個別処理から事業転換等の処理システムへ

2017年12月10日現在の(内容は施行後5年経過時点のようです)裁判所のホームページhttp://www.courts.go.jp/saiban/wadai/2203/index.htmlによれば以下の通りです。

  1. 労働審判制度とは
    労働審判制度は,個々の労働者と事業主との間に生じた労働関係に関する紛争を,裁判所において,原則として3回以内の期日で,迅速,適正かつ実効的に解決することを目的として設けられた制度で,平成18年4月に始まりました。制度全体のイメージは下図のとおりですが,労働審判手続では,裁判官である労働審判官1名と,労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名とで組織する労働審判委員会が審理し,適宜調停を試み,調停がまとまらなければ,事案の実情に応じた解決をするための判断(労働審判)をします。労働審判に対する異議申立てがあれば,訴訟に移行します。

労働審判制度

 2. 制度の運用状況

 制度開始から約3年半の労働審判事件の運用状況をみると,審理に要した期間は平均で約2か月半です。調停が成立して事件が終了する場合が多く,労働審判に対する異議申立てがされずに労働審判が確定したものなどと合わせると,全体の約8割の紛争が労働審判の申立てをきっかけとして解決しているものと思われます。
こうした労働審判事件の解決の状況からすると,制度導入の目的は一定程度達成されていると考えられます。また,当事者等からも事案の実情に即した柔軟な解決が図られているとして,おおむね肯定的な評価を受けており,事件の申立件数も年々増加しているところです。
なお,現在は各地方裁判所本庁のみで取り扱われていますが,制度開始5年目を迎える平成22年4月から,東京地方裁判所立川支部と福岡地方裁判所小倉支部でも労働審判事件の取扱いが開始されます。

私の経験で知っている限りでは、ほとんどの事件では金銭解決で終わっています。
借地借家法の正当事由の判定で書いたように現在社会では不確実性を嫌います。
借家法との正当事由の認定と違い、上記の通り労働審判制度は数ヶ月でケリがつくことが多いので、非常に使い勝手の良い制度で司法界の大ヒット作品というべきでしょう。
昨日紹介したように労働審判制度は現在まで、約10年以上におよぶ試行的運用の結果、労働者も自分を必要としていない企業にしがみつきたい人は滅多にいない・相応の金銭解決で納得する人が多い現実を直視した方がいいのではないか?
という意見がふえてきます。
上記統計では約2割が裁判手続きに移行しているようですが、私の経験ではこういうことがありました。
その事例では、企業側に何の落ち度もない勝訴予定事例でしたが、裁判所の提案は日本的解決の推奨・ともかく解決金として、「1ヶ月分の支払いをしてくれないか?」という和解案の提案でした。
企業としては、数十万の支払いで済むならば、その方がコストが安く済むので訴訟に移行しても負けることがないとしても時間コストその他で和解案に応じましたが、(企業の方は不当な訴訟をされたと怒っていましたが・・)これが金額の大きな事件であれば、訴訟に移行する場合も結構あるでしょう。
このように訴訟に移行した場合でも金銭解決の方向が同じで若干の修正で終わった事件がいっぱいあるはずです。
一般民事の控訴事件でも地裁での和解案の数字の開きが大きすぎる場合に一旦判決をもらって高裁での若い前提で控訴になる事例が圧倒的多数で、(1審の和解ではまだ・判決は予想でしかない・弁護士からこれまでの流れでは、こちらが勝ちそうとか負けそうという予想でしかないので、判決が出ると読み違いがあります・・勝敗がはっきりしないで、どちらも強気になるメンがあるのですが、高裁では一審での勝敗が決まっているので、(高裁が記録を読んだ結果勝敗をを逆転させる気持ちがなければ)すぐに1審判決線上での和解手続きに入るのが普通です。
上記の通り労働法分野では、借地法の正当事由のように長期裁判を必要としなくなって来たのですが、その代わり(三菱銀行の例で分かるように)事業分野変更の場合、(遅刻が多いとか失敗が多いなど)個別事情によらずに画一的大量処理が必須ですので、もともと個別事情中心の裁判に馴染みません。
企業も個人もお互いに個人的感情の行き違いでもめているのではなく、トラブル・裁判までしたくないのですから、トラブルのない場合も金銭で解雇できるスキームができないかというのが、最近の議論です。
今朝の日経新聞朝刊19pには、成長分野シフト企業の収益貢献例が出ています。
以下は私の要約です。

「① ミネビアではスマホ向け液晶部品を中心とした電子部品事業が急成長している。7年前には機械加工事業が営業利益の8割を稼いで電子部品は2割に満たなかったが、携帯電話の普及を見越して世界最大手だったパソコン用キーボードから撤退した」
② 大和ハウス工業は、人口減を見据えて住宅部門から事業施設へ転換して成功している
③ TDKはスマホ向け2次電池などフィルム応用製品で6割を稼ぐ,数年前まではパソコン用ハードデイスクの磁気ヘッドを中心とした磁気応用製品が利益の7割を占めていた。
④ 日産化学は、動物向け医薬品強化・・1割に満たなかった農業化学品事業がでは稼ぎ頭だ

果敢な事業転換には畑違いの方向への社内配置転換では(基礎的技術が違いすぎて)無理なので、短期間での人材入れ替えが必須です。

整理解雇4条件2(10年計画)と数ヶ月の労働審判制度1

IT〜AIの発達により、従来事業の再構築・リストラクチャリング(社内養成で間に合わない人材確保)の必要性が高まっています。
終身雇用→解雇規制が厳しすぎると新規補充を停止し既存従業員が定年になってやめていくのを待つしかない・・超長期での構造改革しか出来ないのでは、国際競争に遅れをとり、新規事業への転進がうまく行きません。
前向き事業変更・企業にとっては10年先を見据えた事業変換・これに向けた人材入れ替え需要が起きて来たのですが、これがほぼ不可能な解雇要件・継続保証の法制度)が判例法で形成されていました。
三菱UFJ銀行の発表は具体策を示さずに10年かけて減らすという無策そのものの表明で世間を驚かしたものですが、銀行業界で稼ぎ頭の三菱銀行でさえ「今の制度下ではやりようがない」という苦境を言外に匂わせて、リストラ・人材入れ替えに10年もかけなければならない時代遅れの制度・これでは業界全部が沈没してしまうという不満を言外に訴えたのかもしれません。
門外漢の私でさえ三菱UFJ銀行の発表に注目しましたから・・インパクトを与えて社会的議論が巻き起こるのを期待した苦肉の策だった?のかもしれません。
ここで我々法律家の世界では常識になっている整理解雇4条件を紹介しておきます。
https://jinjibu.jp/keyword/detl/289によると以下の通りです。

整理解雇の4要件
経営不振や事業縮小など、使用者側の事情による人員削減のための解雇を「整理解雇」といい、これを行うためには原則として、過去の労働判例から確立された4つの要件(1.人員整理の必要性 2.解雇回避努力義務の履行 3.被解雇者選定の合理性 4.解雇手続の妥当性)が充たされていなければなりません。これらを、「整理解雇の四要件」と呼びます。
(2010/7/16掲載)

判例で形成された解雇4条件をクリアーするためには配置転換努力など何年もかけた手順・膨大な資料準備が必要で、事実上前向き事業転換を遅らせる・先送りの役割を果たしてきました。
ニーズ変化に合わせて早めに事業転換する・・今後縮小予定・なくなっていく事業分野には元々の従業員がいるのでそこへ配置転換する余地がない・・から将来伸びていく方向への人材入れ替えの要求ですが、昨日紹介したように旧来事業(貸付)部門の人材を新規事業(フィンテックや資産運用)部門に配置転換したのでは新規事業がうまくいく訳がありません。・前向き解雇は事実上できない運用になっていました。
例えば中華部門の赤字が続くのでこれを縮小して和食部門を拡大しようとすると中華部門の人員削減には配置転換が要件ですが、無理があります。
競合他社に負けての縮小という後ろ向き整理解雇ばかりではなく、まだ利益が出ているが前向きに新規事業にシフトするための既存事業縮小解雇ではどうして良いかわからない4条件です。
企業が赤字でなくまだ利益が出ているがこのまま事業を続けると将来赤字になる予想でも、10年先を見越して先手を打って行く、今現在で事業縮小による整理解雇はできません。
日本の解雇法理では、今そこそこに利益が出ているが将来性のない事業の切り売りM&Aが発達しましたが・・雇用継続条件での売却交渉では買う方にリスクがあるので売値相場が下がります。
このために新規事業不適合労働者が定年退職でいなくなるまでその事業を維持し徐々にその事業分野を縮小していくしかない・数10年かけて成長性のない事業部門をなくしていく・微温的事業転換をしていくのが我が国の普通のやり方になっています。
これが昨日冒頭で紹介した三菱銀行の10年計画です。
10年先の計画発表というといかにも先の見えた進んだ計画のようですが、本来半年〜1年先に実現するべき緊急課題を10年以上かけてゆっくりやるしかない先送りの言い換えになっています。
我が国の構造改革のあゆみが鈍すぎるのは、(借地借家法も解雇4原則の法理も判例ができた当時としては有用な判例法でした)今になると時代錯誤的な判例法定着の結果です。
アベノミクスといっても金融に頼るばかりで、肝心の構造改革が進んでいないとエコノミストや民進党とその流れを組む政治家が批判していますが、構造改革を妨害しているのがいわゆる革新系政党や野党です。
安倍政権に対して現在加計学園問題として日本中上げて政権批判をするのが流行ですが、獣医師学部新設反対の岩盤規制を開けたことに対する獣医師会側から献金を受けてきた大量の政治家による連携プレーというイメージが色濃いことが見え見えです。
労働法に戻しますと解雇に関する基礎(インフラ)に手をつけないと、どの企業も速やかな改革ができない状態のまま世界と戦ってきたことになります。
そこで予定退職金の2倍払うなどの好条件提示で希望退職を募るのが普通ですが、これは借地借家法制定前の法外な立退料のようなもので、いくら高額を積んでも相手が応じてくれないと法的強制力がありません。
企業の体力が弱ると好条件提示が難しくなり、(しかも企業にとって残って欲しい有能な人材はどこでも再就職できるので応募して流出し、やめて欲しい新規事業に適応できない人ほど応募しないジレンマが起きます・・・このような傾向は12月10日に紹介した三菱BKのリストラ加速すべきという論文にも出ている通りです。
苦しくなってからでは間に合いません。
この数年労働法分野でも金銭支払いによる解雇を法律で認めるべきだという議論が起きてきて政治上のテーマになっていますが、これは昭和60年から法制審議会ではじまった借地の更新拒絶の正当事由補完事由として金銭提供を法制化する試み・・30年遅れで始めたことになります。
ただし、借地借家法制定過程で(判例の催促で立法が成立した流れ)判例の方が先に進んでいたことを12月8日に紹介しましたが、労働法の分野でも平成17年頃から東京地裁の試験的試み・・労働審判制度が始まり、あっという間に全国的に運用が広がって成功しています。(現在約12年経過です)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/hourei/roudousinpan.html

労働審判法
(平成十六年法律第四十五号)
(目的)
第一条 この法律は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間
に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関し、裁判所において、裁判官
及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会が、当事者の申立てにより、事件を
審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決に至らない場合には、労働
審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするた
めに必要な審判をいう。以下同じ。)を行う手続(以下「労働審判手続」という。)を設けることにより
、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする。
第十五条 労働審判委員会は、速やかに、当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならない。
2 労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、三回以内の期日において、審理を終結しなければならない。
(労働審判)
第二十条 労働審判委員会は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえ
て、労働審判を行う。
2 労働審判においては、当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を
命じ、その他個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる。
(異議の申立て等)
第二十一条 当事者は、労働審判に対し、前条第四項の規定による審判書の送達又は同条第六項の規定によ
る労働審判の告知を受けた日から二週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができる。
2 裁判所は、異議の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、これを却下しなければならない。
3 適法な異議の申立てがあったときは、労働審判は、その効力を失う。
4 適法な異議の申立てがないときは、労働審判は、裁判上の和解と同一の効力を有する。

借地借家法(正当事由を借地人が原則として・・提案金額以上の額を裁判所が命じることが可能になっていますが・・主張しなければならない対して、)より一歩進んで裁判所が積極的に妥当な金銭解決を和解案として提案し審判で命じることができる制度設計です。

 

継続保障4(三菱UFJBKの10年計画?1)

http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1710/25/news018.html

2017年10月25日 06時00分 公開
銀行業界に激震が走った。三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、三菱UFJグループ)の平野信行社長が9月、「事務作業の自動化やデジタル化によって9500人相当の労働力を削減する」と発言したからだ。
9500人というとグループの中核企業である三菱東京UFJ銀行の従業員の3割に相当する人数である。
平野氏は、あくまで「9500人相当の労働力を削減する」と言っただけで、9500人をリストラするといったわけではない。余った労働力はよりクリエイティブな業務にシフトするとのことだが、皆がクリエイティブな業務に従事できるとは限らない。実質的な人員削減策と受け止めた銀行員は少なくないだろう。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22847550Y7A021C1EA30003

銀行大リストラ時代 3.2万人分業務削減へ
2017/10/28 19:17
日本経済新聞 電子版
みずほフィナンシャルグループ(FG)など3メガバンクが大規模な構造改革に乗り出す。デジタル技術による効率化などにより、単純合算で3.2万人分に上る業務量を減らす。日銀によるマイナス金利政策の長期化や人口減などで国内業務は構造不況の色合いが濃くなって来たため。数千人単位で新卒を大量採用し、全国各地の店舗に配置する従来のモデルも転換を迫られる。

http://blogos.com/article/229520/

記事
沢利之
2017年06月18日 16:43
三菱UFJ1万人人員削減計画、早期退職で加速が好ましい
3日ほど前ブルンバーグが「三菱UFJグループが今後10年程度で過去最大となる1万人規模の人員削減を検討していることが分かった」と報じていた。
・・例えば今後銀行が生き残ることができる分野の一つに「資産運用部門」を上げることができるが、資産運用部門で求められる人材・スキルは預金吸収・貸出型と全く違う。これを同じ人事システムで処遇しようとすると資産運用部門の優秀な人材は退職し、外資系の資産運用会社に移籍する可能性が高い。
つまり銀行は総人員を減らすだけでなく、専門分野で活躍する人材を長期的に育成・確保する必要があるのだ。そのためには人事制度の改革と大胆な人減らしが必要なのである。

私は三菱の発表まで水面下の動きを知りませんでしたが、10年間で何万人不要になるなどという悠長な発表のずっと前から果敢なリストラ・・足し算ではなく人員入れ替えが必要という意見が6月時点で出ていたらしいのです。
既存権利に手をつけずにそのまま温存して定年になってやめて行くのを待つ・新分野兆戦に適した能力のある人員を新規採用・・足し算して行くようなやり方では、入れ替えに長期を要しすぎて技術革新の早い現在では、企業が潰れてしまうでしょう。
以前から書いていますが千葉の例でいうと、旧市街の改造には利害が錯綜して難しいのであんちょこに埋立地造成(幕張新都心立地など)や郊外に住宅団地を作る足し算式政治でごまかしてきました。
人口がいくらでも増えていく成長期には足し算政治で良かったのですが、人口が現状維持になってくるとスクラップアンドビルド・何か新しいことをやる以上は何かを廃止しないと財政的に持たなくなっています。
数年前から、千葉市では(政治によらない)大規模な都市改造が始まっています。
ちば駅から遠い順にパルコ、三越百貨店が昨年中に閉店し代わって新駅ビルが完成してちば駅周辺集中・コンパクトシティ化に急速に進み始めました。
最早従来の決まり文句であった旧市街の活性化(見捨てるのか!)などの2正面作戦を言う暇がない状態です。
選挙制度改革も同じで、産業構造の変化に合わせて都市部の人口が増えて、投票価値格差が広がると過疎化した地方の議員数を減らさずに増えた都会の選挙区を増やして相対的に格差縮小を図る足し算方式でしたが、これも限界がきてついに島根県などの合区に手をつけざるを得なくなりました。
三菱の発表を見ると銀行業界はいわゆる護送船団方式と揶揄されていましたが、未だに手厚い保護でぬるま湯に浸かっているのではないかの疑念を持つのは私だけでしょうか?
東京などの大都会に限らず、地方都市に例外なくシャッター通りが生まれてしまった原因は、都市再開発用に旧市街の土地や建物の明け渡し需要が必要になったのに既得権の壁が強すぎて旧市街地に手をつけられない・時代適合の新陳代謝ができない状態・戦後の貧しい住居がひしめいたままだったので、郊外にスーパーや若者の住む住宅団地などが立地してしまった結果です。
若者だって市中心地で新婚生活したいし、スーパー等の業者だってできれば人のあ集まる中心地で開業したかったでしょうが、既得権保護の抵抗が強すぎて(大規模店舗法など)新興勢力を寄せ付けなかったので結果的に中心市街地が地盤沈下してしまったのです。
これを国単位でやっていると日本全体が地盤沈下し周辺の国々・・韓国等が潤うことになります・・・この例としては、成田空港開設反対運動の結果、空港の開業も拡張も思うように出来ないうちに韓国仁川空港等に国際ハブ空港の地位を奪われてしまった例が挙げられます。
労働分野でも生産活動や事業分野が根本的に変わっていく変化の時代が始まっています。
これに対応して企業も・・従来事業の延長・・熟練によってその延長的工夫だけで、新機軸を生み出すだけではない(車でいえば電気自動車、・・車製造の熟練の技では対応不能・・金融でいえばフィンテックなど)全く別の分野で育った発想や技術が必要とされる環境に放りこまれる時代になりました。
今日たまたま、歴博(国立歴史民族博物館)発行の2017年novenber205号26pの研究者紹介を見ていると、コンピューターによる古文書解読(くずし字等解読アプリ」を開発した)すごさを書いている文章が目にはいりました。
私のような素人にとっては美術館・博物館等で壮麗な金粉を散らした立派な料紙に(例えば宗達の絵に光悦の)流麗なかな文字の「賛』や和歌があってもよほど知っている有名な和歌などでない限り読みこなせないのでは・外国人が意味不明のまま見ているのほとんど変わらない・・とても悲しいことです。
美的鑑賞ではそれでいいのでしょうが、文字の意味も知って鑑賞できた方がなお感激が深いでしょう。
くずし字を自動的に翻訳できるようになれば、大した労力・コストがかからずに展示の都度楷書に印刷したものを横において展示してくれるようになれば、私レベルの人間にとってはとても助かります。
協調学習利用のためにクラウドソーシングのシステム設計によってオープン化した結果、現在は災害史料に対象を拡大し1日1万ページのペースで翻刻が進んでいることが報告されています。
この人は1984年生まれで2017年4月に歴博に採用されたばかりとのことです。
話が横にそれましたが、その道何十年の経験を積んだ人しか「くずし字」を読みこなせない・この分野に新しい技術をひっ下げた分野外から新技術者導入の快挙の例です。

継続契約保障と社会変化3(借地借家法立法3)

12月6日に出たばかりのNHK受信料に関する最高裁判例で時間軸をhttp://www.toranosuke.xyz/entry/2016-1105_nhk-saikosaiによって見ると以下の通りです。

事件の概要 *6
2006年3月、テレビを設置、「放送内容が偏っていて容認できない」と契約拒否。
2011年9月、NHKは男性宅に受信契約申込書を送付したが、応じず。
契約の申し立てを行った時点で契約は成立すると、NHKは主張。
1審:東京地方裁判所判決(2013年7月判決)
2審:東京高等裁判所 (2013年12月18判決, 下田裁判長)

となっていて、超長期の時間がかかっています。
弁護士が判例を説明して、企業からどのくらいの期間で決まりますか?と聞かれてもそう簡単には答えられないの実情です。
これでは企業活動(大手マンション業者の場合には、見込みだけであちこちにちょっかいを出しておいて買えるようになった順に仕入れていけばいいのですが、事業用地取得・・デパートの出店や工場進出などの場合には売ってさえくれれば駅に近ければどこでもいいという訳にはいかないので長期間不確定では事業計画がなり立たない・・不向きな制度設計になっています。
判例さえあれば良いかというと実務的には大違いなのが分かるでしょう。
この法制度がない時代にも事実上適正な立ち退き料支払いの示談で出てもらって都市再開発などができていたのですが、建築後4〜50年以上のあばら家に住んでいる借地人や借家人に正当な立ち退き料の提案をしてもアクまで「金の問題でない」と言い張られると法外な立退き料を払うしかなく、法的に強制する方法がありませんでしたが、判例は徐々に自己使用目的でなくとも金銭補完を認める方向に動いていたのです。
借地制度は、戦後牢固とした勢力を張る「何でも反対派?」(社会変革反対)政党の基礎的制度ですから、解約の自由度をあげる改正には頑強な反対が続いていました。
これでは時代即応の都市設計・再開発が進まない不都合があったので、借地借家法が新規立法の機運が盛り上がったのです。
昨日借地借家法の付則を紹介しましたが、「付則」とはいえ、これが最重要部分で(超保守系)革新政党との妥協によって、既存契約に適用なしとする妥協がされたので、過去の契約に関しては、従来通りとなってしまいました。
今どき新規借地契約をする人などめったになく、存在する借地権等はいつ始まったか分からないほど親や祖父の世代からの古いものが中心ですから、新法では古くからの借地の再開発案件には利用できないままですから、新法制定による都市革新促進効果は(定期借地権付き大型マンション等でたまに利用されることがある程度で)限定的になっています。
時代遅れのブティックやレストラン等の場合、この先何十年も建て替え予定がないのに「今度家を建て替えたら綺麗にするから」というだけでリフォームを一切しないのに似ています。
このように「弱者救済」の掛け声ばかりでなんでも反対していると木造密集アパートばかり残って行く・・近代化阻害ばかりでは災害対応も無理ですし、国際都市感競争に遅れをとるのが必至です。
車や電気製品のように短期に買い換えて行く商品の場合には、新製品からの規制・・排ガス規制というのは意味がありますが、超長期の借地契約でしかも無制限的に更新が保証されている借地関係では、(しかも新規借地契約など滅多になく旧契約が問題なのに、)今後の契約からの適用ですと言っても社会的にほとんど意味がないことなります。
都市再開発や新規事業用地取得の障害になって困っているのは、新規借地ではなく明治大正昭和前半に、大量に生み出された山手線の内外に多い古くからの借地です。
古くからの借地が事実上無期限に更新されていく前提ですと新法制定の効果がほとんどなくなります。
現代型借地契約として時々見かけるのは、大型マンションの場合、多数地権者からの買収が必須ですが、開発用地内の一部地主が先祖伝来の土地を売りたくない(一時に大金が入ると税負担が大きいなどいろんな事情で)と頑張った場合、便法としての「定借」が利用されるようになっている程度でしょうか。
あらたに生まれた定期借地権の利用形態としては、ビル用地の一部に所有権を残しておいても50年程度の長期ですから、(自分が生きている間には)配当金をもらうだけの債権に似ていて「保有」している意味が実際に無い(50年先に何か言えるというだけ)のに比して、マンション等ビル保有者の方は50年先にどうなるか不明で不安定になるマイナスだけで新規借地を奨励するべき社会的意義がほとんどありません。
マンション法の累次の改正で特別多数で所有権の一態様で有る共有者に対してさえ、強制的改築(建物取り壊し決議)ができるようにになっているのに、地主というだけで(全体敷地の1%しか持っていない地主が合理的理由なく拒否権を発動できる)老朽化したマンションの死命を制することができるのは、おかしなことだという時代が来るべきでしょう。
長期的には借地という半端な制度は臨時目的の1時使用目的以外にはなくなって行くべきではないでしょうか?
自分で利用する予定のない土地を持つこと自体がおかしいのであって、必要な人がいて相応の価格で買いたいといえば手放すのが筋です。
数十年あるいは50年以上も先まで土地利用計画すらないのに、売るのを拒否して所有権維持にこだわる人をなぜ保護するのか分かりません。
こういう不合理なヒト・しかも社会にとって迷惑なひとを保護するために、(既存借地の流動化を図るためならばわかりますが)いつでも返してもらえるような法律(新借地法)を作るのは方向性として間違っています。
有効利用もしていないのに「あくまで売りたくない」と言い張る所有権者の乱用と同じで、いったん借りたら既得権になって周辺の発展を無視して巨額立ち退き料を積まれてもアクまで「この古い家が好きです」と言い張って占拠し続けるのを社会が保証してやるべき・・どういう借地人でも「何が何でも保護すべき」という論者がいるとしたらこれも異常で、どういう社会のあり方を想定しているのか不明です。
バブルの頃に小さなラーメン屋か薬局だったかで何億という立ち退き料支払いが何件か話題になっていましたが、そのたぐいです。
※ ただしH6年の最高裁判例によって相当の対価が提供されていれば正当事由が補完されるようになってることは昨日紹介した通りです。
都市再開発での借地権問題同様に既得権には手をつけない・先送りしか出来ない問題は、厳しい解雇規制の結果、国際競争にさらされている大手企業の雇用現場で起きています。
企業でよくいう新事業向けに再構築し直すときに旧事業向けの余剰人員をリストラしないで、定年退職対応の新人不補充・(解雇規制があるため)「自然減を待つ」というのも同工異曲です。
1〜2ヶ月ほど前に三菱UFJBKの(フィンテック化進展等による)大規模人員不要化発言が話題を集めましたが、不要になるというだけで希望退職を募るのかすらはっきりできない・・不明の批判を受けているのは、解雇制限法理による点は、借地法関連の保護法理が支障になっているのと根底が同じです。

継続契約保障と社会変化2(借地借家法立法2)

昨日紹介した法改正の議論の結果、平成3年に成立したのが現行借地借家法で、この新法により定期借地や定期借家制度が創設され、さらに定期契約でない場合でも更新拒絶ができるように「正当事由」の条文内容を類型的具体化して使い安く変更されました。

借地借家法(平成3・10・4・法律 90号)
第1章 総 則(第1条-第2条)
第2章 借 地
第1節 借地権の存続期間等(第3条-第9条)
第2節 借地権の効力(第10条-第16条)
第3節 借地条件の変更等(第17条-第21条)
第4節 定期借地権等(第22条-第25条)
第3章 借 家
第1節 建物賃貸借契約の更新等(第26条-第30条)
第2節 建物賃貸借の効力(第31条-第37条)
第3節 定期建物賃貸借等(第38条-第40条)
第4章 借地条件の変更等の裁判手続(第41条-第60条)

(趣旨)
第1条 この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。
(借地契約の更新拒絶の要件)
第6条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。

附 則 抄
第四条 この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、附則第二条の規定による廃止前の建物保護に関する法律、借地法及び借家法の規定により生じた効力を妨げない。
(借地上の建物の朽廃に関する経過措置)
第五条 この法律の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地の上の建物の朽廃による消滅に関しては、なお従前の例による。
(借地契約の更新に関する経過措置)
第六条 この法律の施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては、なお従前の例による。
(建物の再築による借地権の期間の延長に関する経過措置)
第七条 この法律の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地の上の建物の滅失後の建物の築造による借地権の期間の延長に関しては、なお、従前の例による。

平成3年の借地借家法との比較のために旧借家法(わかりやすくするために「旧と書きましたが、実は以下に書く通り現行の借地権の大方は、この法律の規制を受けますので、実務家では廃止された借地法と借家法が日常的アイテムになっています)を紹介します。
そこで、借地法(大正十年法律第四十九号)を紹介したいのですが今のところ、ネット情報では現行法中心で改正前の法令情報が極めて少ないので、ネット検索では借家法しか出てきませんが、更新拒絶要件関連の基本は同じですので、借家法の引用だけしておきます。

大正十年四月八日法律第五十号
〔賃貸借の更新拒絶又は解約申入の制限〕
第一条ノ二
建物ノ賃貸人ハ自ラ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ非サレハ賃貸借ノ更新ヲ拒ミ又ハ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得ス

昨日紹介した大阪市立大学法学部生熊長幸氏の論文のとおり、借地借家法制定立案時に定期借地、定期建物賃貸借制度創設の他に一般(従来型)の借地借家契約でも、更新拒絶自由の合理化を図ったのですが、いわゆる現状維持派・反対勢力の主張が強くて法制定作業が進まないので結果的に当時すでに判例で認められている正当事由を法文化する程度で収まりました。
反対派の動きが強くて借地借家法の制定作業が進まないので催促するかのように、新判例の動きが出てきたとも言われます。
結果的にこの判例を条文化する程度までは仕方がないか!という妥協ができて国会通過になったようです。
最高裁のデータからです。
最判の時期は法制定後の平成6年ですが、高裁事件受理は昭和63年(ということは1審受理はその1〜2年前)で最高裁受理は平成2年の事件ですから、借地借家法制定準備・・審議会等での議論と判例の動きが並行していたことがわかります。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52466

平成2(オ)326事件名 建物収去土地明渡等
裁判年月日 平成6年10月25日
法廷名 最高裁判所第三小法廷裁判種別 判決
結果 棄却
判例集等巻・号・頁  民集 第48巻7号1303頁
原審裁判所名東京高等裁判所原審事件番号 昭和63(ネ)3286
原審裁判年月日 平成元年11月30日
判示事項
借地法四条一項所定の正当事由を補完する立退料等の提供ないし増額の申出の時期
裁判要旨
借地法四条一項所定の正当事由を補完する立退料等金員の提供ないしその増額の申出は事実審の口頭弁論終結時までにされたものについては、原則としてこれを考慮することができる。
参照法条   借地法4条1項,借地法6条2項

判例さえあればいいのか?となるとそこは大違いです。
上記判例があっても、「相応の立退き料を払うので出てもらって跡地にマンションを建てたい、デパート用地に売りたい、工場用地に売りたい」と言う理由では(上記旧法の自己使用その他必要条件にあたらないので)長期裁判を經ないと(上記の通り1審判決から最判まで膨大な時間がかかっています)どうにもならない・・判決時期等が不確定過ぎて計画的進行を重んじる企業用地としては手を出しにくくなります。

免責事項:

私は弁護士ですが、このコラムは帰宅後ちょっとした時間にニュース等に触発されて思いつくまま随想的に書いているだけで、「弁護士としての専門的見地からの意見」ではありません。

私がその時に知っている曖昧な知識を下に書いているだけで、それぞれのテーマについて裏付け的調査・判例や政省令〜規則ガイドライン等を調べる時間もないので、うろ覚えのまま書いていることがほとんどです。

引用データ等もネット検索で出たものを安易に引用することが多く、吟味検証されたものでないために一方の立場に偏っている場合もあり、記憶だけで書いたものはデータや指導的判例学説等と違っている場合もあります。

一言でいえば、ここで書いた意見は「仕事」として書いているのではありませんので、『責任』を持てません。

また、個別の法律相談の回答ではありませんので、具体的事件処理にあたってはこのコラムの意見がそのまま通用しませんので、必ず別の弁護士等に依頼してその弁護士の意見に従って処理されるようにしてください。

このコラムは法律家ではあるが私の主観的関心・印象をそのまま書いている程度・客観的裏付けに基づかない雑感に過ぎないレベルと理解してお読みください。