発明等対価算定2

そこで一審判決では全額認めず2分の一にして相当性検討したかのように装っている(通説の相当因果関係論)のですが、寄与分が半分という結論づけは結果ありきで粗雑すぎるでしょう。
ネット報道と違い判決書自体には、相当性を担保すべき相応の説明をしているのでしょうが、膨大な関係者の工夫次第でその後の発展が変わるのを「神ならぬ身」でこれを発明時に将来を見通してどうやって合理的評価できたと認定したのか不明です。
報道関係者の理解を超えているから、合理的説明報道できず?「この発明なければ日亜がこれだけの利益を上げられなかったから「寄与分半分」と決めたような解説が流布しているのでしょう。
しかし、「これがなければ現在の結果がなかった」という論理は、条件的因果関係があったことを示すにすぎず、寄与分算定に使う論理ではありません。
親が産まなければ、彼はこの世にいなかった=この発明もなかったとなるのですが、途中挫けそうになったときに妻の支えがなかった場合続かなかった・これも半分?何かの病気で一命をとりとめた・・このとき手術してくれた医師がいなかったら・・これも半分?社長が研究をさせてくれなかったら・・これも「半分」と言い出したら半分の権利を持つ人がいっぱいになってキリがありません。
このように条件的因果関係と発明の寄与分判定とは関係がないことは誰でもわかることです。
こういう関係は個人が感謝の念を説明するレトリックであって、合理的分配の論理ではありません。
野球試合で言えば、試合に勝つには多くの関係者の功労の積み重ねで勝てるのです。
5対5の同点延長回に代打起用した選手のヒットで1点とって勝利した場合、その選手のヒットがなければ勝てなかったのでその代打選手功労が半分、その前に2塁あたりまで出塁していた選手の功労が半分(2人で1点得点なので2人で半分の功労?)、代打起用した監督の采配成功が半分の功労、その前に5対5=延長試合に持ち込んだ選手の功労(ホームランばかりではないので 1点取るには出塁者が最低2人以上とすれば最低10人の功労が一つでも欠ければ最終回4点で延長にならなかったので約10人がそれぞれ半分の功労です。
10人に一人一人に半分功労を認めると合計でどうなるのかな?
そもそも芸術分野と違い現在の発明発見といっても、常温超電導技術の開発競争に関して01/11/03「文化発信国家へ(教育改革の方向)1」その他で何回か書きましたが、
理化学系の研究はすでテーマが決まっていて、いかに他社に先駆けて成功できるかの先頭競争が原則化しています。
最近では、京大山中教授のIPS細胞の研究成功も、数年前にデータ偽装で話題をさらった理化学研究所の小保方氏の研究発表もおなじですが、研究テーマ・方向性がある程度決まっている先陣競争です。
細かく言えば、山中氏も中村氏も開発手法が独創的だったからノーベル賞受賞になったのでしょうが、ここでは大きな最終目標を書いています。
発光ダイオードも成功すれば夢の商品になるということはすでに決まっていて、その開発成功の一番乗り競争(ガリーム系のコースを突き詰めたのが当時の主流と違うというだけ?)をしていただけですから、もしも彼が成功しなくとも後1年〜2〜5年後に誰かが成功していたかもしれません。
そういう場合、実用化が1〜2〜5年遅れただけのことで受けた人類のメリットもそれだけの時間差でしかなかったのです。
この辺が葛飾北斎の絵は彼がいなくとも10〜100年後に同じ絵を描けたか?との違いです。
発光ダイオードの場合、電飾や家庭内の日常的照明器具に広げるにはデザイナーの能力とそれに適応する製品工夫等の総合作用ですから、分野分野の工夫等の功績を差し引いていく必要があります。
発明時点で発展性があるとわかるだけであって、その時点で上記各分野の工夫がどういうものかどういうコストになりどういう儲けにつながるのか不明なので、科学的に算定することは不可能です。
いわゆる「神のみぞ知る分野」ですので、開かれた市場がある限り市場評価に委ねるのが合理的です。
そして高裁判断は当時の市場評価を分析した結果だったので市場・投資業界を含む評価を得たのでしょう。
これを受け入れるしかなかった中村教授の自己評価および周辺関係者の評価が市場相場に比べて大きすぎたことを自ら認めたことになります。
特許対価とは言えないかもしれませんが、画期的成功と囃し立てられた新事業の4〜5年の後の結果事例として以下の記事を引用します。
19年9月18日の日経新聞朝刊1pには、

2013年当時東大助教の中西雄飛氏が、アップル上級副社長アンデイルービン氏から「20年かけてでも大きな夢を実現しようと声をかけられて二足歩行ロボット開発ベンチャーをシャフトを売却するきっかけだった。ところがルービン氏が退社すると18年にシャフトを解散5年で見切りをつけた。」

とあります。
5年後に同副社長が退任すると解散になった・・これ以上開発努力してもモノになりそうもない・アップルが見切りをつけた事例紹介です。
画期的発明発見の報があると世界企業による「種や芽のうちに早く仕入れて大きな果実を得ようと買収競争・・青田買い?が盛んですが、そのうちどれだけ芽が出て果実をとれるかのリスク次第ですので、そのヨミ次第でタネや芽の評価・相場が決まるようです。
テスラがメデイアの寵児となり、時流に乗り遅れまいとトヨタやパナソニックなど日系企業が連携を深めましたが、いつまでたってもテスラの生産が軌道に乗らないのでトヨタは早期に縁を切りましたが、パナソニックはなお電池共同開発を続けるようです。
部品製造業としてパナソニックは、テスラの将来性は別として今のところ採算ライン(赤字でさえなければ)で買ってくれればいいという気楽な面もあるのでしょうか?

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