経済にとっては、大変なことでした。

免責事項:

私は弁護士ですが、このコラムは帰宅後ちょっとした時間にニュース等に触発されて思いつくまま随想的に書いているだけで、「弁護士としての専門的見地からの意見」ではありません。

私がその時に知っている曖昧な知識を下に書いているだけで、それぞれのテーマについて裏付け的調査・判例や政省令〜規則ガイドライン等を調べる時間もないので、うろ覚えのまま書いていることがほとんどです。

引用データ等もネット検索で出たものを安易に引用することが多く、吟味検証されたものでないために一方の立場に偏っている場合もあり、記憶だけで書いたものはデータや指導的判例学説等と違っている場合もあります。

一言でいえば、ここで書いた意見は「仕事」として書いているのではありませんので、『責任』を持てません。

また、個別の法律相談の回答ではありませんので、具体的事件処理にあたってはこのコラムの意見がそのまま通用しませんので、必ず別の弁護士等に依頼してその弁護士の意見に従って処理されるようにしてください。

このコラムは法律家ではあるが私の主観的関心・印象をそのまま書いている程度・客観的裏付けに基づかない雑感に過ぎないレベルと理解してお読みください。