異次元緩和の先例・・金兌換の停止→紙幣の変化

もともと政治というものは、過去の踏襲だけでは社会変化に対応できないので、新たな方法を切り開いてこそ成功するものです。
日本では保守主義とは伝統を大事にしながら時代に即応して修正していく政党やその支持者のことであり、革新とか進歩主義者とは過去の理論にこだわり、現実即応を敵視・軽視する政党支持者のことであると書いてきました。
数百年続く老舗企業は概ね上記保守思想によって柔軟経営をしてきた企業です。
アメリカのGEが代表的ですが、祖業でさえ果敢に入れ替えていく方式が知られています・・これこそが企業を守る=保守の本領発揮というべきでしょう。
戦前の大恐慌に際して金交換停止したのは、既存の枠を乗り越える勇気ある行動の一つです。
昨日紹介した通り、アメリカFRBもリーマンショック後の金融市場の下支え・需要喚起策に取り組んだし、EUのECBもリーマンショックに遅れて顕在化した欧州危機の打開策として、伝統的な金利下げにとどまらず債権や株式の相場下支え目的で「異次元」量的緩和をして市場介入して来た点は同じです。
「大機小機」が異次元緩和の副作用を批判したいならば、リーマンショック後約10年もの実験期間を経ているのですから、この間の異次元緩和・市場介入が具体的にどのような悪い結果を引き起こしたかの具体的議論をすべきでしょう。
伝統理論に合わないことに対する反感から?「国内実体経済を反映していない」という結論だけを書いて、公的資金投入批判論に移行して行くのでは、「社会変化は何事でも良くない」という感情論と区別がつきにくくなります。
伝統的価値.慣行にはこれを裏付ける(キリスト教神学のような)確固とした理論があり、インテリ・専門家はせっかく習得した自己の優越的地位を守るために伝統解釈に反する行為に反感をいだきがちです。
私は、中国の政府による市場介入に関してMay 19, 2017「社会保障や国債と世代間損得論3」のコラムで先進国の異次元緩和とどこが違うかという疑問を呈して置いたことがあるのは、中国贔屓で書いているのではなく、同様の疑問によります。
「大機小機」が批判するならば、現在公的資金が市場にどのよう悪影響を及ぼしているかを具体的に論じれば分かり良いでしょうが、株式相場が「国内」実体経済と乖離している」ことに結びつけるから、ややこしくなるように思います。
もともと財政金融政策というものが発達したのは、国内実体経済の流れに委ねておけばスパイラル状に悪化して行くからこれを緩和しさらには逆転させるために行う・・あるいはバブル化していく場合、早めに引き締めて抑制するなど逆の場合もあります・・ものですから、もともと国内実体の方向性と違うものです。
金融政策は国内実体と逆方向を向くことは、あたり前過ぎる行為です。
昨日紹介したウイキペデイアによるFRB異次元緩和の説明は、「効果がないならやめる」べきという伝統理論を前提にした「必要悪論を前提にした出口戦略」の立場で解説(解説者=伝統理論を習得したものが中心)したものと思われます。
多分欧米や日本識者の見解は、こういう前提に立っているからでしょう。
戦前の金兌換停止が大恐慌による特殊臨時のものとして一刻も早く兌換制に戻るベキという原則論が底流にあり、一時金兌換制度を復活した国もありましたが、当時は金兌換の裏付けのない紙幣など信用される訳がないという天動説のような考えを忠実に守っていたのです。
兌換制廃止の国々は金がない(狐の発行した落ち葉のような)いつまでたっても本来の金交換ができないで紙切れで経済を運営している気持ちになっている可哀想な国だ・・というスタンス・・アメリカだけが金本位でやっていける国というスタンスでした。
戦後の通貨制度は、金本位制ではなく、「金為替本位制」と言われドル以外は擬似通貨・・江戸時代の藩札扱いでした。
「各国通貨は一定率(日本が1ドル360円であったように当時固定相場でした)でアメリカドルに替えて貰える→USドルはいつでも一定率で金に替えてくれる」ということで信用を保つ・・これがアメリカが基軸通貨國と言われた所以でしたが、ニクソンショックによるアメリカドルの金交換を廃止後は、理論上アメリカドルはその他諸国通貨と同じ地位になったので、本来の基軸通貨の地位を論理的に喪失したはずです。
幕末の大政奉還によって、対朝廷関係では将軍家が諸大名と同列になったのと同じです。
幕府は事実上政局に対する発言力が空洞化してからの政権投げ出しでしたから、想定どおりでショックもなくその後(直後の小御所会議のクーデターで)名実ともに発言力を失いましたが、アメリカの場合まだ十分な余力・実力を残しての投げ出しでしたので、世界にニクソン「ショック」を与えたのとの違いです。
為替の交換比率がUSドルとの交換中心で戦後約30年間発達してきた結果、その他の国同士の直接為替市場が育っていない結果、事実上「円を一旦ドルに替えてそのドルとさらにマルクやバーツ、フラン、ポンドに変えて行く」しかない状態・・一種の惰性が続いているにすぎません。
時の経過で円と人民元の直接取引き市場が育ってきたように、徐々にUSドル表示での世界取引比重が下がってきています。
いわば、メデイアがUSドルが基軸通貨の強みとしょっちゅう表現しますが、これは比喩的な表現でしかなく(だから分かりにくいのです)、国際ハブ空港が地域にないのでハブ空港まで行って乗り換えるしかない程度の意味です。
金本位制に関するウイキペデイアの記事からです。
https://docs.google.com/document/d/1B_k-2lcstvNhZWWRqkWpEo0Evf1mJlU7NLjlDEZOEak/edit
その後1919年にアメリカ合衆国が金本位制に復帰したのを皮切りに、再び各国が金本位制に復帰したが、1929年の世界大恐慌により再び機能しなくなり、1937年6月のフランスを最後にすべての国が金本位制を離脱した。 日本では、戦後に金本位制の機会をうかがうも関東大震災などの影響で時期を逸し、1930年(昭和5年)に濱口雄幸内閣が「金解禁(金輸出解禁)」を実施したが、翌年犬養毅内閣が金輸出を再禁止した[7]。FRB議長のベン・バーナンキは、金本位制から早く離脱した国ほど経済パフォーマンスがいいことを証明した[8]。」
ニクソンショック以降、世界中が不換紙幣になりアンカーを失った結果、紙幣の信用維持のために発行主体の中銀の自己抑制が以前より強く要請されるようになったと思われますが、これは精神論であって紙幣価値の本質に関係がない・・金(または国際商品価値)の直接的裏付け・実体がない点は同じです。
今でも通貨発行体は国家・中央銀行だけであり、紙幣価値は発行体・国家の国際市場上の信用・実力・購買力平価や国際収支の動向によって市場で決まって行くことになっています。
実際それ以降の不兌換紙幣・通貨の信認は、為替相場・市場取引によって決まる・・文字どおり金融「商品」の一つになったのに、自制心という呪縛で発行を抑制した結果これを狙った格好の投機対象になっていったのです。
その後ポンド防衛で知られるように通貨の売買が国際的投機商品になったこと自体が、単なる商品の一種に過ぎなくなったことを示しています。
これがさらに進んで紙幣が金融商品の一つという一般認識が定着すれば、発行体を政府・中央銀行に限定する合理的理由がありません。
紙幣が何のためにあるか?商品交換媒体としての効能・・商品に純化していけば、誰が発行したかではなく製品利便性が勝敗を分ける時代が来ます。
老舗企業の製品の場合は当初の宣伝があまりいらない・当初の優位性でしかなく、時間が経てば老舗企業が作らなくとも、製品利便性・商品性能の優れたものが多く売れるようになるのと同じです。
その内ビットコインなどの仮想貨幣も含めて利用価値=使い勝手の良さの競争によって、世界通貨が決まって行く時代が来るかも知れません。
今の通貨は、その背景にある民族国家の経済力を背景にしている点で純粋な商品交換媒体としては不純な要素が混入しています。
金交換制は背景の国力を問題にしていない点・・どこの国の紙幣でも世界共通商品の金と一定率で交換してくれるので合理的でしたが、(この場合もある日突然デフォルトするリスクは防げません)不換紙幣になると紙幣相場は日々変動する・・このために約半年前までの先物引が発達しましたが、リスク管理に限界があります。
国際的商品交換手段である以上背景の民族集団の信用と結びつける必然性がないのですから、民族や国家集団から切り離すのが合理的でしょう。
日銀を紙幣という商品生産業者とすれば、日銀が紙幣発行して国債や株をどんどん買うのは、企業が自己の生産品を何と交換するかはその企業の勝手なのと同様に日銀の勝手と言えます。
将来的に日銀・中央銀行発行の紙幣の利便・信用性が落ちる時が来るとしたら、それに変わるもの・・ビットコインまたはそれに変わる新たな商品に競り負けた時ですから、世界は困りません。
よく地域から売り店がなくなったらこまるという議論がありますが、地域住民がその町内の小売店より遠くのコンビニを選んでいるならばその地域の自己選択です。

異次元緩和→公的資金運用と市場

中央銀行による有価証券類の購入例についてアメリカの場合を見ておきましょう。
 アメリカの量的緩和に関する本日現在のウイキペデイアの記事からの引用です。
https://docs.google.com/document/d/1B_k-2lcstvNhZWWRqkWpEo0Evf1mJlU7NLjlDEZOEak/edit
「FRBは、買い入れ対象としていなかった証券の買い入れ、それを担保する資金貸し出しについて「信用緩和(credit easing)」と称した[98]。「信用緩和」と称したのは、日本銀行の「量的緩和」と区別するためである[99]。
2008年のリーマンショック時にアメリカは、一時的なデフレ寸前の状態にまで陥り、その後QE1(量的緩和第1弾)・QE2(量的緩和第2弾)と呼ばれる大規模な金融緩和政策によってデフレ懸念から脱し、その後のインフレ率はまたデフレに陥ってしまうのではないかと危惧されるほど、低位のインフレの状態で安定した[67]。
2010年11月から2011年6月までの8カ月間にわたって1カ月あたり750億ドルのペースで6000億ドル分の米国債の追加購入を行ったQE2は、株式市場をはじめとする資産市場や実体経済に一定の効果をもたらしたが、雇用創出に大きな影響を持ち得なかった[25]。
2013年現在、リーマンショックが起きた直後FRBは、マネタリーベースを危機前の3倍以上に増やしている[100]。
 EUの量的緩和については以下の通りです。
日経新聞の報道です。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM08HA4_Y6A201C1MM8000/
欧州中銀、量的緩和を縮小 期限は17年12月まで延長 2016/12/9 0:55
・・ECBは15年1月に量的緩和の導入を決定。期間を延長し、規模を拡大してきた。いまはユーロ圏各国の国債や欧州系の国際機関が発行する債券のほか、社債などを買い取っている。銀行や企業にマネーを流し込んで経済を活性化させ、物価を上向かせる狙いだ。
 今回の理事会では、民間銀行がECBに資金を預ける際に手数料を課すマイナス金利の幅を0.4%で維持するなど主要な政策金利を据え置いた。「17年3月末まで」としていた量的緩和を17年末まで続ける一方、毎月の購入額は800億ユーロから600億ユーロに減らすことで合意した。ECBが量的緩和の規模縮小に踏み切るのは初めて。
29日現在の円ドル・ユーロ相場は以下の通りです。
http://www.nikkei.com/markets/kawase/
2017/6/29 22:33現在(単位:円)
112.89 – 112.90
ユーロ(円) 128.60 - 128.64 ▲+1.00(円安) 29日 21:06
128✖️800=1兆2400億円です。
以上の通り総額には相違がありますが、米欧共に中央銀行が国債等の買い入れをしている点は同じです。
諸外国の公的資金運用は以下の通りです。http://www.world401.com/401k/world_401k.html
世界の年金融機関      国内債券 外国債券   国内株  外国株  その他
国民年金&厚生年金【114兆円】
(GPIF)           67%    8%     11%   9%  REITゼロ
現金預金5% 国民年金基金【2.3兆円】
(国民年金基金連合会)   25%   22 (12%) 28%   25% ( )内は円ヘッジ外債運用額は05年度
厚生年金基金 【25.7兆円】(企業年金連合会)
            20.7%    11.5%    31%  20% ヘッジファンド4.6% REITゼロ 
(06年度数値) OECD諸国の公的年金運用の平均(日本除く)
            50%       36%  不動産3%その他11%
カルパース 【25兆円】(アメリカ最大の年金基金)
           26%     40%  20%  REIT8% ヘッジファンド系6%
ABP オランダ【20兆円】
(ヨーロッパ最大の年金基金) 44%   34%  REIT10%ヘッジファンド系7.5% 他
ブリティッシュテレコム 【6兆円】
(イギリス最大の年金基金)  24.3%   36.9% 31.6% REIT15.5%
(9%分借り入れ運用) アメリカの大学財団の平均 
【資産規模1000億円以上の財団】 14.2% 44.9% REIT4%ヘッジファンド系31%
以上によればOECD平均では債券運用が50%で株式が36%になっています。
この組み合わせをどうすべきかは安全性と利回りの組み合わせで考えるべきことですが、これを株式相場維持の道具として運用するのは(政府の相場介入で)邪道といえば邪道ですが、そうとしても「大機小機」が論じるにはそのような目的で運用していることについて、もうちょっと精密な実証的議論をして欲しかったところです。
公的資金運用のあり方は正面から堂々と議論すべきことで、株式運用率を上げた場合や、政権支持者の特定株式の値下がり防止や上昇を狙ったり、政権の都合による全体の相場維持などのゆがんだ運用をしない・独立性が重要と一般的に言われて来ました。
ECBの国債買い入れ枠についても、各国の出資比率によると購入枠が決められ恣意的運用されないようにされています。
ただこの枠組みの結果、弱小国の国債購入が必要で始まった制度なのに、最大出資国ドイツの国債購入が最大になっていて肝心の南欧諸国の国債購入率が低い皮肉な結果になっているように推測(私個人の推測)されます。
物事から裁量をなくすとこういう結果になります。
世上日銀の中立・独自性維持の合理性が言われますが、政策総動員の中で本当に政府方針と違った方向へ勝手な振る舞い(例えば、リーマンショックのような事態で金利をあげてもいいのか?)が許されるかは別問題です。
軍事専門家の独立性といっても軍事戦略については専門家の意見を重視すべきというだけのことで、政府がA国を敵として戦う方針を決めているのに政府が友好関係をもつB 国を攻撃するのは許されません。
日銀の独立性と言っても国家の一員である限り金融専門領域の尊重というだけであって、国策の基本方針に真っ向から反対するような金融政策をとり、反対方向で動くことが許されないのが普通です。
現在「財政金融政策」と一体的に言われているように財政と金融政策は一体的運用が必須です。
もともと異次元という前から、不景気に際して政府は減税や公共工事を増やして需要喚起し日銀は金融緩和して借入増を通じた投資を誘導してきました。
経済総崩れの場合に緊急事態として旧来理論にない「異次元」債権等の買い支えに公的資金を総動員して動いているのがリーマンショック以降の世界傾向です。

格差社会3(株式相場と国内経済)

「大機小機」の連載を印象で読むのではなく検討して見ましょう。
論旨は昨日紹介した通り第一段落で「株式相場の好況は国内実体経済と乖離している」とした上で、第二段落で「総生産が変わらない以上人件費のカットか海外活動による収益か円安の計算上の収益しかない」と一応実体経済と乖離する場合もあることを認めるものの「そうでなければ実体経済とかけ離れたバブルだ」と断定します。
数日前に紹介した「大機小機」に労働分配率の低下を書いたのはその伏線だったのでしょうか?
上記の通り論旨はせっかく海外収益や円安要因による場合にも国内経済と関係なく上下する場合があることを義理で?触れているにも関わらず、この要因該当性の有無を検証または論じることなく、「そうでなければ・・」と仮定の論旨に入って行き、直ちに日銀等による株式購入等の官製相場の弊害論に入っていきます。
これを読んでいると「国内」実体経済と株式相場の乖離は官製相場によって出来ているかのような誤った印象を持ってしまいそうです。
きちんと円安や海外収益増加でも国内実体経済に関係なく株式が上がるとも書いているのですから、私の読み方が悪いからそうなったのかも知れませんが・・.不思議な論理だなあと思って読み返してみると、せっかく「円安や海外収益でも乖離する」と(義理で?)書いておきながら、何故かそのあとでこれに該当するかどうかの検討をすっ飛ばして(如何にも海外収益増加も円安もなかったかのように)いきなり官製相場の弊害に入っているからそそっかしい私の場合「官製相場によって実体経済と乖離してしまっている」かのように印象付けられたのだと分かりました。
上記国内経済と関係なく株式が上がる・・乖離する場合の条件の内、円安について見ると安倍政権誕生直前から急激な為替変動があって、円が80円付近から120円近くまで急落したことは周知の通りです。
(昨年から少し円高傾向ですが、それでも今年6月28日夕刊では112円あまりです)
こうした場合、国内生産活動のアップに関係なく瞬時に海外投資(ドル表示)残高(日本は世界最大の純債権国です)の円評価や売り上げ代金の本国送金の円換算率が円の下落率に比例してアップするので、決算上対外設備投資等や株式・ドル評価の円換算評価益が急上昇します。
これを評価して株価が急上昇したのは、合理的な市場評価だったと言うべきでしょう。
他方で外国人投資家から見れば、ドル表示で120ポイントの株がいきなり80ポイント近辺に下がったのですから、(外資・ドル表示では大損ですが、企業業績が悪くて下がったのではないからナンピン買いをして損はないのでこれを含めて)日本株の割安感から買いを入れるのが普通でありこれが市場原理です。
この場合ドル表示で元の水準まで買っても良いとすれば、円が1ドル80円から120円への下落率と同じ相場・・8000円の株を12000円まで買い進めてもドル表示では同じです。
国内投資家にとっても上記の通り自動的に評価益が生じることによる株価アップ要因がある外、トヨタ等が円安による分を値下げすれば売り上げ増になるし値下げしないまま従来通り価格維持すれば(日本からの輸入部品等のコストが120円から80円に下がっている差額がそのままマージン率アップになります。
実際には120円から80円に下がったコストを100%値下げしないというだけで、企業によっては5〜6%〜8〜10%値下げする場合など色々あるでしょうが、いずれにせよ国際展開企業にとっては評価益だけではない将来的//持続的な5割前後の増益要因です。
内外投資家としては利益率アップが想定されるのでこの種の買い相場が始まると相場が相場を呼んで値上り益も見込めます。
株価は実態経済を反映すべきという論理が正しいとしても、東証上場株価は外資(約3割)も参加している国際商品ですから、基盤とすべき実態は国内だけではありませんので、国内実体だけを見て、株価が決まるものではありません。
経済的基礎がグローバル化している場合は国際的視野で検討すべきです。
国内経済との比較論は比喩的に言えば、千葉県発祥企業が県内シェアーが高くなりすぎて成長限界になり、他県に進出して成功・全国的に売り上げが倍々ゲームで伸びている場合、全国売り上げ増を見ないで「千葉県内での売り上げが現状維持なのに株式だけが何故上がっているのだ」と議論しているようなものです。
トヨタや日産〜コマツ、ダイキンなど国際企業は、国内売り上げ増がもはや限界ですから、米中その他市場での前年比売り上げ増加率が毎月ニュースになっているのです。
特に今回の円安の場合、日本企業の多くは(また円高に振れると困るので)現地価格を円安に比例して価格値下げ→売り上げ増に走らず、円下落効果を僅かしか価格に反映せずに利益率アップに動いた企業がほとんどですから、(円安にも関わらずホンダなどは輸出を増やさずに海外生産比率をあげると当時宣言していました)円安による輸出増・国内生産増GDPアップはほとんど起きていません。
海外資産評価アップと収益増のダブル効果があればその分株価が上がるのは当然ですが、国内付加価値増加・国内総生産増加に結びつきません。
今回の株式相場とGDP・国内総生産アップとは関係がなかったのは当然であり、これを国内実体経済との乖離だけを理由にいきなり官製相場の弊害に論旨を進めるのは(私のような粗忽者をひっかける)不当誘導っぽい書き方です。
海外投資残の大きい企業ほど海外取引比率も高いので円安に比例して株価が上がるのは当然であって、これを市場の歪みと非難する論旨は対象とすべき経済基盤とすべき実態の範囲を意図的に国内に絞っている疑いがあります。
ところで論旨は人件費安も原因のひとつに上げていますが、この数日書いてきたように海外収益増や評価増に寄与していない上に、人手不足下で機械化すればするほどコストに占める労賃比率が下がるのは当然です。
ところで・・現在の株式相場が(国内だけなく国際的視野で)実体経済と乖離しているかどうか及び、乖離しているとした場合その原因かどうかは別として、公的資金が相場を歪めていると言われると(そういうことがあるとすれば困ると思う人が多いでしょう)もっともな感じを受けますが、これも問題があります。
それを論じるのであればそれ自体を独立に論じるべきであり、現在の株式相場が高いこととと(ある程度関係があるとしても)直結する論旨は飛躍があります。
高齢化=年金の時代ですから、公的資金が巨大化している点は先進国ではどこの国でも同じです・・。
カナダ等先進国の年金運用機関の巨額資金が債権や株式相場に与える影響が大きいことは数十年前から指摘されていましたから、問題は我が国の公的資金運用がどうあるべきかの議論の必要性であって、市場における公的資金の比重が高まっていること=悪であるかのような印象づけ批判も問題です。
サウジなどのオイルマネー、中国の国有企業その他いろんな国の巨大な公的資金が日本や世界中の債券や株式相場に影響を与えているのは普通の状態です。
この現状を見ないで、(その分析の一環としての公的資金運用のあり方論であれば合理的ですが)日本の公的資金が安全=国債偏重をやめて株式を買い始めたことだけをテーマにする必要はありません。
中国の人権侵害や公害には黙っている人権集団と同じ印象です。

格差社会2(職務発明と労働分配率)

国全体のGDP・付加価値を合計して・・総人件費との比率・・労働分配率が下がった(上がっている場合にはトンと話題になりませんが・・)などと言う抽象的批判さえ言えば、片が付く時代ではありません。
平和主義と言いさえすれば、平和が維持できるものではないのと同じです。
ある企業内で考えても、発光ダイオード事件の報酬が低過ぎると裁判になりましたが、・・あるいはノーベル賞受賞した田中氏の例見ても分るように、世界展開する先進国企業では、貿易黒字よりも所得収支黒字が中心になっていることと比例して国内的に見ても今や現場労働の比重が低く、研究開発部門・知財を生み出す比重が高くなっています。
こういう人の高収入をやっかむ必要がない・・伸びる人や分野はどんどん伸ばしてやるべきです。
いわゆる職務発明の対価が会計上どう言う分類になっているのか知りませんが、労働対価であれば請負のように成果に関係ない筈ですから、・職務発明対価は研究成果によるのですから、人件費と言うよりも、発明の対価(特許権は発明者に原始的に帰属する→権利譲渡)ですから、企業にとっては土地代金のような譲り受けのコストであり人件費にはならないでしょう。
この種の人の受ける報酬がいくら増加しても労働分配率が上がるどころか(企業の総コストが一定であれば人件費率が下がります)逆に下がる仕組み・・高額報酬が労働分配率を計算する際の人件費から抜け出しているのです。
http://www3.grips.ac.jp/~ip/pdf/paper2004/MJI04055goto.pdf
「職務発明の「相当の対価」の法的性格と算定方法について」平成17年2月
 後藤 信之(MJI04055)
1はじめに 本論文の目的
「・・・発明の権利は従業者に原始的に帰属するという前提(発明者主義)の下で、無償の通常実施権を使用者等に与えると共に、特許を受ける権利や専用実施権の設定権を事前の取り決めによって一方的に使用者が得られる代わりに、その対価を従業者に支払わなくてはならない旨 35 条で定めている・・」
(3)「相当の対価」を巡る論点
①青色発光ダイオード事件(2004.1.30東京地裁判決)(稲垣注→200億円)
本件は、東京高裁の勧告により平成17年1月11日に、支払額約8億4,400万円(発明の対価は6億857万円、遅延損害金(利息)を含む)で和解が成立した。
②光ディスク事件
日立製作所元従業員が光ディスク読み取り機構の発明に対する対価を
求めて、東京地裁に提訴(要求額は 9 億 7000 万円)。2004 年の2審判決
では 1 億 6500 万円の相当の対価を認めた
③味の素アステルパーム事件
人工甘味料アスパルテームの工業的製法を発明した元研究所長が「相当の対価」を請求。2004年2月24日東京地裁は味の素に約1億 8900万円を支払うよう命じ、原告・被告共に控訴していたが、東京高裁にて1億5000万円で和解が成立した。」
職務発明の問題は生産性引き上げに貢献した人に対する正当な対価が支払われるべきであって、生産性向上に何の寄与もしない労働者が格差反対だけ叫べばいいものではありませんし、労働分配率だけ上がることはあり得ません。
職務発明対価は言わば生産工程合理化のために導入した機械設備のコストと同じで労賃支払いにカウントされない・・労働分配率で言えば分配率を下げる・逆の働きをしています。
このように一見企業内労働者のように見えても、知財の場合には人件費と別の支払い対象になる分野が増えています。
メデイアでも成功して高給取りになるとフリーアナウンサーやコメンテーターなどになって独立していくのが普通でこれは外注費になっていき、労働分配率から外れていきます
アップルで言えばジョブス氏の貢献によって世界中で大規模にスマホが売れましたが、大規模生産が出来たのはジョブズの知恵と中国の労働者が働いたからであって、アメリカの労働者がこれに何らの貢献もしていないでしょう。
アップルの高収益とアメリカ国内の労働分配率を比較して労働分配率が下がったと嘆く経済評論家はこの世にいないと思われます。
格差社会の広がり・・労働分配率の低下があるとしても、社会構造(被雇用者内で高額報酬を得る人〜単純労務に細分化してきた結果、高額報酬を得られる人は人件費扱いではなくなっていく)の変化の結果であって原因ではありません。
金融業と言っても地域金融と国際金融があるように、弁護士にも国際派と地域で弱者救済・・リテールを追求する弁護士など色々あるように・・労働者といっても仕事の工夫をして役に立つ人と立たない人が昔からいます。
私の子供の頃のクラスには、教科書を読めない子もいたなど色んな能力の子供がごっちゃになっていました。
共通項は同学年・同一地域と言うだけでした。
小売店も個人商店中心の玉石混交時代と違い、明治以降デパート等の大型商店が発達し、戦後はスーパー〜コンビニ等になり個人物販店がほぼ消滅状態ですし、飲食店でも個人経営中心からチェーン店化が進んでランクづけがスライス化して来ました。
労働者も学歴が高卒中卒の違い程度でみんなごっちゃに働いて年齢差程度を基準に賃金を貰っていた時代と違い、今では一人一人の能力を査定して能力に応じて分配率が違う社会です。
子供が4〜5十年前から偏差値で分類・輪切りされるようになっていますが、「末端労働者」と一口に言っても労働者になる前からこの振り分けが極度に進んでしまった社会になっています。
期間工や派遣の時給は画一的と見えますが、採用側から言えば大量の対象者を細かくスライスして能力に応じて何千人単位で時給を決めているだけ・・作業効率の工夫を出来る人材は別に処遇しているし、よりもっと高度な工夫・・研究段階になれば、研究員となり院卒・研究者も内部階層化が進んでいます。
役に立つ点を見込まれて一定の出世する人にとどまらず、研究員の場合には、発光ダイオード事件のように何億と別途もらう人が出てきます。
ここまで来ると個人で賃金とは別に対価をもらうので、企業にとっては外注的コストですから労働分配率アップに貢献していません。
ところで、サービス業化が進むと労働対価が低下する傾向があるのは何故でしょうか?
この辺を解明しないまま、単に「労働分配率が下がっている」という教条的主張だけでは解決しません。
似たような傾向の意見では、昨日(27日)の日経新聞大機小機(19p)には、日経平均が民主党政権時代から2、5倍に上がっているが、経済実態とかけ離れていると批判しています。
引用すると以下の通りです。
「..旧民主党政権時代に8000円台で低迷したが今やその2、5倍になっている。・・他方実体経済では様子が異なる。消費もGDPも殆ど増えていない。今後この状態が変わるとも思えない。」
「株価は本来実体経済の今と将来を反映するはずだ。ところが今はこの2つが乖離している。」
続けて内容を読むと日銀や年金基金等による株式購入・・官製相場を懸念するもので、確かに問題がないとは思えませんが、書き出し及び内容のトーンを見ると如何にも現在の株価は実態と乖離し過ぎている・・官製相場で国民を誤魔化しているから将来に禍根を残す悪い政治ではないかという・・印象を受けます。

格差社会1(業種内格差)

勝ち組負け組と比較されて勝ち組に入っているようなイメージの金融業ですが、内部では負け組みの方が多いでしょう。
中小地場産業の衰退により金融業で多くを占める従来型の預金を集めて融資する程度の地銀や信金業態では低金利下では負け組です。
グローバル化について行けない旧来型金融事業者では、地域密着とか言っていますが、結局は小口金融→消費者金融(住宅ローンとカードローン)に活路を見出すしかない状態です。
サラ金に対する総量規制の穴埋め的特需で広がっていた銀行系カードローンも過熱気味=限界になって来ましたし、相続税対策などの勧誘によるアパート建築や住宅ローンの限界がくると金融機関淘汰が始まるでしょう。
格差社会の象徴として反感を持たれているのはグローバル化に成功しているファンドマネージャ−や為替のプロその他の一握りであって地銀や信金等とはまるで違う世界の業種です。
弁護士業界で言えば国際化・・M&Aその他で今風にごっつく稼ぐグループと、これについて行けないその他大勢・法テラス相談→受任や国選事件等の割当を中心としている弱者救済?グル−プに2極化して来ました。
個人事業主の減少によりこれらを顧客にする中間層の弁護士が細ってきたのです。
世上中間層の激減というとホワイトカラーのみ注目されますが、個人商店がスーパーやコンビニに押されてほぼ消滅→その他事業も大手の子会社ばかりで独立系の事業者が減って来たことも重要です。
地域の個人事業者の激減が、中小企業・・中間層を顧客にしてきた地銀・信金の経営基盤が崩壊して困っているように、中小企業とは言っても実は世界中で大手系子会社しか滅多に事業展開出来ない社会になってきたことが、格差・2極化を進めた原因です。
同様に弁護士の政治色激化は、個人事業主系・中間層系の顧客大幅消滅が大きな影響を与えているように見えます。
今や信金並みに地域密着・弱者に優しい視点で生き残るしかないグループが弁護士会の大多数を占める状況で、格差反対・・正義を標榜するしかない結果どんどん先鋭化して行きそうな雰囲気です。
地域的に見ると東京都心からの距離・時間に比例して不動産価格が安い結果、この時間距離に居住者・事業レベルも比例して行く→これらを顧客にする各種の事業内容もこれに制約される傾向があります。
弁護士業務も地域事業者や居住者を顧客とする以上は、地域の顧客分布から逃れることは出来ません・・この結果、若手を中心に弁護士業務も法テラス経由に頼る傾向が出てきました。
我々世代も、最初のうちは、公共団体の法律相談や国選事件等で腕を磨いてから個人事業主等を顧客にするようになって一人前になって独立したものでしたが、今は個人事業主や零細企業が地域からどんどん減って行く結果、法テラス相談から脱皮出来ない若手が多くなって来たようです。
個人事業主を主要顧客とする我々世代が引退すると弁護士業界も2極化(格差拡大)が進むでしょう。
急激な増員の結果、経験10数年前後未満の弁護士が6~7割を占める状況ですから、会内で格差に苦しむ人の比率が急速に高まっています。
生活保護申請を援助しながら明日は自分かも?という危機感がある・・人ごとではなく自分自身の問題になっているのです。
世間では弁護士が偏った政治意見で行動しているという意見が強いようですが、過去10年以上も日弁連会長選挙のたびにより急進的意見を唱える候補者の得票率が埼玉と千葉弁護士会で圧倒的に高い傾向が続いていたのは、都心を軸にした同心円的分布で同じ顧客地盤で働いていることによります。
6月26日日経新聞朝刊13pには、森・浜田松本法律事務所の弁護士がFT弁護士表彰 で部門賞を受賞したと出ています。
VB向けの資金調達方法・・新株発行条件の工夫をした点・・事業が軌道に乗ったら優先株に変換できるアイデア?・・が評価されたようです。
もしかして、この法律事務所内でも下積み的にデータ収集や分析作業に特化している弁護士の方が多数になっている・・同一事務所内格差が大きいかも知れません。
森・浜田松本法律事務所の本日現在のホームページによると以下の通りです。
パートナー(外国法パートナー1名を含む):101名
アソシエイト:233名
客員弁護士等:29名
外国法弁護士等(外国法事務弁護士3名を含む):29名
外国法研究員:1名
この事務所の評判ではなく一般論ですが、大手事務所は毎年大量採用しているにも関わらずそのまま人員増加数にならないのは、(サムスン同様に)その大方が5〜10年以内で(パートナーに昇格出来そうもない人が)吐き出されてしまうからであると言われています。
http://blog.livedoor.jp/kawailawjapan/archives/7733404.htmlによれば15年1月現在の採用数と現事務所在籍数は以下の通りです
順位(昨年順位)          (2015年)   (2014年)
1(1) 西村あさひ法律事務所   34人/501人  (25人/473人)
2(2) 森・濱田松本法律事務所  27人/359人  (32人/342人)
3(3)長島・大野・常松法律事務所 30人/321人  (19人/325人)
4(5) TMI総合法律事務所   27人/320人  (26人/294人)
5(4)アンダーソン・毛利・友常法律  22人/310人 (14人/310人)
6(6) シティユーワ法律事務所   6人/128人  ( 3人/126
このように弁護士という專門職業分野でさえも(同一事務所内でも)最先端で活躍するグループとその他に大きな分化が始まっています。 
大手事務所から吐き出されたり初めっから挑戦すら出来ない人は不満でしょうから「格差反対」に走りやすいですが、社会全体で見ればせっかく伸びる分野を叩く必要がありません。
旧来型商法にこだわっているグループに比べて、リスクを恐れずに新たな分野に挑戦するグループは(失敗して消えていく人の方が多いかも知れませんが)その代わり成功すれば一頭地を抜くのは当たり前です。
格差社会とは、鄧小平が改革開放政策採用に際して言ったことは、平等や格差を気にせずに稼げるものから まず走り出せば良いという意味ですから、格差発生を気にしていたら何も新しいことは生まれません。
人の真似できないことで新機軸を出して成功するのを、非難するのは間違っています。
努力せずに才能もないのに親の7光で格差があるのはおかしいですが、努力が成功した結果の格差発生が悪いことのように非難されるのは不思議です。
実はオートメ化・IT化(ソフト関係者の取り分)、ロボット化、資本家その他いろんな業種内で、勝ち組負け組が起きているので業種別に言えない時代・・業種内競争・・業種内格差拡大時代が来ていると言うべきでしょう。
実は労働者内でも分化がもっと早くから進んでいます。
正規・非正規の分類がその代表ですが、その前から公務員と大手中小従業員の違いホワイトカラーとグレーカラーの違い、サービス業と製造業従事者の違い、専門職でも医師や弁護士等と職人との違いなど色々と分化して来ました。

免責事項:

私は弁護士ですが、このコラムは帰宅後ちょっとした時間にニュース等に触発されて思いつくまま随想的に書いているだけで、「弁護士としての専門的見地からの意見」ではありません。

私がその時に知っている曖昧な知識を下に書いているだけで、それぞれのテーマについて裏付け的調査・判例や政省令〜規則ガイドライン等を調べる時間もないので、うろ覚えのまま書いていることがほとんどです。

引用データ等もネット検索で出たものを安易に引用することが多く、吟味検証されたものでないために一方の立場に偏っている場合もあり、記憶だけで書いたものはデータや指導的判例学説等と違っている場合もあります。

一言でいえば、ここで書いた意見は「仕事」として書いているのではありませんので、『責任』を持てません。

また、個別の法律相談の回答ではありませんので、具体的事件処理にあたってはこのコラムの意見がそのまま通用しませんので、必ず別の弁護士等に依頼してその弁護士の意見に従って処理されるようにしてください。

このコラムは法律家ではあるが私の主観的関心・印象をそのまま書いている程度・客観的裏付けに基づかない雑感に過ぎないレベルと理解してお読みください。