トランプ政治の正統性?3

米国の金利引き上げは小国と違い基軸通貨国ですから、影響は世界経済全体に及びますから米国内の好況だけ見て金利引き上げに耐えられるとしても、世界が大恐慌になるとアメリカ製品の輸出もできないし、中国インド等へ進出している米国企業の業績も悪化します。
国内政治で言えば、特定分野の関税撤廃すると影響を受ける業界の救済手段を講じたり、ある製品の禁輸をするのは影響を受ける業界に部品等の手当についての対応相談に応じたりする総合判断が必須ですし、(その前提としてどの分野を発展させるかの選択=政策決定があります)自国に原油があるからとイラン原油輸入禁止を同盟国に要請する以上は、同盟国へは別途禁輸商品・・自国原油や小麦を融通するなどの配慮が必要なのと同様です。
どの国が最も米金利上げ・・通貨下落の影響を受けるかによって、その影響を最大に受ける国を無視→敵国としてターゲットにして(自国進出企業が少ないかなど総合判断し)その他を救済するかは政治の問題ですが、そうなると最終決定を政府から独立した機関が行うのは無理がありそうです。
オバマ時代にも金利上げすると中国が持たないから・・という政治判断で異次元緩和の先送りが行われていた記憶です。
今回は米国を甘く見た亜中国による知財強制提供政策に堪忍袋の尾が切れた中国ターゲットの大転換になったので、その配慮がなくなりましたが、オバマ時代同様に中国への進出企業への配慮がいる点は同じです。
中国への輸出が多いGMが、対中高関税の双方応酬で競争力低下に耐えられず米国内工場大規模閉鎖に踏み切りトランプ氏を怒らせています。
このように覇権国の金利政策は国際政治に関する国益を総合した高度判断を要するものであって金融専門家が最終決定するには、荷が重すぎることは確かでしょう。
日本で言えば、日銀が東京だけを見て景気判断を決められないように、日本の金利の上下が為替相場にどの程度影響し、それがどの国内産業にプラスあるいはマイナスに作用するか、どの分野を切り捨てても仕方がないと誰が決めるのか?
黒田日銀が多くの経済学者の意見に反して異次元緩和をしましたが、(異次元緩和という名称自体が伝統的意見=多数派の枠外という世評の言い換えです)ハイパーインフレになっていないどころか、それでも日本の物価が上がらずに逆に困っている状態です。
財政赤字批判も同様の問題・・・「国内で誰がお金を持っているかの分配の問題に過ぎず国家破綻・デフォルトになるかは対外収支累積で決まる」とこのコラムで繰り替えし書いてきました。
社会構造の地殻変動があって、旧来の学問では対応出来ないことが起きているのに専門家(多くは過去の学問に縛られています)がこれに抵抗しても、正しいと信じる基準によって果敢に実行するのは政治家の役割です。
武士の時代が来たのを平安貴族や文化人が嘆いても仕方ない・・・実務を担当している人の意見が強くなるのは正しかったことが今になると分かってきます。
大恐慌時に日本が高橋是清が金輸出再禁止・・不換紙幣化で対応し恐慌対策としては大成功しています。
(恐慌対策に失敗していた植民地を持つ英仏等はブロック経済化で日独伊の輸入を阻止し、このブロックの壁を壊すために動いた独伊と英仏の欧州戦争が始まり、日本は非植民地国連合・日独伊三国同盟に参加して、アメリカに戦争を売られ・・アメリカは(ニューデイール政策が成功したと学校で教えられますが実際には)戦争経済で持ち直したことが今では知られています。
戦勝国として兌換紙幣に最後までこだわったアメリカもニクソンショックで金兌換終了し、今や不換紙幣が世界標準です。
紙幣は金兌換保証の信用で守られるというのが当時経済学者の金科玉条であったのですが、これが何故定着していたかというと古代から貨幣の金含有率を下げるのは、悪貨(悪政)として批判されてきた歴史への盲従によるというべきです。
日本では新井白石による前任奉行萩原に対する追及が有名・・彼は秀才の誉れ高かったとはいえ要は中国古来からの常識を墨守していただけのことでしょう。
必要に応じた貨幣改鋳・・・いまでいえば、異次元緩和を旧来学問に依拠して非常識・犯罪行為といって批判するのと同じでしょう。
財政赤字を囃し立てて消費税アップ論が正しいという現在の基本論調も同様です。
ケインズ理論が出るまでは、経済は市場に委ねるべきで政府介入は邪道というのが基本でした。
旧来理論では周期的に訪れる不景気の波をが大きくなるばかりでついに世界大恐慌になったのですが、不景気の波が大きくなる一方なのでこれを緩和するための財政出動が要請される時代です。
リーマンショックに際して中国が巨額財政出動して世界経済の底割れを防いだ功績を無視できません。
16年夏頃に起きた上海株暴落後のあれこれのテコ入れ策(大型株売買規制など)を伝統的理論をもとに無理筋だから中国破綻が近いと解説するのが普通ですが、それを言い出したら日本でも日銀による社債等の購入額も半端ではない五十歩百歩です。
通貨の信用に戻しますと、発行体の経済力による・社債が金に交換できるから信用されるのではなく、トヨタ等の企業信用によります・・通貨の価値は日々の為替相場(国力の市場評価)で決まっていくことが世界常識になってきました。
ビットコインなど仮想通貨はまだ生成発展中ですが、いつか成功すると国家権力の裏ウチがなくても流通するようになります。
もしかしたら米国の世界支配の実力・経済力はニクソンショック時点で終わったのに、世界最大経済力時代に築いた武力(遅行指数です)の力で世界に覇を唱えていただけだったと後世評価されるかも知れません。
現在アメリカあげて対中強硬論が渦巻いているのは、遅行指数の武力ではまだ中国に勝っているが、経済指標で追い付き追い抜かされつつある危機感・・・武力でも近未来で凌駕される時期近い・・が武力の優勢なうちに挑戦者の経済発展力を叩き潰そうとしているという解釈が可能です。
「ジャパンアズナンバーワン」と言われた日本を当時最先端技術であった半導体の輸出制限で叩き潰し・失われた20年に持ち込んだ自信がそうさせるのでしょう。
しかし、日本の半導体を潰したらその隙を縫って中韓両国で先端技術が花開いたので、アメリカがどこかの国に追い抜かれるようになる点は同じ結果でした。
武家の台頭で最大勢力だった源氏を潰す為に平家を重用し、平家がのさばると息を潜めていた源氏を再利用しているうちに公家の時代が終わったのと同様です。
トランプ氏の資質ですが、旧基準に合わない・粗野だ乱暴だというだけでは、無能とは言い切れません。

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