短期資金(投機?)と長期資金(企業進出)

ところで、外資に対して短期資金と長期資金の区別で流出入規制をしようとしても、定期預金と普通預金のようには明確に分けられません。
10年もの国債でさえも、途中の相場次第で簡単に処分出来ますので債券の券面上の期間は基準になりません。
長期保有株式と言っても結果から見ればそうなるだけで、長期保有のつもりで保有を始めても売る気になれば何時でも売れます。
例えば、シンガポールはアメリカと金融自由化の協定を結びましたが、短期資金に関しては危機的状況の場合、取引を停止させることが出来るという規定をおくことにこだわって、これに成功しています。
その代わりアメリカはその結果に対する損害賠償請求権を持つということで折り合いがついたようです。
ここで言う短期長期の区別は10%ルールです。
資本金の10%の取得率を基準にしているようですが、%・比率で決めるのは金融自由化の例外としての規制の基準としては外形的に分りよいから便宜的に利用しているに過ぎず本来的な基準ではありません。
ただ、ある企業の10%以上もの株式を取得するのは日々の取引市場では無理で、大株主からの譲り受けや第三者割り当て増資の引き受けやTOBなど事前交渉がないとうまく行きません。
と言うことで%・比率で決めているのでしょう。
実質的には企業進出としての現地工場や店舗を設けている場合が長期投資ですが、これを法的に見れば、日本のトヨタでも本田でも現地法人の株式の保有者に過ぎません。
日本法人がそのままアメリカやカナダ中国で土地や工場を持っているのではなく、現地法人(・・それも現地資本との合弁方式しか認めまられないことが多いので・・・資本金の保有率・%で区分するのが便利なのです)を合弁等で設立して、現地法人名義で土地や店舗を所有する仕組みです。
ですから対外資産と言っても直接の土地保有ではなく、現地法人の保有ですから有価証券保有でしかありません。
現地進出の場合、株式を持つだけではなく株式の価値を高めるために、最新技術・企業秘密まで持ち込んだり、人材まで送り込んで技術指導したり販路を広げる工夫をしたりしている点が実質的な違いですが、法的・会計的には子会社は親会社に特許料を払う、技術指導料や出向社員の人件費を払うので他人との関係と会計上は変わりません。
しかしこれを一義的に定義するのは難しいので、出資比率で見ようとしているのです。
企業進出・投資の場合、昨日・5月14日のコラムで書いたように、進出国の言いなりになるしかないので、非常に弱い立場になります。
今朝・5月15日日経朝刊18面では来日予定のパラグアイ大統領に対する記者会見の記事が出ていましたが、同国はこれからまだ外資が必要だからボリビヤやアルゼンチンのような国有化はしないと明言しています。
(釣った魚にえさをやらないと言うか、国内産業が充実したら国有化もあり得るという結果になります)

海外収益の還流持続性4(外資の国有化)

生産基地としての中国の工場は、昨年来の人件費上昇政策の結果、立地する魅力が薄れベトナム等への工場移転もしくは、新規進出が盛んです。
これをもって、中国の高成長は終わりだという感想を持っている人が多いのですが、
世界最低賃金で勝負する時代から、もう少し中程度の賃金水準で輸出出来る国に引き上げて行きたいと言う中国自身の選択の結果と言えないこともありません。
中国は低賃金工場・熟練度の低い生産は民族資本で出来るようになったので、人件費アップ政策により、世界最低賃金を目的とした外資を事実上追い出しにかかっていると見ても良いでしょう。
「中国の人件費が上って来たからもっと安いところへ・・」とは言っても、すでに巨額投資しているので進出後数年で設備を叩き売りして移転していたのでは採算が取れません。
そこで、直ぐには撤退出来ずに中国国内でも出来るだけ機械化して高効率化、高度製品生産に日系企業は努力している・・中国国内企業レベルアップ化に協力している状態で、中国の思い通りの展開になっています。
こうした繰り返しで中国の国内人材はレベルアップして来て、中程度産業・・行く行くは高度産業でも日本の競争相手になって来るでしょう。
世界企業としては次々と次の新興国へ投資先を移動して行くしかないのでしょうが、どこへ行っても一定時間経過でその国への技術移転が進むしかないので、いつの日にか国際平準化が完成する時代が来れば、・・海外収益の国内還流方式も終わります。
タマタマ5月11日の日経新聞第6面を読んでいたら、アルゼンチンでは今年の4月に外資の国有化を宣言し、これにベネズエラが支持表明するなど国有化の動きが中南米で強まっているとのことです。
来日したペルーの大統領がペルー進出企業の国有化はしないと発言した(ので安心して投資して下さい?)と大きく出ていました。
中国のように進出企業で働いた従業員・・例えばコンビニ等で働いて接客サービスを身につけるなど実力を蓄えてから独立して、競合する日系企業を追い出すのは無理がありません。
これに比べて、中南米や過去のアフリカ諸国のように独立したときの勢い・強烈な民族意識だけで外資を国有化してしまうと外国人を追い出した後の運営がうまく行かず、経済が崩壊してしまうリスクがあります。
チュニジャやリビヤ、エジプトなどの民主化運動でも同じですが、現政権を倒した後に政権を担える人材が育っていないのに、感情に任せて現政権を倒すと混乱が続くばかりとなります。
国有化した国が混乱するか否かは別として、追い出された外資は大損害ですから、外国への直接投資の場合にはこのリスクを常に考慮していなければなりません。
ちなみに短期投資・債券や株式は外国の株を買っても、いつでも市場で売って逃げられるので工場進出のような大きなリスクがありません。
そこで、新興国では長期資金=企業進出の場合は、質に取ったようなものでかなり無理を言っても簡単に逃げられる心配がないし、国内技術水準の向上・雇用増加に繋がるので歓迎ですが、投機資金・短期資金の流出入に対しては厳しく規制しているのが普通です。
短期資金は逃げ足が速いので、(アジア通貨危機の原因になりました)アメリカの希望する金融自由化交渉においても新興国・後進国はその自由化には慎重です。

海外収益の還流持続性3(中国の場合)

中国政府は今のところ外資導入が必要なので黙っていますが、国内産業・人材が成長して外資と競合するようになれば、この主張が大きくなって・・政府がその気になれば直ぐに大規模デモになって・・現実化するでしょう。
当面最低賃金の引き上げや法人税率・社会保障その他の企業負担(事業所税や固定資産負担など)を引き上げて行けば良いので簡単です。
昨年から問題になっている短期滞在者に対する年金支払義務化もその一環です。
数年〜5〜6年しか駐在しない日本人は年金を払わされるだけで将来もらえないことが明らかですから、(どこの国でも年金受給資格としては一定期間以上の掛け金が必要です)社員は給与から天引きされる・この間の日本国内での年金受給期間が空白になると困るので2重に掛け金を支払わなければならないし、企業は半分負担させられるし・・「中国人を雇わないと損するぞ」という脅しです。
昨年来のギリシャ・欧州危機の結果、欧州からの投資が減って中国は今では資本不足に陥って、上海株式市場も人民元相場も大幅下落しています・・まだまだ自前の資金・技術が足りない国ですから、今のところまだ海外からの投資が欲しいので、年金加入強制実施が先延ばし(地方政府に一任する形式で)になっています。
技術は資本とともに入って来るので、技術を身につけるには企業進出=長期資本投資を求めざるを得ないのが今の中国であり新興国です。
サービス業を例にとれば、国民が接客態度その他を身につければ、将来的に外資が邪魔になってくるので、こうした形で、次々と日本企業を邪魔にし始めるのは目に見えています。
5月3日の日経朝刊では、中国の人件費が2割前後も上がって来て、生産基地としての魅力が薄れ、今後は消費地=市場対象国としての評価になって来ているという大きな見出しが出ています。
現に最近の中国アジア等への日本からの進出企業を見るとコンビニ系を中心に販売業種の進出が盛んです。
こうなると中国にとっては、輸出減・国内生産業が過剰になって来るので、製造系外資は邪魔になって来るのは目に見えています。
中国にとって外国資本は中国国内に投資してくれて輸出で稼いでくれる限り意味があります。
外国から進出した企業から技術を学んだ従業員が独立した国内民族資本で輸出出来るようになったり、外国資本の生産品の輸出が鈍化すれば製造系外資は邪魔なだけです。
デパート・コンビニなど内需型で稼ぐ産業の場合、日本的サービスが身に付きさえすれば何かと嫌がらせをして追い出しても、同レベルに達した国内企業・人材が入れ替わるだけで損がありません。
実際このような状態になって来ると競争激化で、収益率が低下するのが普通ですので海外からの投資収益の回収率自体が低下して行きます。
従業員のレベルが外資でも民族資本でも同じようになれば、外資は民族資本に太刀打ち出来ません。
外資がよその国に進出してやって行けるのは、技術レベルに格段の差がある場合に限られます。

海外収益還流持続性2

話がそれましたが、2012-5-5「 海外収益還流持続性1(労働収入の減少1)」以来の海外収益持続性に戻ります。
年金や保険システムは給与天引きが基本ですので、総収入に占める労働収入比率の低下年金や保険料負担率を実質低下させて行く(収入に対する負担率が下がり続けている)ことを無視出来ません。
資本収入比率が多くなっているのは若者でも同じで、デイトレーダーの多くは若者になっています。
年金保険システム維持が困難になって来たのは、若者の収入減だけではなく、資本収入比率が増えたのにこれからの年金や保険料徴収システムが完備していないところにあることをJanuary 12, 2011労働需要減少と就労者増」でも書きました。
ところで、老いも若きも資本収益に頼る経済を国家規模で見れば海外収益の還流ですから、海外収益の還流に永続性があるのかについて考えておく必要があります。
昨日の日経新聞夕刊第1面では、2011年度の日本の国際収支速報に基づき貿易・サービス収支赤字が3兆4495億円、所得収支黒字が14兆2883億円、経常移転収支が1兆0929億円差引経常収支が7兆8900億円の黒字と報道されています。
ちなみに移転収支赤字とは、海外勤務地からの出稼ぎ送金や留学資金などの送金などの収支です。
この中で唯一黒字になっている所得収支とは、利子配当等のいわゆる資本収益です。
我が国の現状は、(昨年は地震と原発・タイの大洪水と三重苦でしたので例外ではあるものの)現役が働いて稼ぐ方は赤字で、利子配当(過去の稼ぎ)で黒字になっていることが分ります。
個人の人生に比喩すれば、めったやたらに働いて将来に向けて貯蓄する時期が終わって、ほどほどの時期も終わり、高齢化して稼ぎと支出がトントン近くにさしかかり、ちょっとした変調でも直ぐに赤字(風邪を引く)になる年齢なので、こうしたときには過去の貯蓄の配当(個人で言えば退職金等貯蓄の取り崩しや年金)で下支えしている状況と言えるでしょう。
隠退した高齢者にとっては自分の貯蓄の取り崩しを年間いくらまでした場合、何年生きて行けるかが気になるのと同様に、我が国経済も過去の蓄積の取り崩しで何年持ちこたえられるのか、そもそも海外収益の還流制度が保障されているのかが気になるところです。
March 8, 2012「グローバル化と格差27(賃金センサス)」のブログで中国の人件費が紹介されていた3月4日の日経新聞の記事を紹介しましたが、そこの論旨は中国では単なる賃上げ闘争が始まっているのではなく、日本企業の搾取がテーマになりつつある現状でした。
すなわちそこで紹介されていた事例は、社員食堂で食事していた日本人幹部社員が、現地従業員10人あまりに給与格差が大きすぎると詰め寄られた模様を紹介していたものです。
上記ブログ前後で賃金センサスに基づいて書いているように、日本国内の一般工場労働者でさえ中国人の10倍以上ですが、現地駐在員・幹部となれば(海外出張特別手当を含めれば)もしかしたら100倍前後になっているかも知れません。
この目のくらむような格差に対して中国人から詰め寄られた記事です。
「日本は物価が高くてこのくらい貰わないとやって行けない」とその幹部は説明して中国人従業員グループは納得して引き下がったという記事ですが、実際には誰も納得していない・・その場は一応矛を収めたに過ぎないと見るべきでしょう。
長期的には現地従業員を安く使って日本は収奪しているという議論・・投資収益の本国送金に対する反発圧力が近い将来起きて来るのが必然です。

遺産の重要性2(相続税重課の危険性)

もしも遺産収入が9割の社会の場合、その殆どを相続税で取り上げるとすれば、国民は等しく貧しくなるしかありません。
2年ほど前から相続税の重課改正案が出ていて、タマタマ民主党の総理交代や原発事故が続いた結果国会を通過しなかっただけで大した議論がないままですから、今年の国会にかかっていましたが、今年は通過したのかさえ大きな報道がないままです。
しかし、これまでの基礎控除5000万円が3000万円までの大幅減になり一人当たり控除も1000万円から600万円までになるなど大幅減=大幅増税です。
一人っ子で親が死亡して遺産総額が3600万円を超えると課税されるということです。
税率も金額帯によって違いますが、約5%前後アップになっています
何回も書いているように、バブル崩壊後の物価下落が作用しているので必ずしも大幅増税とは言えませんが、取り易いところから少しでも徴収したいとなれば、今後は目立ち難い相続税の小刻み増税がこれから続く可能性があります。
こうした傾向が続いて(何しろ格差是正と言えば「錦の御旗」・・・相続税率引き上げは反対し難いテーマです・・)その内に、広大な邸宅どころか普通の一戸建ての住居がすべて課税対象になり、極論すれば(後記のとおり杞憂に類する遊びですが・・)相続人の殆どが親と同居していた自宅を売却しなければならない時代が来るかも知れません。
ただしここで書いているのは親子相続の場合であって、さすがに配偶者基礎控除は1億600万円のままですので夫が死んでも妻が自宅を売る必要のある場合は滅多にありません。
最初は基礎控除として遺産100坪超の土地相続が基礎控除外の課税対象となり、・・次の改正では90坪超の人が、その次には80坪超・・最後に30坪超までとなって来ると、庶民まで家を失うようになりかねません。
遺産の比重の少ない成長期の社会では、相続税を重くしてもその影響を受けるのはごく少数ですが、こういう時代には所得税も多く入るので政府は相続税に重きを置いていません。
生活苦の人まで相続財産に頼る低成長時代になってくると、不公平だからと言って相続税を重くして行くと傾向があるので、殆どの国民が相続税を払わざるを得なくなり、かなりの人が相続になると親の家(自宅)を手放さざるを得なくなくなります。
遺産のない人と比較すればそれでも公平かも知れませんが、国・社会のあり方としてどうかと言う疑問です。
親と同居していた自宅を売却しても、納税後一定のお金が手に残ることは相違ない・・それだけでも何もない人よりは有利じゃないかと言えますが、税を払うために売るしかないということは最早自分で同等の家を買えないということでしょう。
大きな屋敷を処分した場合普通の家を買い替えれば良いのですが、普通の家を相続税を払うために売らざるを得ない場合、納税後のお金では最早普通の家を買えません。
成長期には親の遺産などあってもなくても自分で儲けて新規に資産形成すれば良い時代でしたが、低成長どころか下降気味の社会では、非正規雇用が普通の社会になれば例外的成功者以外は日常生活費の外に新たに土地購入プラス新築をして新たな資産形成するのは不可能です。
もしも一般労働者の月給が中国並みの2〜3万円になれば、一般労働者にとっては一旦自宅を手放せば再度マイホーム取得の夢を実現するのは到底無理でしょう。
格差是正のためにと称して取り易い相続税の増税を繰り返して行って、もしも親譲りの家の殆どを相続税で召し上げる時代が来たら、持ち家が殆どなくなってしまい・公営住宅ばかりになるのでしょうか?
増税してもその分公営住宅を税で建てなければならないとすれば、それほど経済効率が良いとは思えません。
(実際には親と同居していた家の場合、基礎控除額とは別に一定面積までの控除制度などがその都度設けられて修正されるでしょうから、ここは、杞憂に類する遊びの議論です)
歴史を振り返ると、我が国が相続税を日露戦戦争の戦費調達のために課税したの世界最初であることを11/20/03「相続税法10(相続税の歴史)」のコラムで紹介したことがありますが、世界中で相続課税がそれまでなかったのはそれなりに理由があると思います。
成長のない静的社会(西洋中世や江戸時代を想定して下さい)でも、毎年の収穫(穀物その他の収穫)に対する課税ならば持続可能ですが、土地や領土の相続自体にあるいは保有自体に課税して行くと、私的所有・領地はは縮小して行くばかりで何代か繰り返すと私的所有がなくなってしまいます。
格差が遺産の有無・大小による影響の大きな静的社会になればなるほど、格差是正のために相続税を重くしたくなるでしょうが、そうすると逆に弊害が大きくなるパラドックスです。

我が国では古代の律令制、最近ではソ連や中国、北朝鮮の国有化の結果、国公有化政策はすべてうまく行かなかったことから分るように、農地あるいは生産材を国・公有化してうまく行く訳がありません。
個々人の住む家まで全部取り上げて、原則個性のない公営住宅ばかりの社会で人が生まれて育つ時代を想像すれば、個性の発揮される創造的能力が育ち難く、国勢がいよいよ衰退してしまいます。

免責事項:

私は弁護士ですが、このコラムは帰宅後ちょっとした時間にニュース等に触発されて思いつくまま随想的に書いているだけで、「弁護士としての専門的見地からの意見」ではありません。

私がその時に知っている曖昧な知識を下に書いているだけで、それぞれのテーマについて裏付け的調査・判例や政省令〜規則ガイドライン等を調べる時間もないので、うろ覚えのまま書いていることがほとんどです。

引用データ等もネット検索で出たものを安易に引用することが多く、吟味検証されたものでないために一方の立場に偏っている場合もあり、記憶だけで書いたものはデータや指導的判例学説等と違っている場合もあります。

一言でいえば、ここで書いた意見は「仕事」として書いているのではありませんので、『責任』を持てません。

また、個別の法律相談の回答ではありませんので、具体的事件処理にあたってはこのコラムの意見がそのまま通用しませんので、必ず別の弁護士等に依頼してその弁護士の意見に従って処理されるようにしてください。

このコラムは法律家ではあるが私の主観的関心・印象をそのまま書いている程度・客観的裏付けに基づかない雑感に過ぎないレベルと理解してお読みください。