社会変化反対運動と功罪2

以前紹介したことがありますが、成田空港反対・公害反対や高速道路が千葉に来るのに反対と言ういろんな運動が盛んなときに私は修習生〜弁護士になりましたが、この頃革新系政党に公然と所属している弁護士から参加を誘われたことがあります。
アメリカの原水爆実験に反対しているのに、中国やソ連の原水爆実験には反対しない・・日本より酷い中ソのモクモクたる黒煙の煙突群・・公害の状態には何も言わないで中ソの発展が素晴らしいと賞讃していたりするのに、何故日本の空港や高速道路普及だけに反対するのか、国際競争に遅れるじゃないかと言う心配をしたので疑問をぶっつけたことがあります。
今でもマスコミの報道を見ると、日本の津波による原発事故・放射能汚染が発生すると鬼のクビでもとったように大騒ぎで世界発信しますが、中国で繰り返されている核実験によるもっと酷い恒常的放射能汚染には全く触れません。
日本に比べて技術力の全く違う韓国や中国の原子力発電自体の大小の事故がしょっ中あってかなり悲惨な状態らしいですが、(新幹線事故は公衆に触れることから隠せませんが、それでもすぐに埋めようとしていたことがバレて世界の笑い物にされましたが、中国とはこういう国です。・・原発事故は極秘情報隔離された敷地内の不具合ですので、一般に出て来ません)秘匿されたままで全く報道されていません。
ただし、日本の原発津波被害後、マスコミが騒いだ結果全国の放射能データがネットで公表されるようになっていますが、この結果、マスコミが中韓の不都合を報道しなくとも、福島原発に関係のない中韓に近い日本海側の九州や山陰地方の方が放射能濃度が濃いことが一般に知られるようになっています。
以下、12月13日現在の東京都のデータと山陰地方のデータ比較を紹介しておきましょう。
(ご覧になりたい方は毎日10分ごとにネット公開していますので見て下さい)

新・全国の放射能情報一覧
各都道府県の4179地点の放射線量グラフを公開しています。
2014/12/13 12:50 時点の最新放射線量データです。(10分毎更新)

東京都の計5地点の放射線量グラフを公開しています。
2014/12/13 12:50 時点の最新放射線量データです。(10分毎更新)
現時点の圏内最大地点は <0.05 0.043μSv/h 東京都足立区 舎人公園 です。

鳥取県の計7地点の放射線量グラフを公開しています。
2014/12/13 12:40 時点の最新放射線量データです。(10分毎更新)
現時点の圏内最大地点は <0.1 0.077μSv/h 鳥取県琴浦町 赤碕ふれあい交流会館 です。
2014/12/13 12:40 時点の最新放射線量データです。(10分毎更新)
現時点の圏内最大地点は <0.1 0.06μSv/h 福岡県北九州市八幡西区 八幡総合庁舎 です。

こによると東京の0、5台に比べて山陰地方は軒並み1、0台ですから、山陰地方の方が、約2倍の濃度です。
この因果関係をマスコミは全く報じないで、柏市など東京に比べて濃度の濃いスポットがあることばかり大々的に報道しています。
北京での米国大使館敷地内での大気測定が有名ですが、国民の健康を守るためならば、日本の方が米国の核実験場よりも近くてしかも偏西風の影響を直に受けるのですから、日本も大使館内でこの程度のことをやるべきですが、こういうことを一切やっていません。
アメリカやフランスの原水爆実験には、昔から猛烈に反対して教科書にまで福竜丸の写真を乗せる熱心ぶりですが、中国の核実験の場合、日本に近くてしかも日本が風下にあって影響が大きいのに報道すらありません。
昔から、ビキニ環礁の核実験を大騒ぎしているし、教科書に写真などで強調されるので誰もが知っていると思いますが、場所的に見ると日本の数千km彼方の東南方海上・・太平洋のど真ん中)の実験ですから、・・日本に放射能が被害があると言う点で強調するならば、日本にもっと近くしかも西風(地球の自転によるジェット気流は西風です)に乗ってすぐに飛来する中国やソ連・シベリアの核実験の方が日本にとって被害が直接的ですから、こちらの方こそその都度外出注意などの警戒を呼びかけて騒ぐべきです。
(核実験そのものに意味があるのではなく、日本漁船が被害を受けたと言う意味で騒ぐならば意味が分かりますが・・・。)
中国では大変な健康被害が生じていて、ガン村と言われる地域が発生しているとのネット報道もありますが、これらは全てマイナー系や独立系のジャーナリストが自分で取材して来たものばかりであって、大手マスコミとマスコミに出たい文化人は一切触れません。
以下はネット情報の一例です。

中国ガン村の惨状 あるボランティア女性の報告 – (大紀元)
www.epochtimes.jp/jp/2011/08/html/d63430.html
【大紀元日本8月6日】マレーシア在住の中国系女性・唐米豌さんは2002年からの7 年間、中国のガン村で患者を支援するボランティア活動を続けてきた。2009年、彼女がガン村の惨状をまとめた文章を発表して以来、中国政府のブラックリストに載せられて、 …

ただし、ガン村は水質汚濁によるものと言う発表です・・核実験関連は当然のことながら軍事機密ですから、フリーのジャーナリストも放射能測定したり報道出来ません。
もしも強行すればすぐに拘束されてヤミに葬られる仕組みでしょう。
チベット民族やウイグル族の苦しみは、弱小民族居住地域に核実験場が集中にいる被害の面が大きいのですが、こうした具体的被害の点には一切触れないのがマスコミです。
40年以上前の話題に戻しますと、当時なぜ空港や高速道路に反対するかについても「飛行機や高速道路を使うのは金持ちだけで、貧乏人は騒音被害を受けるだけだ」と言う説明を聞いたことがあります。
勿論大工場反対も(中ソの場合には、資本家の搾取がないが)日本では資本家が儲けるだけ・・と言う説明でした。

社会変化反対運動と功罪1

私の場合、このコラムは全て素人的・・思いつき的意見ですので、専門的に研究している人にとっては、共謀罪が成立するとどのように証拠法を改正しても危険が残る・・これがテロ不安・社会不安防止と引き換えに出来ないほど大きなマイナス点だと言う指摘もあり得るでしょう。
専門家として反対運動している組織が、そこを具体的に主張してくれれば私のような物わかりの悪い弁護士も納得し易いですが、反対を既定方針としたスローガンばかり聞かされていると、特定政治利益実現のために運動しているのかな?と変な疑問を世間から抱かれてしまわないか心配です。
私のような「意識の低い?』低レベル会員のために、共謀罪や秘密保護法に反対運動しているグループは、反対内容に自信があるならば、具体的に噛み砕いた説明をする手間を惜しむべきではありません。
弁護士に対する説明さえ億劫がっていて、全く法律を知らない一般国民にどのように説明するつもりなのでしょうか?
素人には分らないから近代法の精神に違反すると訴えれば、「近代法」と言うブランドで目がくらんでしまうだろうと考えているのでしょうか?
防犯カメラの設置に対して、監視社会になると批判する人が多いのですが、防犯カメラの御陰でかなりの事件ですぐにも犯罪者の足取りがつかめて重宝していることも確かです。
逆に防犯カメラの分析の結果えん罪も解消されていますし、数日前に書いたように個人のビデオらしいですが、ニューヨーク市警の黒人殺害事件でも威力を発揮しています。
オレオレ(振り込め)詐欺等では、預金払い戻しの時間場所が払い戻し機のデータで特定されるようになっていて、しかも、その時間帯の監視カメラの映像があって犯人割り出しに威力を発揮しています。
モノゴトは社会の安全装置としての役割とプライバシー侵害との兼ね合いでしょうし、公道や大規模商店内での写真撮影から守られねばならないプライバシー性は、そんなに高いとは思えません。
立ち小便しているのを写されるのが恥ずかしいと言うような人・・あるいは何か後ろめたいことをしている人の秘密・プライバシー権?を保護するために防犯・社会の安全・あるいは自白偏重軽減のメリットと引き換えにするべき議論でしょうか?
防犯カメラ反対論者は、「自白に頼るな、客観証拠によれ」と主張するグループでもありますが、客観証拠になりそうな技術革新が進むと、それに反対するような政治運動に精出すのが不思議です。
大分前に在日韓国人擁護のためにか指紋押捺が犯罪者扱いだと言う反対運動がありましたが、今では銀行へ行っても指紋認証の出来る機械が普通ですし、自ら進んで指紋認証を求める時代です。
私の持っているアイパドは、指紋登録で起動しています。
政治運動には相応の利害集団が必ず背後にいるとすれば、客観証拠になりそうな新技術と言うよりもいろんな分野で技術革新があると片っ端から反対する運動家は、誰のどう言うグループの利益を求めて反対運動しているのでしょうか?
防犯カメラで言えば、人に知られたくないことばかりしている集団の利益擁護が、そんなに必要かの疑問です。
「近代刑法の精神」はまさに19世紀=「近代の精神」であって、21世紀に生きる現在の精神ではありません。
現在には近代とは違う現在の精神が生まれていることを、繰り返し書いてきましたが、この現世に生きている限り知らない筈がありません。
何か新技術が出るとすぐに反対するには、近代刑法の原理に反すると言うお題目でなく、何故反対するのか説明が必要でしょう。
近代工業の発達に労働現場が失われると言って、反対したラッダイト運動が知られていますが、何で反対集団は特定犯罪集団の応援をしているのではなく、自分たちが近代刑法しか知らないから、現在技術を取り入れて新しい法理論が出来るのは困るのでしょうか?
(私などはもう歳ですから、その仲間かも知れませんが・・・私は自分がついて行けないからと反対するつもりはありません。)
現在のことなら国民皆が、平等に経験して知っていますが、水戸黄門の印籠をかざすように「近代法の原理・精神に反する・・これがブランドだ」と強調すれば、(お前ら知らないだろう!と)優位に立てるからでしょうか?

証拠法則と科学技術8(共謀罪の客観化)

客観証拠の重要性について書いている内に話題がそれましたが、共謀罪に戻ります。
内心の意思は外形行為が伴わない限り誰も分らない・・今の科学技術を持ってしても分らない点は同じですから、共謀罪においても内心の意思を処罰するのではなく、内心の意思が外部に出たときで、しかも第三者と共謀したときだけを犯罪化するものです。
即ち自分の意思を外部表示するだけではなく、さらに「共謀」と言う2者以上の人の間での意思の発露・・・条約文言で言えば「相談する」→「表示行為」を求めることにしています。
共謀するには内心の意思だけではなく、必ず外部に現れた意思「表示行為」が必須です。
共謀罪は、共謀と言う単語から内心の意思を処罰するかのような印象を受けますが、表示行為を実行行為としたのですから、内心の意思プラス外形行為を成立要件とする近代刑法の仕組み・・証拠法則は残されています。
共謀の実行行為が要請されている点では近代法の原理の枠内ですが、殺人や強盗の実行行為ではなく準備段階を越えて更にその前段階の共謀と言う意思表示・内心の意思に最近接している行為を実行行為にしている点が人権重視派の危険感を呼んでいるのでしょう。
近代法成立の頃には録音装置もメールもなく、防犯写真もないので、意思表示したか、しないかについて客観証拠がなく、関係者の証言だけですから(呪いの札が出たとか・・)これを根拠に刑事処罰するのは危険でした。
噓でも「恐れながら・・」と誰かが訴え出るとそれを証拠に陰謀(謀反)罪で政敵を処罰出来たのが古代からの歴史経験です。
そこで近代法では、実行行為に着手することが犯罪構成要件になったことを紹介してきましたが、ある行為の直前直後の周辺的行動記録がアバウトな時代には、意思を認定するべき前後の客観証拠が決定的に不足していました。
犯罪者は、暗闇とか人気のないところで犯行に及ぶことが多いのは、犯行直前直後の周辺行動を知られたくないと言う合理的行動ですが、このことから分るように密行性が犯罪の特徴です・・。
共謀罪は、「共謀」と言う実行行為が要求されますが、窃盗や暴力等の実行行為に比べて共謀行為には派手な立ち回りや動きがなく、従来型自然的観察では把握し難い行為です。
この意味では共謀罪は新型犯罪ですが、その分簡単には立件出来る筈がないことも書いてきましたが、仮に客観証拠のない共謀だけでの立件があれば、このときこそ弁護士が果敢に戦って行けば良いのです。
ただし今では、意思の表示行為は録音だけではなく、◯◯集会案内やメール交信その他外形的証拠を残すことが多いので、かなり証拠が客観化しています。
現在では訴訟実務が客観証拠を重視するようになって来ていることと科学技術の発展もあって、共謀を示す外形行為がないと簡単に有罪認定出来ないと思われますし、逮捕状自体が容易に出ないでしょう。
従来の外形行為・・現実に暴力を振るった場合の立証と比較すると、暗闇や人気のない場所での暴力行使や誘拐行為・・通りかかった目撃者がいても、半年〜1年〜数年経過後・・その人の瞬間的・印象的証言による人違いの危険性が高いのに比べて、メールや録音その他データによる意思表示の立証の方が、むしろ客観性が高まってえん罪の危険が少ないように思えます。
ただし、えん罪を防ぐには、昨日まで書いたように捜査機関による録音記録の改ざん(切り貼り)やメール等の事後編集の危険性チェックが重要になるように思われます。
共謀罪の証拠は目撃証言のような曖昧な記憶に頼るのではなく、録音の場合声紋鑑定その他客観証拠科学技術の勝負になって来るので、(改ざんさえなければ)却ってえん罪が減るような気がします。
その意思表現がどの程度であれば特定犯罪の共謀にあたるかの解釈の争いは残りますが、それは今後実務で集積して行くべきことです。
共謀罪は意思表示行為することが「要件」ですから、その立証には勢い客観証拠に頼らざる得なくなるでしょう。
その経験で刑事訴訟手続全体が客観証拠で勝負する原則になって行く先がけとなって、犯罪認定の合理化が期待出来ますし、無関係な人を犯人仕立ててしまうえん罪リスクが減ることは確かです。
ただし、これも証拠法則をどのように運用するか、共謀法成立にあわせてどのように改正して行くか実務家の能力次第でもあります。

えん罪と証拠開示1

大阪地検の証拠改ざん事件は、検事のシナリオが客観証拠にあわないことが分ったこと・・その証拠を実は被告人側が握っていたことが重要です。
大阪地検の証拠改ざん事件の歴史的意義は、供述・自白よりも客観証拠で勝負が決まる・・しかもその証拠共有の重要性が明らかになったことではないでしょうか?
えん罪事件の多くが被告人に有利な証拠が再審事件開始まで提出されないで倉庫に眠っていた事例が多いのですが、その視点で見ればその悪弊が露骨に出て来たに過ぎません。
大阪地検の場合、被告人に有利な証拠を隠匿していたのではなく無罪になる証拠を有罪にするために積極的改ざんまでしたことが、国民にショックを与えたに過ぎません。
元々被告人保有証拠であり、しかも本人が頭脳明晰だったことから、これがタマタマ証明されてしまったのですが、被告人を有罪にするには矛盾する証拠があるのに被告人が知らないことを良いことにしてこれを開示しないで、頰っ被りしたまま裁判を続けて有罪判決を獲得して来たことも犯罪的である点では本質的には同じです。
長年の証拠隠匿行為(証明されていませんがこの体質)の弊害が積もり積もって、検察の正義感を蝕んでしまった結果証拠改ざんまでやってしまったと評価すべきでしょう。
だから大ニュースになったのですが、上記のとおり被告人に有利な証拠があるのを知りながらこれを倉庫に眠らせておくのも根っこは同じではないでしょうか?
この種不正を正すことがこの事件の教訓であるべきですから、取り調べを可視化しても客観証拠になるべき帳簿やデータの改ざんを防げません。
この事件の事後処理として、取り調べの録音録画が中心テーマ(マスコミ報道だけかも知れませんが・・)になっているのが不思議です。
証拠改ざん行為の再発防止に必要な議論は、証拠管理等の厳密化・改ざんを防ぐためには押収と同時にコピーを被疑者関係者や弁護人に交付するなどの早期の証拠開示ではないでしょうか?
現在押収品目録が交付されますが、その中身はいろいろですから(例えば日記帳10冊と書いてあってもその内容が不明ですし書いた本人でもきっちり4〜5年分記憶していることは稀です)目録だけでは内容の改ざんを防げません。
この事件で直視し議論すべきは、有罪にするには矛盾する証拠があるのにこれを改ざんしてまで事件を押し進めようとした・・無罪と分っている被疑者を無理に勾留し続けて人権侵害を続けていて無理に犯罪者に仕立てようとしていた検察庁全体の不正義・犯罪的体質です。
従来のえん罪の議論は捜査機関も無実を有罪と誤解して起訴していたことを前提にしていますが、大阪地検の改ざん事件は無罪になる証拠をねつ造して有罪にしてしまおうとした事件です。
(改ざんしなくとも)少なくとも不利な証拠があることが分った時点から、逮捕監禁継続自体が違法であったことになり、重大な事件です。
違法な監禁を続けることが許されるならば暴力団の監禁事件と本質が変わりません・・。
権力犯罪の巣窟が体質改善しないままで、巨悪を追及している組織と言うのでは、ギャグみたいになりませんか?
最も重要な検察の体質改善がどうなったのかについて、マスコミが報じないで(少しは報じているかも知れませんが、連続しての掘り下げ記事がないしオザナリです)どこまで録画するかなどの可視化議論ばかりにマスコミ報道が矮小化されているのが不思議です。
ただし、私はもう歳(トシ)なので、公判前整理手続に関与していませんので詳しくは分りませんが、マスコミが報じないだけで、実際には、裁判員裁判手続の開始に関連して公判前整理手続が充実して、従来に比べて証拠開示がかなり進展して来ていることは確かです。
刑事裁判の公正化は、証拠開示次第にかかっているといえます。
ローラー作戦と言う言葉がありますが、大事件があると捜査機関は網羅的にダンボール箱でごっそり持って行ってしまう状態のニュースを見聞きした人が多いでしょう。
誘拐その他の一般事件でも事件発生後の周辺聞き込み、その他の捜査情報は人海戦術で大量に集められます。
この中から、検事に都合の良い証拠だけで裁判するのでは、被告人に有利なデータが提出された証拠に偶然紛れ込んでいたときに、その矛盾を追及するような例外的場合しか戦えません。
仮に周辺聞き込み情報や押収した資料全部弁護側に開示されるようになっても、そもそも倉庫一杯の資料を「勝手に見てくれ」と言われても、弁護側には人手も時間もなくシラミつぶしに見る時間がないのが普通です。
録画・録音全部・たとえば合計500〜600時間分開示されると却って困ってしまうのと同じです。
情報過多はないに等しい・・昔から「過ぎたるはお及ばざるがごとし」と言います。
捜査機関は最初に資料を根こそぎ捜査機関が持って行き、大量の人員を投入して綿密にチェック出来るのに対して、弁護人は、多くて2〜3人で共同弁護するくらいが関の山ですから、有利な証拠を見いだすのは至難の業です。
この格差をどうするかが重要ですが、私自身今のところ、こうすれば良いと言う「解」を持ち合わせていません。
さしあたり考えられるのは、科学捜査を進めて本当の意味での立証責任の転換が必要ではないかと言うことです。
痴漢事件で言えば、被告人が被害者周辺で手の届くところにいた5〜6人の一人だと言うことと、被害者がこの人に違いないと言う程度ではなく、夢かも知れませんが、触ったらどう言う痕跡が手指に残るなどの科学の発達を期待したいものです。
無実の推定があるとは言うものの、実務では検事によるある程度の立証で事実上立証責任が転換されてしまって、被告人が弁解しなければならない状態に追い込まれているのが普通です。
その一つ1つには相応に理由があるのですが、その基準線をホンのちょっとずらすだけでも大分変わって来るでしょう。

 証拠法則と科学技術6(自白→弁明権へ)

自白するようになってからの録画を見ても、多くの被疑者は、「済みません反省しました・・刑事さんさんどう言えば良いのですか?」聞いて刑事から、教えられたとおりの供述をすらすら始めるのが普通ですから、その段階の録画をいくら見ても不思議な点がある筈がありません。
自白に転じた被疑者は、従来から「検事調べに行ったらこういうのだぞ!」違ったことを言うと俺がおこられ、勾留が長引いてしまうからドジするなよ!」と担当刑事に言い含められて検事の前に連れて行かれるのが普通でした。
この段階が刑事調べ室に入ってからの録画録音に早まるだけで他方、刑事弁護人の労力が圧倒的に多くなります。
録画録音が開示されているのに大したことがないだろうと弁護人が目を通さないで弁護をやっていれば、職務怠慢・懲戒リスクに見舞われます。
えん罪防止のために、全てに神経を研ぎすまして弁護するには、あまりにも種々雑多で(約1ヶ月かけてみないと見切れないような)膨大な資料を提示されると却って有効な弁護活動が出来なくなる逆張り効果にならないか心配です。
捜査期間は半年以上かけて大勢のチームが内偵して資料を読み込んでから立件逮捕するのですが、弁護側は逮捕されてから頼まれるので、そもそも事件概要すら把握するのに時間がかかります。
それから段ボール箱トラック1台分もあるような証拠を開示されて半年前後にわたる質問のやり取りの録画を開示されて「勝手に見て下さい」と言われても、半年分見るのに半年かかる(録画や録音は飛ばし読み出来ません)理屈です。
勾留期間20日間内に一人、二人の弁護人が選任されても、勾留されている場所への面会するための往復数時間をとられること(・・面会しての本人との打ち合わせでも本人が手持ち資料を持っていないので、本人の記憶による口頭だけの説明になるので大変です)などとても太刀打ち出来ません。
資料の写しが手に入ってからでも本人が見れば自分が作ったものなので、何ページに書いてあったかを忘れていてもあちこちパラパラとめくって探せますが、ガラス・格子越しないので、こちらが言われた部分をめくって探しながらの打ちあわせでは効率がすごく悪いのです。
裁判になってからも公判準備期日までに膨大な時間が必要ですが、警察や検察のように大勢の専従ではなく、弁護人はいろんな事件を平行して受任していないと事務所維持出来ないので、かかり切りになる時間が少な過ぎます。
取り調べ可視化議論は、自白の重要性を変える努力ではなく、自白の重要性をそのままにして今も時代遅れの?議論が進んでいると言えるでしょう。
・・もしかして可視化した以上は、信用性が高まる・・お墨付きになって、もっと自白を重視する運用になるのが心配です。
必要なことは自白に頼らない客観証拠に関する科学進歩・収集管理・証拠の改ざんを防ぐためにの管理合理化の議論ではないでしょうか?
12月6日にニューヨーク市警の例を書きましたが、今後有罪認定するには客観証拠に限り、被告人の供述は有利に使うときだけ採用すると言う逆の運用に変えて行く努力が必要です。
実際に我が国でも行政処罰では、この運用でやっていて、非処分者が言い分を聞いて欲しいときだけ弁明出来る仕組みです。
スピード違反等による免許停止その他の行政処分は、弁明したい人だけ来てくださいと言う告知・聴聞制度になっていることを知っている方が多いでしょう。

行政手続法
(平成五年十一月十二日法律第八十八号)

第三章 不利益処分
  第一節 通則(第十二条―第十四条)
  第二節 聴聞(第十五条―第二十八条)
  第三節 弁明の機会の付与(第二十九条―第三十一条)

条文は長いので省略しますが、身近に経験した方も多いし、目次だけ見ても制度骨子が分るでしょう。
弁明の機会の付与」とあるように、「チャンスを与えます」と言うだけで、自認行為を必要とはしていません。
今後自白は弁明する権利だけにして、有罪認定証拠に使わない・・使っては行けないようにした方が合理的です。

免責事項:

私は弁護士ですが、このコラムは帰宅後ちょっとした時間にニュース等に触発されて思いつくまま随想的に書いているだけで、「弁護士としての専門的見地からの意見」ではありません。

私がその時に知っている曖昧な知識を下に書いているだけで、それぞれのテーマについて裏付け的調査・判例や政省令〜規則ガイドライン等を調べる時間もないので、うろ覚えのまま書いていることがほとんどです。

引用データ等もネット検索で出たものを安易に引用することが多く、吟味検証されたものでないために一方の立場に偏っている場合もあり、記憶だけで書いたものはデータや指導的判例学説等と違っている場合もあります。

一言でいえば、ここで書いた意見は「仕事」として書いているのではありませんので、『責任』を持てません。

また、個別の法律相談の回答ではありませんので、具体的事件処理にあたってはこのコラムの意見がそのまま通用しませんので、必ず別の弁護士等に依頼してその弁護士の意見に従って処理されるようにしてください。

このコラムは法律家ではあるが私の主観的関心・印象をそのまま書いている程度・客観的裏付けに基づかない雑感に過ぎないレベルと理解してお読みください。