半導体設計といえば最近英アームのファーウエイに対する供給停止に発表のニュースが世界を駆け巡ったばかりです。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45419600Z20C19A5910M00/
英アーム副社長「米規制を順守」、ファーウェイ取引中止を示唆 2019/5/29 18:03
日本経済新聞 電子版
台北=伊原健作】英半導体設計大手のアーム・ホールディングスのイアン・スミス副社長が29日、台湾・台北市で日本経済新聞の取材に応じ、米の輸出禁止措置を受けた中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)との取引について「米の規制を順守しなければならない」と述べた。ファーウェイを「価値あるパートナー」としつつ、取引を停止したことを示唆した。
ファーウエイは、米国の遮断があっても自力でなんとかできると発表直後の冷水を浴びせる発表でした。
アームの設計抜きにはファーウエイが自力対応はほぼ不可能だろうというのが大方の当時の解説でした。
ただし供与済みの契約は使えるだろうが、日進月歩の設計対応ができないとすぐに行き詰まるということのようです。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/052300376/
広岡 延隆 上海支局長 2019年5月23日
「米国製と同様の半導体チップを製造する能力はある」
21日、華為技術(ファーウェイ)の任正非CEO(最高経営責任者)は中国メディアの取材に応じてこう述べた時、その翌日に半導体製造の開発・設計の前提がひっくり返るとは思っていなかっただろうか。
米調査会社のIDCによれば2019年第1四半期のファーウェイのスマートフォン世界シェアは米アップルを抜き、韓国サムスン電子に続く2位。だが、ARMの技術が利用できなくなれば、ファーウェイのスマートフォン事業は大きな打撃を受ける可能性が高い。グーグルによるOS(基本ソフト)「アンドロイド」の輸出禁止に際しても「ずっと開発してきた独自OSを提供すればよい」と動じなかったファーウェイだが、ARMの技術だけは当面代替が不可能だとみられるからだ。 ARMは省電力半導体設計に強みを持ち、現在のスマートフォン向け半導体チップの大半は同社技術を採用している。米クアルコムや米アップル、韓国サムスン電子、台湾メディアテックなど、半導体チップメーカーはARMの設計情報のライセンスを受けずには事実上ビジネスを継続できない。そしてファーウェイの半導体開発を担う中核子会社、海思半導体(ハイシリコン)もARMの技術に頼っていた一社だ
6月1日日経新聞朝刊10pには、米半導体設計支援ソフト世界大手米シノプシスの供給停止発表が報じられています。
同記事によれば、知名度は低いが半導体設計支援ソフトでは世界標準を握る企業らしく各種技術は日進月歩の現在、昔のように数十年で大きな差が出るような悠長なことではなくなっています。
同記事では、「ソフトは高度で複雑な半導体設計には不可欠で、精度を高めるために毎週のように更新され保守サービスが止まれば、設計にトラブルが生じかねない」と書いています。
日本の京浜急行沿線(蒲田付近)の数〜10人規模の町工場の製品が世界の有名製品の部品になっているという話題が時折紹介されますが、今はこの種のサプライチェーンが網の目のようになっているので、大手さえ支配すれば勝負ありという時代ではなくなっています。
大震災や風水害等でサプライチェーンが寸断されると大量部品供給企業だけトヨタなど大手が目配りしていても、この種の(価格的に大したことのない)微細な仕入先まで災害対応していなかったのでそこが止まってしまう(例えば山間の小さな工場が土砂崩れで全壊したり従業員が被災すると)と全体の製造が止まってしまうような例が言われていました。
資源で言えば、鉄鉱石や原油は重要ですが、微細な利用しかないレアアースがないと電池も何も動かないというのと同じで目につく大量資源だけが重要ではありません。
人間も五臓六腑だけでなく、ちょっとした血管や神経の異常でも歩けなくなります。
企業はトップや優秀営業マンだけでなくいろんな役割の人(きちんとエレベータ保守するなど縁の下の力もち)で成り立っている・人間皆平等の理念が現実化し始めた時代突入です。
サムスンは電子系総合企業でしょうが、半導体でその儲けの大部分を占めていると言われ、半導体産業のようなイメージですが半導体でも色々あり、その中でもいろんな分野に専門分化していることがわかります。
特化した部門が時流の追い風に乗って成長することが多いのですが、その中で大企業にまで成長できるのは、その分野の消費量が多い分野で成功した場合のようです。
時流に乗ってもあくまでニッチの場合、世界の9割を占めても一般知名度も低いし、何十万人も雇用し国家貿易額の何%も占める大企業にはなり得ません。
サムスンは資源で言えば鉄鋼石や原油のような「産業のコメ」と言われた半導体製造で成功したので世界企業になれたのです。
ファーウエイはサムスンより後で世に出た分、半導体製造に足場がなくソフトから始まっている分、スマホその他のサービス分野での食いつきが早いというかサムスンよりも敏捷なイメージで、あっという間にサムスンスマホを追い越す勢いを示していました。
それだけに米国に危険視されることになったのですが、私が2019-5-22「徴用工訴訟と国内法論理(米中対決の相似形?)2」で、サムスンが米中対決の漁夫の利を享受できるのではないか?と憶測を書いていましたが、私同様の憶測する人が多いらしく、瀕死状態だったサムスン復活期待感で株式相場が5月24日に反発していたようです。
ファーウエイの失速が一時的なもので、自力更生の逆バネ効果でサプライチェーン自前構築に成功し、却って先進国からの輸入に頼らなくてもやれるようになる・飛躍のバネになるか?
ファーウエイ失速の隙をついてサムスンが漁夫の利を得て開発の遅れを取り戻せるか・・ただライバルの窮地に喜んでいるうち、ファーウエイが復活したり他のライバルが現れて再びうろたえることになるかはサムスンの能力次第です。
たまたまファーウエイに追いつき追い越されかけただけなのか、サムスンの人材では今までは世界の流れにやっとついて行けたが、この先の開発能力がない・・あと半年〜1年の時間があっても競争参加できないかの問題です。